異世界カームランド 人事部担当 リンカ=ヤンカ
辰次は、真っ白な世界でグニャグニャと体を揺する豆腐をぼんやり見ていると、急に豆腐が喋ったのだ。
『ご、ごめんなさい!! こんなつもりじゃなかったんです!!』
「!!」
『実は、貴方のお兄さんを殺すつもりでしたが、手違いで貴方を殺してしまいました!! 私は、貴方にとって異世界となる『カームランド』の人事担当しています、リンカ=ヤンカです。リンカとお呼びください』
と、豆腐の腹部? から名刺をサッと出すリンカ。
貰い受けた名刺には『カームランド神界・異世界人事部 リンカ=ヤンカ(23)』と書かれていた。
『私のお仕事は、カームランドに足りない人材を異世界から派遣するお仕事です。今回お兄様をカームランドの魔王として派遣する予定が、間違って弟の貴方様を殺してしまいました!!』
突っ込みどころ満載の話をするリンカ。
「人材派遣? 魔王?? 辰郎が??」
『はい~。お兄様の鈴木辰郎様はとんでもない魔王適性がありました。ちょうど前魔王が勇者に倒されまして、魔王に空きが一名出ていた所なんです』
「そ、そうなんだ(魔王って空きが出るんだ)」
『はい~。でも、どうしましょう!……ちょっと、失礼してもよろしいですか?』
リンカは、黒いタブレットを取り出す。
(一丁の豆腐の、どこから出ているのだろうか?)
そして、シャッシャと画面をスライドしながら辰次の名前を連呼する。
『えーっと、す、す、鈴木、鈴木、鈴木辰次、辰次様…………ああああ~!!』
リンカは落胆の声を上げて、タブレットを真っ白の地面に落とした。
『駄目だわぁ! 辰次様、全っ然、魔王適性がありません~!!』
絹豆腐から、汁が飛び散っている。どうやら泣いている様だ。
辰次は、落ちているタブレットを覗く。
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エド(Lv.1 魔王)
HP:15
MP:5
初期パラメータ
腕力:10(成長率:E)
体力:10(成長率:D)
素早さ:10(成長率:A)
魔力:5(成長率:E)
魅力:5(成長率:C)
武器適正:なし
魔法適正:なし
祝福スキル:ぽかぽか
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しょっぱなから、名前が違う。
「ねえ、これ、一体誰のステータス?」
『えっ? 辰次様の転生先のお名前です。エドって言うんですよ?』
「当然の様に言われても! 転生先の名前は決まっているんだ……」
『はい~。そこは自由選択ではありません~』
それから、ステータスを見ていく。
腕力に頼るタイプでも、魔法でどうにかするタイプでも無い様だ。
素早さだけが異常に成長率が良いが、盗賊だったら向いているのかもと思う辰次。
それよりも……、
「……ねえ、この祝福スキルって何?」
『へ?』
泣いていたリンカが辰次を見上げる。
『……これは転生者のみに与えられる特別能力です。貴方の場合は……ぽかぽかです』
「で、ぽかぽかって?」
『え~? ぽかぽかだから、何かを温めたり……??……実はリンカも分かりません! これあげますから、自分で学んでくださいネ』
リンカはまたしても豆腐の腹部から何やらCDのような円盤を取り出した。
そして、辰次の体にくっつけると、スルッと体に呑み込まれた。
「な、何したんだ!?」
『ご自分の能力に関するマニュアルです……』
『よ』と言いかけた時、リンカのタブレットがけたたましく着信音を鳴らした。
画面には『ボス』と表示されていた。