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第二話 近寄る暗雲

「ですから、たとえ領主様の兄上の紹介状があろうともお通しすることはできません」


言いきられて、ミーシャは衛兵の前でもどかしそうに喚いた。


「だ~から、紹介状が…」


「おい、俺の知り合いだ通してやってくれ」


ミーシャが喚くのを、頭をかいて困り顔で見ていた衛兵は、サムが来たことに気付くと、慌てて頭を下げた。

勢いで頭を下げた衛兵だったが、それから少しチラッと目線だけ挙げてサムの顔を見た。


「あの、サム様ですよね…?」


「あぁ、だからこの二人を通してやってくれ」


「はい…。その、通したいのはやまやまなのですが、領主様から誰も通すなと、ご命令でして。確認してきますので、少々お待ちください」


そう言って衛兵が振り返って門を開けようとすると、それより早く門が開いて、一人の男が姿を現した。


その男は、七頭身で身長は百九十センチほど、黒い服で全身を覆っていた。


「領主様は誰も通すなと言っておられる。貴様が誰かは知らんが通すことは出来ん」


その男がそう言うと、慌てて横に立っていた衛兵がその方は、

「領主様の兄上ですよ!?」

と言った。


だが、その男は気にする様子もなく続けた。


「通すことは出来ん」


「なぜだ?どうも隠し事があるように感じる」


「知らんな」


相変わらず高圧的なその男の態度に、我慢ならなくなったロックが荒い足どりで前に進み出ると、その男の首筋を掴んだ。


「おい…!」


「なんだ?」


「お前…!」


今にも始まりそうな喧嘩を察したサムが間に割って入った。


「今日のところは諦めよう。だが、明日また来る。弟に兄が来たと伝えておいてくれ」


「分かった」


  ◆◇◆◇◆◇◆


弟に取り次がせることができず、俺と親父とミーシャは村の宿に泊まることになった。

バルトは、丘で別れてから消息は不明だ。


バルトは大丈夫だろうか?


いや、大丈夫だ。


少し、考えにふけっていると馬車が止まった。


周りを見渡すと村の中央に来ていて、目の前には駆け出し冒険者時代、よく泊まっていたボロ宿があった。


「田舎の宿屋」とか書かれた、何とも安直な看板をかかげたこの宿は、部屋の質こそ悪いが料理もボチボチで風呂も取り付けられているので、このあたりではそこそこ受けもいい。


ミーシャに続き、馬車からヨっと飛び降りる。


着地したら、腰についた藁やらなんやらをはらう。


「親父、数年ぶりに言うが、馬車の座席の藁やらなんやらは掃除しておけよ」


「気にするな。気にするな」


自分だけは馬の上でいい鞍に座っていていいご身分なことだ。


「やれやれ、言っても無駄なんだな。久しぶりなら効果もあるかと思ったが…」


俺の嫌味まじりの愚痴に親父はそれは違うぞと否定しだした。


相変わらず口だけは達者だ。


「だから、俺はめんどくさがっているわけではなく…」


「まぁ、魔導士のサムさんじゃない」


親父の詭弁をやれやれと適当に聞き流していると、ふと、どこからか声がかかった。

この宿の女将の声だったが、周りを見渡してもそれらしい姿はない。


「上だよ、上。二階からで悪いね」


そう言われ、上を向くと、二階の窓際に布団と布団たたきを持ったぽっちゃりなおばさん、メアリーがいた。


勇者パーティーにいたあのメアリーを思い出すと爵だが、こちらのおばさんはサービス精神旺盛で優しく、男気(女気?)のある宿の女将だ。


「お、メアリーおば…お姉さんか」


お姉さんと言うと、お世辞だと分かっていても喜んでくれる。


勇者パーティーにいた頃は、ストレスで人間味を失いかけていたし、とてもこんな声をかけることはできなかっただろう。


「まぁ、お姉さんなんてやめておくれよ。かっこいい大魔導士さん。さ、お茶の一杯も入れるから入ってきておくれ」


そう言っていたずらっぽく笑うと、メアリーおばさんは窓から姿を消した。


「さ、親父もミーシャも行くぞ」


  ◆◇◆◇◆◇◆


こじんまりとした客室に案内され、窓際に置かれた小さな椅子の上に腰を下ろすと、出された紅茶を啜る。

なんでも、ついこの前、村に泊った商団が売ってくれた海の向こうの紅茶らしい。


「サム、サム!けが人が出たんだ。治療してくれ!」

紅茶のコップを置いて、クッキーに手を出していると、外から声がかかった。


慌てて声のした窓際によると、下ではひとりの村人が子供を抱きかかえていた。


「サ、サム、俺の息子なんだ。助けてくれ」


あれは…確か、武器屋の親父のロッザムだ。


「ロッザムの親父か?」


「あぁ、とにかく来てくれ。息子が死にそうなんだ」


そう言って、親父は見たこともないほど情けない表情を見せて涙を流した。


「分かった」


のんびりとしている場合はない。

窓枠に片手をかけて飛び降りる。


慌ててその子に駆け寄ると、親父に抱きかかえられたその子の腹部には、深々と傷跡が出来ていた。

「一体、この傷はどこで?」


「わ、分からねぇ。鉱山から魔石を持ってくるように言って、戻ってきたらこの状態だったんだ。うちに帰りついたころには死にかけでよぅ…」


最後は、かすれんばかりの小さな声になって、親父は鼻水と涙をズズッとすった。


「おい、意識はあるか?痛いところは」


問いかけると、その子はうわごとのように小声で「痛い」を繰り返していた。


熱まで出ているようで、生半可な怪我ではない。


「待ってろよ。高位回復魔法ハイ・ヒール


黄緑の淡い光が傷口を包み込んだかと思う、徐々に消えていく。


魔法をかけると、少しだけ苦しそうな表情が和らぎ、流れ出る血が止まった。

どうやら、これ以上の悪化は食い止めれたようだ。


「親父、これ以上の悪化はない。だが、傷は相当深いから、寝かせてやってくれ。それから――」


懐から、一本の瓶を取り出す。


上位回復薬ハイ・ポーションだ。毎日一口ずつ飲ませてやってくれ」


「あ、ありがとう、サム!」


親父は、緊張の糸が切れたのかさっきよりもさらに情けない顔になって涙を流した。

息子を抱いて。

死ぬこともなく、安心してくれたようで何よりだ。


「親父、この子、名前は?」


「レイニーだ。捨て子は良く育つじゃないけどよ、雨にもめげず生きてほしいなってな」


レイニー、雨にもめげず。


俺は、めげて逃げちまったけどな…。


少しだけ、逃げたことは後悔していたのかもしれない。


リアムとメアリーがどうなろうと構わない。


だが、王都で優しくしてくれた宿屋の女将、ひょんなことから知り合った騎士団長、などもろもろ、全員がどうなってもいいわけではない。


勇者パーティーが強力な魔物を討伐しなければ、一気に国境が押される可能背もある。


すぐに、王都に魔物がなだれ込むことはなくとも、辺境には数多く鉱山がある。その鉱山を失えば、王国としても多大な損失になり、軍事力の低下は免れない。

そうなれば周辺国からの進攻の可能性も上がり、辺境の生活環境は下がり…。

そして、厄介なことに弟の領地が魔物の領地との、国境に面しているのだ。

どうやら、かなり厄介な局面に立ち会ってしまったようだ。


辺境、ミリスには暗雲が迫っている。


  ◆◇◆◇◆◇◆


ミリスが魔境と言われるのには、理由がある。

村も街もいたって平和、最近は魔人族や魔物による攻撃も目立ったものはなく、ギルドが新たに建設されるなど、目覚ましい発展を遂げている。


だが、そんなミリスにも未開の地がある。


それが、魔境と言われる原因、ミリスの迷い森だ。

噂では森の奥深くには魔人族の拠点があると言われており、森は深くへ行くほど日の光が入らず、魔素の濃度が高くなるという特徴がある。


生暖かい夜風が、首元をかすめ、森を歩いていたバルトは後ろを振り向いた。


「ん?何か魔物の気配がしたが…?」


独り言のようにつぶやいて、周りを見渡すが、魔物は勿論、小動物さえ顔を出さなかった。


(静かすぎる…)


夜になれば、夜行性の危険な魔物たちが起きて、森はざわつき始めるはずだ。


だが、何も出てこない。

まるで、何かから姿を隠しているように。


「ようこそ、迷い森へ」


重厚な声に呼ばれ、バルトは後ろを振り向いた。


だが、そこには何もいない。


バルトがゆっくりと大斧を抜く。


「今日は、月がきれいな夜だ」


耳元で、あの声を聞いたバルトはとっさにふり返った。

すると、後ろにいたのは一人の吸血鬼。

バルトは切りつけようと大斧を持って振りかぶったが、その瞬間、吸血鬼は無数のコウモリになり、夜空へと飛び立っていった。


「っく、待て!」


バルトは、飛び去ったコウモリの集団に大斧を投げつけたが、あっさりと避けられ、近くの木の枝を切って落下した。


「…何だったんだ」


彼の脳内では吸血鬼が言い残した「また会おう」と言う言葉がこだましていた。

バルトとサムが現れた!


バルト・サム「読んでくれてありがとう!」


バルト「にしても、吸血鬼に話しかけられた俺はどうなるんだろうな?あの吸血鬼、気配隠し方も異様にうまかったしな」


サム「さぁな?そもそも、作中じゃ俺とお前は分かれてることになってるし…」


バルト「作中とか言うな!」


サム「すまん、すまん」


バルト「じゃ、このあたりで雑談は終えて…」


バルト・サム「面白いと思ったら、☆とブックマークで応援してくれ!」

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