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第十五話 ラズエル逃亡劇2

「解くには時間がかかる。その間に、まずは馬車を。それから、剣と金銭を用意しろ」


「信じて、いいのですね?」


「信じなければ、この領主は一生このままだぞ?悪いが、俺のかけた呪いはかけたやつを殺しても消えないようになっているんだ」


ラズエルに睨みつけられ、メイドはカッと唇をかんで悔しそうにした。


「分かりました」

「そうだ。分かればいい。賢明な選択だ」


「エドワード、馬車と金銭を取ってきて。それから――」


メイドに何かをささやかれた、エドワードと呼ばれた使用人がその場を離れ、その後を、一人、二人と慌てて追った。


それを見て、ラズエルはひとまず、ハァと息を吐いた。

だが、そこには、決して余裕な空気などなく、時計を見て、イライラとしているようだった。

メイドをはじめ、使用人らの空気もピリピリとしている。


「早く、呪いを解いてください」


「いいだろう。領主は助けてやる。だが、誰かが代わりに人質になれ」


「条件が違います」


領主こいつが、ずっとこのままでいいのか?」


メイドの拳は、怒りに震えていたが、ラズエルもまた、杖をかまえた手先が震えていた。

これは、ラズエルの持病の影響だ。長い間、放置しておけば、泡を吹いて倒れてしまう。


「絶対に、動くなよ?」


ラズエルは、暗い部屋でもはっきりとわかるほど強く、使用人たちを睨みつけて、革袋の中から、小さなポーションを取り出した。


ラズエルは、杖を握り締めた片手を使用人たちに向けながら片手でポーション瓶のコルクを外すと、もう一度、使用人たちを睨みつけてから一気に喉に流し込んだ。


パリンッ!


「「「ッ!」」」


投げつけられた一本の剣がポーション瓶を砕いて、奥の絵画に突き刺さった。


ラズエルが慌てて、剣が飛んできた方角――ドアのあたりに目を向けると、そこにはバルトが立っていた。


使用人らも驚いて、メイドに至っては、腰を抜かしている。


「久しぶりに、サムのとこに顔を出そうと思ったんだが、まさか、こんな有様とはな。誰かは知らんが、腕がなまってたところだ。始末してやる」


「おい、こいつの命が……」


「すぐに片付けてやる!」


ラズエルは、そう言うと、メイドの「領主が人質に……」という言葉も聞かず、大斧を、ブンブンと振り回しながらラズエルに迫った。

ラズエルは脅し文句を言う間もなく、片腕をスパッと切り落とされた。


鮮血が飛び散り、ピシャ、ピシャと部屋の家具を赤く染める。


バルトの大斧は、短刀でも使っているのではと思うほどの、滑らかな動きで、まるで重さなど感じさせない、ラズエルは、切り口を抑えながら、慌てて、斧をかわしながら後ずさった。


だが、すぐに壁だ。

ブスッと絵画に刺さったバルトの投げた刀が真横に見え、ラズエルは、慌てた。


そして、やけだった。


「連続爆発」


室内では、危険とされ、普通は使用をためらう爆発系の魔法、慌てていたラズエルの頭からは、そのことが抜け落ち、いや、その考えもあったが、もはや気にしていなかった。


突如、あたりは真っ白な閃光に包まれ――。



  ◆◇◆◇◆◇◆



爆発で、ロームの私室を中心とした、数十メートルががれきと化した。庭に植えられた、見事なバラも、今では、無残に消し飛んで、跡形もない。


舞い上がった砂ぼこりがおさまると、一人の人影が見えてきた。

ローブをかぶり、杖を持っている。ラズエルだ。

全身にかすり傷を負い、数か所から血が、切られた左手からは止まることなく血が流れ続けている。


ラズエルは、持病の発作で震える片手で、ポーションを飲もうとして、パシャっとこぼした。


「クソ、こんなところで貴重な薬をなくす訳には――」


そう言いながら、もう一本目のポーションを取り出して飲もうとすると、上に大きな影が出来た。


なんだと、見上げると、それは人影、バルトの影だった。


「混乱に乗じて逃げれると思ったのか?」


見渡せば、他の使用人たちも軽傷こそ負えど、それぞれがれきから抜け出して、重傷を負っている様子はなかった。


ラズエルは、観念したのか、何かをボソッとつぶやいた。


「は?」


バルトが、聞き返すが、既に、ラズエルの周囲には魔法陣が現れていた。

逃走用の、転移魔法だ。


ラズエルの表情が、怒り一色に染まり、瞳孔が見開かれた。


「この恨みは、必ず返す!」


バルトが、慌てて大斧を振り上げる。

大斧が当たるか、当たらないか、ラズエルの体が光に包まれたかと思うと、光が消えてラズエルの姿が消えた。


まさに、紙一重。


バルトは、大斧を背中に戻すと、ボソッと呟いた。


「逃げられたか……」


バルトが鼻を鳴らして、まだ、にわかに残る魔法陣の光と、周りの惨状を見渡した。


近くの壁は粉々、遠くでも屋根の一角が崩れるなど、三階建ての館の、二階以降は、いまにも崩れそうだ。


「あの、ありがとうございます」


メイドをはじめ、使用人らは、肩を組みあって、何と語っているという様子だったが、ひとまずは、助けに現れたバルトに謝意を述べた。


「なに、気にするな。俺はサムに会いたくて来ただけだ。だが、いなさそうだな」


サムなら、弟の危機にはすぐに駆け付けるだろう。

普段は、他者に対してそっけない態度だが、案外身内には気を使っているところがある。

それを熟知しているバルトは、未だ出てこないのを見て、いないのだと察しを付けた。


「あの、その事なんですけど、実は、そのことなんですけど……」


およそ十分、メイドをはじめ、使用人一同は、ラズエルの横暴から、ロームが操られていたこと、サムが帰ってくるのを拒否してしまったこと、そして、サムが「グラム」の衛兵に連れていかれるのを見たことを話した。


バルトは、なるほどなと頷いた。

やはり、奴隷商会の衛兵に連れていかれたとなると、何かあるのではと思ってしまう物で、その表情は、若干不安そうだった。


「だが、俺もサムの居場所は知らんな。それに、奴隷商に連れていかれたか……。俺は、ナチュラルのギルド長に伝手がある。そちっでも、クエストとしてサムの発見を頼んでおく。それに、あいつもどうにかしなければならんしな……」


バルトがさす先には、いまだボォっと突っ立ているローム、とても、術が解けているとは思えない。


使用人たちは、すっかり忘れていたのか、バルトに言われてから慌てて駆け寄って、肩を貸し、服のすすを払った。


その様子を見て、バルトは大丈夫かと心配に思いながらも、一つため息をつくと口を開いた。


使用人らの視線も、再びバルトに集中する。


「俺は、サムならその術を解けると考えている」


バルトがグルっと見渡すと、全員、真剣な表情で話を聞いている。


「サムなら、まず死なないとは思うが、あいつは、人質を取られるとめっぽう弱い。ま、俺は俺で探すが、見つかれば真っ先に教えてくれ」


その言葉に、使用人たちも一様にコクコクと頷く。


メイドが代表して言葉にした。


「まずは、助けていただきありがとうございます。絶対に、真っ先に伝えます」


「感謝する。俺は、バルトだ。そう呼んでくれ。それじゃぁ、俺は失礼する」


大斧を背中に、その場を離れるバルト。

その後姿を、使用人たちは、ずっと見送っていた。



  ◆◇◆◇◆◇◆



~ミリス魔境内~


「復讐したいか?」


木にもたれかかり、発作に苦しむラズエルの前に、一体の吸血鬼が降り立った。


タキシード姿で、ただの吸血鬼とは思えない異様な空気感を放っていた。


「っあ……うっぅ、クスッ……」


「クス……?この薬を飲みたいのか?」


吸血鬼は、ラズエルの前に転がるポーション瓶を指さして言った。


ラズエルは、言葉を発することもできないほどなのか、額に大量の脂汗を浮かべ、必死に頷いた。


吸血鬼は、ポーション瓶を拾い上げると、ラズエルに気付かれないようこっそりと、詰め先から赤い液体をたらして、何事もなかったかのように口元に近づけた。


「ホラ、飲め」


ラズエルは、ウゥ、とうめきながらも、何とか飲むと、ようやく落ち着きを取り戻した。


ラズエルは口元に垂れたポーションを拭い、ハァハァと荒い呼吸を整える。


「お前は?」


「侯爵級吸血鬼、バロラン。復讐を手伝ってやろう」


そう言われても、ラズエルはいぶかし気にバロランと名乗る吸血鬼をまじまじと下から上まで観察した。


「信じられなければ、信じなければいい。だが、戦って気付いただろ。協力者がいなければ、あの斧使いの男を倒すのは厳しいぞ。それに、弟の仇討ちも不可能だ。どうだ?手を、組む気はあるか?」


「お前の、メリットはなんだ?」


「悔しいが、私は封印されてこの森から出ることが出来ない。ここにあの大斧使いを案内さえすれば、私が仕留める。その代わり、私の復讐に付き合ってくれ」


「内容は?」


「時が来れば話す」


ラズエルは、もう一度バロランのことをいぶかし気に見てから、立ち上がると、手を差し出した。


「協力しよう」


バロランが、その手を取る。


「契約、成立だ」

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