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第十四話 ラズエル逃亡劇1

数時間前、ペルシア王国の王都にある金鳥商会の本部に、厄介な要望が入った。

「例の魔導士を買いたい」



  ◆◇◆◇◆◇◆



「総帥、入ってもよろしいでしょうか?」

ドアの奥から声が聞こえ、考え事をしていたヒューチャーは姿勢を整えてから入れと言った。


ドアを開け、入ってきたのは金鳥商会、最高幹部のひとり、金鶏のワルプスだ。


金鳥商会という、数カ国に根を張る大商会の総帥の自室となると、家具も相当豪華。

壁に飾られる名画の数々、ヒューチャーから向かって左には、ひと月の維持費だけで豪邸が建つと言われる、巨大な水槽があった。


ワルプスは、相変わらず気楽そうな表情で、名画や水槽には目もくれず自分の部屋のようにソファーにどっと腰を下ろした。


ヒューチャーは、一言文句を言おうと口を開いたが、あまりにもくつろぎすぎて扇子で煽いでいるので、諦めて口を閉じた。


諦めて、ヒューチャーが書類にサインをしていると、ワルプスが扇子をバタバタと仰ぎながら話しだした。


「いやぁ、遠国からはるばる来て大変やわ。ペルシアはロバート王国と違って、熱帯雨林が多いでっからなぁ……。ま、おかげで、コーヒーとカカオで大儲けさせてもらってるんやけどな」


例の魔導士の処理を任せるため、わざわざロバート王国へ向かわせたというのに、相当慌てた様子で戻ってきたので、ヒューチャーは、一体何事か、すぐさま聞きたかったが、この男ワルプスは面倒な性格で、聞けば聞くほど、教えないあまのじゃくという奴で、自ら聞くわけにもいかない。


ヒューチャーが、一人イライラしながら書類にサインをしていると、ワルプスがそう言えばと言った様子で口を開いた。


「そうや、ヒューチャー坊ちゃま、ギルドから手紙がきたで」

ワルプスが、手紙を取り出してヒラヒラとさせた。


「総帥と呼んだらどうなんだ?」


「ハァ、すませんな。じゃ、総帥はんとお呼びしましょうか?」


「はんをつけるな……。まぁいい。内容は?要約して話せ」


ヒューチャーが、さりげなく聞くと、ワルプスはいきなり大笑いしだした。


「ハッハ、相変わらず、怖いお方やわ。これで、いきなり要約して話せたら、勝手に手紙を覗いとったことになるもんなぁ。ま、安心せえや。そこんとこ、ワシはライン引きはしっかりしとるからなぁ」


一応、忠誠心も高く、用心深いことを確認したヒューチャーは、何事もなかったかのように聞いた。


「そうか、なら構わん。読むのを許す。内容は?」


「内容でっかな……」

ぼそぼそと呟きながら、ワルプスは手紙を開いた。


「えぇ、なになに……

 「金鳥商会総帥へ。此度は、我が組織に所属する元勇者を助けていただき、感謝する。見てわかっただろうが、我々の目的はあの魔導士の捕獲。そこで、金鳥商会から購入したい。額については、百万~五百万ゴールドの間で要相談。無理なら、武力行使も辞さない構えだ。良い返答を待っている。ロバート王国王都支部ギルド長より」

とのことですわ。で、どうします、総帥はん?」


「フム……厄介だな。ギルドからの要望となると無下に扱うことは出来ないが……僕にはあの魔導士がミリスの領主になって骨肉の争いをしている未来が見える。とはいえ、最大で五百万も用意するとなると、よっぽど重要な案件らしい。だが、断れば、ギルドと正面衝突か。ワルプス、急いでロバート王国へ向かえ。例の魔導士は差し出す。その代わり、五百万ゴールドと、例の案件を飲むことを条件として提示しろ」


「了解ですがな」


ワルプスはきらびやかな着物を翻させ、優雅に扇子で口元を隠しながら立ち上がった。


「じゃ、総帥、いい返事を待っててくだはれよ?」


ワルプスは、腹黒い笑みを見せて、その場を後にした。



  ◆◇◆◇◆◇◆



その日、ラズエルは逃亡の用意をしていた。今は、助かっているが、弟が殺された今、次に狙われるのは自分だと思ったからだ。

 

実際は、金鳥商会は、ラズエルの対応などそっちのけで、サムを取り巻く状況の処理に追われていたのだが。


ラズエルは、使用人の目を盗んで、ロームの自室から貨幣、芸術品、武具、金目の物を手あたり次第に革袋へ詰め込んでいた。


「クソ、クソ……」


ラズエルは、魔法にかかりボォっとするロームを睨みつけ、なんでこうなったのだと自分の運命を呪った。当然、領主を操り、私財を蓄えたのだから自業自得だ。


「何をしているのですか!」


部屋のドアが開き、廊下の明かりが差し込んだ。

革袋に入れようと宝石類を握った手が止まる。


ドアからは、メイドが顔を覗いていた。

いや、それだけではない。メイド以外にも、使用人が勢ぞろいだ。


「あなた、何をしているのですか?」


「……ッチ」

ラズエルが、軽く舌打ちして革袋を片手で背負うと、杖を取り出して、ロームに向けた。

操られているロームは、微動だにしない。


「こいつの命が惜しければ、金と逃亡用の馬車を用意しろ」


「やっぱり、最初から、何かおかしいと思っていました」


「早くしろ。こっちは、無駄話をしている暇はないんだ」


「領主様にかけた呪いを、解いてください。そうすれば、馬車も、お金も用意します」

後ろから一人の使用人が「姉さん、勝手に……」と言っていたが、そのメイドは揺らがない瞳で、ラズエルのことを睨みつけた。


ラズエルも、負けじと睨み返す。



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