第十三話 取引
周りに奴隷たちも居た、から牢獄から、別の牢獄に移された。
日の光も入らず、異様に湿気が高いのを見るに、ここは地下なのだろう。
「君が例の魔導士かい?」
暗闇の中、松明の炎に照らされて一人の子供の姿が浮かび上がった。
シルクルハットをかぶり、スーツを着ている。
「例の」というのは、ギルドを破壊したことだろうか?
「……」
「そうか、答えないのならそれでもいい。どっちにしろ、君にはここで死んでもらうからね」
杖があればなんとかなるかもしれないが、流石に杖なしで使える魔法で、この堅牢な牢獄を破れるとは思えない。
今は、生き残ることが重要。
なら――。
「取引する気は、ないか?」
相手は、意外だったのか、ピクッと動いた。
「元勇者を瀕死に追い込むとなると、相当なバーサーカーなのかと思ったけど、話が通じるみたいでよかったよ。そうそう、それと、確保を優先しろと言ったのに、村への被害なんて考えて敗北した無能はもういらないしね」
元勇者を無能と罵り、罰を与えることが出来るとなると、一見子供に見えるが、相手は間違いなく幹部級の存在。
それに、魔法の中には、姿を自由に変化させるものや、過去の姿に戻ることが出来るものも存在する。
「じゃ、僕の三つの質問に答えてくれるのなら開放してもいいよ」
「信用して、いいんだな?」
「勿論」
「……っ、分かった」
嘘だったとしても、答えると不利になるような質問は嘘をつけばいい。
勿論、相手もそれは予想しているだろうが。
慎重に心の内を探っている中、そんな、考え、まるでないかのような笑みで話しだした。
「じゃぁ、まずは一つ目、勇者パーティーの実情を知りたい」
「実情?」
「そうだよ。ギルドに放ったスパイから勇者パーティーの護衛をしているという話を聞いてね。元勇者パーティーの君ならなにかしら知っているんじゃないかと思ってね」
元勇者パーティーということを知っている時点で情報は筒抜け。
それより、勇者パーティーを護衛しているとはどういうことかが分からない。
「どういうことだ?勇者パーティー、それも勇者と聖女を護衛できるほど強い冒険者がいるわけないだろ。そんなもの、足手まといになるだけ……」
「僕おそう思うんだけどね。勇者の父親が大金払って護衛を依頼したらしいんだよ。それも秘密裏に。おかしいと思わないかい?」
「……」
確かに、明らかにおかしい。何かを見落としている気もするが、その「何か」が何なのかがわからない。
俺が中々答えないので、その子はフーンと言って興味を失っていた。
「知らないんなら、二つ目の質問に移ろう。君の使っていた杖をどこで手に入れたかだ」
あれは、父から貰ったもので、どこで創られたのか、だれが創ったのかは全く分からない。
別に、隠す意味もなく、正直に答えた方がいいだろう。
「それも、分からない。父からのもらい品だ」
「フーン、何も知らないんだねぇ。やれやれ、この取引は、僕の損に終わりそうだよ。三つめは言えるとも思えないし……。ま、それじゃぁ、三つ目の質問。大樹の杖のありかだ」
大樹の杖――王国に昔から伝わる三種の神器のひとつだ。
それ一つで、世界を滅ぼすとまで言われているが、宮廷魔導士時代に見た時は、まったくそんな気配はなかった。むしろ、ただの木の枝と大差ないようにさえ見えた。
王国は神話を信じているのか、厳重に秘匿していたが、昔、宮廷魔導士をしていた俺はその在処を知っている。
だが、俺には、宮廷魔導士を止める際に、その在処を言えば死ぬ呪いをかけられたので、話すことが出来ない。
「無理だ」
その子は、別に落胆した様子もなく、ため息をついた。
言えないことは、把握していたのだろう。
「さぁ、質問には答えたんだ。開放してく――」
「無理」
「最初から、そう言うつもりだったんだろ?」
「ご名答。そして、君はそれを知っていて答えたと?」
「……」
その子は、くるりと背を向けて、高笑いしながら奥の暗闇へと飲まれていった。
ジメジメとした地下牢には、再び静寂が訪れる。
聞こえるのは、微かな水の流れる音と、階段から流れ込む微風だけだった。
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