第十話 奴隷商会の横暴とバルト
兵士に連れられ、やってきたのは奴隷商会の地下牢、周囲からは、見るも無残な姿をした奴隷たちの叫び声、泣き声が、聞きたくないと思うのに濁流のように流れ込んでくる。
「お母さん、お母さん……」
目をそらしても、母を恋しがり、涙する姿が目に浮かぶ。
◆◇◆◇◆◇◆
二つの渓谷に東西をはさまれ、北東に山岳帯を持つ、緑の街「ナチュラル」
朝早く、閑散とした街のメインロードには、一人の男がうつむき、トボトボと歩いていた。
背に斧を担ぎ、無精髭を伸ばした剛腕の男、バルトだ。
表情はあまり浮かず、逃走時に持っていた金貨のたっぷり入った革袋は、空になっていた。
ふと、バルトの足が止まる。
バルトが見上げた先には「ギルド」と書かれた看板が。
錆びついて、蜘蛛の巣が張っている看板を見ると、ほとんど機能していないのだということは、大体察しがついた。
バルトは目線を戻し、ドアを開けた。
中はほこりっぽそうで、蜘蛛の巣が至る所に張られ、家具は、まるで〝誰かに荒らされた〟かのように、散らかっていた。
あまりの惨状に少し、引きつりながらも、心して一歩踏み出し、中に入ると、見た目ほどはほこりっぽくもなく、一応、管理されているのか、部屋の端の暖炉には細々と燃える炎があった。
バルトは、さらに奥のカウンターへと向かった。
三つあるカウンターの、どこにも受付嬢は誰もいない。
人を探そうと、カウンターの奥を覗き込む。
「何か、用が?」
突然後ろから声をかけられ、バルトはとっさにふり返った。
後ろに立っていたのは、グレーモンに似た服装、容姿をしたダンディーな男。右手には酒瓶を持って、昼間から頬を赤らめていた。
だが、そんなダメ人間のような様であるものの、グレーモンような気障な感じがなく、根は優しそうだと見受けられた。
とはいえ、酒も混じり、やけになっているのか、どこか悲しそうに――脱力しているのを見れば、居心地も悪い。
バルトは、やりにくさを感じながらも、服装からギルド長だと気付き、咳払いをして話し出した。
「その、冒険者として登録したい」
男は、ハァとため息をついて酒瓶を横の倒れていない机の上に置いた。
「それは結構なことで。そこに、登録証が置いてあるから持って行ってくれ」
そう言って、男は崩れるように椅子に座ると、酒瓶から直接、酒を流し込んだ。
ヒック、ヒックとしゃっくりを出しながら、口元を拭い、酒瓶をドカッと置く。
「あぁ、やってられ……」
あまりにもぶっきらぼうな態度に、バルトは、男の襟筋をガット掴んだ。
「おい!」
首元を掴まれ、一瞬、男の表情が抜けたものになるも、すぐに男は体たらくを晒すように、ヒックヒックとしゃっくりを繰り返した。
男は、口元の酒を拭い、バルトの手を睨みつけながら言う。
「何だ……部外者が、ほっといてくれ」
そして、次は独り言のようにつぶやいた。
「クソ。あの時……うぅ……ヒック」
バルトは、殴りつけたくなる短気な自分を、おさえて、襟筋を放した。
「何か、事情があるのか?」
男は、バルトがあまりにも真剣なので、もう一度酒を喉に流し込むと、話し出した。
「あぁ、数月前のことだが、ギルドが、ヒック、襲撃されてな……。それで、ヒック、あぁ……奴隷商会に逆らうべきじゃなかった……」
そう言って、酔いのまわった男は、机に突っ伏し、うわごとのように「あぁ……」と繰り返し、やがて寝息を立てだした。
バルトは、愚痴のような話し方で情報は少ないながら、なんとなく、何か、ギルドと奴隷商会の間でいざこざが起き、ギルドが報復措置として襲われ、その結果は、この部屋の惨状と人気のない街が物語っていた。
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そうすれば、きっと、奴隷商会の地盤が緩み始めます。




