03
その後、あの夫婦は別れた。
女性側は慰謝料の請求もできたが、それによって逆恨みされることも考えられたので財産分与だけだった。
二人の共有財産は少なく節約を重ねてようやく一年どうにかなるかという額しか男性の手元には残らなかった。幸い仕事もあるし、生活は大変だろうがなんとかやっていけるのではないか。とは思ったものの、今まで家のことは妻任せで仕事に不倫をしてきた人間がいきなり今日から家事全般をやるというのはかなり難しい、いや不可能だった。
女性を頼ることはもちろんできず、息子と娘に助けを求めたようだった。しかし不倫がバレていないと思っていたのは男性だけで、息子と娘はその事実を知っており取り付く島もなかったとのことだった。まあ、そうなるよな。と言うのか率直な考えだった。
あまりほめられた方法ではないが不倫相手を頼ってみては?と提案すると「家政婦扱いするのなら給与を要求する」と言われたらしい。どんな女性かは想像しかできないが随分バッサリ言われたようだった。
目の前にいる男性は調停の時に見た姿とは似ても似つかずだった。清潔感があった服装は、シワが目立ちどこかしらが汚れており、顔も痩せたというよりやつれていた。
「誠心誠意謝って妻との関係を修復するべきなんでしょうか」
そんなことを言う男性。いや、関係を修復も何も最初から何もなかったのでは?なんて思ってしまったがそれは私の口から伝えるべきことではないような気がした。
「まずは掃除から始めてみてはどうでしょうか。そして、家事のご相談でしたらうちのような法律事務所ではなく家政婦紹介所などをあたってみた方がよろしいかもしれません。こちらでご紹介しましょうか?」
そう聞くと、男性は不満げな顔をして「いいです」と言って事務所から去っていった。それからこの男性がこの事務所にくることはなかったのでどうなったかは、わからない。
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