02
私は男性の代理人として共に話し合いにやってきた。
男性が貯金についてこう述べているが何か心あたりはないか。
妻(今のところ)の女性はどこか呆れたようにため息をつきながらひとつずつ丁寧に話してくれた。
まず、家のローンが30年ありその支払いがあったこと。次に車、外車・高級車が好きというわけではなかったが2・3年のペースで車を買い替えていた。それに子供が結婚式を挙げるときにその費用をそこそこの額を援助した。また、退職したときに自分へのご褒美にとゴルフセットを一式購入したとのことだった。
ひとつひとつが目立つような出費ではなかったが。
「一気にそれらの支払いが来ましたからね。貯金も当然減ります」
まあ、減るだろうがそれにしてもあれほど少ない額になるだろうか。
納得していないことを察してくれたのか妻側が家計簿や記録のためにとっておいた領収書などを見せてくれた。
「私は、お金を引き出していませんよ」
何をこちらが疑っているのかは丸わかりだったらしい。
確かに不自然な金の動きは見られなかった。
出費も男性から聞いていた額と女性が言う額の動きがあるくらいだった。
そう、不自然な出費はなかった。だが、男性は納得ができていないようだった。
「俺は真面目に働いてきたのにこの額の貯金しかないなんて、お前が勝手に使っていたんじゃないのか!?」
相手に唾を飛ばす勢いで男性はまくしたてた。頭に血が上っている。落ち着かせようにも静まる気配はなかった。
落ち着くことがない男性についに女性も言い返してきた。
「お金がないのはあなたが不倫相手に貢いでいたからでしょう!!」
ああ、もしかしてと思っていたが。
不自然な出費はなかったが、男性の給料の割に月々通帳に入っている金額が少ないような気がした。何かに使っているんだろうなとは思ったが、ここにきて不倫相手か。
「あんたが結婚する前からあの女と繋がっていたのは知っているのよ!」
ここでちらりと男性を見てみると、何か言いたそうに口をぱくぱくと開けたり閉めたりしている。どうやら女性の言葉は事実のようだ。
「お義母さんが結婚しないと世間体が悪いからって言ってお金の援助を約束してもらって結婚したのよ!」
衝撃の事実。息子の不倫を知りつつ金で黙って貰おうとしたのか。
しかし、結婚していなければ生活費の援助はしてもらえないのではないか。あ、男性の親は父親が三年前に、母親は一年前に亡くなったってなんか話の流れで聞いたな。
「今回の離婚だってあんたと一緒にいる意味がないからよ!」
その一言を聞いて思ったのは、最初にこの離婚調停の話を聞いた時はすごく円満に離婚するんだということだった。
話を聞いた限りでは、男性の家庭をかえりみない行動に女性が愛想をつかして離婚するのだと思ったのだ。男性側の話しか聞いていなくとも、なんとなく察しがついた。代理人を挟むのだってお金のトラブルにならないように念のため、という話だったのだ。こんなにキレイに別れられるなんて珍しいと思ったくらいだった。ああ、お互いに一緒にいることになんの利益もなかったから別れることになんの抵抗もなかったんだな、と考えを改めた。