テラリッサの意志
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今回の話はあと数話で完結となりますので最後までお付き合い下さい。
「しかし、この仕事は楽だな。見張りだって言っても誰も人来ないしさ」
「だなぁ、会議やってるって言っても取るものないし。命くらいか?」
「まぁ、お偉いさんがたの命かかってるなら万が一を考えたら必要なんかねぇ」
研究会が行われているこの街の中心に建つ大きな塔、通称”魔塔”。
私は今そこから会議をしている場所へ向かっているのだが…この見張りたち緊張感なくて本当に大丈夫なのか心配になるな。
とはいっても私はこの世界そのものであるため今どこでだれが何をしているのかなど、知ろうと思えば簡単に分かるわけで…人の目をかいくぐることなんて造作もないわけである。
ジャン達がいるのは…7階か。上るのが大変だな。
この建物も上への階段を1つにしておけば見張りも簡単だろうに、有事の際の非常階段やら抜け道やらと色々なパターンを作っているから誰の目にも止まることなくすいすいと上へ上へと行けるわけなのだが…。
今回の件で少し見直してもらえるだろうか…。
「さぁ、創造の魔法のお披露目だよっ!」
会議室の扉を勢いよく開き宣言する。
「誰だお前?」
いち早く反応したのは、いかにも殺ってますという悪人面の男だ。
「エテルノっ!?」
そして次に反応したのはジャンだった。1番乗りを逃すとはまだまだだなジャン…。
「ジャン、お前の知り合いか?」
「えぇ、彼はエテルノと言って家が隣なんだ。しかしなんでここに…」
「その疑問はもっともだなジャン。しかし私は最初に言ったぞ。創造魔法のお披露目だと。」
正気か?と顔をゆがませるジャンに、ヤバいやつが来たという顔の面々。
しかし、これから創造魔法を使うのは確定事項であるためなにも困らない。
「今まで誰も発動できなかった魔法だ。突然来た私が発動させるといっても信じられないのはわかる。だが…今まで発動できなかったことには理由があるんだよ」
そして、簡単に説明をすれば、しかし本当か?という顔になる。うちの世界の子達は素直で順応が早いな。良いことなんだろうが、危機感が少し足りない気もする…。簡単に騙されそうで心配だ。
「さぁ、始めようか」
そう呟いて術式を展開する。
これから発動させる術は、理論上では存在を確認しているものの、実際に発動をさせることができない術式だ。
そして今日、実際に発動する最初で最後の日だ。
術式が展開されたことに驚く面々。そして、誰かがさっきの話は本当なのか…とつぶやいた。
術式の展開が終わり、一度静寂が訪れる。
「さて、ここから君たちは世界が想像される瞬間に立ち会うことになる。先ほど説明した通りこの魔法は1つの世界で1度きりしか使うことができず、また使うことができるようになるのは世界の寿命が1万年を切った時だ。とはいってもあと何世代も先の話だから今の君たちが心配することもないし、文献を残しても半分も持つかどうかというところだ。」
1万年それはとてつもなく長い時間だ。世界そのものである私はさらにはるか長い時間を生きているが、世界に住まう人々はその一生を長くても100年ちょっと、エルフとかだと1000年近くは生きるがそれでも1万年には程遠い。
「君たちは今日この瞬間に創造魔法を知りそして二度と発動することはできない。」
「それは、私たちの研究が今日で終わるということなのでしょうか?」
「いい質問だ。それに私のことを受け入れてくれたようで助かるよ」
答えてくれるのか?と全員がこちらに注目する。
「まず、研究が終わるかどうかは君たち次第だ。それに私はこの街を作ったテラリッサの意思を正確に君たちに伝えたいとも思っている。」
「テラリッサ様の…ですか?」
本当にこの世界そのものなのかと飲み込むものや、本当に知っているのか?と怪しむ者もいる
「あぁ、しかし信じる信じないは別の話だ。」
かつてテラリッサは想像魔法の真実にたどり着いたこと。そしてこの創造魔法を想像魔法として使えるように研究を始めたこと。そして創造魔法の研究こそが今もなお研究している魔法のことだということを説明した。
「かつてテラリッサ様が目指した想像魔法を我々は創造魔法の解明へと、段階を戻してしまっていたのか…」
「それよりも長年研究してきたというのに我々何百人よりもテラリッサ様は優秀だったということのほうが重要では?」
あれやこれやと意見が飛び交う。是非ともテラリッサの意思を引き継いでいつの日か想像魔法の開発に成功することを願って、私は術式を発動させる。
「さぁ、会議はいったん中止だ。これから君たちを世界誕生の瞬間へと案内しよう」
そうして私は術式を発動させる。