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46 しゃべった?!


リュートと龍志がもめているところに、玲奈が到着する。ようやく左衛門たちが帰ってくるので、おびき寄せて撃滅を図る作戦が知らされる。



「それで、こいつ捕まえてきたんだから前金をよこせ」


 向井を誘拐したのだから龍志に金を要求するリュート。しかし、重犯罪については龍志のほうが慣れている。


「前金制度なんてあるかボケ!」


 それに、龍志は当然ながら向井の背後に存在する金の成る木のことを把握している。向井ではなくその先にいる玲奈が欲しいのである。今ここで向井を餌に玲奈が釣れるのを待っているだけである。


「…」


 以降、龍志は目をつむり無言を貫く。リュートが何を語ろうとも一切口を開かなかった。そうしてしばらく待つ。


 タッ、タッ、タッ、と誰かが走ってくる音がする。


「ほう、あの三兄弟しくじりやがったな」




「もしもし母さん?」


「はい」


 左衛門が通話を入れてくる。空には私についてくるドローンの姿。どうやら無事に警察を振り切ったらしい。


「これから作戦をお伝えします」


 敵はショッピングモールにいる。事前偵察によれば3階の裏手にある従業員の控室の中で向井君を椅子に縛り付けている男が2人が確認されている。


「一人は吟遊詩人のリュートですね…」


 私はそう遠くない過去の記憶からその男を思い出す。直接絡まれたのは入学してすぐの飲み会でそんなに多くないけれど、時々見かけては気味悪い視線を向けてくるからよく覚えている。


「もう一人は?」


「もう一人は龍志ですね。こいつがきっかけで母さんはいつも重犯罪に巻き込まれ…」


 左衛門は長々と説明する。私と龍志の様々な因縁やどんな事件に巻き込まれたか。なるほど、ラスボスだってことだけはよくわかった。


「だから母さん。これまでの恨みをすべて晴らしましょう」


「うん、私の知らない人やねんけどな」


≪左衛門さーん! この玲奈ちゃんは龍志と初対面ですよ≫


「なんですって?!」


≪今までの語り全部無駄ww≫


「そういうのええから! はよ作戦!」


「あっ、はい」


 左衛門はショッピングモールの見取り図を送ってくる。


「いいですか、よく聞いてくださいね」


 ショッピングモールは北館と南館の二つに分かれている。そして、連絡橋Aと連絡橋Bでそれぞれの建屋がつながれている。そして敵が待ち伏せているのが北館三階のAゾーンである。


「ゾーン?」


「はい、建屋を東西に分けてAゾーン、Bゾーンと呼んでますね。これから、この建屋の構造をうまく使って敵と向井君を分断しますよ」


「そうなん、分かった」


 ここからはリンチ顧問の出番である。まず北館三階のAゾーンに近づく。


「敵の本当の目的は玲奈さんです。ですから、あなたを捕まえるために必ず追ってきます」


「ほんまに必ず来るんやな?」


「はい、これまでの未来では運命ブラックホールの導きのごとく必ず追いかけられています。絶対に龍志は来ます!」


 現状、私の唯一の戦力的優位性は「足の速さと持久力」である。だから、適当に走り回って敵を疲弊させ、ドローンが攻撃可能な連絡橋で足止めして分断を図り、向井君を救出。その間に到着したセキュリティーチームや警察に助けを求めるという算段である。


「向井君のそばにもう一人男がおらんかった?」


「あぁ、リュートなら大丈夫です。玲奈さんの飛び蹴りで倒せます」


「弱っ!」


 とにかく私は、龍志を引き連れて北館と南館をぐるぐると巡り、へとへとになった龍児を連絡橋Bでドローンの協力を得て足止めし、北館三階Aゾーンの控室にいるリュートを倒して、向井君を救出。セキュリティーチームと合流するというミッションを負った!


「ええよ、いつでも行けるで!」


「はい、では左衛門さんお返しします」


「ありがとうございます、リンチ顧問。これより、我々は『未来の奪還作戦』を開始する!」


≪うおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~未来人の底力を思い知れ!!≫


≪合戦の時はきた、ドドドンパウワ~~!≫


≪同志諸君、待ち望んだ戦いだ、Ypaaaaaaaaaaaa(ウラー)!!≫


≪お前ら、見てるだけだろうがwwww≫




 北館三階のAゾーン控室。


タッタッタと小気味よい足音が目の前で止まる。龍志は目を開く。するとそこにはSNSの写真の通りの女が立っていた。


「おう、写真よりも別嬪さんやな」


「せや、よく言われんねん」


 龍志は黙って立ち上がり、玲奈に近づいた。


「向井君を返して…」


 と玲奈が言い終わる前に、龍志はラグビー選手のような低い姿勢で玲奈にとびかかってくる。がっちり足元を狙って逃がす気のないムーブメント。玲奈はそれをさっと避けて、そのまま作戦通り逃げ出す。


「待てやごらぁ~!」


 玲奈は思う。特にコミュニケーションとか交渉とか何もせずに、見るなりなんなり自分を追いかけてくる龍志を見て感じたのは一つだった。


(さすが、運命ブラックホールの吸引力やな)


 龍志は短距離走に自信があるらしく、瞬発力を生かして突っ込んでくる特徴があるとリンチ顧問が言っていた。だから、私は直線距離で逃げず、階段や曲がり角をうまく使ってぐるぐると建物内を周回する。


「連絡橋Aを通過…」


 そうして走りながら、私は左衛門に居場所を教える。そうしている間に、後ろを走る龍志はヘロヘロになり始めていた。アップダウンも激しいし、おじさんにはちょっと厳しいランニングかもしれないなと思いながら私は走る。


「南館Bゾーン。連絡橋B。北館Aゾーン…」


 見取り図を見ながら自分の場所を報告する。遠回りと近道をうまく使いこなし、龍志をどんどん消耗させる。


「母さん、龍志はどうですか?」


「もう、だいぶヘロヘロやね!」


「では、クライマックスと行きましょうか!」


「次は連絡橋Bやな!」


「ドローンが急降下で攻撃しますよ! 一瞬だけあいつを橋にくぎ付けにしてください!」


 そう言われ、私は何か物を落とすことにした。家の鍵はさすがに嫌なので、倉庫の鍵をチャリンと音がするように落っことす。


「あっ!」


 わざとらしく声も上げておいた。龍志はそれが何か大事なものだと察知し、最後の力を振り絞ってヘッドスライディングする。私もわざと、立ち止まってそれが大事なものであるかのように演技することにした。なんか、思わせぶるのってちょっと楽しい。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ…」


 息が上がりなかなか言葉が出ない龍志。


「連絡橋B、直上に到着。効果まで5秒、4、3…」


「てこずらせ…ぜぇ、はぁ…やがってぇ…」


「どうでもいいからそれ返してくれへん!」


 キーンとかすかにドローンの音が聞こえてくる。敵が驚く姿を想像すると、ワクワクするものである。


「1秒前…」


 さぁ、私の未来が帰ってくる。これで終わり。


「チェックメイトやな!」


「なんだとっ?!」


 しかし、何も起こらなかった。


水谷「えっ、連絡橋に誰もいなくない?」


≪ちょ、水谷さんしゃべった?!≫


≪歴史的快挙やん≫


 にわかに盛り上がるチャット欄。何事なのか理解が追い付かない。格好つけて変なセリフ言うてしもた後に誤爆とかやめてや!


左衛門「あ、これ地図の向き逆ですね…」


水谷「ちょっと、左衛門さんやめてくださいよ~」


左衛門「あの、母さんあと30秒稼いでくれませんか?」


 私が今年で一番、未来人が嫌いになった瞬間だった。瞬間最低好感度やで!


「で、何がチェックメイトや?」


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