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神様はとっても負けず嫌い

神様はとっても負けず嫌い2

作者: そえじろう

ここは都心から遠く離れたところにある神社。

もう何百年もの間、神職もおらず廃れに廃れきっています。

でも決して誰も来ないという訳ではなく、神棚にはお供えられたおはぎが1つ。

おや、神棚の直下でぴょんぴょん飛び跳ねている幼い女の子がいます。

「ううー、届かないー」

お嬢ちゃん、踏み台を使ったらおはぎに手が届くのでは?

「うるさい子供扱いするな! わたしはここの神様ですう。っていうかおはぎになんて興味ないんですう。ストレッチしてた場所がたまたまおはぎの近くだったっていうだけですう」

そう、ここにはとっても負けず嫌いでしぶとい神様がいるのです。




時たま賽銭箱に札束をぶち込んでいく人がいます。

神様はそのおじさんの顔を覗き込みます。

「……え、誰?」

まったく身に覚えの無いようです。

でも知らないおじさんがいきなり札束なんてくれるはずがないでしょう。絶対知ってる人なんですって。ほら、早く思い出して下さい。

「えー、そう言われてもなあ。うーん……。いや本当に誰? 軽くホラーなんだけど」

結局おじさんの正体は分からないまま。賽銭箱にはドン引きするぐらいの札束が取り残されていったのでした。



それからしばらく経ったある日、謎のおじさんが再びやってきました。

「知人から聞きました。神様に対して無言で札束をぶち込んでいくのは失礼な行為なのだと。まずは無礼をお詫びします。その上でお願いがあるのです」

どうやらおじさんの目的は『神頼み』だったようです。

「ほらあ、やっぱ初見だったじゃん」

神様はドヤ顔でおじさんを指差しました。



おじさんは悩みを話し始めます。

「自分には好きな女性がいます。でも、告白するきっかけとあと少しの勇気がありません。ここには縁結びの神様がいると聞きました。どうか彼女と上手くいくようお願いします」

ですって。どうします? 縁結びの神様。

「ほえ? わたしって縁結びの神様だったの?」

どうやらおじさんの見当違いだったようです。だったらあのお金は返してあげましょう。

「それはダメ!!」

なにやら食い気味の神様。それにどうしたんですか? さっきからちらちらと落ち着かない様子で。一体何を見て……あ、あれは!?

その視線の先、座布団の上にちょこんと座る1機のドローン(ほぼ新品)。

さては……。

「ち、違うのこれは!」

確か数日前、ドローンを使って神棚のおはぎを降ろしていた神様の姿がありました。

とてもうれしそうにバンザイをしている様子が印象的でしたが、まさかあのお金を使い込んでいたとは。

「あれはおはぎが救出して欲しそうにしてたから……、そう必要経費! 必要経費ってやつよ! 時は戻らないんだからこれからどうするかが大事なのよ」



頼み事を言い終えたおじさんはため息をつきます。

「やっぱり神頼みなんてかっこ悪いですよね。帰ろうかな……ん? あれは」

おじさんもドローンの存在に気づいたようです。

「へー、これが噂に聞くドローンってやつか。昔ラジコンヘリ競技で全国チャンピオンだった頃もあったっけ。ちょっとやってみるか」

「あ! わたしのドローンちゃんに触らないでー!!」

神様はドローンにしがみ付きます。でもこれおじさんのお金で買った物では?

「もう、仕方ないなあ。ちょっとだけだからね」

それからおじさんはしばらくドローンを操縦します。

「なんか感覚が戻ってきたみたいだ。最近忙しかったからなあ、こんな感覚久しぶりだな」

そして高難度と呼ばれる技を難なくこなします。

神様はその様子を見守るのでした。

「なんか物凄い動きしてるけど、私のドローンちゃん壊されたりしないよね?」

うーん、たぶん。




ある日、神様が朝帰りをした日がありました。目に大きなクマを作っています。

一体どこに行っていたんです?

「役場の町おこし担当のとこ。夢枕に立って『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』『ドローン、大会、町おこし』ってひたすら囁いてきた。だいぶうなされてたけど手応えはあったわ」

なぜ? そしてなんだか可哀そう、町おこし担当の人。

「さーて、これから祭りになるわよ。そして私は眠いから寝る」

しばらくすると町中はドローン一色になり、本当にお祭り騒ぎとなりました。

そしてとうとうドローンの技を競う大会が開かれたのです。




大会が行われた日の夕方、おじさんが再び神社へ訪れました。

「ドローンの大会で優勝しました。なんとなくお礼が言いたくて、気づいたらここに来ていました」

おじさんは優勝トロフィーを神棚に向かって掲げます。

ところでおじさんは好きな女性に告白できたのでしょうか。少し気になります。

「今回のことで自分の才能に気づけたというか、なんだか自信が湧きました。本当は優勝の瞬間に告白をしようと思っていたんですが、残念ながら彼女は用事があったそうで大会を見に来てはくれませんでした」

神様はおじさんをじっと見つめますが、とうとうおじさんは帰ろうと振り返ります。

すると境内の入り口にとても綺麗な女性の姿。

「あら、こんな所でどうしたんですか?」

女性は近寄ってきます。

「こ、小町さん!? 小町さんこそどうしてここに!?」

この小町さんという女性がおじさんの思い人だということは一目瞭然でした。

「私はおばあちゃんに頼まれてよくここにおはぎをお供えに来ているんです。あなたは?」

「じ、自分は最近この場所が好きで。なんとなく来てしまったりなんかして……」

「そうなんですか? 実は私もなんです。良いですよねここ、なんか落ち着くっていうか」

沈黙が流れます。

「もう、しょうがないなあ。ほら、今がチャンスでしょ」

神様はおじさんの背中を押します。

よろけながら女性の前に一歩飛び出すおじさん。そして――。

「こ、ここ、小町さん!!」

「どうしたんですか? 声が裏返ってますよ」

「自分は、あなたのことが好きです! お付き合いをして下さい!!」

おじさんは大声で告げると、直角にお辞儀をして右手を女性に突き出します。

女性はおじさんの急な告白に戸惑っている様子でしたが、目に涙をため込むと笑顔でおじさんの手を握ります。

「はい。よろしく……、お願いします」

どうやら『縁結びの神様』なんていう話もあながち間違っていないようです。




ところであのドローン、いくらしたんです?

「ん? 5万」

本当は?

「ご、50万と……ちょっと。でも特別価格だったの! 定価はもっと高いんだからね。いやー我ながら良い買い物したわー」

座布団にどかっと座るドローンが急に偉そうに見えてしまうのでした。



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