ラルフとアイゼン。モーガン家の事情 その3
アビゲイル
ガチャに挑んで
爆死オチ
エルチキ心の俳句。_(:3 」∠)_
メルベーユ王国、国王直轄騎士団、第一騎士団長アイゼン・モーガンは語る。後悔を語るように自らの過去を公開するように朗々と語る。
「戦争なんて碌なもんじゃない。できる事ならあんなもの一生やりたくはない」
何を当たり前のことをと、今の若い世代は思うかもしれない。いや、戦争を知らない若者は武勇を夢見てありもしないロマンとやらを戦場に恋焦がれているのかもしれない。
だとしたら、そいつはただの馬鹿野郎だ。恋に恋するお年頃か。
悪い事は言わないからやめておけ、恋愛にしろ展望にしろ夢を見るのは寝ている間だけで十分だ。
とはいえ、今の時代、国の状況、世界の均衡。それらを考えれば私の考えは異端なのだろう。それは、武家の一族であるモーガンである私だからこそ理解している。
モーガン家は古くからある名家だが先祖を辿ると外国から流れ居ついた傭兵を祖に持つ。その事から、純血貴族が幅を利かしていたこれまでは不遇だった。
一族が爵位を得て貧しいけど領地を得て、一端の貴族になれた要因は戦である。
大陸随一の国土を持つ王国の歴史は侵略戦争の歴史と称して差し支えない。
元が傭兵なだけに戦う事は得意な一族だ。逆に戦うこと以外何もできない一族だ。
南に北に東に西へ。
戦があればどこであろうと参戦し活躍し名を上げた。敵の領地から財宝を奪い、人を奪い繁栄していった。
ある時、国から褒美として領地をもらう。ついでに爵位ももらった。
とはいえそこは流れ者の宿命か貰った領地は土地が枯れ貧しく、魔物が蔓延る厳しい場所だ。先祖はそれでも喜んだらしいが。
で、なんやかんやで侯爵まで爵位を上げたのがモーガン家の歴史である。どうやればたった数百年の新参者がそこまで爵位を上げれたのかは謎だ。
そんなモーガンである私が今更戦争よくないよなんて言っても質の悪い冗談だろう。むしろ、ただの傭兵から成り上がった我々は武家にとっての目標とさえ称されているのだ。
それでも私は言い続ける。戦争なんてろくなものじゃないと。
・・・
齢13歳。
名ばかりの貴族であるモーガンの男児は野を駆け回り狩りをするのが日常だ。もちろん狩った獲物はその日の晩御飯になるので楽しいというより必死である。まぁ、それでも楽しかった事には違いない。
思い返せば私の人生で一番満ち足りていたのはこの頃かもしれない。
「アイゼンよ。お主も初陣を迎える歳となった。戦働きは騎士の誉れしかと励めよ」
ある時、戦場から父上が帰って来た。
顔に大きな傷を持ち、モーガン家特有の赤髪を豪快な炎のように揺らす武人だ。
「はい父上。このアイゼン、モーガン家の男として必ず功を上げて見せましょう!」
「その調子だ、すでに兄たちも戦場で活躍をしている。お前も後に続くのだ!」
当時は、何世代にもわたり西のローズフィードと隣国の戦争が繰り広げられていた。国中の勇士が集い戦場に投入されていく。
出立の日、空を見上げれば雲ひとつない快晴だ。なんとも幸先がいい。
まだ新しい装備一色を箱に詰め私は父上と戦場へ向かう。しばしの別れだ、愛すべき我が故郷よ。
「アイゼン」
「はい母上!」
もしかすると今生の別れになるかもしれない最後の挨拶。が、モーガン家の女はここで泣き言なんて言わない。本気で涙の一粒、目を潤ませる事すらしない。
かといって薄情なわけでもない。
「モーガン家の男児たるもの一人一殺なんてただの甘えです。一人で百の将校を屠るまで死ぬことは許しませんよ」
「はい! ですが、流石にそれは難しいと思います!」
「フフ、生き続ければできない事もありません。お父様だってこれまで数多くの敵を屠って来たのですから」
「分かりました! このアイゼン必ずや百の敵将を切り伏せ戦を勝利に導いてまいります!」
良くも悪くもこれがモーガンという家の通常である。
戦場の地ローズフィード。建国時より存在する王家と並び立つ4大公爵家の一角。
「……」
場所は、合戦のけたたましい音が聞こえる後方付近。私は騎兵として初陣を迎える。
周囲にはモーガンの戦士を主力とした混成部隊が展開していた。
「流石に緊張してきたな」
「初陣なんてそんなものだよ。僕や兄さん達も同じようなものさ」
おおよそ3年ぶりに聞く兄の声だ。
「兄上たちもですか?」
「始まる前は心臓が痛いくらい脈打っていたよ。でも、いざ戦いが始まれば心地のいい緊張感に包まれて高揚感に変わる。まずは空気に慣れるといいぞ」
「はい!」
バシンと私の背中を叩き、そのまま兄は指揮官たちの元へ向かう。
気を使わせてしまった。
息を吐き、自らの頬を痛いくらい叩き上げる。
「うん。この借りは戦働きで返そう」
そう決意した。
「あ、ああ、アイゼン! なんかすごい音がしたが、だ、だ、大丈夫か!?」
今度はやけに上ずった震え声が聞こえてきた。これは我が竹馬の友の声だ。私と同い年で彼も初陣である。
「ただ気合を入れただけさ、問題はないよ。待ちに待った戦なんだ楽しみなくらいだ。……それよりも友よ。友人として忠告するが少し落ち着け」
人の心配をする友は鎧越しでもわかるくらいに震えていた。
領地では共に野を駆け回り、武術の訓練も一緒にしてきた仲だ。彼の実力は私と五分くらいだろう。
「ば、ばっきゃろう! おおおお俺は落ち着いているぞ! こ、これは武者震い――」
「分かったから。ほら、深呼吸をしろ」
ただ今はとても緊張しているようだ。こんな調子で大丈夫なのか少し心配だ。でも、おかげさまで私の緊張はほぐれた。
不思議な物で友を宥めていると緊張がうまい事ほどけた。
空は青い。雨風どころか槍もふらない快晴かな。まさに初陣日和、戦日和だ。
さあ、戦いが始まる。
「進めぇぇぇえ!!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」
指揮官の怒号と共に前進する歩兵たち。
歩兵と歩兵がぶつかるまでに、弓や槍の応酬が行われる。歩兵の役目はただ前に進み敵をなぎ倒す事。
騎兵の役目は歩兵たちが切り開いた道を駆け抜ける事だ。
「ぐあぁ!」
「ああぁ!?」
歩兵が進めば矢が降ってくる。槍は降らないが今日の天気は晴れ時々矢らしい。
「ぐぅ」
「がぁ!!」
さらに先に立ちはだかるのは長物の群れ。列を成す彼らの姿はまるでヤマアラシの威嚇だ。
「おりゃあぁ!」
「斬り殺せ!!」
歩兵同士が接触すると怒号に悲鳴が激しくなる。剣戟の音が戦場へ鳴り響く。
さて、そろそろ出番の様だ。
「よし、今だ!! 騎馬隊進め!」
「応!」
合図と共に馬を駆ける。時折降ってくる矢に注意をして、足元に転がる死体を避けながら前に進めやれ進め。
目指すは大将首。
「おりゃあああ!!」
「待てそこの騎兵! 前に出すぎだ! 足並みを揃えろ!」
「ちょ、アイゼン戻れ戻れ!」
上官っぽい声と友の声が聞こえた気がしたが、戦場で走り出した馬を止められるわけもない。なので無視だ。
敵の強度が上がっていく。つまりはそこに守らねばならない誰かがいるという事だ。
「見つけた」
私の目に捕らえたのは、馬上にいる一番ド派手な鎧を着た男だ。
そして。
「敵将打ち取ったり!!」
「うっそー……」
激しい激闘の末、私は見事大手柄を上げた。
時間は過ぎて夜になる。戦は日の出と共に始まり夕暮れと共に終わるもの。我々は本陣へと帰還した。
上げた戦果を掲げながらの堂々の帰還である。
「初陣で将の首を上げたとは、我が息子ながらあっぱれだ! よくやったぞアイゼン!」
ガシガシと頭を撫でられながら褒められる。父上だけではない。兄上もそれ以外の部隊の人からも盛大に褒められた。
ひとしきり褒められ終わると今度はお説教の始まりだ。
「だが、少し行き急ぎ過ぎだ。仲間と足並みを揃えない事もよくない。よってゲンコツだ!」
そこら辺はご愛敬。何はともあれ大手柄だ。頭は痛いが褒められた事は素直にうれしい。
この時はまだ充実していた。心の底から戦を楽しんでいた。これから先も続くであろう闘争の日々に想いを馳せて笑っていた。皆も笑っている。父上も兄上も友も戦友も笑顔を浮かべている。これが戦争か、これが戦士の幸せか。
……そんな訳はないのに。
戦争は全てを奪ってゆく。さぁ悲劇の始まりだ。いいや、それすらも正しくはないのだろう。戦争なんて最初から最後まで悲劇で始まり無残に終わるモノ。すでに始まっているのだ。
・・・
ある戦場で私の部隊は翌日に控えた奇襲作戦の為、敵の陣地近い森で野営をしていた。
作戦の性質上火は使えない。煙が出るからな。
火が使えないならお湯も沸かせないしただでさえ不味い兵糧をスープにする事もできないのだ。ひもじい訳ではないがあの不味さに慣れる事は出来そうもない。
それはさておき、夕暮れになり皆が夕食の支度をしている間、私は森の景観に首を傾げていた。
「どうしたアイゼン。いつにも増してシケた面をして、そんな顔では女にモテないぞこの野郎」
「友よ、心配はいらないが言葉の端々に悪意を感じるが気のせいか?」
「気のせいさ。俺の可愛い妹とお前が婚約した事なんてまったくこれっぽちも関係ない。ッチ、なんで俺が手柄を上げた褒美に妹とお前が婚約するんだよ、ッチ」
「おーい、漏れてるぞ。悪意が2回も漏れ出てる」
「お前のような男にに妹はやらん! っぺ」
「こいつ開き直りやがった……」
不満そうな友の姿に呆れた。こいつまだその事を根に持っているのか。
念のためい言っておくが、私は領主の一族で友の実家は家臣の一族だ。最も、家の領地は貴族と平民の距離も近いしそこまでお堅い囲いはあってないようなものだ。
それでも家や一族的には大出世だ。
私は末っ子で、兄達にはそれぞれ嫁がいるのでそこまで立派なものではないのも事実だが。
私としてはよく知らん高慢ちきなどこぞの令嬢より昔からの顔なじみで憎からず思っている女の子が相手なので大喜びだが、我が友はこんな感じだ。
正直めんどくさい。いい加減に妹離れしろよ。そして私たちを祝福してくれ。
「そんな事よりだ、なにかおかしいとは思わないか?」
「そんな事? おいお前、俺の妹の話題をそんな事扱いしやがったな。国一番の可愛い妹とお前みたいな唐変木が結婚する事がおかしいんだ。よし決闘か? 俺の命を懸けて決闘を申し込んでやろうか?」
「ああもうめんどくさい! そんな事よりだ! この場所に違和感がある。お前は感じないか?」
「……」
友は周囲を一周見渡す。
鬱蒼とした森の中、動く人影は野営の準備をしている部隊の人間しかいない。野生の獣すら見当たらない普通の森だ。
でも、俺はどこかおかしいと思った。それがどこかは分からないが、なんとくおかしいと思ったんだ。
「別に変な所はないと思うが……お前がおかしいと感じるなら何かあるのかもしれない。どこがおかしいとか分るか?」
「すまない。流石にそこまでは分からない。……もしかすると勘違いかもしれない」
やはり友にも違和感の正体は分からないらしい。……自信が急になくなって来た。
きっと日ごろの疲れと、初めての奇襲作戦に緊張しているのだ。そんな気がしてきた。昔から私は、ここぞという時の判断を間違える事が多い。今回もきっとそれだ。ただの勘違いだ。
そう自分を納得させていると、友が難しい顔をしている事に気がついた。
「一応上官に報告しておこう。お前の勘はよくあたる」
「そうは思わないが……」
「お前の場合、初めの本能的な勘は当たっているのにその後の理性的な判断を間違うんだ。むしろ、信憑性は高まった」
「そうか?」
自分で言い出しておいてなんだが、友の言葉は半信半疑だ。
私でそう思っているのだ。なら、当然そんな根も葉もない報告をされた上官の答えは決まっていた。
「ッチ、あのクソ上官人の話を聞きやしねぇ!」
「いや、私が同じ立場でもあんな報告されたら同じ態度をすると思うぞ?」
友は苛ついているが、根拠がただの勘では仕方がないと思う。逆にそんな報告で上官たちに何を求めているのか。
「若様方、夕飯の準備ができましたよー」
友を宥めていると兵士が声をかけてくる。
彼の事は私も友も知っている。何せ家が近所だからな。
「おうじっちゃん知らせてくれてありがとな」
「今向かいます」
ここに来る前はよく、友と一緒に彼の家に生えている果物の木から果実をくすねに行ったものだ。
大体は木登りの最中に見つかって、怒鳴られ、逃げて、でも追いかけられ、捕まり、説教されるのがセットになっていた。
ひとしきり怒られた後に彼は熟した果実を1つずつくれた。
近所に住む人のいいおじさんだ。
彼が今回戦場へ来た理由は、彼の長男さんの所に子供が生まれ長男さんの代理としてやって来たらしい。初孫だと相当喜んでいた。
夜。
「敵襲――ぐは!?」
途中で事切れた叫び声で私は目覚めた。
静かだった野営地は急に騒がしくなる。けたたましい蹄の音、叫び声に、燃えるテント。間違いなくこれは敵の奇襲だ。
不意をつかれた部隊は混乱する。混乱した部隊はもはや烏合の衆と変わらない。誰かが指揮をとらねばこのまま蹂躙されるだろう。
しかし、この時すでに多くの上官たちが暗殺されていた。
昼間話したあの上官もだ。というか、今にして思えば違和感の正体は敵の伏兵もしくは偵察がいたのだろう。
クソッ!
「く、撤退だ! 撤退――」
部隊の指揮官は辛うじて生きていた。最も文字通りの最後の命令を言い終わる前に喉元に刃を突き立てられ絶命した。
けれど、指揮官の命がけの命令は功を奏した。烏合の衆は1つの目的の為に部隊として動き出す。
「撤退だ! 撤退!」
戦場において追われる方は圧倒的に不利だ。追われる状況に追い込まれた時点であれだが、無防備な背中には正面を向いていれば躱せる攻撃も当たってしまう。
鎧を着こめば弓矢くらいは防げるかもしれないが、重さで足は遅くなるし体力も奪われる。それに一度着こんでしまえば逃げてる途中で脱ぐ事はできない。
なので、ここは剣の一振り持って鎧は捨てていく。
家族から送られ、これまで共に戦場を駆けた思い入れのある鎧だが命には代えられない。
「アイゼン!」
「友よ、無事か!」
「ああ、馬も二頭持ってきた乗れ!」
「助かる!」
部隊の人間をかけ集め森に向かう最中に友と合流した。流石は我が心の友である。
速く、体力の消耗も抑えられる馬は非常にありがたいが、何分夜の森だ。全力疾走とはいかない。途中でこけて落馬したら元も子もない。
かといってノロノロ行けば後ろから追撃される。
今はテントにいる逃げきれなかった部隊の残党を狩っている敵軍もいずれはこちらに来る。
「あっちだ! 森の中に入っていったぞ、追え!」
とか言ってるうちに来やがった。ちくしょうめ!
その時だった。先行していた部隊が足を止めその場に佇んでいた。まるで道を塞ぐかの様に。そこにはあの近所の兵士の姿もあった。
「お前たち何をして」
「若様は行ってください! ここはワシたちが時間を稼ぎます!」
「なッ!」
驚きに思考が止まる。
仲間を見殺しにする事なんてできるはずがない。
でもと思う。
奇襲作戦が失敗した事を自軍に伝えなければいけない。その為に生き残るのなら歩兵である彼らよりも馬に乗れる私の方が生存確率は高いだろうと。
「お早く!」
「くっ……すまない!」
一瞬の思考は、彼の怒声により消えていった。口から出たのは謝罪の言葉。それに対して彼は、彼らは決死の覚悟で笑っていた。
最後に彼らの背中を振り向く。
燃えるテントの光に照らされ、ゆらゆらと揺れる黒い影。そこには、背中から何本もの鉛色の棘が生えた彼の後ろ姿があった。
――悲劇は続く。
軍同士のぶつかり合い。その最中に我々の部隊はおかしな動きをしていた敵の別動隊を発見し追撃した。結果として、我々は敵軍の真っただ中で孤立無援となっていた。
「生きているか、アイゼン?」
「なんとかな。そっちは無事か友よ」
「なんとかな」
四方を敵に囲まれ我々は背中を合わせ円陣を組んでいる。いつ敵が襲い掛かってくるかわからない。まさに絶体絶命の状況だ。
「囲まれたな。わかっていたとはいえやはり罠か……」
「だな。でもあそこで連中を無視したら本陣が挟まれる。それに比べると……ああーやっぱ辛いな! 援軍とか来ないかな!?」
敵軍の奥の奥。こちらに向かっている自軍の部隊はあるが、合流させないため敵の足止めが多い。
ここで持ちこたえるのと援軍が合流するの、どちらが早いかなんて誰の目から見ても明らかだ。
「残念ながら自軍の部隊は一番近くとも包囲の一番厚い所だ」
「ッチ……だがまだ諦める時間じゃないだろ。どうだアイゼン賭けでもしないか?」
「賭け? こんな時に何をいっているんだ友よ」
ギャンブルなどお互いしない癖に何を言い出すのかと訝しむ。すると、友はさっき見た包囲の厚い所を指さした。
「生き残り全員で一点突破。向かうのはあそこだ」
「本気か……いいや、正気か?」
「無論正気だし本気だ。このまま待っても押しつぶされる。切り抜けたとしてその次がなければ結局また包囲されて終わりだ。少しでも生き残る可能性があるのなら分の悪い賭けでもなんでもしようじゃないか」
「ちなみにどれくらい分は悪いんだ?」
「……少なく見積もっても半々かな」
嘘だ。
ギャンブルなんてした事ないがそれが嘘な事はわかる。だが、あえて指摘したりしない。これを聞いてる部隊の面々の士気の為にもそれが最善だ。
「いいだろう。その賭けに乗ろう。なに我々が揃えば向かう所敵なしだろ? 友よ」
「おうよ、なにせ俺達地元じゃ負け知らず、そうだろ?」
思い出すのはモーガン領で友と眺めた夕日の空。
フッと笑みがこぼれる。
覚悟は決まった。死ぬ覚悟ではない、生き残る覚悟がだ。
「どっちが生き残っても恨みっ子なしだぜ」
「そこはお互い生き残ろうという所だろ友よ」
私たちは笑い合う。
「なぁアイゼン」
「なんだ友よ? そろそろ敵が動き出すぞ」
敵軍の動きを見れば猶予がもうない事はなんとなくだがわかる。すぐにでも動き出さなければいけないのだが、それでも友は言葉をつづける。
「いろいろと難癖をつけたが俺はお前なら妹の事を託せると思ってる。だから必ず生き残れよ我が親友よ」
不意にかけられた言葉に私の胸を感動が射抜いた。
これまで我が友は、気恥ずかしいだのと言い訳をして私の事を友と呼んではくれなかった。そんな友が私の事を親友と言ったのだ。
ものすごくうれしい。
しかもあれだけブーブー文句を言っていた妹の事を託せると言ってくれた。つまりは私たちの結婚を祝福してくれるという事だ。
嬉しくないはずがないじゃないか!
「ああ! 無論だとも! 無事に領地に帰還したら結婚式を上げるんだ! 友もぜひ祝福してくれ!」
愛した人と式を挙げ、みんなから祝われる。小さいけれどずっと夢見てた光景だ。これまでは、友の性格を考えると意地でも式に来ないと思ってた。
それが今では、泣きながらも一番大きな拍手をしてくれる友の姿が加わった。
こんな状況でもとんでもなくうれしい。
なんと素晴らしい光景だ!
「……ああ、それはいいな」
友も同意してくれた。
「ハハハハハ! これは死んでいる場合ではないな! 絶対に生き残るぞお前たち!」
「「「応!」」」
士気は上々。
人数に不安はあるが、なにこちとら少数精鋭だ。
「行くぞ!」
「おう!」
友と拳をぶつけ合う。
「全軍我に続け! 突破するぞ!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」
突然動き出した我々に敵方も混乱したようで少しの隙が生まれた。そこから包囲を突っ切り前へ前へと斬り進む。
「生きろよアイゼン」
そんな声が聞こえた気がした。
ああ、生きるとも。一緒に生きて帰ろうぞ友よ!
「無事かアイゼン!」
「なんとか、兄上!」
奇跡的に援軍と合流できた。
「はぁはぁ……どうにか生き残れたな、友よそっちは無事か?」
友からの返事がない。
怪訝に思い振り向けば、そこに友の姿はなかった。
「とも、よ」
戦闘が終わった後に聞いた話だ。
あの時、友は既に腹に矢を受けていたらしい。それは致命傷になりうる傷だった。進撃する最中、彼は敵を引き付けるために部隊から離れ奮闘したそうだ。
「ああ友よ……こんな所にいたのか」
屍の大地に友の姿を見つけた。
斬り傷が無数にある。肉を割き骨まで到達していた傷もあった。鎧はひしゃげ、馬にでも踏まれたのか所々がへこんでいる。
「まったく仕方のない奴だ……約束をしたじゃないか……結婚式に来てくれると言ったじゃないか、この嘘つきめ」
四肢も捻じれ引きちぎられ無事な個所の方が少ない。
「こんなにボロボロになって……お前という奴は」
抱きかかえれば我が友の体は嘘の様に軽かった。周りに散乱する屍の中でも群を抜いて酷い有様だ。
なのに。
「なぜこんなにボロボロになってるくせに満足そうな顔をしているんだ……」
友の顔は笑っていた。
やり切った様ななんの憂いもないようないっそ清々しい表情をしていた。
「お前のそういう所だぞ友よ…………ばかやろう」
――悲劇は続く。
「兄上が……?」
それは兄の訃報だった。
兄上の率いる部隊は任務活動中、敵の部隊と鉢合わせそのまま戦いになったそうだ。
数の上ではほとんど五分、それどころか兄上の部隊の方が若干多いくらい。けれど、敵軍を率いる将は隣国の名高い騎士だった。
結果として、部隊は壊滅。兄は敵将と一騎討ちを行いそのまま討たれたらしい。
兄上が死んだ。私の知らないどこかもわからない戦場で死んだ。看取る事もできず、亡骸を供養する事もできない。
「……」
言葉が出なかった。
――悲劇は続く。
「我が息子の仇! ここで討ってくれる!」
「……」
大隊同士の大規模な合戦が起こった。
我が部隊の大将は我が父上だ。一方敵軍の大将は兄上を討った騎士だった。
私も部隊を率いる者として参加する。
「行けぇー! 進めー!」
「迎え討て!」
「あああああああああ!」
「ぎゃああああああ!?」
敵味方入り乱れる混戦だ。
その最中、父上は敵将との一騎討ちに挑んでいた。父上と敵将の周囲に人はいない。正真正銘の一騎討ちだ。
無骨な鉄の塊がぶつかり合う。
稲妻を思わせる剣戟が交差する。
「ぐっ……無念なり」
終わりは唐突に、膝をついたのは父上だった。
「父上!」
それを見た私は、目の前の敵を切り伏せ父上の元にはせ参じた。
馬から転がるように飛び降りる。
「ああ父上! 父上!」
傷は心の臓まで到達していた。止めどなく流れる赤が全ての終わりを告げている。
震える手で無骨な手を握る。そこにかつての力強さはない。
「……すまぬ、後は任せた」
「ああ、ああそんな!? 父上……父上!」
いくら呼びかけても返事は帰ってこない。永遠に。
「増援だ! 撤退、一時撤退だ!!」
その叫びは敵から上がる。
別の場所に展開していた部隊が増援としてやってきたのだろう。
「……」
敵将は無言のまま去ってゆく。
父上を殺した憎い男だ。奴はなんの感慨もなさそうに表情がない。それがたまらなく悔しくて、憎くて仕方がない。
「必ず、必ず貴様をこの手で殺してやる!! 覚えていろ、我が憎悪! 忘れるな、いずれ貴様を殺す男の存在を!!!」
みっともなく泣き叫び呪詛を振りまいた。
敵将の足が止まる。
「――――――」
奴はたった一言言葉を残し、その場を立ち去った。
――悲劇は終わらない。




