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シーザー・ローズフィード

最近分かったのですが、私はこれまで三人称を苦手だとどうにかしようと思っていたのですが、苦手ではなく嫌いなんだと理解しました。

もうね、一人称と三人称を書いてるときのストレスが段違い! という訳でこれからは極力一人称でサクサク進めたいと僕は思いました。あれ、作文?


あと2,3話くらいでシーザーの断罪が終わる予定です。その次は閑話で王子の話を入れてラルフ編に行きたい予定です。

最近主人公まったく出てきてませんがメインディッシュは遅れてやってくると思って前菜をお楽しみいただけると幸いです。

では本編どうぞ!

感想、ご意見、質問等お待ちしております!

「……」


「……」


 振動が大きな馬車の中で向かい合う人を見てシーザーは思った。


(き、気まずい!)


 あの後すぐに男爵の屋敷から公爵様(本名は不明)に連れられて移動となった。

 不幸中の幸いに、あそこには僕の物がほとんどない。身支度には時間がかからないのでサクサク家を出た。

 いざ馬車に乗り込み、段々と見えなくなる男爵の屋敷を見ながら心の中で母に別れを告げた現在。


 さっきから一切の会話はない。すごい気まずい。チラチラと公爵様の顔を盗み見ても微動だに動かない。こんなに揺れているのになんだこの人?


 というかこれは僕が何か話題を振った方がいいのだろうか!?


「あ、あの僕は――」


「やめた方がいい」


「え?」


 震える声で何か話そうとすれば帰って来たのは否定の言葉。何を否定されたのか分からないけどとにかく一瞬で頭が真っ白になった。

 僕は一体何をとち狂っていたのだろうか? 気を利かせて会話をしようと思いあがったさっきまでの自分を殴ってやりたい。

 自分で選択して何だが、僕の心境は魔王に連れていかれる子供の気分だ。

 何か粗相をすれば取って食われると本気で思っている。

 あ、ダメだ。泣きそうだ。お母さん助けて!!


「自分の呼び方の話だ。これからは上位者としての立ち居振る舞いが求められる。ただでさえ周囲の子供とは環境が違うのだし改善出来る所は直すように」


「え、えーと」


 難しい言葉の羅列と泣き出しそうな感情のせいで頭がポーとなる。

 それでもどうにか読み解けば僕の『僕』という呼び方が気に障ったらしい。

 公爵様の気に障ったのならどうにかしなければ命が危ない。でも、いきなりそんな事を言われてどうすればいいのかもわからない。


 必死で考え抜いた結果、頭の中に思い浮かべたのは偉そうに僕を見下す兄の姿だった。


「……俺?」


「……」


 無言で睨まれひぃと悲鳴が漏れる。


「す、すいません!」


 急いで謝ったが……これはやってしまった。殺されたらどうしよう。


「私の真似をすればいい」


「わ、私……ですか?」


 泣き出しそうなのを我慢すると、僕に視線を向ける事もなく公爵様がそう言った。


「俺だの僕だのという言葉使いは貴族として生きるのなら不相応な場が多い。成人してもそんな言葉使いをしているガキは分別を弁えぬと周囲から見下される愚か者だ。どうせ直すのなら長く使える物にすればいい」


「はい!」


 どうにか一命を取り留めた僕は……私は、こうして公爵様のお屋敷に向かうのだった。

 といっても到着するまでには数日かかるらしい。


 あれ? つまりその間僕は、公爵様とずっと一緒?

 さぁっと血の気が引くのが分かった。


 数日後。

 

 地獄のような長旅を終えた私、シーザー・ローズフィードは目の前の光景にポカーンと口を開いている。


「お帰りなさいませ」


 馬車から降りる公爵様を出迎えたのは百人はくだらない使用人とメイドのお出迎えだ。正門を抜けた先にずらりと人が並ぶ姿はとても奇妙に思えた。

 少なくとも男爵の屋敷では見た事がない。


「ああ。……思ったよりも時間がかかったな」


「なるべく僻地の貴族を選ばれたのは公爵様ですので仕方ありませんよ。それより、そちらが?」


 初めて見る燕尾服を着た初老の執事と公爵様が話をする。

 その視線の先にいる私は、大口を開けてさぞ間抜けな顔をしているだろう。

 どうでもいいが、地獄の長旅の間あまりの気まずさに自分の事を私と呼ぶ練習ばっかりしていたのでこの呼び方も板についていると思う。


「ああ、紹介しよう。私の養子となったシーザーだ」


「……」


 公爵様がそう紹介したにも関わらず挨拶ができなかった。別に悪意があったわけじゃない。でも仕方がなったんだ。だって、目の前の光景はそれほど衝撃的なのだから。


 公爵様の家に行くと聞かされ男爵の屋敷と同じか少し大きいくらいの物を予想していた。

 男爵の屋敷は3階建てで横長のお屋敷だ。1階あたりの部屋数は10部屋くらい。


 一方公爵様のお屋敷は……いや、これはもうお屋敷とかいうスケールじゃない。お城だ。絵本で見るような絵にかいたお城が目の前に佇んでいる。


 周囲は高い壁に囲まれその中にはとんでもなく広い庭がある。正面に見える入り口までの間、敷地の中には大小さまざまな建物が点在していた。


 家の中に家があるとかどういう事だろう? 理解が追い付かないよ!


 お城の階数だけどそれは数える事ができない。

 馬車は正門を抜けた玄関前で止まったが、その位置からではもう頂上を見ることができないとかどれだけ大きいというのか。


 さらにこれは後々知った事だけど、ローズフィード公爵が住むロズレイド城は反り返った崖を背にした天然と人工両者の特性を持つ要塞なのだとか。

 隣国との戦争を含め歴史上一度たりとも外敵の侵入を許さない難攻不落の鉄壁の城であるらしい。


「口をパクパクとぱくつかせて何をしているんだこいつ?」


「恐らくですがお城をみて驚いているのでしょう。僻地の子供ならお城に来ることもないでしょうし見る機会もなかったのですよ。それよりもお体は大丈夫でしょうか? 長旅のお疲れを癒す為準備は整っていますよ」


「では、ここは任せる」


「かしこまりました。ロイここは任せます」


「かしこまりました」


 公爵様は使用人達にかいがいしく介護され城の中へと入っていく。残されたのは未だに大口を開けた私と若い執事の男性だけだった。

 しばらくすると私の肩が軽く叩かれた。


「そろそろ正気に戻ってください」


「……え?」


 知らない人に声をかけられ、驚きで正気に戻ると更なる衝撃が襲ってくる。


「あ、あれ!?」


 周りを見ればあれだけいた人が一瞬でいなくなっていた。なぜどうしてと混乱していると、男性が説明をしてくれる。


「公爵様は先にお休みになりました。シーザー様も長旅でお疲れでしょう。まず、旅の埃を落とし休息をとりましょう」


「あ、はい」


 自覚はなかったが、どうやら随分と時間が過ぎていたらしい。

 ……それはそうと今、聞きなれない言葉があったような。


「シーザー……様?」


「我々はローズフィード公爵家に仕える使用人です。貴方様はこれから公爵様のご子息になられますので敬意を示しているのです」


 ニコリと笑う男性の言葉に感動した。

 これまで誰かに敬われるどころか対等に話をした事の方が少ない。見下されるか嘲笑されるのが当たり前だった私にとってこれはとても凄い事だ。


(やっぱりここに来たことは正解だった! これから私はこのお城で努力して誰からも認められる貴族になるんだ!)


 そんな決意を胸に城の中に入っていく。


 結論を最初に言えば、この決意は一年と持たず挫折することになる。努力を認められない男爵の屋敷とはまた別の理由。

 小さな井の中しか知らない私の前に彼女は現れた。


「貴方がわたくしの弟になる方ですわね!」


 どんなに努力しても決して敵わない本物の天才という生き物。

 イザベラ・ローズフィードはお姫様のような姿で、魔王のような絶対の自信を浮かべた笑みでそこにいた。


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