名字
これは
いくさで死んだ人々のいしぶみ
うみやまで撃たれ
切られた人のためのいしぶみ
刻まれた名字は
加藤、下山、前田、芹沢
私の友達のものばかり
城の跡に立ついしぶみの前で
碑銘を見るわたしの前には
冬のお日さまが照っているが
あのお日さまが
一発の爆弾に変わる
そんな日がいつ来るのか
私たちは知らない
あと75年
たった75年違かったら
あのいしぶみに眠るのは
刻まれた名字と同じ人々
わたしの友達や
わたしの先生や
はたまたわたしかもしれない
いしぶみには落葉がかぶさる
蜘蛛が巣食う
そのどさくさに紛れて
いつの日か
わたしたちの前に
いくさが現れるかもしれない
一つだけのいしぶみを
倒してはならない
しかしもう
これ以上のいしぶみはいらない
わたしや、友達の名字を
わたしたちの孫が眺める
そんな日が来てはならない
城のあとには風が流れる
わたしは遠く、
すこし恥ずかしそうに雪をまとう
富士の山を仰いだ