第六話 僕は何も言えなかった。
11/24 文章を一部改稿しました。
あらすじ
ベルの土下座にイツキは土下座で返した。
―――少年はどうしても土下座をしなくてはいけなかった。
話は数ヶ月前に遡る―――
「私、聖女に選ばれました………」
夕暮れ時、城内にある中庭で彼女から告白された。
今朝、実の父である国王様から任命されたらしい。
「シャロ!それは本当なのか?」
「……はい。司教様に神託があったとの事です。」
まさか………よりにもよって何故シャロが……
ベルは知っている。
この国で神の言葉は王であっても逆らえないことを。
ベルは知っている。
魔王が復活したら、彼女は旅立たなければいけないことを。
ベルは知っている。
旅立ってしまったら魔王が滅びるまで側に寄り添うことが許されなくなることを。
勇者と従者以外は………
「何故、よりにもよって君なんだっ!」
不覚にも彼女の前で怒鳴ってしまった。目の前にいる少女がビクッと肩を震わせる。
「あっ………す、すまない。」
決して彼女を責めているわけではないのに感情に流されてしまった。
「いいえ、大丈夫です。私の為に………怒ってくれているんですよね?」
先ほどまで背を向けていた彼女が振り返り静かに微笑む。
今迄、王女として未来の王妃として相応しい姿を周囲に見せて来たが、いまの彼女はひとりの女性として自分に笑いかけてくれていた。
「ベル様……愛しています。」
「ああ、」
何度も聞いた。でもいつまでたっても新鮮な言葉。
たとえ親同士が決めた婚約とはいえ、真剣に愛してくれた。
シャロップシャー・リプトフスキー・ミクラーシュは………僕の最愛の女性だ。
「ベル様、大好きです。」
「………シャロ。」
気が付いたら彼女を抱き締めていた。
仄かなローズマリーの香り。彼女の匂い。
ずっと一緒にいて欲しい。
ずっと側で微笑んで欲しい。
誰にも渡したくない。
傷ついて欲しくない。
「ずっと側にいたい。」
彼女の本音。
王女として聖女として間違っているだろう寂しい我儘。
「ずっと離さない。」
貴族として、王女の婚約者として決して正しくない静かな決意。
「………死にたくないよ。」
ポツリ
微かに聞こえた彼女の悲痛な叫びが弱音が胸深くに突き刺さる。
「あっ」と自分で言った言葉の恐ろしさ愚かさに気付き僕から離れると「………すみません!忘れてください!」と笑って誤魔化した。
その頬には涙が伝っていた―――
―――僕は何も言えなかった。
◇ ◇ ◇
ある日、勇者の召喚に成功したとの報が飛び込んだ。
「チクショウ。」
彼女が行ってしまう。妹も幼馴染も。
「くそ、クソぉぉおお!」
壁を殴った。血が床にぽたぽたと落ちる。
盗られる。勇者に。
そんな邪な考えがぐるぐると頭の中にこびりついて離れない。
分かってはいる。神様は正しいんだと。国の決まりだから責めるのは御門違いだと。分かってはいる!………けど。
その日の夜は眠れなかった。本当なら今すぐにでもシャロの所へ行って抱き締めたい。
しかし、次期国王の自分はそれを許さなかった。
「………ねぇ、聞いた?」「え?なになに」
部屋の前で侍女達のひそひそ話が聞こえてくる。
「マリアが勇者様の部屋に入っていったの見たのよ。」
勇者の部屋にだとっ!
これまで抑えて来た感情がここに来て一気に込み上げてきた。
「なんでも、今夜は夜伽に付くよう侍女長から言われたらしいわ」
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
頭の中が脳味噌がぐちゃぐちゃになる。
お前の所為でシャロは自分を犠牲にするんだと言ってやりたい!勇者を殴りたい!
気が付いた時には扉を勢いよく開け廊下を駆け出していた。
侍女達は小さく悲鳴をあげていたが、そんなの知ったこっちゃなかった。
勇者がいるとされる部屋の付近まで近いた時、目の前にマリアと呼ばれた侍女が現れた。
「ベル様?」
「勇者はこの部屋かっ!マリア!お前、勇者とヤッていたんだろっ!」
クズ野郎が………シャロが聖女になったと聞いてどんなに辛い思いをしたか
(死にたくないよ)
お前にシャロの気持ちがわかるのかっ!
バチンッ!
右頰に衝撃が走った。
「勇者様………あのお方がそんな事するわけないじゃないですかっ!」
へっ?
何故、僕は叩かれたのか突然の出来事に呆然とした。
「あのお方は、好きでここに来た訳ではありません!とても苦しんでいるんです!」
―――マリアが話し始める。
突然、自分が家族のもとから引き離されたこと。
覚悟もないまま死地へと向かわざるを得ないということ。
自分のようなクズな男に皆が期待しているということ―――裏切れないと寂しく笑ったこと。
そんな自分が弱い人間だと言う勇者はこれまで女性に優しくされた事などなく、私が頭を撫でただけで子供みたいに激しく泣いてしまったこと。
「辛いのは貴方だけじゃないんです!」
そう言うと「次期国王様に手をあげてしまったこと万死に値すると存じています。大変に申し訳ありません。処罰は甘んじて受けます。」と一礼した。
「そんな事された覚えはない。………下がれ。」
僕はそう一言絞り出す事しか出来なかった。
投稿遅くなりました。すみません。
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