第十六話 称号【惨殺する者】を獲得。
あらすじ
赤羽鳥に振り回される。
気がついたらゴブリンがいた。
「ギャギャッ!?」
「イツキさん!ゴブリンです!」
そこにはRPGでお馴染みのゴブリンが三体姿を現していた。
人間の子供ぐらいの背丈。
緑色の肌。
ボロボロの腰巻。
醜悪な顔に特徴的な鉤鼻。
これはゴブリンだ。と日本人なら誰しも思い浮かべるだろう容姿をしている。
俺は初の敵との遭遇に足がすくみそうになる。
「イツキさん!早く剣を抜いてください!」
ベルきゅんが俺の前に陣取ると顔だけこちらに向けて叫ぶ。
早く抜かなくちゃ!
ガタガタ震える手足に上手く鞘が掴めない。
剣をどうやって持てばいい?
剣をどうやって振ればいい?
足の位置は?構えは?
ここに来て剣の練習をしてこなかった己の愚かさを恨んだ。
俺は馬鹿か?魔王を倒すだとか、世界を救うだとか、大層な目標を掲げていながら、重要な事を疎かにしていた。
考えが甘いとかそんな次元じゃない。水に浸かったことのない赤ん坊が突然大海原に放り込まれたようなものだ。
剣を持ったままガタガタ震えている俺にベルきゅんが喝を入れる。
「………?イツキさん!どうしたんですか!早くこちらに加勢して…」
そう言いかけたベルきゅんは俺の尋常じゃない様子を見て―――察してしまった。
「……っ!?イツキさんもしかして……!?」
ああ、その通りだよ。
初戦闘。
文字通り初だ!
生まれて初めてだ!クソッタレ!
こんなことなら剣の練習をすべきだった。
高いステータスに胡座をかいて楽観視していた。
俺は馬鹿野郎だ。大バカ者だ。
ベルきゅんは俺を庇うように立ち回る。
一対三という不利な状況ながら懸命にゴブリンの振るう棍棒を受け流し腹に一発蹴りを入れる。
ゴブリンの一体が吹き飛ばされたがすかさず残りの二体が両翼から襲い掛かってくる。二体同時に攻撃したことで対処が遅れる。ゴブリンが振り下ろした棍棒を剣で受け止めるが、対処が出来ていないもう一体のゴブリンの横薙ぎの攻撃を脇腹に食らってしまった。
「……ガハッ!」
ベルきゅんが横へと吹き飛ばされる。
(ゴブリンってこんな強いのかよ!)
小柄な体格からは想像も出来ない怪力に俺はベルきゅんがやられるのをただ見ることしか出来なかった。
「こ……こんなのあんまりだ…」
倒れたベルきゅんに馬なりになるゴブリン。
よく見ると腰巻の中央が膨らんでいる。
『ゴブリンは多種族と交配出来る。』
昔読んだ小説での情報が脳裏に浮かんだ。
……プッツン。
がああああああああああああああああああああ!!
ベルきゅんが殺される!犯される!殺される犯される殺される犯される殺される犯される殺される犯されるコロサレルオカサレル!!
助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける……助けろ!!
無我夢中
本能が
魂に
遺伝子に
刻まれていた
暴力が
俺を修羅へと変えた。
―――レベルが上がりました。
―――各ステータス上昇確認。
―――称号【惨殺する者】を獲得。
気がついたら俺はベルきゅんの側で血だらけでうずくまっていた。
後から駆けつけたアーデントの話では両目を抉られ生殖器が引きちぎられ数十カ所の刺し傷があるゴブリンの死体が一体横たわっていたらしい。
―――残りの二体は逃げ出したのか見当たらなかった。
シャロップシャーは急いでベルきゅんのもとへと駆け寄ると治癒魔法で傷を癒していく。
―――俺は返り血を浴びはしたが無傷だった。
◇ ◇ ◇
街道沿いに野営が出来る場所があるとのことで、俺たちは火を組み休むことにした。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
俺は未だ起きないベルきゅんの手を掴み懺悔するように何度も何度も謝った。
「イツキ様……ベル様は命に別状はありません。どうか安心して下さい。」
シャロップシャーは俺の背中に手を添えると穏やかな口調で慰めた。
「………俺のせいだ。」
旅に出る前に戦ったことが無い事実を話しとくべきだった。
しっかり赤羽鳥の乗り方を学ぶべきだった。
ベルきゅんが襲われる前にいち早く駆けつけるべきだった。
俺は守ると誓ったのに………俺は…オレは…
自分に対する情けなさとベルきゅんに対する申し訳なさで涙が止めどなく溢れ出てくる。
「……イツキ。……立て。」
後ろにいたアーデントが俺の腕を掴むと無理矢理立ち上がらせる。
そして顔面を全力で殴られた。
「……ガッハ」
―――殴られて当然だ。俺はむざむざ仲間を見殺しにしようとしたんだ。
意識が薄れ、倒れかけたその時だった。
殴った本人が俺に抱きついてきたのだ。
「……これであいこだ!……いいな!もう責めるな!……もう自分を傷つけるな!」
痛いくらいにキツく抱きしめられた俺は顔の向こう側で少女が微かに泣いているのを感じた。
「……よく頑張った。……よくベルを守ってくれた。……ありがとう。」
アーデントが感謝する。俺にそんな資格は無いのに彼女は心の底から褒めてくれた。
「………私達も悪い…ちゃんとイツキの話聞くべきだった…」
フィジーが言った。彼女なりのフォローなのだろう。
「過程はどうあれ、イツキ様はゴブリンを倒しベル様を助けてくれました。そこは誇って下さい。」
シャロップシャーが微笑む。
過程はどうあれゴブリンは死に二人は生き残った。ベルきゅんは治癒魔法で完治できる。―――初戦闘はイツキ様の勝ちだと。
俺はもう一度ベルきゅんの方を向いた。治癒魔法のお陰で傷一つ無い何時もの綺麗なベルきゅんがいた。
もう後悔するのはよそう。
後悔するような事はしないと誓おう。
仲間を守る為の力を、技術を何が何でもつけるんだ。
この日の贖罪を決意に変えて―――未だ抱きついて離さない少女の頭を撫でる。
初戦闘でした。戦闘描写は.......ナオキです。
全体的にシリアスな話でしたが、ゴブリンもベルきゅんに欲情するなんてたまげたなぁ.........
毎日0:00と20:00に投稿予定です。
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