ここにいる
私の名前は木下美里
今年から福岡県のとある大学に通っている大学1年生
初めての一人暮らしは不安があったものの特に大きな問題はなく生活していた。
7月も後半に入りもうすぐ夏休みということで内心ワクワクしている
その前にテストがあるのでそれを乗り越えなきゃいけないけれど……
テスト前最後の授業で教授が試験範囲やら内容の説明をしているのでメモをとり午前の講義が終わった
「みさとー、ご飯行こ~」
「お腹すいた~」
「うん私もお腹すいた~お腹いっぱい食べたい気分」
話しかけてきたのは同じ学科の友達 ゆずちゃんとあいなちゃん 入学式の時にたまたま話してそのまま仲良くなったので今もよくこうやって一緒に行動している。
食堂でそれぞれ好きなものを取って3人で席に着く
あいな「みさとそんなに食べるの?」
「だってお腹すいたんだもん」
ゆず「太ってもしらないよー」
夜ご飯は気を使ってるしたまにはたくさん食べてもいいよね
そんな他愛ない話をしている中突然ゆずちゃんが話題を変える
ゆず「そうそう!昨日サークルの先輩に聞いたんだけど、2年前にこの辺で殺人事件があったんだって」
「え?そうなんだ、知らなかった」
ゆず「ニュースにはなったけどあんまり騒がれなかったからこの辺に住んでる人以外は知らないかも~って言ってた」
あいな「こわ~い、でも犯人捕まってるんでしょ?」
ゆず「うん、犯人はすぐ捕まったみたいだよ。この大学の学生だった人らしい」
「うちの大学にもそういう人いたんだ~」
ゆず「それでね、その殺された人もこの大学の学生で1年生の女の子だったみたなの」
あいな「へぇ~あたしらと同じ歳で殺されちゃうなんて可哀想だね……」
「なんでその子は殺されちゃったの?」
ゆず「私も聴いたけどさすがにそこまでは知らないって」
「そりゃそうだよね」
なんか空気が暗くなったけどそこであいなが話題を変えたのでその話はそこで終わった。
でも私はその話が何故かずっと気になっていた……
今日の講義が終わって2人とも別れて家に帰る
テストもまだ1週間先で時間にも余裕があったので今日ゆずから聞いた話をパソコンで調べてみることにした。
2016年 ○○市 殺人事件 検索
「あ、出てきた」
そこには確かにこの辺りで2年前殺人事件が起きたことが書かれていた。
2016年7月28日殺人事件が起こったことは分かった
しかし事件があった建物や詳しい住所などはさすがに出てこない
普通にニュースのサイトを見ても当り障りのない情報しか書いていないのでさらに深くまで調べてみる
どうしてここまで私を突き動かすのかは分からない。
当時の掲示板などをあさってもあまり話題になってないせいかほとんど情報が出てこない。
しばらく無心でスクロールしていると1つだけそれらしきものが目に入る、ちょうど探している事件についての書き込みだった。
当時少しだけニュースにも出ていたらしくその時のテレビ画面の画像が貼られている
被害者の女性の顔と名前が公開されていたようだ
6:名無し:2016/7/29/18:11/ID:OkS1T1
>>1
被害者の子可愛くね?
殺すくらいならヤりたい
11:名無し:2016/7/29/18:20/ID:MfKSD64
>>6
はい不謹慎
1:名無し:2016/7/29/18:23/ID:IoME56s
これって事故物件確定だよね
25:名無し:2016/7/29/18:29/ID:S42TknI
>>1
半額くらいにはなるだろうな
8:名無し:2016/7/29/18:36/ID:AMToKL3
>>25
>>1
事故物件って言ってもどうせ何もないし、安いならありじゃね?
36:名無し:2016/7/29/18:39/ID:T4CAj8h
>>8
さすがにキツい
18:名無し:2016/7/29/18:45/ID:OFc5d7Q
>>36
ワイちょうど家探してたから住むわ
何故か書き込みはここで終わっていた。
最後の人がほんとに住んだのか冗談なのかは知らないがそれよりもある単語が脳裏に焼き付いていた
事故物件
私も聞いたことはあった
殺人事件や自殺などで死体が見つかった部屋は事故物件として不動産屋に扱われて賃貸の費用が格段に安くなる。
私がこの部屋に住むときにはもちろん不動産屋に行ったけどそんな事故物件は聞かなかったし、明らかに安いような物件も見当たらなかったと思う。
これ以上の情報は得られそうになかったので今日のところは止めにして寝よう
目を閉じてもさっき調べたことが頭の中でぐるぐると回っていてなかなか寝付けなかったが、しばらくすると眠気が来ていつの間にか意識が落ちていた
翌朝いつも通り目を覚まして大学へ向かう
講義室に入ってもまだ人がちらほらいるだけでゆずたちもまだいないようだったので、席についてスマホを見る
昨日調べていた事を思い出す。
事故物件
またそのワードを意識してしまい気づけば検索していた。
全国の事故物件を紹介するサイトを見つけた
こんなのあったんだ……
開いて見ようとする
「おはよー」
ッ!
びくっとして反射的にスマホの画面を切る
横を見るとゆずとあいなが一緒にいた
「あ、おはよー」
ゆず「どしたの? びっくりしすぎでしょ笑」
あいな「なんか見てたでしょ、なになに?彼氏でも出来た?笑」
びっくりしたことをからかってくる2人
「別に何でもないって~」
ゆず「でもさっきすっごく真剣になにか見てたじゃん!教えてよ~」
あいな「真面目な悩みでもちゃんと相談に乗るから言ってみなって」
「そういうんじゃないけど……」
2人に迫られて口を開いた
「昨日さ、殺人事件があったって話したじゃん」
ゆず「あぁ、したね」
「それが気になって色々調べてたんだよね、さっきも」
あいな「何か分かったの?」
「被害者の顔と名前は分かった」
ゆず「え、まじ? 見せて見せて」
「ん、これ」
昨日の夜家で見つけた画像を2人に見せる
ゆず「ほんとだ2年前になってる」
あいな「結構綺麗な子だね~もったいない」
「もったいないって何よ」
あいな「せっかくいい顔持ってるのにもったいないじゃん」
ゆず「それはそうとみさとは何でそんなの調べてたの?」
「なんか分からないけど気になっちゃって……もうちょっと調べてみようかなって思ってる」
ゆず「え、面白そう!私も一緒にいい!?」
「え?ゆずも?私は別に構わないけど……一人だと心細いし……」
ゆず「じゃあ早速今日調べようよ!今日は講義午前終わりだしちょうどいいじゃん」
あいな「ゆずの行動力さすがだな。あたしは午後からバイト入れてるからパス」
ゆず「えぇ~でも仕方ないか、みさとバイトは?」
「私は今日遅番だから夜まで大丈夫だよ」
ゆず「よし決まりだね」
そんなこんなでなし崩し的に今日のスケジュールが決まった。
午前の授業はあまり頭に入らず気付いたら終わってた
いつも通り食堂で3人済ませるとあいなと別れた。
ゆずと2人になって声をかける
「ねぇ、調べるって具体的に何するの?」
ゆず「ん~どうしよっか?」
「考えなしなの...?」
ゆず「えへへ...とりあえずさ、昨日調べたのもっと詳しく教えてよ」
ニュース放送時の画像や事故物件についてゆずに話した
ゆず「へぇ~事故物件ね……私も不動産屋で部屋探すときいろいろ見たけどそれっぽいの無かった気がするなぁ」
「だよねぇ」
ゆず「そうだ!直接不動産屋に行って聞いてみようよ」
「ゆずのその行動力どこからくるのよ……」
ゆずに振り回されっぱなしだけどゆずがいなきゃ逆にここまで動けないと思うと意外と助かってるのかもしれない。
「私が契約してるのはここの不動産屋だよ」
ゆず「あ、私のとことは違うんだね」
「そっか」
とりあえず、ゆずを先頭に不動産屋に入る
ゆずがいろいろ聞いてくれているが結局めぼしい返答は得られず
"現在報告義務のある物件は取り扱っていない"
要するにそんなものはないということだろう
ゆずが契約してる不動産屋にも行ったが得られる返答はほぼ同じようなものだった。
何かひっかかるものがあった
ほんとうにないのかな?
必死に隠しているようにも見えなくはない。
いや、ただ考え過ぎなだけだろう
ゆず「もうちょっと親切に教えてくれてもいいのにね」
「まぁ仕方ないよ、もしほんとだとしてもお店の損にしかならないだろうしね」
ゆず「なんかもう疲れちゃった、帰ろかな」
「うん、私も夜からバイトだから早めにご飯食べたり準備したりするから帰るよ」
ゆず「そんじゃまたね~」
笑顔で手を振って別れた
とりあえず帰ってごはん食べてバイトに行かなきゃいけない。
帰宅してごはんの用意をしながら今日のことを思い出していた
「(現在報告義務のある物件は取り扱ってない)か……」
準備が出来たのでテーブルに配膳して食べ始める
一人での食事もだいぶ慣れてきた。
実家にいると食事中にスマホを触っているとお父さんに怒られるけど一人暮らしだと何も言われないので満足している。
ゆっくりしたかったけどバイトの時間まであまり余裕がなかったので食べることに集中していた
気になることはいくつかあったけど急ぐ必要はないし帰ってから調べることにする。
簡単に着替えなどを済ませて部屋の鍵を手に取り、電気を消して玄関へ向かう。
冷房などの切り忘れがないか玄関から部屋を見る。
ちなみに部屋の間取りとしては
玄関から廊下(横にキッチン、風呂、トイレ)を通って、扉を開くと1Rの部屋がある。
つまり今は部屋の電気を消して廊下の電気を付けて玄関にいるので、私のところからは電気の消えた暗い部屋が見えている。
ただ廊下の電気に照らされて部屋の中も一応物が見えるくらいにはなっていた
ここから見るとエアコンやその他電気が付いているかどうかが一目瞭然なのだ
ちゃんと切れていることが確認出来たので廊下の電気も消してそのまま出かけようとする
廊下の電気を消した瞬間
奥に見える暗い部屋の中で何かが動いたように見えた
ただし電気を消したので今は真っ暗で何も見えない。
何が見えたのか気になってもう一度電気を付ける
数回点滅してからパッと明るくつく
奥を見てももちろん何もない
ちゃんと見てたわけじゃないし光の当たり方の関係だろう
それ以上特に疑問に思うことなくバイト先に向かった。
週末だけど夜なのでお客さんも少なく、これといった問題なく業務を続けた
30分の休憩時間になったのでバックヤードに戻りスマホで検索する
事故物件の意味を調べてみた
前入居者が死亡した物件またはその他心理的瑕疵に該当するもの
殺人だけではなく孤独死や災害による死亡もそれに含まれるようだ。
ここで1つ気になるものを見つけた
事故物件ができた場合不動産屋は次の入居者にその旨を報告する義務がある。
しかしさらにその次の入居者には報告義務がなくなる
「2人目だともう分からないってこと……?」
そこで休憩時間が終わりバイトに戻った。
深夜1時までなので帰りは2時頃になる
深夜の暇な時間を終えて独り帰路に着く
家に着いた頃には出かけ時の違和感はもう忘れていた
明日(というか日付が変わってるから今日?)は大学もバイトもないのですぐに寝ることはなく、さっきの続きを調べる。
昨日の朝調べようとしてまだ調べてなかった事故物件の紹介サイト
地図上の事故物件該当場所にマークがついていて、押すと詳細が表示されるシステムみたいだ
恐怖心よりも好奇心が上回り今住んでいる付近を検索する。
近くの駅前だったり学校だったりちらほらと事故物件があるのが分かる。
「意外とあるんだね……」
ゆっくりスクロールして見ていくと私が住んでいる辺りで1つマークが付いていた。
もしかしてこれかなと思いズームして詳細を確認しようとする
ッ!
ここってこのマンション…………
どくんどくん
心臓の鼓動が早くなり静まり返った部屋にその音が聞こえるかと思うほどだ
ほんとにこの建物なの……
さらに詳細を見る
この行動は後にひどく後悔することとなった
"若い女性の殺人事件あり 301号室"
え……
301号室?
こんなことって……
私の部屋がまさに301号室だった
そこで今まで調べたことを思い出す
"現在"報告義務のある物件は取り扱っていない
"2人目以降"には報告義務がない
不動産屋の人が何か隠しているような違和感はこれだったのか
私が初めて住んだ部屋は事故物件だった
2年前この部屋で女性が殺された
そんな部屋に今まで知らずに住んでいたという事実を信じたくない
ただ怖かった
好奇心はすっかり消え去り恐怖心だけがわたしの心を埋め尽くしている
ガチャン
ッ!
扉を開く音が聞こえたけどどうやら隣の部屋の人が帰ってきただけのようだ
少し安堵するも不安がなくなる訳ではない
夜遅くて申し訳ないと思ったけどそんなの気にしてる状態ではなかったのでゆずに電話をかけてみた
呼び出し音が何度かなる
お願い出て!お願い!
もしもし~?
あ、ゆず起きてたよかった!
「もしもし夜遅くにごめんね」
ゆず「まだ起きてたしそれは構わないんだけど、どうしたの?声震えてるよ」
「うん、実はね・・・」
調べた経緯を話した
ゆず「なるほどね~、まぁ気にしないのが一番だと思うよ。今日は寝て明日一緒に遊んで忘れようよ」
「うん、分かったありがとう。起きたら連絡するね」
電話が切れると一気に静寂に包まれる
ゆずと話していたときの安心感は一人になった途端不安に蝕まれはじめた
恐くなる前にさっさと寝てしまおう
リモコンを手に取って電気を消す
っ!
電気が消えて真っ暗になった
しかし消える瞬間部屋の隅に何かがいた気がする
どうしよう
電気をつけて確認したいけどどうしても怖い
でもそのままにしておくのもさらに怖かった
おそるおそる電気をつける
何度か点滅するそれだけでもう体がびくびく震えてしまっていた
電気がついた
さっきと何も変わらない
やっぱり見間違いなのかな……
もう一度電気を消す
何かが見えることはなかった
不安を拭うために好きな曲をかけたまま寝ることにした。
聞いているうちにしだいに眠くなり気づけば眠りに落ちていた
翌朝明るくなると夜の不安は嘘のように消え去り、ゆずに連絡した
いろいろ心配されながらも一緒に外で楽しんだ
一緒にご飯食べたり買い物行ったり
お金は結構使っちゃったけど最近の不安を忘れるためなのでそのくらいいっかと思えた
たくさん遊んですごくいい気分で家に帰りついた
今日はバイトもないし明日は日曜なのでゆっくりしようと思う
あいなに借りた漫画まだ読んでなかったからそれでも読もうかな
漫画を読んだり合間に友達とLINEで話したりしてるといつの間にか日付が変わっていた
まだちょっと早いけど眠くなったし寝ようかなぁ
昼間の疲れもあったのだろう、大きくあくびをして寝る準備をする
いつものようにリモコンを手に取って消灯した
ッ!なに!
昨日と同じ場所、部屋の隅、電気が消える瞬間に何かがいた!
気のせいではない、昨日まではたしかに気のせいだと思えるほどだったが今はたしかに見えた、人だ
急いで電気をつけるが何も見あたらない
7月も終わりに近づき本格的に夏になってきたというのにスーッと血の気が引いて寒気がする
すっかり眠気は吹き飛んでいた
このままでは埒が明かない、思い切ってもう一度電気を消してみよう。
大丈夫、何かあったら連絡してってゆずは言ってくれてたし
電気を消す前に非常用の懐中電灯を手に取る
先に懐中電灯をつけてからリモコンでへやを消灯した
パッと電気が消えて懐中電灯の明かりだけが前の壁を照らしている
でも古いものなのかあまり明るさはなくてむしろ薄暗いと感じるものだった
何もいないよね?
ず~っといやな雰囲気がしている
寒気もする
数日前から何かいるような違和感
さっき一瞬見えた人影のようなもの
何かがいるのは間違いない
それもただの人間とは思えなかった
勇気を振り絞って懐中電灯で部屋の中を照らす
いつもの部屋だけど真っ暗の中、懐中電灯だけで見ると違う部屋に感じる
あれ?この部屋のタンスそんなとこにないはずなのに……
私の部屋のタンスは入口横に置いてあるのでそんなところにあるはずがない
何かおかしい
気になったのでさらに壁を懐中電灯で照らしていく
そこには何枚かの写真が飾られているのが見える
もちろん私は写真など飾っていない
そこで私は確信した
ここは私の部屋じゃない
部屋の大きさや形は同じだけど明らかに置いてあるものが別のものだ
私は写真に吸い寄せられるように近付く
写真の前に立って見にくい懐中電灯を照らしてよく見てみた
ヒッ!!!
声を上げてしまいそうになり、ぞわっと全身に鳥肌がたつ感覚になる
そこにあった写真、男女のカップルが仲良さそうに撮ったものだった
その女の顔を知っていた
それは2年前殺されたはずのあの女だった
びっくりして後ずさる
この部屋は殺されたあの女の部屋だ
"若い女性の殺人事件あり 301号室"
以前調べた事故物件サイトが脳裏をよぎる
あまりにも怖くて何も考えれない
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
何も考えずに振り返ってベッドを見た。見てしまった。
ぅッ~~~!!!!
ベッドには血まみれで横たわる女性の姿が
顔を見るとやっぱりあの女だ
その時その女の目が突然開いて首がこちらへ向いたと思うと、その女が口を開いた
「ぉはょぅ」
ッ~~~!!いやぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!
窓から朝日が入り込み部屋を明るく照らしていた
目を覚ますと部屋の真ん中で床に寝ていた
どうやらあの時そのまま気絶していたようだ
両親に相談してすぐに違うマンションに引っ越した
引っ越す際に管理人の人から謝罪と共に事件の話を少し聞かせてもらった
2年前この部屋に住んでいた女性が殺された原因は恋愛のもつれだったらしい
殺すほどだから男側もよっぽど追い詰められていたのだろうか、さすがにそこまではもう分からない。
この女性は眠っている間にベッドの上でナイフでメッタ刺しにされていたらしい
今思うとあの日は7月28日、その亡くなった女性の命日だった
殺されたことにもまだ気付いてないのかもしれない
だからあの子にとってはいつも通り目を覚ましたつもりだったのかもしれませんね
登場する人物や場所、事件などはすべてフィクションです。
これから部屋を探す人もしくは今住んでいる人も、部屋を選ぶ時には気をつけた方がいいかもしれませんね