~桃太郎~
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがある集落に住んでおりました。
おじいさんは村の若い衆たちと山にしばかりに、おばあさんは女どもと小さな子どもを伴って川へ洗濯へといきました。
「あ!なんか流れれてくる!」
すると、どういうことでしょう、近くで女どもの邪魔をしないように遊んでいた子どもの1人がそう声を上げたのです。すると女どもはその声の主が指さしたほうを眺めるわけです。
おばあさんたちが川で洗濯をしながら眺めていると、どんぶらこ、どんぶらこと、とてもそれはそれは大きな桃が流れてきました。
当然、滅多に食べられない美味しい果実を、しかも村全員で分け合えるほどの大きさときたものです。
女どもの目の色が代わり、獲物を狙う獣のような目であったとこの時近くで河で石投げをしていた子どもは思ったそうです。
「あんな大きな物受け止めちまったら、ケガするよ、誰か丈夫な縄持ってないかい!?」
おばあさんがそう声を上げると、女の1人が最近新しくしたという縄を差し出して、こう言いました。
「あたしの分は少し分け前多くしてね」と
「生意気言ってんじゃないよ、まずは取ってからだよ」
そう生意気そうに笑ってる頭をぽんっと叩くと、女衆で協力し、大きな桃に縄を括り付け、岸へと引きずりました。
「あぁ、今日は男衆にいいお土産ができたねぇ」
おばあさんたちはこの大きな状態で持って行って男衆に自慢してやろうと、協力して村へ持ち帰りました。
しばかりから帰ってきた男たちは「おぉ!!」「すげぇ!!」「桃だ!!」と皆一様に歓喜の声をあげます。
村で一番の高齢であったおばあさんが代表して、桃を切ってみると、なんということでしょう、桃の中から元気のいい男の赤ちゃんが出てきたではありませんか。
「これは化け物の類じゃ!!」
「いいや、これは神様の子じゃ!!」
とおじいさんとおばあさん側と村での意見が真っ二つに割れました。
幸いにもおじいさんとおばあさんの子どもたちはもうすでに成人しており、小さい赤ん坊1人くらい増えたところで大丈夫な生活をしていました。
おじいさんとおばあさんは、この桃から生まれた男の子を桃太郎と名付けました。
桃太郎はすくすく健康に育ちました・・・・ですが、赤ん坊、なにより食事がなかったのです。
おばあさんは代わりに村で嫁をやっている娘のところに行って
「乳を分けてくれんか?」
と頼み込みました。
娘は別に化け物でも、神の子でも母さんと父さんが引き取った自分の弟なんだからとおばあさんに協力することにしました。
ですが、おばあさんとおじいさんを見る村の者の目は明らかに昔と変わっており、娘にあまり負担をかけたくないという思いから、あまり人の出歩かない闇夜などに紛れ、娘の家に行くことにしました。
「化け物を匿っているお前らも化け物であろう!村から出てけ!!」
そう時がたつにつれ、村の心ない若者の声が大きくなっていきました。
ですが、乳飲み子であった桃太郎がいたので日々耐え、耐え続けて、ですが、その声は止みません。その声がおばあさんたちが反応しないので、次に攻め立てたのはおばあさんの娘です。
「化け物を匿っている者の娘だ!こいつもきっと化け物に違いないと」
おばあさんとおじいさんもこれには手を出して、しまいそうになりましたですが、娘が「私は大丈夫、ね?桃太郎もこんなにすくすく成長してるんだからね、こんな大人しい子が化け物なわけないじゃない」と笑顔でおばあさんとおじいさんを止めました。
そうして、桃太郎は成長していき、ようやく乳離れをしました・・・・すると、さすがにもう耐えられなかったんでしょうか・・・
おじいさんはその声の中心であった村長の息子を殴り飛ばしました。
「げほっ、このクソ爺!!」
そうして、無駄口を言い、倒れたままでいるその村長の息子に馬乗りになり、無表情で顔面を殴り続けます。
「おい!てめぇ!」
その取り巻きの1人である若者がおじいさんに鍬を振り上げようとしていると
「おじいさんばっかりに気を取られてていいのかねぇ」
後ろからおばあさんの声がしました、そう振り向いた瞬間。
取り巻きの服の襟を掴んで、投げ飛ばされました。
ある若者は、なぜある程度歳を取っている人たちはあの赤ん坊のことを化け物とは呼んではいても、何か行動を起こすわけでもなく自分たちの行動を眺めていたり、遠巻きにそれ以上やるな!と声をかけていたわけなのかを、彼らは腑抜けや腰抜けの類だと思っていた。だけど、この光景を見れば明らかだ・・・僕たちは何か手を出してはいけないものに手を出してしまったんだと・・・そう思う俺の意識はおばあさんのしわくちゃな手を眼前にとらえ、意識は暗闇へと落ちた。
「ふぅ、すっきりしたわい」
おじいさんが起き上がると、顔面を酷く腫らしてはいるが、生きている村長の息子の姿があった。
「もうおじいさんったら、ちゃんと全員動けなくしてからじっくりとやらなきゃいけないでしょ」
「ははは、大丈夫じゃよ、なんたってわしの後ろには、ばあさんがいるからのぉ」
そう若者たちが全員地面と接吻をしている間、おじいさんとおばあさんは爽やかな笑顔で微笑んでいました。
遠くではおばあさんから預けられている桃太郎と一緒に遠巻きに見ていた娘は「あぁ・・・もう我慢できなかっただね、でも、仕方ないよね」と小さくつぶやいていました。
遠巻きに他の村の者たちも見ていましたが、中年にさしかかろうとしているその若者の父や母は青い顔をしながら、自分も巻き添えになりたくないからか、手早く仕事を済ませ、おじいさんとおばあさんに直接歯向かっていない子どもを連れて、家へと足早に帰りました。
この日の夜は一晩中若者の悲鳴とおじいさんの不気味な笑い声と、おばあさんの叱責が聞こえ続けたといいます。
そうして、限りなく聖人に近い顔になったおじいさんとおばあさんは娘には自分たちがこれから引っ越すであろう場所を伝え、青い顔をしている村長に村から出ていくことを告げて、おじいさんとおばあさん、桃太郎の3人でこの村から旅立ったのだ。
「あぁ・・・陰険爺と暴力婆がいなくなって、やっと私達は解放されたんだと」
村で何かしらおばあさんとおじいさんに悪さをしていた人たちは涙ながらにこの日は仕事をしに行ったという。
そうして桃太郎は大きなくなって、12の時でした。
「うわぁぁぁぁぁ、もうこの暴力婆の修行やだ!!!」
とおばあさんの前から逃げ出そうとします、しかし、おばあさんからは逃げ出せない。
「まだあたしは若くてピチピチなお母さんと呼べと言ってるだろうが!!!」
と桃太郎は投げ飛ばされ、土へと叩きつけられます、ですが、桃太郎8歳の頃から周りに遊ぶ友達もいないからとこの修行を始めさせられ、この程度のことなら自分で受け身をとれます。
「ぼ、僕は!」
そう言いながら桃太郎は体勢を整えようとしますが、そこに後ろから軽く枯れ枝などを拾いに行って帰ってきていたおじいさんから足払いを仕掛けられ、無様に転び、その隙をおばあさんが見逃すはずもなく、おばあさんからアイアンクローを仕掛けられます。
「若くてピチピチで美人なお母さん、さぁ、復唱」
「あぁぁぁぁ!!!痛い!痛い!!痛い!!!言います言いますから!」
そう桃太郎はおばあさんの手の中で暴れますが、一向におばあさんは桃太郎の頭を離しません。
「若くてピチピチで美人で優しいお母さんです!!!」
そう大声で言うと、やっとのことでおばあさんからの拘束が解けた・・・だが、頭の痛みが消えるわけでもなく、桃太郎は地面で転げ回っていた。
「あら、おじいさんおかえりなさい」
「ばあさんただいま、桃太郎もただいまじゃな、よう頑張って偉いなぁ」
そう言いながら荷物を下ろし、家へと入っていった。
「さて、桃太郎、ちゃんと土払ってから来るんだよ」
とおばあさんはそう声をかけて、家の中に入り、昼飯の準備をはじめに向かった。
「はぁ・・・なんかこの修行から抜け出せる、いい方法が・・・ないかな」
そう思いながらも、昼飯の準備の間はおじいさんから文字を教えてもらうことになっているので、手早く土を払い、家の中へ入っていった。
月日は流れ・・・ある日、桃太郎が言いました。
「俺・・・知ってしまったんです、遠くの村が鬼という魔物に襲われたということを、俺はその鬼が住むといわれる鬼ヶ島へと行き、悪い鬼を退治しに行こうと思います」
「・・・・そうかい」
おばあさんはそう箸を置き、一言告げてから、おじいさんに目配らせをすると、2人一斉に桃太郎へと仕掛けます。
おばあさんは正面から殴りに、おじいさんは箸を桃太郎の顔面に投げた後はいったん距離を置いて、部屋に備え付けてある木刀を取りに向かいました。
さすがの桃太郎も正面切って2人と戦えば自分がボコボコにされ、まだそんな傲慢な考えは甘いといわれるということが目に見えています。最近は村に買い出しにいくことも許され、その村での噂話をおばあさんとおじいさんに話しているわけですから・・・ここで負けたら俺の毎日の修業がまた増え、買い出しにまた行けるようになるころにはその鬼は倒されているかもしれない。そう、ここが俺が外へと旅に出る唯一の機会!ここを逃してなるものかと・・・桃太郎は今日の日のために念入りに準備をしていたのです。
おじいさんが木刀を構え、今俺と殴り合っているおばあさんと入れ替わり、鋭い一撃を俺の足に狙いをさだめ振ってきます。いつもの木刀なら避けなければ、移動のかなめである足を封じられ、そこにおばあさんの素早い動きで翻弄され、負けるのでしょうが、今日は違う!!
全身全霊の足の蹴りをおじいさんに放ちます。
おじいさんはその行動を見て、防御の姿勢になり、だが、その目は鋭くこの一撃が足りなければ、鋭い反撃が待っているでしょう!だが!!
その木刀は折れ、おじいさんは俺の一撃をまともに受け、タンスのところへと吹き飛ばされます。
その一撃におばあさんは驚きますが、さすがおばあさん、不自然に折れている木刀を見て、全てを察したのか、怖い笑みを浮かべながら攻撃してきます。
「若くてピチピチで美人で優しい凄いお母さん!」
自分でもこんな猫なで声が気持ち悪いと、おばあさんにこんな穢れのない上目遣いで笑顔を向けるということが普段の修業のせいかありません・・・だが、この時のための布石!ではなく、ただ買い出しの時に村の人に向ける全力の愛想笑いをしていたという理由でうまくなっていた・・・本当に自分で思うのもなんだけど、この数年で作り笑いはうまくなったと思う!
その笑顔と声におばあさんは一瞬騙されてか、唖然としてかは分からないが力が緩んだ、その一瞬が俺がおばあさんに絶対に勝てる技を放てる!
おばあさんに体当たりをして、小柄なおばあさんを押さえこむ。
さすがのおばあさんも歳で筋力は衰え・・・てはいないが、日々おばあさんと修行していた桃太郎の筋肉はおばあさんよりも強くなっていた・・・そうして、タンスのところに吹き飛ばされたおじいさんを見ますが、いまだに目覚める気配もなく、仕方なく両手をあげました。
「あたしたちの負けだよ、桃太郎」
「ここで隙ありって言ってまた殴りかかってこない?」
「はいはい、これじゃ騙し討ちはしませんよ、桃太郎、早くどきなさい」
その言葉を桃太郎は信じて、おばあさんを解放した、そしておばあさんは服の埃を払い、おじいさんのもとへと駆け寄り、平手打ちをした。
「いたっ!なんじゃ敵か・・・なんじゃ、ばあさんか?はて、なぜわしはここで寝ていたんじゃったか」
「もうおじいさんったら、桃太郎の旅の試験ですよ」
「あぁ、そうじゃったそうじゃった、桃太郎が落ち込んでないところを見るとばあさんに勝ったか」
「あたしももうちょっと若ければねぇ・・・」
そう2人は倒されたことを嬉しそうに話し合っている。
「じゃあ、俺はこれから旅に・・・」
「待ちなさい、旅に出ることは許しますけど、もうこんな暗いんだから、明日の朝出発しなさいな」
そうおばあさんに言われ、明日俺は鬼ヶ島への旅を始めることにした。
家畜の鶏の鳴き声で朝起きるといつも通りの包丁の切る音、湯が沸く音、薪が燃える音などがし、居間へ入るとおじいさんが座って茶を飲んでいた。
少し旅に出る後ろめたさもあって、静かに座り、おばあさんが作る朝食を食べずに出ていこうかと思ったが、外に出るには必ず調理場を通る必要があり、おばあさんに拳骨を貰うのは嫌だから大人しく待っていた。
いつも通りな朝ご飯「いただきます」「ごちそうさまでした」そして旅装束に着替え、家から出ていこうとしていくとき、玄関の前で待ち構えるおじいさんとおばあさんがいた。
「そんな身構えなくていいよ、もうあたしらは止めないよ」
「そうじゃぞ、桃太郎、一度やった勝負の結果じゃ、敗者はただ受け入れるのみじゃ」
そう言いながら、おじいさんは桃太郎に刀を渡してきた。
「この先何も持たずに行くというのも侮られるからのぉ、わしが昔使っていた古い刀じゃ、きちんと手入れはしておるからな、安心して使えるはずじゃ」
「さて、あたしからはこれだね」
そうおばあさんは言いながら、僅かばかりのお金とおばあさん特製のきび団子と歩きながらでも食べれるおにぎりを渡してくれました。
「でっかい男になってくるんだよ」
と強く背中を押してくれました、だけど、その手の勢いは、いつもよりはとてもやさしく、暖かなものでした。
「お父さん、お母さん行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
そう桃太郎は2人に別れを告げ、鬼を討つための旅に出ました。
道中で食べたおにぎりは、なぜだか、いつもより不格好な形だったけど、それはなぜだか、いつもより美味しく感じた。
桃太郎は進む、鬼ヶ島を目指し、だが、それだけで生きていけるほどに人生は甘くなく、お金がなければ明日の食事も、宿も、刀の手入れをする道具も様々なものが入用になる。
桃太郎はおばあさんやおじいさんに鍛えられていたので腕っぷしには自信があり、道中の盗賊や魔物などを退治し、御役所に行き、それを換金しながら鬼ヶ島へと向かっていた。
さてさて、道中、珍しいことに犬の獣人が倒れていた・・・さすがに道のど真ん中に倒れているなどは怪しいと思い、周りを警戒しながら伏兵などがいないかと様子を伺いつつも、刀の鞘で軽くその獣人を叩いてみる。
「うぅ・・・お腹が減った・・・」
すると、弱弱しく返事があり、桃太郎は持っていたおばあさん特製の日持ちのするきび団子を分けてあげた。
「・・・足りない」
そういう犬の獣人の目は桃太郎が持っているきび団子を入れていた袋を怪しく見つめていた。
「これは腹持ちがする特製のだ、そう非常食を易々と渡せるものかと」
桃太郎はそのきび団子の入っている袋を懐に入れると、道を進みだした。
「え?!なんでこんなか弱い女の子が物欲しそうに見てるんだよ!もう少し分けてくれたっていいんじゃない!」
そう図々しくついてくる犬の獣人に言いました。
「うるさい!か弱い女がこんなところで1人で倒れてるわけないだろう!それにお前これは非常食だといっただろう!」
「お前じゃない!私の名前は菊!」
「で!?なんだ!?ついてくんな!」
「私もこっちの方向に用があるの!!」
だが、桃太郎は倒れていた方角的にこっちに向かっているとは思えませんでした、一応盗賊の手先である可能性も考えて周囲の木々の影などを警戒しながら進んでいきます。
そうして、2人で押し問答をしながら、どんどんと進み、道中で食べれそうな獣などを石や刀などを使い狩り、それを焼いていたら・・・・菊が凄く物欲しそうな目で肉を見つめているのです。
「はぁ・・・そんなよだれを出しながら肉を見つめるな、食べにくい」
「そ、そんなことないし」
そんなことを言う菊でしたが、「ぐぅぅぅ」と桃太郎の隣でお腹が酷く大きな音で鳴りました。
「はぁ・・・食え」
「いいの!?」
その音に呆れた桃太郎は肉を半分ほどお菊に渡しました。そして、菊はとても美味しそうにそのお肉を食べつくし、最後には骨をかじりつき最後の一欠けらまで味わい尽くしました。
「ふぅ、満足!二度も食料を分けてくれた恩はこの身で返す!」
と言い、次の日から桃太郎にしつこく付きまといます、桃太郎もいつもおじいさん、おばあさんと一緒にいたせいか1人旅は少々寂しく思っていたこともあり、何度かしつこくされることで折れ、菊と桃太郎の2人旅が始めったのです・・・ですが、菊ほぼ身着以外ほぼ何も持っておらず、武器や防具など買い与え、ですが驚いたことに武器の扱いは桃太郎ほどではありませんがなかなか見るものがあったそうで、町に着いた時は1~2日程度滞在を増やし、自分の技などを教えました・・・・少しおばあさんが訓練したときに笑っていた気持ちが菊に教えているうちに桃太郎には少しづつですが、分かり始めました。
菊がついてくるようになってから、一か月の月日が経ちました・・・まだ鬼ヶ島へにはつきませんが、旅の道具や食料を補給する時に寄る村などではたびたび鬼のうわさを耳にすることになりました。
そうして、次の町に行く途中・・・なぜだか、前に見たことのあるような光景に遭遇します・・・尻尾が長い何の動物かは分かりませんが、道のど真ん中に何かしらの獣人が倒れていました。
今は菊もいるのです、これ以上人が増えても、面倒ごとが増えるだけと無視しました・・・菊はあぁ、昔の自分を見ているような気分になったのか耳を朱くし、目を逸らしながらそそくさと桃太郎より先に行きました。
「待ってぇぇぇぇぇ!!!」
無視していたはずの獣人が恐ろしい勢いでこちらに迫ってくるではありませんか・・・敵かと桃太郎は刀を抜き警戒した途端に・・・
「食料を分けてください!!」
と土下座されました。菊はその光景を見ながら・・・「あぁ・・・旅の厳しさをわかってなかった私を見ているみたい」とボソッっとつぶやき、目も当てられぬと足を止め周囲を警戒し始めました。
「はぁ・・・仕方ないか・・・」
と懐からきび団子を取り出し、その獣人に分け与えました。
「ありがたや~ありがたや~」
その獣人は大げさに感謝しながら、きび団子を食べました。
「お前はどうしてこんな道で倒れていたんだ」
と桃太郎はその獣人に問いかけました。
「あぁ・・・えっとね、笑わない?」
「保証はできないが、極力努力する」
そう桃太郎が少し呆れたように返すと、口を開き始めました。
「えっとね・・・あたしは新人の魔物狩りでね、御役所からの近くにあるゴブリンの討伐依頼で昔からあたしの村の近くで倒していたから先輩の言うことを聞かずに武器用意して飛び出していったんだよね・・・その目的地に着くころには辺りは暗くなっていて、私ら獣人はある程度の暗さなら見えるんだけど、でも、その時私初の依頼のゴブリン討伐で少しハイになっていてね・・・ちょうど川が見えてきてね・・・ここまでずっと歩きっぱなしで蒸れててね武器外して荷物置いて休憩してたんだけど、近くにたまたまゴブリンがいて滅多打ちにされたんだよね、幸い軽い木の棒とかの個体だったから、全力で逃げてここらへんで道半ば倒れてたんだよね・・・あははは」
そこまで聞くと無言で桃太郎とお菊は歩き出した。
「待って!助けて!武器もお金も全部おいてきちゃって!お金が帰ってきたらちゃんとお礼もするから!お願い!!助けて!!」
大声で喚き散らし、涙や鼻水を流しながら、桃太郎の服にそれを押し付ける。
「あぁ、もうわかったよ!!!うるせぇし汚ねぇから引っ付くるな!!それに新人ならそんな金期待してねぇわ!」
「え!?あたしの体が目当て!?」
そう両手で胸を押し上げながら、上目遣いでそう桃太郎に言った。
「このうるさいな!もう助けない!菊行くぞ」
そうつい1か月前ほどの自分を見ているようで耳や顔を真っ赤にし、無言で菊はついてくる。
「ごめんなさい、誠心誠意謝りますから!だから、本当にお願いします、助けてください、勢いよく飛び出だしてきた御役所さんに無一文で帰って、罰金や誹謗中傷受けたくないのー!!」
そう喚き散らし・・・ついに桃太郎も折れ、ゴブリン討伐に向かったのだが・・・
「お師匠様ついていきます!!」
そう・・・菊二号となったのだ・・・こいつ。
ゴブリンで一番弱そうなのを・・・つまり、こいつを狙いに来て、それを咄嗟に刀を投げて倒して・・・助けたりしていたのが、こいつ俺と同じで徒手格闘などを使うのだ・・・小手などの腕用装備をつけて・・・咄嗟に刀を投げて助けたこともあり、そのあとのゴブリンを倒すのには体術を使ったんだが、その技とかを目ざとく見ていたらしく・・それで弟子入りを志願された・・・キラキラした目でずっと見てくるし、悪い気分ではなかった・・・そうして俺達は3人旅になったのだ。
ちなみにこの獣人は猿の獣人で名前は燐というらしい。
燐が増えたことでまた苦しくなるかと思えば、燐は桃太郎よりも筋力があり、結構な荷物を持ってくれており、旅が少し快適に過ごせるようになった。
だが、食べる量も俺達の倍・・・まぁ・・・快適になったんだ・・・うん・・・そう・・・だから、大丈夫・・・・はぁ・・・
顔色の悪い桃太郎とそれに心配そうに見つめながらついてくる菊、そして大荷物をもってついてきているお燐。
「きゃぁぁぁぁ」
すると、彼らの耳にどこからか悲鳴の声が聞こえた。
「菊どこからだ!?」
「こっちです!」
お菊の誘導で悲鳴があった場所に素早く移動していると、1人の少女が巨大な怪鳥に襲われていた。
「これでも食え!!」
咄嗟に何かの袋を投げた、桃太郎は最近投げる攻撃もあったほうがいいかと思い、石を投擲していた経験が役に立ったのか、その袋は見事に怪鳥の口に入り、それを何か獲物が入ったかと勘違いした怪鳥は少しの間咀嚼したが、噛み砕く感触がないことから、再び少女へと目線を向けるが、そこに誰の姿もなく、辺りを見渡してみれば、3人の人影があちらのほうに走っていることが見える。
「あ・・・師匠、今の悲鳴の声って?」
大荷物を持っていて、森の中を走るということに苦労していた燐がやっとのことで追いつこうと道なき道をできる限りの速さで走っていたら、桃太郎とそれにおぶさっている少女、それに急いでこちらに向かってきている菊の姿が目に映る。
「方向転換!荷物を置いてすぐ逃げろ!」
桃太郎は大声でお燐にそう告げて、こちらへと向かってきていた。
「え??でも・・・」
さすがに桃太郎の命令でも、この荷物の中には旅に必要な装備が入ってるので、おいそれと捨てるわけには・・・そう思っていた燐であったが、桃太郎たちの後ろから迫ってきている怪鳥を目にした途端、急ぎ荷物を下ろして、元来た道を全力で移動し始めた。
「あれなんなんですか!師匠!」
さすがに森の中ということもあり、逃げ足でいえば燐が3人の中では一番早かったが、1人で逃げて怪鳥に見つかりでもすれば、ひとたまりもないので仲間達との足並みをそろえながら、桃太郎にそう投げかけた。
「知るか!」
「ですよね・・・」
そう逃げているうちにドゴンという大きな音が響いてきた。
「今度は何なんですか!?」
そう菊が音のする方向に目を向けたとき、怪鳥が地面になぜか落っこちていた。
「・・・・え?」
なぜいきなり怪鳥が地面に落ちているのかという理解に苦しむ光景をさらされて数秒間・・・もし戦闘中であれば、致命的な時間なのだが、その逃げきれなければ戦闘をしなければいけないと思っていた相手が地面へと倒れ伏していたのである。少し今の現実への疑問があってしまっても仕方のないことだと思う。
「ふぅ・・・あの巨体でも効いたか」
燐と菊が呆然とその光景を眺めていると横に気絶している少女を背負っている桃太郎がそんなことを言った。
「何をしたんですか?桃太郎さん?」
「うんうん、何をしたの?師匠?」
そう2人がそう質問をしたら、桃太郎はこう答えた。
「きび団子を投げたんだ」
「「・・・あぁ」」
そう桃太郎が答えると、2人は白い目で桃太郎を見た。
「まだ持ってたんですね・・・」
「うん、あたしもあれ食べてまだ持ってる神経が信じられないかな、師匠」
そう2人が言っていることにも理由があった。なぜなら・・・
「「腐ってたもんね」」
そう、いくら保存のきくきび団子でもさすがに3か月も持たなかったのです。燐も菊も鼻が利く獣人。桃太郎の持っているそれが日に日に食べられる?みたいな状態になっていくことには気づいていました。だから、さりげなく、もうそろそろ食べたほうがいいんじゃないか?などというそんなことを旅の道中に行っていましたが、この桃太郎、おばあさんやおじいさんの気持ちが詰まっているこのきび団子をそう簡単に食べていいのかと思い悩み、そして先送りにしました。それで先日・・・2人にもう無理だから、お店で新しいの買うからもう捨てて!と言われ、カッとなった桃太郎は勢いのまま1個口に含みました。さすがおばあさんの特製きび団子、食べた瞬間はそう美味しかった、まだ大丈夫、2人はうそをついているとそう思っていたのですが、だんだん腹に吸収されていくうちに腹は満たされましたが、腹を下して、前の町ではほぼ毎日厠に籠る日々だったのです。ですが、桃太郎、まだ何かに使えるかもしれないとこのきび団子を2人にばれないように匂い消しの袋に入れて持ち運んでいたのです。
「結果として助かりましたけど・・・」
「師匠それはあたしもないと思うよ、うん」
2人から冷ややかな視線を向けられる桃太郎であった。
荷物を置いてきていた一行はそのまま逃げていた道を進み、荷物を回収したら、まだ気絶から目覚めない少女を見てから、こう話し始めた。
「街道に戻ってから、野営だな」
「そうですね」
「ていうか、この子が悲鳴の子ですよね?」
そうお燐が2人に問いかけた。
「ん~状況的にはそうだと思いたいよな」
「ですね、この子の声が分からないので何とも言えませんけど」
「それであたし達は怪鳥に巻き込まれたと」
菊のほうはまじまじとその気絶している少女を見つめていた。
しばしの間、3人は沈黙していたが・・・うん、悲鳴が聞こえていた時点で何かしらのことはあったんだ、それを助けようとしたの俺達で、そこに損得を考えるべきではないんだけどな・・・まぁ、今回は相手が俺達の素で対応できる相手ではなかったからな・・・うん。
「まぁ、うん、この怪鳥を解体したし、たぶんこの顔面を御役所持っていけば何かしらの報酬がもらえるだろ?たぶん」
それぞれ3人とも、どこの部分が討伐証明かということが普段旅の間に狩る目標と一致していないので、どこがどれだけの価値があるのかもわからないので、適当に血抜きや解体などをして3人で分けて半分ほどの量を運んでいた。
「はぁ・・・まぁ、そろそろ街道だろ、そこで野営だな」
そう桃太郎が言うとしばらくしてから街道が見え、手際よく3人で協力してテントを張って、食事の準備などを始めた。
すると、そろそろ料理ができる始めるか丁度そのころに件の少女が目を覚ました。
「ここは・・・天国ですか?」
周りを一度見てから、そう呟いた・・・桃太郎がそれを否定しようと声を出す前に少女がまたぽつりとつぶやいた。
「こんな木や土なんかばっかりなところがあるところが天国なわけないですね」
そう呟くと起き上がり、少女は周囲にいる桃太郎たちに気が付いた。
「助けてくれてありがとうございました」
と、綺麗にお辞儀をした少女。
「俺は夢を見ているのか街道で何かしらの騒動を起こしていた子どもがちゃんとお辞儀をしてお礼をしているなんて・・・」
「・・・(にっこり)」
「お師匠様、ちょっとあとでこっちにきてから、お・は・な・ししましょうね」
そう満面の笑みで桃太郎に肩をがっしりと掴んでいる2人の獣人がいた。
「あ、私は分かりにくいかもしれませんけど、雉の獣人の苗と申します。」
そう黒髪の長髪で隠れている耳を出して、その耳を確認してみると、羽がついていた。
「しかも獣人の子どもがお礼を・・・」
そんなことを桃太郎がつぶやいていると2人から肩に加えられる力がほんの少し強くなったような気がする。
「あ、これでも私成人していますよ。それでお強い方々がなぜこんな辺鄙な場所にいるのでしょうか?」
そう少女は自分が疑問に思っていたであろう質問を桃太郎たちへと投げかけた。
「あぁ、俺達は悪いことをしているっていう噂の鬼を退治するためにここまで旅をしてきた」
そう話すと途端に少女の顔が険しい顔に変わった。
「命の恩人にこういうことを言うのは忍びないのですけど、その噂は嘘ですよ?」
「「「え?」」」
その言葉に3人は唖然として少女のほうを眺める。
「あの鬼というのはこの付近にいるっていうことは確かなんですけど、悪い鬼ではございません」
「それは・・・どういうことだ?」
「皆さんが噂の鬼と言ってらっしゃるのはこの付近で魔物退治なんかをしてくれていた高位の魔族になったオーガなんです・・・でも、オーガだったからってその前に人間に悪さをしていたとかそういうのではございません、日々を今は焼き払われてしまっている山の奥で暮らしていて、それでいて人間に悪さをする魔物を退治して、その魔物を自分の必要な分の肉を獲ると近くの村々に分け与えてくれていたとてもやさしい方なんです」
「ふむ・・・なんで今はそんな優しい鬼が退治しようなんて噂が出ているんんだ?」
桃太郎はそこまでの話を全て信じたわけではないが、苗にそう投げかけた。
「はい、羽振りのいい村々に目を付けた領主がいたんです。それでいて、横暴な態度で魔物の討伐帰りに村に寄った鬼さんに魔物を献上しろなんてアホなことを言ったんですよ・・・討伐した魔物は討伐した人に権利があるというのに魔族だからと、そんなアホなことに耳を貸す鬼さんではありませんでしたが、そのアホ領主が村の子に怪我をさせたのです、幸いにも治療が間に合って命は助かったのですけど。その子は一生残るであろう傷跡ができたらしいです・・・それに怒った鬼さんが領主の館に行くのですけど・・・」
そう一拍置いてから
「鬼さんは領主の館の前で止められ腕利きの用心棒がいたらしく、それと領兵もいたので思うように暴れることもできずに、山へと逃げ帰り、下賤な魔族ごときがとアホ領主が鬼さんの山へと火を放ちました。それで山を捨てることにした鬼さんは近くの村に少し滞在しましたが、その村が鬼さんを匿った罪ということで焼き払われ、村人は全員殺されました・・・それで他の村にはもう迷惑はかけられないと、少し離れた島へといったわけです。近くで鬼さんを見た村の方たちには隠して疑われるようなことはしないでくれと言い放ち行ってしまわれたらしいです」
そこまで言い終わると、土下座をする態勢へとなり、俺たちにこう言った。
「だから、どうか鬼さんを退治しようだなんていわないでください」
「いや、君からのことだけがすべてって鵜呑みにはできない」
そう桃太郎は告げた。
「なら、鬼さんに会いに行きましょう、それで鬼さんに会って噂が嘘だってことを自分で確かめてください」
その堂々と言い放った。そして
「場所は知ってますし、私はこのあたりで顔が利きますから」
苗は桃太郎の旅へと同行してきた。
ただの村娘が山に迷い込んで襲われてたのではなく、苗はそこそこ強かった。なぜ動きにくい格好をしているのかと問いかければ、これは見た目ほど動きにくくないんですよとそう返してきた。その通りに機敏に動き回れる苗の姿を見て、その認識を変えた。
俺達4人となった集団は鬼がいるという島へと向かって旅をしていた。討伐というより説得、いや、ただ鬼がどんな奴になってるのかを知りたかった。俺が噂を聞いて旅に出て、それでこれだけの月日がたっているのだ・・・人という種族に失望していてもおかしくはないと思えてしまうからだ。
「それにしてもやっぱり町の人たちの目はきついな」
腰に刀を差した俺やお菊を見ると明らかに険しい目つきになっている。あの苗からの話を鵜呑みにするのならば、鬼に良くしてもらったのだから、討伐に来たような者、それに腰に刀を差している者に対しては明らかに警戒している様子なんだと分かる。
単に武士というものが嫌いなだけなのかもしれないが。
「ここに知り合いの漁師さんがいるので舟を貸してもらえないか聞いてきますね」
苗はそう俺達に告げると港のほうへと歩いて行った。
俺達は別々に行動して、旅で消耗した物や戦闘にはならないと思いたいが武器の手入れなどして、待っていた。
~~~
「貸してもらえることになりましたよ」
「それはよかったな」
苗と合流した俺達は貸してくれるという漁師に礼を言おうとしたのだが、苗が人見知りする方ですからと会わせるのを避け、すぐに返したほうがいいという考えもあり、今日の夜に島へ行くこととなった。
港にも監視の目があるらしいので日の落ちる薄暗いころに出発することになった、暗い中の移動、それも船で暗い海を渡るのは危険だといったのだが、少し離れたところにこの港町と島をつなぐ縄が海の少し沈んだところに隠してあるらしい。それを使って町の人たちは鬼の人に情報を伝えたり、食料を渡しに行っているらしい。
「獣人は人より夜目が効きますので、霧なんて出なければ、この程度の暗闇は大丈夫ですね」
俺は獣人と比べるとそれほど目がいいわけもないので、櫂かいを動かして、ズレてしまったら獣人の3人で方向を合わせている。最初から3人でやればいいじゃないかと思わないわけでもないが、それを言ったとしても何かしら俺に不幸があるだけなので黙って黙々と漕ぐ。
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その鬼を一言でいうのであれば、大きかった。
8尺はありそうなその巨体に鍛え抜かれた肉体にその身体に残る大小様々な傷跡、その隣には大きな金棒が置いてあった。
「鬼様お久しぶりでございます」
苗が深々とお辞儀をした。
「・・・・久しいな、娘よ」
そう鬼がこちらのほうを見ずにそう告げる。
「・・・その者らは何用かな、少し腕に覚えがあるとみているが、娘が連れてきたということは敵意はないと見ていいのだな」
と横に置いてある棍棒へと少し手を添えながら、桃太郎たちも一応はいつでも戦闘に出れようには警戒をしている、それに鬼のほうでも一応の警戒はしているようだ。
お互いがお互いに初対面な相手に全面的に信用などということはできない。苗は鬼とは面識があるようなのだが。
「この人たちは私を助けてくれた方なのです、それに鬼様のことを噂だけを鵜呑みにし、旅に出るような方なので噂通りの方ではないと分かっていただければ大丈夫だと思います」
そう苗が答えると鬼のほうは少し信じられないというふうに苗の方を見て、こう言った。
「・・・助けられた?そなたが?」
「あ、はい、少し・・・いえ、だいぶですけど」
「・・・・ふむ」
そう少し鬼は考えた後に、棍棒へと伸ばしていた手を戻し、桃太郎たちに頭を下げた。
「・・・感謝する」
その仕草に桃太郎たちは驚いた・・・やはり俺達が噂が間違っているのではないかということを確信した。村を襲うような鬼が自分たちに頭を下げて礼を言うわけがないと。
「いえ、頭を上げてください、旅の偶然が重なって助けた、いえ、助かっただけです」
「・・・いや、某がこの娘に討伐を頼んだ魔物では、この娘がそなたらに助けられるようなものはいないのでな、某がいなくなったことで魔物の住処が変わっていたのであろう、娘にもすまないことをした」
「いえ、私のほうにも鬼様に色々借りというかなんというかそういうのがありますし、桃太郎さんたちのおかげで、今ここに五体満足で生きて居られることができていますので、あまりそんな謝らないでください」
「・・・これはけじめというものだ、受け入れてくれ」
「受け入れます、受け入れますから、顔を上げてください」
そう苗が懇願すると鬼は頭を上げて、苗と桃太郎たちのほうを見た。
「・・・その者らを連れてきたということはするのだな?」
「はい、あ、でも、まだこちらのことは話していないんです」
「・・・ふむ、これ以上某に軍を割いていては民が苦しむばかり、某から話そう」
ふぅーと一息をし、これまでとは違う雰囲気を漂わせながら、桃太郎、菊、燐へとこう告げた。
「・・・某らと共に領主を討つ手伝いをしてはくれないか」
その言葉に桃太郎は唖然としていたが、どこかで納得のいく答えだった。力のない人のために魔物を狩っていたという鬼なのだ。自分を狩るために軍をこの近くにおき城下町から離れた村での魔物の被害。人を平気で殺す軍。それを命令した領主。今この現状は鬼にとって許容できないものということだろう。
「だが、領主を殺したら、もっと酷いことになったりしないか?それに鬼もこれからよりももっと酷く狙われて本末転倒ではないか?」
その考えを桃太郎自身の中で咀嚼してから、そう告げる。
「いえ、領主が殺した後のことは大丈夫です。混乱させないようにうまくやれます。いいえ、やります。だから、どうか桃太郎さん私達に協力してはくれませんか?」
なぜ苗がそんなことを言えるのかと考えたが、鬼と協力していることと領主を討つなどという大それたことを言うのであれば、裏にはその領主に近しい、いや、継承権を持っている人間か、それに近い人間がいることになるだろう・・・苗は忍か?今はそんなことはいいか。ただ一つだけ聞かなければいけない。
「領主を討ったら、本当にここの民は幸せに暮らせるようになるのか?」
姿勢を苗のほうへと向け、嘘もなにも許さないという声音で苗を正面から見つめ、問いかける。
「はい、必ず幸せにします」
苗は曇りのない眼ではっきりと断言した。
「菊、燐、危ないことになるからここで抜けても構わない」
そう告げる桃太郎であったが、鬼と苗からは・・・。
「一応領主の人たちに伝えられると困るので、ことが終わるまでは監視させてもらいます。ですが、ことが終われば無事に解放することを約束します」
無難にそう苗は返した。
「・・・私は桃太郎さんについていきます」
少し迷った表情をしながらも菊はそう返す。
「冒険者やれるのはここだけじゃないし、あたしもこんな光景見て、こんな現実を知って、それで変えれる手段が目の前にあるのにそれを知らないといって他人のふりはできないよ」
いつものてきとーな感じではない燐がそう告げる。
「・・・・感謝する」
鬼は桃太郎たちのその言葉に深々と頭を下げる。
そして、桃太郎たちは舟で町へと戻り、苗の隠れ家で一晩を明かした。
「鬼だ!出合え出合え!伝令は早く宗近殿を呼びに参れ!」
門のほうが戦闘音とその怒号で騒がしくなっていた。
「あまり殺さないでやってほしんだが、大丈夫か・・・」
「鬼様は無闇やたらに命は奪いませんので・・・はい、たぶん」
それと俺達はどこにいるのかというと
「なんでこんなところに地下道があるのやら・・・」
「苗って何者なんでしょうね?師匠」
「・・・私は察しましたよ、私に飛び火するので言いませんけど」
そうして俺達は雑談をしながら苗の先導で地下道を歩いていた。
「ここからは静かにしていてくださいね」
と後ろに振り向き、苗が聞き耳を立てた後にゆっくりと戸を開けた。
「ふぅ、ここが屋敷の地下です」
藪蛇になりそうなので、なんでそんなことを知っているのかは聞かない・・・燐だけが目をキラキラさせて苗のほうを凄い泥棒みたいな目で見ているが、それだけはないとだけ俺はお前に心の中でツッコミを入れておく。
「御屋形様の部屋は上のほうにあります。何食わぬ顔で歩いてくださいみなさん・・・たぶんいけます、極力戦闘も避けたいですし」
それから苗に何食わぬ顔でついていった・・・なぜだ、女給や武士などに通りすがってもあまり気にさないどころか道を開けられる・・・あぁ、俺も察しちゃった・・・うん。
それで最上階の前にいる武士たちにはさすがに抵抗をされたが、速やかに処理した。さすがに殺しはしていないが眠りについてもらうか、急所を攻撃して女の子になってもらうか、運が良ければ頃が転がり回り悶絶しているか、それとも痛みのあまり声にならない声を、鶏が首を絞められるような声を・・・いや、悲鳴を上げて気絶していった。
「ここがお父様の部屋です、あ、こほん、領主の部屋です、皆様行きますよ」
この子隠す気が全然なくなっていますよね?そうですよね?ツッコミたい凄くツッコミたい・・・すぅーはぁーすぅーはぁー、さて、最終決戦だ、気張っていくか。
あのあと、領主を殺したのは俺達が追われることになるかと思ったが、苗が言うにすべて鬼の手の者がやったということにされて俺達の存在は隠匿された。
そして新たに領主の3男とは思えないほどの清廉潔白な息子が領主代理となり、領を運営していった。長男と次男はあの騒ぎの最中に何者かに殺されたらしい。鬼には領主殺しそれに加えその長男次男殺しの罪を背負ってもらうことになってしまった。
それで新たな領主直々に鬼退治へと行き、そこは何かしらのことがあって、鬼の角を持ち帰り鬼を討伐したということになっていた。後にその角で作った『鬼斬り』はその刀身の美しさから天皇陛下に献上されたという。
実際の話は鬼は生きていて、領主を殺した後に合流して、何かしら苗と話していたと思ったら、俺達に自分の角を折って手渡してくれた。鬼さん曰く
「・・・いずれ生える、気にするな」
苗はそれにお礼をして、鬼さんは魔族が多くいるという東のほうへと旅立っていった。俺達3人はこの2人の間に何があるのかは知らなかった・・・まぁ、この後の話である程度のことの事情については察した。
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あの日苗と菊が2人がそろってどこかに行った・・・2人が揃って買い物に行くということは珍しい、その日はなぜかその物珍しさからなぜだか後をこっそりとついて行ってしまった。
その時にこんな会話を聞いてしまった。
「あははは・・・・うん、何か苗ちゃん見たことあるような気がしたんだよね、最初は全然あんなところにいるわけないからって別人だと思ってたけど本人だったんだね・・・ははははは」
「えぇ、まさか助けてくださった中に菊さんがいらっしゃるとは思いませんでしたよ、あなたの父親も酷い方でしたから、今回の兄に変わったことにより処分されると思いますので、色々兄に手紙を送りましたので、後始末などは気にしなくてもいいですよ、自由に生きましょ、ね?」
と俺からは離れたところで女同士で話し合いをしていた。
俺は何も聞かなかった。ちょっと気になってしまっても仕方ないんだと思うんだ、うん。
すぐに態度がよそよそしくなって、苗にバレて2人に説教を受けた。
何も知らない燐だけは満足そうな顔を浮かべて寝ていたのが恨めしい。
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俺達はあのあとはすぐ近くの苗が所有しているという家に潜み、ある程度の期間そこで過ごした。まぁ、若い男と女3で・・・その時に全員から告白されたけど・・・
「故郷に帰って俺を育ててくれた父さんや母さんに親孝行をしたいんだ、この旅の目的は達しちまったしな・・・だから、俺は故郷に帰る、すまない」
まぁ、だいたいの2人の身分なんてのもある程度察したし、燐だけはなんのしがらみもなさそうだったけど。
これは楽しい夢だったんだ。
そう1人で目を瞑りながら、今まで過ごしてきた旅の辛いこと楽しかったことを思い出しながら、感傷に浸っていた。
翌日どうだろうか・・・苗が忙しく働いていた。
曰く
「お仕事の引継ぎとか、兄への脅迫?ん~説得ですね、だから、待っていてくださいね」
待っていてくださいねと言われても、まだ鬼の騒ぎが出回っているから、あまり積極的にこの家から出ることはしないのだが・・・・
それで鬼の噂や、領主殺しの噂がなくなってきたころに俺達は俺の故郷へと戻る旅へと出た。
「燐は何のしがらみもないから分かる、でも、なんで、苗も菊もついてきているんだよ」
「私はお仕事のほうも説得のほうもうまくいったので、これから末永くよろしくお願いしますね、旦那様」
にっこりと笑顔で苗は桃太郎にそう告げた。
「私のほうは・・・別に家とかの未練もないし・・・それに桃太郎が好きだから・・・」
そう顔を赤くして、手をもじもじさせながら菊はついてくる。
「はぁ・・・なんか厄介事とかついてこないよな?」
ため息をつきながらもついていくことは認めつつも、帰ってから厄介事がやってこないかだけは確認しておく桃太郎なのであった。
「私も菊さんもそういうことは片付けてきたので大丈夫ですよ」
「もー桃太郎は考えすぎだよね、あたしは桃太郎も菊も苗もみーんな好きだから、これからもみんな一緒に居られてうれしいよ、桃太郎はあたしたちのこと嫌い?」
そう師匠呼びをやめて、桃太郎へと燐は問いかけてくる。
「いや、まぁ、好きだけどさ・・・あぁ、もうわかったよ、もうグダグダ言わないわ、何があっても俺がみんなを幸せにするよ」
頭を掻きむしりながら、そう覚悟した表情で3人にそう告げた。
それからの4人はゆっくりと桃太郎の故郷へと歩みを進めた。
桃太郎とその3人の女性におじいさんとおばあさんはびっくりとしましたが、ですが、五体満足で元気に帰ってきた息子を喜びました。
そして、家族6人は幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし