彼の仲間が君に送る/王の最後
5章終了します
刀身という言葉がある
身を刀にし、敵と相対する
極めたというのはおこがましいが...それに近い領域まで、俺は来れたように思う。
構えを取る、なんと俺が構えている間の時間稼ぎはあの魔王様だ。贅沢にもほどがあるだろ。
1人で挑もうとしていた、他に頼れる人間も既にいない。あの触手は攻撃しなければ反撃してこない。誰もいない場所で1人、あの肌を切り裂いてやろうと思っていたのだが...顔があるなら上等じゃないか、あの気持ちの悪い顔面を切り裂いてやるよ。
魔王が乗ってくれると思わなかった。今こうして、俺を守ってくれている現状も
少しずつ目を閉じる、回りで聞こえてくる戦闘音が、少しずつ小さくなり、聞こえなくなる。
視界がなくなると、人は聴覚など、視覚以外の5感が鋭敏になる。それも閉じる
自分が見るものも
自分が聞くものも
全て消し、最後に刀の感触だけを残した。
紫電ー2刀
元々二振りあった刀のうち一振りは、既にパンドラの箱でこの技を使った時点で壊してしまった。
残るはこれ一振り、これも今壊そうとしている。
あの戦いでも、こんな戦いでも、これと戦ってきた。
.........じゃあな、相棒
目を見開いた瞬間、目の前が輝きだし、星の一振りが化け物の顔面に命中した。
ふー、と肩をゴキゴキと鳴らして刀身を見ると、ボロボロと崩れつつ、刀身は消えた。
............ひょっとしたらと思ったけど、やっぱりこうなっちゃうよねぇ
魔王が単純に自分の技量を褒める、褒めることもできんのか、おいおい...いやー似てるな。なんでだ、
お前は魔王で、アイツはーーー
『もう一度撃つ』
そう言った瞬間、魔王の顔が少し強張ったのを見た。
まぁ、こんな刀身ボロボロになってて刀がない状況で、俺が自分自身で撃つ...だなんて言ったらそりゃあ驚くよなぁ。
足で踏み込む
腰を回す
腕を振り抜く
体とは正に「身」であり、この体も既に刀身なのである。
刀がなければアレは撃てないか、
否打てる、恐らく刀で撃つよりも強く、刀で撃つよりも速いものが。
構える。体の一部のように武器を操る、と言うが、もっとも人が長い時間使っているのは、武器ではない。この身体だ。
構える、先ほどよりも深く、ゆっくりと体が沈んでいくような感覚とともにまた少しずつ感覚が消えていく。
魔王が血を流しながら戦っている姿も消える。
さっき会ったばっかりの俺を守るために。
なんだ、あんがいいい奴じゃねぇか
それとも、ただ合理的なだけなのか。アイツに復讐するために、俺の力がいるだけなのか
どちらでもいい
色々な場所を旅してきた。最初たった2人だったパーティーはあっというまに複数人になった。
中には、少し前まで敵だった奴だっていた。これもアイツがたらし込むせいだ。
勇者はいないが、さっき話をしたとき、魔王も仲間になった奴みたいな顔をしていた気がした。俺にも、アイツの性格がうつっちまったか。
ここで思考は止まる。
全てが闇に包まれたムサシの世界に
光が射した
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身のすくような両断だった
光と1つになり、あの化け物の体を両断。ついでに後ろにあった山も壊してしまったが...まぁ、いいだろう。
『切った?!鋼を遥かに超える強度を誇る私の体の一部を?!神器以外の物質が。これは解析の余地ありです、損傷把握、血の大量消費を確認、巨大になりすぎたことでの欠点ですね。なんの防衛策も講じてなかったのも痛い。地底での回復を提案する』
そう言うと、化け物は地面へと潜っていく。地面に穴が空き、地盤そのものが崩壊し始める。ここももう直ぐなくなるだろう
だがそんなことは関係なかった、既に指先はおろか、体の端の感覚がない。
魔王はーー?と思い辺りを見回すと、先程まで倒れていた老馬に寄り添い何かを話していた
いいねぇ
結局こーいう最後か、いや常人よりも遥かに長い間生きれたから、贅沢っちゃあ贅沢だけどよ
若い頃は絶対に戦場で死ぬとしか考えなかったからな、そう考えると悪くない最後か
少し心残りはーーグリーンか
撤退してるとき、ちょっと刀のこと教えたりしたが、伝わってりゃあいいな。触りしか教えてねぇが、荒削りだがいい線いってる。ありゃすげぇことになるぞ
結局話したかったことは話せなかったが...まぁどっかであのねーちゃんが話してくれるだろ。
崩れていく全身を見て、少し笑う
我が身、一本の刀としせりーーー
自分の師の言葉だ、まさか本当に師の言う通り、刀になって崩れちまうとはな。師匠も思わなかったんじゃねぇか?
冷たい死がーーー彼に訪れる、その少し前に、彼に光が射した気がした。
気づけば、あのいつもの城門の前にいる。
ずっと昔の王都の城門前
そこに「彼ら」は立っていた。
いつも王城を抜け出して俺たちについていくと聞かなかった王子が
『やっと来たか、遅いぞ』
いつも自身満々だった魔導師が
『10分前行動!基本です』
勇者の初めての友だと言う旅する狩人
『いやいや、今回に関してはムサシちゃんのせいじゃないっしょ...』
戦いこそ苦手だったが俺たちをサポートしてくれたアルケミストが
『予定が少し遅れた、すぐに移動しよう』
懐かしい面々が、目の前にいる。
ーーー勇者はどうした?
ーーーーーーーーそうか
まだどっかで、俺たちの知らないところで、面白い冒険をしているのだろう。そしてその話を、嬉々として俺たちに教えてくれるのだ。
その話が楽しみで仕方がなかった。まぁその話の中に俺が出るようになるとは夢にも思わなかったが...
『わりぃ、また遅れちまった...』
そそくさと、ムサシは他のメンバーに近づいていく。
彼の意識は、そこで途絶えた。
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老馬の隣に、魔王は腰かけた。既に全身は触手に空けられた穴だらけである。全身はボロボロだ
『......終わった、な』
老馬は何も答えない、既に息絶えてい。
何も答えない老馬を隣に、魔王はある品物を取り出す
ーー王のペンダント
魔王となるための試練の時に、魔の王となる証として手に入れたペンダントである。透明なガラスの中に、小さく炎が灯っている。今にも消えそうな炎が
なぁ、誰か教えてくれ
我のやったことは間違いか
魔王史上最大の勢力をまとめ、魔族領をまとめ、同族を救うために立ち上がった。その際、我に勘違いがおきたのだ。ツヴァイハンダーを、神器を手にした途端、その圧倒的な力を手にした途端。勘違いしてしまったのだ
復讐心というものが、ゴブリンに生まれてからずっと燻ってきた怒りが。多分そこからだ、間違ったのは
神器の力は強大だ、だからこそ「勘違い」してしまう。
願わくば、神器使いがそれに惑わされることのないよう...
『自分で考えろ!!』
途端、あのグリーンの顔が浮かんだ
うん......大丈夫だ
きっと大丈夫だろう
ゆっくりと、ゴブリンであった半生を振り返る
地獄のようだった。生き残るのに、ただ必死になっていた。とにかく逃げ、逃げ、逃げた。
あのまま腹を刺されて平凡に死んだ方が、よほど幸せだっただろう。
本当にそうか?
自分の心が、その想いを拒絶した
アルフィィオスに会い
ジャンに会い
幹部達との出会い
魔王への試練の日々
友ができた、戦友ができた、忠誠を誓ったものができた。妻を娶り、子を為し、新しい人生を送った。
激動の人生だが...楽しかった。
いや...ゴブ生か?
崩落していく大地に呑み込まれるように
この日、2人の人物が人知れず、死んだ。
彼らの戦いが、戦いの行方を大きく揺るがすことを、誰も知らない
エピローグが少しあってから
5章は終わります。
構成を練るので少し6章まで間があります。




