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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 2 夜の女王  作者: 石渡正佳
ファイル2 夜の女王
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作戦会議

 環境事務所御用達の上野屋の二階に監視班のメンバーが集まり、ビアジョッキを片手に本課の会議に行った仙道技監を待っていた。

 「いよいよチームゼロ発進ですね」喜多が口火を切った。

 「気が早いなあ。まだ試行の検討をしてる段階だよ」あれほど夜パトをやりたがっていた伊刈が気乗りしない様子で言った。

 「夜間パトロールだけじゃなくエアパトロールやリモートセンシングまで検討中だそうじゃないですか。やり手の鎗田課長、名前負けしてませんね」遠鐘が評した。

 「そのエアとかリモートとかってなんなの」長嶋が尋ねた。

 「エアパトはヘリコプター、リモセンはランドサットの衛星画像を使うんです」

 「へえ衛星までね。やりますね」

 「新市長の目玉として課長が売り込んだみたいです。チームゼロの発足だけじゃなく自社処分場規制を盛り込んだ産廃条例も年度末には市議会に上げるそうですよ。産廃はこれから目立ちますよ」

 話が盛り上がる中。伊刈だけは浮かない顔だった。専売特許だったパフォーマーのお株をすっかり本課の鎗田課長と出向仲間の宮越に奪われて面白くなかったのだ。

 「長嶋さん、夜パトをやるとしたらやっぱり岩篠の本所の現場がターゲットとしては本命でしょうか」ようやく伊刈は重い口を開いた。

 「どうでしょうか。作戦は清宮警部次第ですから自分はわかりません。いくつか事務所から候補を挙げてはおきました。その中にもちろん岩篠の本所も入ってます」

 「本所は大々的に不法投棄を再開したって報告が来てますね。夜回るしか止める方法がありませんよ」喜多が話に加わった。

 「でも本物のヤクザなんでしょう。慣れない夜パトで最初から相手にするのは危険すぎないかなあ」遠鐘が慎重な意見を出した。

 「前科者だからって本所に舐められたまま引き下がるわけにはいかない。穴屋はみんなそんな連中ばっかりじゃないか。それに六甲建材の二の舞は御免だよ。清宮警部がどういう作戦を立てたとしても本所だけは逃さない」伊刈はきっぱり言い切った。

 「ほかにも現場はいっぱいありますからどうなるかわかりません。本所は前科五犯だそうです。六甲建材はまずかったって清宮警部もわかってますから今回は二の舞にはならないと思います」長嶋が言った。

 「夜パトの予定が決まったぞ」本課の会議から戻るなり仙道が言った。「来週の水曜日だ」

 「チームゼロはまだですよね」伊刈が言った。

 「その前に試行だ」

 「やっぱり」

 「参加するのは本課とうちの事務所、警察が本部の生活経済課と所轄、それに安心警備保障、パトロール車両は五台だ」

 「そんなに大掛かりなんですか」遠鐘がびっくりしたように言った。

 「ついちゃあターゲットの絞込みが必要だ。みんな考えておけ」

 「高岩町の三塚兄弟でしょうね」喜多が最初に言った。

 「班長は岩篠の現場ですよね」遠鐘が伊刈の先回りをして言った。

 「どうした、何か気に入らないことがあるか」伊刈が黙っているのを仙道がとがめた。

 「いいえ考え事です。どうやって夜パトを組み立てようかと」

 「お前の心配には及ばんよ。指揮を執るのは本課の清宮警部だ。こっちは兵卒だよ」

 「清宮警部ってどんな人ですか」伊刈は長嶋を見た。

 「心配ないっすよ。警部ならバリバリの幹部候補っす。それに今回は生経(生活経済課)の弥勒補佐も出てくれるそおっすから。補佐は環境事犯のキャリア十年すからね」

 「なるほど頼もしいね」伊刈はどこか歯に衣を着たように言った。

 「おまえら夜パトもいいが地道な調査をしてるのか。岩篠の地主はどうだったんだ」盛り上がる話から一人取り残されていた仙道が言った。

 「地元の不動産屋の名義になってました。でも社長は亡くなっます。会社の実態がもうないみたいです」遠鐘が答えた。

 「なるほどね。だけど土地ってのはな、生きてる持ち主が必ずいるもんなんだよ。本所は地主に挨拶してるはずだ」

 「わかりました、地主はもっと詳しく調べておきます」

 「夜パトを全部本課が仕切るってのも癪ですね。何かうちの事務所独自のアイディアはないものですかね」伊刈の気持ちを代弁するように喜多が言った。

 「それならダンプ無線を傍受してみたらどうかと思ってますがどうでしょうか」伊刈が長嶋を見た。

 「夜パトをやるなら無線はあった方がいいすね。でも所轄が持ってますよ。それにたぶん安警も」長嶋が答えた。

 「うちはうちで無線機を持つわけにはいかないでしょうか」伊刈が言った。

 「誰かアマチュア無線の免許がありますか。ダンプの連中みたいに違法な無線局じゃまずいですよ」長嶋が答えた。

 「聞くだけで通話しなければ免許は要らないんじゃないですか」遠鐘が言った。

 「なるほど聞くだけならラジオと同じか」伊刈が拳でテーブルを軽く叩いた。

 「おまえらまたよからぬ相談を始めたな」仙道が伊刈たちを睨みつけた。

 「技監、無線機を買おうと思うんですがどうでしょうか」

 「おまえらスパイ映画と混同するなよ。そんな予算付くはずがねえだろう」

 「自腹でかまいませんよ。ただ使っていいものかどうか」

 「私物の持込なんて駄目だ。やっぱりスパイゴッコのつもりだな」

 「そうじゃありません」

 「本課には言えねえな。買うんなら内緒で買っちゃえよ」

 「え、いいんですか。ばれたらお目玉ですよね」

 「それ以上この話題はやめろ。金は俺が出すからいいのを買ってこい」

 「技監ありがとうございます」伊刈が感動したように言った。

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