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03話:向き合うということ

人生初のブックマークを貰い喜びの舞を踊っております、作者です。

大変励みになります、ありがとうございます。

できるだけ読者の皆様を待たせないように執筆頑張っていきたいと思います。

 

 瑞樹は部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。いつもなら眠くなるギリギリまで粘って趣味に費やす時間だが、今日はもう眠ってしまいたかった。


 棚の上の時計の表示はまだ22時。その隣には中学サッカー部引退の時に貰った寄せ書きが飾られていた。折りたたみ式の色紙の表紙には、最後の県大会で優勝した時の集合写真が貼ってある。

 

 静かな部屋で一人になると色んなことが頭を巡る。こんな日に限ってばっちり目が冴えていて、今後寝不足になるであろう未来の自分に時間を分け与えたいとか意味の分からないことを考えていた。


 でもやっぱり、最終的に行き着くのは美波のこと。



***



「・・・ごめん、美波と付き合うことはできない」



 そっか...と(つぶや)く美波はいつもみたいに穏やかな表情でいる。その微笑(ほほえ)みが、彼女にとってどんな意味のものなのか、俺には分からない。


 少しだけ二人の間に沈黙が流れる。俺は美波にかける言葉が見つからないでいた。


「最近ね、というより今年クラス一緒になってから、部活以外でも会ったり話したりすること増えたでしょ?だからかな、すごい佐藤くんを意識しちゃう私がいて、自分でも変な感じだったの」


 ゆっくりと話す美波の声は多分、普段通りで。


「佐藤くんを好きだなぁって気持ちはずっとあったけど、元々佐藤くんは私にとって憧れで、遠くにいて。それがすごく身近に感じられたからなのかな」


 俺は何も言わず、ただ美波の話を聞いていた。


「部活でも教室でもどこでも意識しすぎるのはよくないから、部活のマネージャーだってしっかりやりたいし。早めに伝えようって思ってたんだ」



「だから今日、私の気持ちを言えて良かった」



 最後に見た美波の表情は、やっぱりどこかぎこちないような気もして、でもそんな美波に声をかける資格なんて俺にはない。道具の片付けに行った美波の背中を見つめることしかできなかった。


 足元の氷もとっくに溶けきっていた。



***


 

 俺は咄嗟(とっさ)に拒絶した。急な告白で戸惑っていたのは確かだが、それでも断る以外の選択肢は浮かんでなかったし、少し考えたところで答えは一緒だっただろう。


 −−−美波に告白された。

 それ自体はとても嬉しい、今はっきりしているの事の一つだ。学校でもトップクラスの美少女に告白されるなんて、俺は幸せ者だろう。


 昨年の冬に行われた匿名の女子人気投票、俺が投票したのは美波だった。まあ、だから何だって話だ。書かされて初めて気付くような、そんなレベルの好意。ただ、俺にとって美波は一番に思い浮かぶくらいには気になってた女子ってことなんだろう。

 じゃあ今になって美波を振ってしまったことを後悔してるのかと言えば、決してそんなことはないと思う。美波は俺に純粋な気持ちを向けてくれて、それを伝えてくれたんだ。その真っ直ぐな想いが、下衆な企画から自覚した好意と釣り合うはずがない。

 

 好きか嫌いかで言えば確実に、好き。その気持ちと、美波が俺に抱いてくれる気持ち、そしてこの手で何かを変えてしまう責任・恐怖みたいなもの、全部がごっちゃになって俺にはもう訳が分からなくなっていた。


「はぁ...」

 なんでこんなにモヤモヤしてんだ俺。夕方俺自身が答えを出したばっかだっていうのに。



「瑞樹?入るよ?」

いつもより気持ち控えめなノックの後、姉ちゃんが部屋に入ってくる。

「自分用に紅茶()れようと思って、せっかくだし瑞樹の分も淹れてきたけど飲む?」

 何かを飲みたいなんて気持ちはこれっぽっちもなかったけど、せっかく姉ちゃんが淹れてくれたんだし貰っておくことにする。


「考え事?」

「まあ...ちょっとね」

「そっか、話したいことがあったらお姉ちゃんにいつでも言うんだよ?絶対だからね」

「うん」


 後でカップを取りに来るからと言って姉ちゃんは隣の部屋に戻った。


 床に座り直し紅茶に息を吹きかけると湯気が顔を撫でる。徐々に暑くなりつつある季節だったが、熱い紅茶が心地よく体に染み込んだ。


 例えば、今日をきっかけにいつか俺が本気で美波を好きになったとして、その時に今日のことを死ぬほど後悔するんだろうか。それとも来月にはこんな気持ちも忘れて、俺と美波は元通りになるのだろうか。こんなことを考えてしまうこと自体、俺自身不思議な感じだ。


 どんな結果になるとしても、美波と気まずい関係になるのだけは嫌だなと思った。


 待ち待った連休のスタートだってのに、今日はゲームも、漫画読みも、PCも何もする気が起きない。ただ、少し香りの強い紅茶をゆっくり、ゆっくり飲み込んでいた、色んなことを考えながら。

 

 ピロン♫


 メッセージか、結衣からみたいだ。

『クラス会決まったー!急に呼びかけたにしては結構人来そう。軽くご飯食べてROUNDO2行くから、遅れないでよね』

 11時30分にファミレス現地集合らしい。もう頭数に入ってるような文面だが、教室で結衣に直接誘われてたのもあるし『りょーかい』とだけ返しておいた。

 新クラス始まって初めて会う人もGWで仲深めよう的な趣旨のクラス会らしいが、新しいメンバーになったばっかでそんなイベントをまとめ上げる結衣のコミュ力には脱帽だ。


『珍しく返信早い』

 こいつは俺のことを何だと思っているんだ。まるで俺が365日ゲームに張り付いて友達からのメッセージをろくに返信しない奴みたいではないか、甚だ遺憾である。

『俺だってたまにはすぐ返信するから』

 本当にたまにだけど。仕方ないね、うん。


『こんなに続けて返信早いなんて、外出中か、あんたに何かあったかかじゃない?まあどうでもいいけど』

『どうでもいいんかい』

 そんなに返信すらテキトーだったっけな、不安になってきた。スマホに張り付いてずっと友達とメッセージするような性格でもないしな。スマホゲーは軽い気持ちで初めても結局課金したくなるからもどかしくなってどれもやめてしまった。だから(もっぱ)らネット検索や動画視聴が主だが、家に帰ってしまえばPCあるし、言われてみれば部屋ではあまりスマホを見ないかもしれん。


『何、本当に何かあったの?』

『別に何もないけどな、部活で疲れてベッドダイブしてたとこだよ』

 咄嗟に嘘を吐いた。これは俺だけの問題じゃないし、そもそも簡単に言いふらすようなことではない。

 姉ちゃんにも家に帰って早々に勘付かれてたし、俺ってそんなに分かりやすい性格なんだろうか。


 その後は適当に部活の話とかして結衣とのメッセージを終えた。姉ちゃんに淹れて貰った紅茶と、結衣との何気ないやりとりでだいぶ気持ちも落ち着いたし、自分の中で整理できた気がする。



 好きの気持ちの釣り合いが取れないとか、何かを変えてしまう責任・恐怖だとか、そんなのは全部言い訳だ。ただ単に、俺に美波と付き合うだけの覚悟も、美波と付き合いたいって咄嗟に言えるだけの気持ちもなかった。


 俺にとって確かに大切で、少し特別な女の子。



 −−−クラス会か



「美波、来るのかな」

 

 誰が来るかくらい結衣に聞いときゃよかったな、と少しだけ後悔した。



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