PIECE.1『幕開け』
なんか読み辛い。書き辛い。おかしな所があったら教えてくれると嬉しいです。やさしく教えてくれれば、なお嬉しいです。
一瞬の激痛。
体の半分を、ゴリっと抉られたような感覚。
生きている中では決して味わえない痛み。それを味わった。
なのに──何で生きてる?
どこかわからない暗闇の中、血色の悪い、気怠そうな表情をした男は疑問に思う。
「うぇえええ……エグい死に方だった……。こんなにハッキリ観たのは久しぶりだよぉ……」
男のような女のような、中性的な明るい声が聞こえた。
――誰…?
鼻先まである長い前髪の隙間から、声の聞こえた方へと目をやる。
暗い闇が広がっている空間の中、少し地面が盛り上がった所に一つの椅子。
それに片足をつけて座り、口を抑え蹲る、寝癖が目立った御河童の髪をしたナニかが目に見えた。頭には、鬼の様な角が生えた額宛。
背は小さく、細い肩紐の付いた黒いワンピースを着ている事から幼き少女と捉えられる。
「ん? あ、あぁ! 起きたんだね! お、おはよう! えーと? 君の資料はっと」
鬼の額宛を頭につけている裸足の少女は目を覚ました男に気付き、気を取り直して挨拶がてらに手を振った後、立膝で座ったまま不器用な手付きで本のページをめくって、それに目を配る。
「あ。体が、動か……ない?」
うつ伏せになっている自分に気がついて、起き上がろうとするものも、体に力が入らない。
「あ!? ゴメンゴメン! 少し行動を制限させて貰ったよ。まぁ、制限なんかしなくったって、今の君の様子じゃあきっと動けないだろうけどね。ホントは今すぐにでも動けるようにして、初めての来客とのお喋りを楽しみたいんだけどねぇ……」
「……?」
混乱。少女の言葉に対して男にはそれだけしかない。制限? 来客? そんな疑問が脳裏に過るが少女はそのまま続けて
「まぁ、分からないよね? そのまま聞いててよ!」
ふぅ……っと溜め息をついて本を閉じ、男に目を遣る少女。立膝で座っていた椅子から勢いよく跳び跳ねるように降りた。
薄い生地で出来た短いスカートを靡かせ、上前腸骨棘&鼠蹊部を露にしているのも気にぜずに、静かに着地する。
「よくぞいらっしゃいました……僕の世界へ!!」
少女は両手で短いワンピースの裾を軽くつまみ上げて、甲高い声を発しながら腰を曲げて頭を深々と下げる。
──カーテシーと言われる、ヨーロッパで使われる気品のある挨拶。少しばかり懐かしい気持ちになる。
「僕の名前はアンビギュアス。君たちで言う“神様”と呼ばれる者さ!!」
下げていた頭を上げ、声色を変えず神を名乗る少女は続けて「正確には、全ての創造主と思っていいよ」と補足した。
アンビギュアスという言葉は訳せば“曖昧”“多義”という意味を持っている。しかし、今注目すべき所は“神”“創造主”という言葉だ。
「神様? ふざけないでよ。ぼくが神の名を呼ぶ時は、金曜日のモーニングタイムの時だけだ」
うつ伏せになりながら男は、神を信じないというような疑いの目と絞り出したような細い声で、ちょっとしたヒニクを添えた男なりのユニークなジョークを言うものも「ぷははは。どっちにしろ今は金曜日の朝じゃないか」と簡単に躱されてしまう。
「まぁ、単刀直入に言うね? 君には僕の……僕の神代理人になって、世界を発展させていって欲しいんだ!!」
少し言葉を溜めるようにしてから、アンビギュアスは朗らかな声で号んだ。
手を広げ、自分と、この場を大きく主張するように。
「神代理人……? 言葉の意味が分からないよ。なんの冗談? それともドッキリ?」
体が動けない代わりに、視線だけでもと周りを見渡す。ドッキリなら何かしらあるはずだ。しかし見渡しても暗闇が広がっているだけで、なにもありゃしない。
「いやぁ、冗談でもドッキリでもないよ? 冗談でこんなこと出来ると思うかい?」
そう言ったアンビギュアスの手の平にいつの間にか、男を丸々小さくした様で貞子みたいに前髪の長い男。
それもアンビギュアスが指を弾くと、目の前まで這うように近づいてきた頭身が極端に低い男は煙となって消えてしまう。消える時の断末魔「あっ……」と言うかぼそい声。
そんな光景を目のあたりにして、アンビギュアスが神だというのがあながち嘘ではないのかもしれないと思うが、彼女に対して悪感情を抱いてしまうのは当然のこと。
眉を顰めて睨む男の視線に、目を反らして「悪いことしちゃったかな? ハハハ……」と誤魔化し笑いで頬を掻くアンビギュアス。
「……ぼくは確か、死んだはずだよね? じゃあここは死後の世界?」
30メートルはある高層建築物の屋上用からアスファルトの地まで飛び降りたのを今でも繊細に覚えている。身体にまだ残る痛みという感覚に、やはり自分は死んだんだと再確認させられる。
「ん~、そうだね、天国とも言うんじゃない? ……あのね、さっき言った通り、君のいたあの世界を創ったのは僕でね? まぁ……創ったって言うより出来ちゃった、って言う方が正しいんだけどね? 勿論! 君いた世界は気に入っている。気に入っているはいるんだけど……。正直いって飽きちゃった!」
何か凄い事を軽々しく言うアンビギュアスは、そう照れ臭そうに顔を手で覆い隠して足をばたつかせた。
「僕は只、あの空間に一つのエネルギーを注いでみただけなのに、世界が生まれ、宇宙が生まれ、君たちが生まれた……。そこまでは良かったんだよ! それに君たちは僕が手を加えなくても新しい物を作り出し、色々な物を産み出した! 本当、観ていて楽しかった……。最初は…ね?」
ブツブツと陰口のように言いながら頭をくしゃくしゃとするもんだから寝癖が余計酷く目立つ。
「でも飽きちゃったんだ……。マンネリってやつなのかな? とにかく飽きちゃったんだよ。だから僕は飽き始めた何百年か前に──」
急にしゃがんで両手を地につけた状態から立ち上がると同時に、はしゃぐように勢いよく手を上に広げたアンビギュアスの背後から、
「こんな世界を創っちゃたんだよね!!」
青空が描かれた、3つの空間が生まれた。
──左右二つは、木の額縁をした空間。その間の一つは、金の額縁をした空間。額縁以外はどこも同じに見える。
「いやぁ……これも出来ちゃったって言うに等しいんだけどね。まぁ、君達の世界同様気にってはいたんだけど、君たち人間が、漫画やゲームで似たようなモノを作り出しちゃったんもんだから、興醒めして途中で観届けるのも、手を加えるのもやめちゃったんだよね。だからこの世界にはどこか足りないものがあって、中途半端で、未完成なんだよ。でも! 君を見つけた! 君の曲がった特技もとい性質、もとい性格! 僕はソレを気に入ってる! だから呼んだんだ……」
自分の無茶苦茶な思いを手振りで必死に伝えようとするアンビギュアス。
話を聞いていて分かる。彼女は饒舌に喋るが、流暢とは程遠いと。
話がごっちゃごちゃで、どこか無理矢理が感じられた。それは初対面の男にどう喋ればいいのか……どうお喋りをすればいいのか……。そんな焦りから、無理矢理自分の意図を伝えようと、喋っていることが感じられた。
つまり彼女の饒舌はただの多弁で、無理矢理勢いに任せて喋っているだけだ。流暢とは違う。
そんな巻き舌に喋る彼女からは緊張を感じさせられるものだった。
「君が『飽きた』と言った、あの世界からね?」
アンビギュアスの語気が整い、声色が強まる。
「それで、君にはこの未完成な世界を発展させていって欲しいんだ。君なら僕を驚かす事の出来る世界を造れると思うんだ! 僕も君も、刺激が欲しい……。元の世界では、君は刺激を得られない、だから君は身を投げた、飽きてしまったから……。でも! この世界なら楽しめる。そう僕は思うよ? 君たちの世界でいうRPGのような世界にも思えるけどね。君の役目は自由。僕の代わりにこの世界に手を加えてもらえればば良いだけだから」
少女は続けて問う。
「君ならこの世界を受け入てくれる……。君と僕は似た所があるからね? マンネリなら変えちゃいなよ、世界丸ごと。さあ、行動の制限は解いたよ。どうするかは君次第。強制はしない。どっちにする?」
そんな問いになぜか『問われたら答えろ、それが鉄則デス!!』とミルフィア-chanという、名前のおかしな昔の友人が言っていた事を懐かしく思い出す。
「そんなの……決まってるよ……!」
ーー発展だとか、刺激が欲しいだとか、そんなのに興味はない……。でも、もう一度生きてやり直せるチャンスがあるんだとしたら……! そんな世界は……! 僕が……っ!
ڿڰۣー҉ 耳҉ ҉ ҉鳴҉ ҉ ҉り҉ ҉ ҉が҉ ҉ ҉し҉ ҉ ҉た҉
それに続いて押し寄せる、まるで映画のような1コマ──
それは絶望的に染められた希望の少ない世界の中、馬鹿らしく気楽な頭で運だけを頼りに生き抜いてきた、絶望を知らず希望を持たない。そんな男の記憶。
回りに味方はいない。崩れ煙りをあげる家々。道端には新古の死体。それらを気に求めずに、路の真ん中には学生服姿の男。護身用の銃を片手に挑発的な柄の悪い笑い顔を浮かべていた。
耳鳴りと突然かつ非常に鮮明に思い出された記憶から起こる痛み。しかしそれは慣れた痛み。
無気力感溢れる表情から、柄の悪そうだが活気溢れる顔へと変わり、ズキッとする瞬間的な痛みに堪えながらも口角を歪めて奇妙な薄ら笑いを浮かべる男。
ーーそんな世界は……っ!
「おっ! 切り替わったね!?」
別人のように変わった男の現状を理解していたかのように喜んで反応するアンビギュアス。
その中で男は動かなかった体を動かし立ち上がる
「そんな世界は……っ!!」
踊る胸を押さえ付ける。
「そんな世界は俺が造り上げていってやるよ!!」
イライラしい程長い前髪をかきあげ、活気溢れる声で言い放った。
「……決まりだね!! それじゃあ少しこの世界について説明をしよう!」
満足気な顔を見せたアンビギュアスは椅子の方へと戻り、最初と同じような体勢をとる。
「この木の額縁をした2つの世界は、言わば……チュートリアルと言ったところかな? チュートリアルは金の額縁の、本物の世界の複製……いわばコピーだよ。最初はこの複製の世界で練習して欲しい。君もいきなりは辛いだろうからね」
アンビギュアスはニヤつきながら額縁で囲った世界に指を向けた。
「神代理人……発展って実際なにすりゃいいんだ?」
ずっと同じ体勢でいたからなのか、肩が少し凝っていたので肩や首を鳴らしながら質問する。ボキバキと骨が折れるような酷い音がするのは、同じ体勢でいたからだ。いたからだ。
「うん、やる気満々で嬉しいよ僕は。そうだね、君には《創造の力》を与えるよ? それに僕のナビゲート付き。でも僕は世界の神だ。世界のことなんて知ろうと思えば何時でも何でも知れる。まさにネタバレの書庫だよ。だからあえて質問の答えは言わない……ヒントだけ。それなら君も安心して楽しめるでしょ?」
「ああ、そうだな。で、その創造の力ってやつの使い方は?」
あえて男は質問する。
「もう! だから僕は答えは言わないの!! 力の使い方自分で見つけて試せるように、と思って世界をわざわざ複製したんだから!!」
頬を膨らませてプンスカするアンビギュアスの反応に薄笑いを浮かべる男。
「わーった。わーった。他に何か説明は?」
「え~とねぇ……? うん、特に無いかな? 心の準備が出来たら、瞼を閉じてくれる?」
言われた通り目を閉じる。
準備なんかとっくの昔から出来てる。
胸が高鳴りを静めようとしない。
「これでいいか?」
「うん……! あ、あとね、ちょっといいかな!?」
アンビギュアスに呼び止められ、ヤル気に満ち溢れていた男はお預けを食らった様な気持ちに焦れったく思う。
「あん? 何だよ」
「僕は君と同行はできないけどさ。で、でも僕はは君とお喋りしたいから、こ、声だけでも……いいよね? ナビゲートする役割もあるし!!」
目を瞑ったままでも分かるほどの、慌てた声が聞こえた。
声だけってのがよく分らないが、とりあえずイエスと答えるする。
「ああ! 俺は別に構わねェ──
だが、自分の声が次第に聞こえなくなり、答える前に周りが、時間が止まったかのように静かになった。
でもそれは一瞬の静寂。
徐々に大きくなっていく五月蝿すぎる風音が耳に聞こえ、長い髪をなびかせる感覚が上位互換となって“又”も押し寄せた。
時間が動き始めた。
薄く目を開けてみた。
目の前には──
「は?」
──目の前には、青色の世界が大きく広がっていた。
男は頭から落下しており、吐きそうに成る程早く、旋回していた。
目を見開き歯を食い縛って、凄い形相で大音声で叫ぶ。
「う…………うおあああああああああ!!」
冒頭とは、真反対な面相。
同一人物とは思えない、そんな男の叫び声が新しい世界へと響き渡ろうとした。
男は“多面相”
神に選ばれた男。
この異世界での目的は──
世界を発展させること。それと──・・・ڿڰۣ