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オガドーグリと流星群の夜  作者: 桜里谷 光
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「あたしの最後の一輝き、よく見ておくれよ」

 今にも落っこちてしまいそうな、それでも僕よりずっと大きいよぼよぼのおばぁ星が話しかけてくる。

「ああ、分かったよ、分かったから」

 目をバインダーにはさまれた用紙に落としたまま答える。

「なんだい、その言い方は。さてと、では行くとするかね」

 顔を上げると、もうそこには誰もいなかった。

 僕は用紙に連なっている名前の中からその星を見つけ、大きくバツ印をつける。

 

「今日の分、終わりました」

 宇宙にぽっかりと浮かぶ階段を上り、その先にいるお日様に「黒色矮星確認用紙」をそっと渡す。

「ん、もう朝か?よし、行ってくるか」

 彼女は仲間の分まで紙を集めると、ゆっくりと輝きを増し始めた。

 数歩下がって、親友のグドバイにも彼女から離れるよう告げようとしたが、彼はすでに僕より後ろにいた。仕事を始めた彼女は情熱的過ぎて、近づきすぎると熱くて倒れてしまうのだ。

 もう少し離れようと、後ろ歩きでまた一歩下がった。もう一歩、離れるべきかな。

 その時、誰かの大きな声が耳に入った。

「オガドーグリ!そこ、誰かがいたずらで落とし穴掘って……」

 僕は最後まで聞くことができずに、暗闇へと落ちていく。


 気が付くと、僕は何か緑色のチクチクした物の上に仰向けに寝転んでいた。ちょっぴり背中が痛い。

 飛び起きて辺りを見回す。

「ん?お前……オガドーグリ、か?確か星の妖精だとか……」

 どこからか声が聞こえる。心の中に響いてくる。少し幼い、男の子の声だ。

「どこ?どこにいるの?僕、どこかに落ちちゃったみたいなんだ」

「そう叫ばなくていい、聞こえている。そもそも君は、私に乗っかっているじゃないか」

 え、どういうことだろう。首をひねる。

「君は、誰?どうして僕を知っているの?」

「私か?私は地球だ。君の名は火星から聞いたことがある。しかし、私はまだ若者のつもりなのだが、もうその時なのか?」

 少し彼の声のトーンが下がった。

 ……地球?

 確かに物知りな親友、グドバイからそんな星があるとは聞いた。

 水の星。緑の星。命の星。

 そうか、ここが……地球。

 ここで返事を忘れていることに気づき、声を上げる。

「いや、君はまだ若い。大丈夫だよ。僕はただ、落とし穴に引っかかってここまで落ちちゃったんだ」

「それなら良いけど。最近調子悪くってさ。君、仲間の所まで帰れるかい?」

安心した声の後、不安そうな声がした。

 どうやら地球は感情が豊かなようだ。

「やってみる」

 緑のチクチクから大きくジャンプし、透明で薄くて小さな羽を広げる。

 しかし空中に浮かぶことなく、そのまま元の場所に背中から着地してしまった。痛い。

 ……力が足りないのだ。

 もともと僕は落とし穴に気づかないような落ちこぼれ、「妖精力」も仲間から少しずつ分けてもらわないと、飛ぶこともできない。

 それでも最近、少しは上達したと思ったのに……まだ、はばたくことすらできない。

「無理みたい。仲間を待つことにするよ。いろいろ教えてくれてありがとう」

 僕の落ち込んだ声に、地球は優しく応えてくれた。

「そっか。まあ葉っぱの上だし仲間もすぐに見つけられると思うよ」

 そこで僕は初めて、自分が乗っているのが「葉っぱ」だということを知った。


 「葉っぱ」の上で、僕はさまざまなものを見た。名前は、地球が教えてくれる。

 黒くて、僕よりちょっぴり小さな六本足の「あり」という生き物。忙しそうだった。

 空を大きな翼で飛びまわる僕よりもはるかに大きな「からす」。つつかれそうになった。

 そして「からす」よりも大きな「ひと」。地球から気をつけるよう言われたので「葉っぱ」の陰に隠れる。

 そっと覗いて見た姿は、羽が無い以外、僕らと同じだった。髪が二人とも二つ結びになっていたから、女の子だろうか。

 「からす」よりはずっと大きくて、おばぁ星やおじぃ星達よりはずっと小さい彼女達は楽しそうに話している。

「今日ってさ、確か獅子座流星群の日だよ。晴れてよかった。ここ田舎だし、きっとよく見えるよ」

 そんなことも言っていた。

 ……流星群?ああそうだ、今日は一年に何度かある、おじぃ星やおばぁ星たちがやたらと落ちていく日だった。毎回、仕事が倍くらい増えて大変なんだ。

 なるほど、「ひと」という生き物はそれを見て楽しむのか。

 あんな星達の散り際の大群、見ていてそんなに感動するものなのだろうか。

 「葉っぱ」の上でこうやって他の生き物達を見ているほうがよっぽど面白い。

 少しチクチクしてこそばゆいけれど。

……そうだ、ずっとこの地球の上にいるというのはどうだろう。

 地球はまだまだ若い。

 ここでずっと「あり」や、「からす」や、「ひと」を見ているというのも、仕事で口うるさい星達を見送るよりは良い。

 あんなの、いつの間にかいなくなっているという現象を何度も何度も見守るだけじゃ、ないか。

 そうだよ、それがいい。

 僕がそんなことを考え始めた時。

「オガドーグリ!」

 不意に若い、小さな男の子のような声がした。地球とは違う、少し高めの音。

 上からだ。

 そちらを向くと、お日様が今日の役目を終えて赤くなってきた空に小さい点が一つ。だんだんと大きくなってくるのが見える。

 いや違う、こちらに近づいているんだ。

「オガドーグリ!」

 もう一度、同じ声。

 ああそうだ、これはあの、僕に注意するよう言ってくれた声だ。

「グドバイ!」

 僕は思わず叫んだ。

 「からす」や「ひと」、それからおじぃ星やおばぁ星と比べるとても小さな体。銀色の羽を背中に生やし、そばかすだらけの笑顔を浮かべているのは、間違いなく僕の親友、グドバイだ。

 その後ろには、今までともに働いてきた仲間達。

「心配したよ!いろいろな星に訊いて回っていたから遅くなってしまったよ。ごめん」

 着地するなりグドバイは口を開いた。

「本当だよ」「大変だったんだからな」「後で星屑クッキーおごってもらうぞ」

 仲間達も口々に言う。

「さあ、帰ろう。妖精力も、これだけあれば足りるだろう?」

 笑顔のグドバイ。

 僕はそれを……断った。

 何となく後ろめたくて、少しうつむく。

「ごめん、僕もうちょっとここにいるよ」

 顔を上げると、そこには頭の上に疑問符をたくさん浮かべた仲間達がいた。

「え?なんで」「助けに来たのに?」「帰ってクッキー、おごってくれないの?」

 一番不思議そうな顔をしているのは、もちろん親友だった。

「……帰りたくない理由でもあるの?」

 僕は答える。

「いや、どうせ帰ってもおばぁ星やおじぃ星の見送りばっかりだし。つまんないよ」

 そうか、確かに一理あるかも、と周りからひそひそ声が漏れる。

 一方のグドバイは、何か考えているようだった。彼は僕らの中で一番賢くて何でも知っている。お日様が特別に教えてくれているとかいう噂もあるくらいだ。

 しばらくして、親友は小さくこぶしをもう反対の手のひらに打ちつけた。

 いわゆる、「ひらめいた」のポーズだ。

「じゃあ……みんなで少し待って、ここで眺めてみる?今日のおじぃ星達」

 その言葉に、僕を含めた皆が首をひねったのは、言うまでも無い。

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