ミッション1・part3の①
おおぬきたつや・著。
『キグルミ大作戦!!』
〈キグルミ・ミッション・1〉
Part3の①
それは、格闘戦用の、着ぐるみ。
もとい、近接戦闘・強襲作戦仕様型〝キグルミ〟。
もっと言うなれば、アドバンスド・アーマード・キグルミ……!
さらに専門的な見地を付け加えた、より長たらしくて小難しい呼び方も、またさらっと付け足されたが、あいにくとこれにはもうさっぱり頭がついて行けなかった。
そんな途方もなく現実離れした説明を、ふたりの男子高生たちは、その時、どんな表情で聞いていたものか。
「…………」
一時、顔からなくした瓶底眼鏡をしっかりと掛け直す。
普段は利発で勘の鋭い少年も、今はただ困った感じにみずからの言葉を失っていた。
おなじくお隣りのお調子者の友人などは、今だけは神妙な態度で大きな身体を縮こまらせていたが、その実、どこを見ているとも知れないその白けた目つきを見たならばである。
これまでのことまるで理解できていないのがわかる。
確かに、わからないだろう。
何しろ軍の第一線でそのままに通用しうる、それこそは最新鋭の〝実戦型汎用全身装備〟だ。
これがそもそも着ぐるみであることがわからないし、異様な見てくれもさることながら、そのキグルミという俗な呼称にあえてこだわることにも釈然としないものがある。
いっそどこかよからぬおふざけじみた、嘘くささが拭い去れなかった。
もし冗談だとしたら、相当にタチが悪いだろう……!
かすかなため息が出た。
考えれば考えるほど、理解がしがたい。
だがそれでも、この常識離れした超高性能キグルミを身にまとい、ど派手な立ち回を演じたのは、ついさっきのことなのだ。
結果は見事、大勝利!!
無残なさまで転がる暴漢たちを前に勝利者宣言のガッツポーズを取るまでもなく、そこでまた事態は予期せぬ急展開を迎えていた。
それで今、ふたりでこうしてかしこまっている。
傍目で見るなら、つまりはバイトの面接となるのだろうか。
ともあれ人間と怪獣着ぐるみの、いろんな意味合いで〝異種〟格闘技戦が繰り広げられた資材置き場から、壁一枚だけ隔てた隣室で、じぶんたちだけが取り残されていた。
面接会場はこぢんまりした間に合わせの応接セットだ。
これまでのドタバタした経緯もあり、居心地が悪くどうにも気まずいものがある。
しかし、こんなふたりに対する相手のまだ若い面接官は、とても明るく気さくな調子で場を和ませてくれた。
そうだ、今だって、低いガラステーブルを挟んで向かい合う三人掛けソファのあちらとこちらで、まるで違った温度差をものともせず、さわやかな笑顔を向けてくる。
根明で穏和な人柄に好感は持てた。
思えばそう、先のあの大それた事情説明でさえがひたすら軽いノリで、お気楽な世間話でもするかのようにひと息に語ってくれた、その人物である。
見映えはせずともたっぷりと余裕のある黒革の長椅子に浅く腰掛け、前のめりの姿勢で終始、はきはきした口ぶりと物腰が、やはりまだ二十代も半ばくらいにしか見えなかった。
とても気のいいお兄さんは、テーブルの前の湯飲みにみずからの手を伸ばすと、その中身の緑茶をうまそうに一口すすってから、これまたあっけらかんとしたお言葉をくれる。
「ん……まあ、おおよそでこんなものかな! ってことで、ぼくからの説明はとりあえずで以上だよ。質問があるなら受け付けるけど、おいおい理解してゆけるはずだよね。ほら、なんだって要は、慣れだから! まだ若い君らなら、この先いくらだって順応してゆけるはずさっ、はは! ん、どうしたんだい? もっとリラックスして楽に構えてくれればいいよ、面接とは言っても、こんなのほぼ形式的なものに過ぎないんだから! さっきみたいにノリノリでいってくれれば、そうさ世の中、大抵はノリと勢いってものだからねえ!!」
言うなれば、イケメンの部類に入るのだろう。
細面でこの眉目のすっきりと整った表情は、どこかの舞台俳優だと言っても無難に通用しそうだ。
歯がやけに白く、長くも短くもない自然なまとまりで流したショートのさらさらヘアは、地の黒に若干だけ、茶髪がかかっているようにも見える。
これでこんがり日焼けでもしていたらそれは立派な優男のできあがりだった。
表情の読めない丸メガネの奥で、冷静な眼差しの少年は果たしてこれをしっかりと見定めてやる。
今日が初対面の相手はその上下ともお堅い灰色の警備服に身を固めながら、いかにも今どきの若者よろしげなクチの軽さが、親近感、どころかむしろ軽い不審感みたいなものを抱かせたか?
それに付け加えて、物の考え方がいまいちテキトーなじぶんの友達と良く似た傾向の発言の連発も、少なからぬ引っかかりを覚える……!
やはりそう容易には信用などしがたかった。
だが、しかしながらだ。
こののほほんとした言いように、こちらのすぐ左方で落ち着いてたはずでかい気配が、ぐっとその身を前方へと乗り出した。
さてはこちらもじぶんと似たもの同士の匂いを嗅ぎ取ったのか?
目の前のそれは砕けた態度の面接担当者へとけっこうな食いつきを見せてくれる。
それは今しもガッチリとした固い握手でも求めそうな勢いだった。
「……ああっ! まあ、そうッスよね! やる気と根性があればなんだってできるって、どっかのテレビで偉そうなおっさんも言ってたし、肉体勝負だったらもう誰にも負けないッスよ! さっきのもそうだけど、おれ〝柔道〟やってるからキグルミのハードなガチンコバトルもぜんぜんへっちゃらッスもん! ……ん、あんだよ?」
一気に打ち解けて挙げ句、へらへらと安請け合いまでするお隣りさんだ。そのいかつい肘のあたりをこんこんとみずからの肘で小突いて、互いの顔を寄せ合い、ひそひそと耳打ちする。
こちらはこちらで少なからぬ危機感を覚えていた。
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※はじめに描こうとした構図ですが、下絵の時点で断念しました…!
シロートにはかなり難しい構図で♡
〈i146560|14233〉
※先のヤツを、まんま、この真裏から描写しました…!
こっちのほうがずっと簡単(笑)!! おまけ、さっきのアングルだと、新キャラの顔がまるでわからないんですよね?
〈i146561|14233〉
※ちょっと雑なんですが、新キャラのイメージのリテイクです♡
「へっ、へっちゃらって! さっきのあの説明、まんま納得しちゃうのか? 戦闘タイプの着ぐるみなんて、ムチャクチャじゃないかっ! もうちょっとは考えたほうが……」
「あん? だから、そういう〝設定〟なんだろ? かっこいいドラゴンのキグルミで悪の組織と戦うっつー、いかにもお子様たちが大喜びしそうな舞台キャラじゃん! おれたち〝主人公〟だぜっ!」
「舞台? キャラ? じゃ、あれって、子供向けの戦隊ヒーローものの見せ物、いわゆるバトルショーの着ぐるみだって言うんだ?? いや、そんなふうには……あの凶悪な面構えで、正義の味方はかなり無理があるような? それにぼくはもっとほのぼのとしたキャラ設定こそ期待してたんだけど、広場の一角でお子様とただ無邪気に戯れるような……!」
※次回に続く…!