ミッション1・part2の④
おおぬきたつや・著。
『キグルミ大作戦!!』
〈キグルミ・ミッション・1〉
Part2の④
……ビュッ!
張り詰めた静けさが空を切る鋭い音で破られる。
それを、着ぐるみの中で見る少年は、あんぐりと口を開いていた。
「なんでっ? ……ゴータッ!」
言葉もなく高く掲げられた鉄パイプが、そこから一気に目の前のクラスメートの頭上に振り落とされるのを、ただ呆然と見つめていた。
悲鳴が上がるが、ぺたんと地べたに腰を抜かした明るい茶髪の寸前で、骨太の鉄棒はピタリとその動きを止めていた。
まさしく寸止めだが、間一髪で、よそからの制止が入ったからだ……!
「んんんっ、らああああっ!」
「アアッ、ゴ、アアアアアッ!!」
丸太のようにぶっとい腕が、警備員の灰色の袖をふたつともがっちり掴んでねじ上げる。と見たら、これがおまけにそのまま反対方向へと力任せに突き飛ばしていた!
この時聞こえた、低い唸りは、どちらが発したものか定かでない。
ともあれこの目の前、気が付けばいつの間にかそこにいた…!
その、大きな、およそ人間ならざるものの背中を見て、ハッと我に返るソウだった。
耳の中には、かすかな舌打ちが入る。
それからさっぱりとした歯切れの良い文句が、この鼓膜をビンと震わせるのだった。
「たくっ、めんどくせーけど、ここは一肌脱いでやるぜっ、このキグルミは脱がねーけどっ! 通りすがりの正義の味方ってヤツをカッコ良くキメてやるさっ! おおらっ、不良ども! そこのけそこのけっ、ドラゴンさまのおでましだぞっ、があおおおおおおっ!!」
「うわっ! そんなっ、こんな重たい着ぐるみ着たまんまで大の大人たち相手にっ? そりゃあっちは刃物じゃないから少しは堪えられるかもしれないけどっ……!」
きっぱり言い切って威勢の良い雄叫びを上げるいつだって直感重視、どこでだって猪突猛進で行き当たりばったりの友達に、ひどく面食らうこちらはそれでもこれまたすぐに決心していた。
こうなってしまった以上、あとはもうなるようになれだ。
一度走り出したらこのカイブツくんを引き止めることなどできないし、血を見るほど凄惨な場面を見過ごすわけにはいかないとじぶんに強く言い聞かせる。
幸い、まだこちらの正体はさらさずにいられた。
いざとなったらこの着ぐるみのまま、不良たちの首根っこ掴んでトンズラ! という選択肢もしっかりと視野に入れて、下腹の中心にぐっと力を込める。
それ以上はもはや考えるまでもない。
……だいじょうぶだ!
バカぢからの相棒がいれば、無理難題もさほどのことではないだろう。
おかげで浮ついた足もとがぴたりと定まった。
目の前で大げさに両手両足を広げて、でんと大きく構える仲間の怪獣同様、武術に関してまるで心得がないわけでもない彼は、日頃の冷静さを取り戻すよう深呼吸して、こちらも自然体に構える。
ズカズカとがさつな足音を立てて床を踏み荒らす相棒とはまるで対照的に、すうっと、すり足で右足を一歩だけ、前へ――。
これに、後ろの左足も自然と付いてくる。
思ったよりかマシな動きだ。
……行ける!
目線をまっすぐ正面に据える少年は、キグルミのドラゴンのいかつい手の平をみずからの目の前へとかざす。
手刀とするなら、こちらも見た目は破壊力が抜群だ。
そのピタリと揃えた五指の先にうごめく殺意の塊、角材を握る警備服の暴漢と対峙する。
「……っ!」
どれほどの力で振り回してきたのか、真新しい角材を持つ手が、みずからの血で赤く滲んでいた。
やはり、まともではない。
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だがこちらも覚悟のほどはすでに決まっていた。
折しもこのすぐ間近からは、今しもして敵方にも負けないぐらいの覇気がぐんぐんと膨れあがる!
ほんとに頼もしいことこの上もなかった。
まともでないのはこちらもおなじだ、と口もとに不敵な笑みがこぼれる。
みずからも余裕を持って、もう一歩、静かに地べたをこする。
ズリッと音がしたのは、背後に長く引きずったシッポだろう。
気にはしなかった。
それだからいまは、正面にだけ、意識を集中――。
息が荒く血走った眼の暴徒へ、こちらから間を詰めてやる……!
不思議と、ぶかついて邪魔なはずこの着ぐるみを脱ぐ、という発想はなかった。
着ぐるみ二体と、殺気だつ警備員コンビのデスマッチ!
傍目にはまるでマンガのような馬鹿げたさまだろう。
かくして、完全なパニックとなる不良たちの情けのない悲鳴を戦いのゴングとなし、狂った殺気と盛んな意気がぶつかり合う。
大乱闘が幕を開けた……!!
※次回に続く…!
※おまけ※
〈i146067|14233〉
※過去の挿し絵です♡ ヘタッピです♪