ミッション1・part1の④
おおぬきたつや・著。
『キグルミ大作戦!!』
〈キグルミ・ミッション・1〉
Part1の4
「……ああっ、うん、なんかオッケーみたいだぜ! 背中ちゃんと閉じてるか、見てくれよ? あ、どうした、ソウ? おい、だからソウってば! なにそんなキョトンとしてるんだよ??」
「えっ……ああ、いや! なんか、さっきよりかやけにリアルさが増したような気がして、内側からゴータが動かしてるんだよね? その、ドラゴン(?)の口から声がしてるみたいだし、でもほんとに、生きてるみたいだよ! ほんと、子供が泣いちゃうくらい……!」
「そーか? ははん、じゃあちゃんと、どこでもいつでもかんぺきコミカルに動き回れますっ! てくらいにマスターしなくちゃならねーな!! キグルミの真のリアクション道ってヤツをよっ、でもそんなに違和感ねーぜ、コレ? 快適快適! バッチグーだぜっ!!」
「リアクション道? でもそれで歌ったり踊ったりは、それこそ違和感が……ううっ」
上から下まで、ずんぐりむっくりと見るからに重そうな図体もなんのその!
その場で陽気にステップ踏んだり小躍りしたりするめっぽう強面の怪獣を前に、なおのこと場の空気から取り残される幼なじみは、しまいは顔つきがげんなりする始末だった。
それでもせめて注意深く、そのけったいな未確認生物、もといマブダチのお気楽男子と見事なまでに一体化した、この謎の着ぐるみの見てくれとありさまを観察した。
内側でしゃべるたびにカパカパと開く大口は、多くは肉食のは虫類に特有な目から鼻へと顔から突き出した両アゴの形状に沿って、この内部に鋭い犬歯、見てくれ頑健な牙を覗かせていた。
上も下も交互に対になる形で、そのかみ合わせもしっかりと正確なようだ。
だがこだわりもここまで来ると、もはや偏執的な異常さすらも感じさせたか。
そもそも単純に、危ないというものだろう。
本来の使用目的からしたら、これにわいわいと無邪気に群がりキャッキャとまとわりつく(?)はずお子様たちを目の前にして、こんな凶器をおいそれと見せびらかせるのは……?
物理的、または精神衛生的にもだ。
加えて、発達した下あごの内側には、しっかりと赤い舌、おおきなベロを、べろん! と見せつけるのだった。
血のように真っ赤なそれは、あの軟らかくも生温かい、ねっとりとした生身っぽさを、それこそが嫌らしいくらい巧みに表現していた。
もはや現実の息づかいすらが感じられそうだ。
これを間近で見る者にしたらば、単純に気持ちが悪いでは割り切れない、いっそ怖気さえも抱かせるほど……!
よって、この人食鮫ばりに悪趣味な口腔の奥底に友人の顔と目線が覗くのかと思えば、中は真っ暗だった。
ただの空洞である。
そこにもある種の異質さ、ただならぬ違和感じみたものを覚える眼鏡くんだ。
「ああ、なんか、気分が悪くなってきた……! 見てはいけないものを見てしまったような、触れてはいけないものに触れてしまったような……はあっ、もう、モロだね!」
「わっほ、わっほ! んん、あんだよ、さっきからやけにテンション低いよな? だからそんなんじゃダメだって、おまえもさっさとそっちのキグルミと合体しろよっ! ほうらよっとっ、へーんしーん!!」
「わっ、まっ、待った、合体って! 言い方にやや語弊があるような? ちょっ、ちょっと、そんな無理矢理、や、ゴータっ、さっき背中がどうとか、言ってなかったっけ!?」
「だいじょーぶだよっ! こんだけ動いてこの中身がちっともはみ出さないんだから、ちゃんときれいに納まってるんだろ! きっと最新式のハイテクキグルミなんだよっ、それに思ったよかすんげー楽チンだぜっ、着てるってカンジがまるでねーんだもん!」
「はっ、ハイテクの着ぐるみっ? いやっ、それはむしろゴータが特殊なんだろ! ああっ、もういい加減じぶんを基準に周りを推し量るのはやめてくれよっ、わ、わかったから!」
この体の輪郭だけなら幕内力士と見紛うようなでぶちん着ぐるみは、しかしながらそのかさばった体躯からは想像もつかないくらいに身軽で器用な身のこなしだ。
動きにやたらなキレがあった。
これがはじめてとは思えぬパフォーマンスに舌を巻く友人は、完全に翻弄されてしまう。
あれよあれよとこの場に残るもう一体の着ぐるみの背後に突き出され、そのまま内部の暗い空洞に頭から押し込まれかけるのを、いいや――。
必死に抗ってどうにかこの寸前で、阻止!
ごつくて肉厚な着ぐるみの手を振りほどき、じぶんで着込むと懸命に意思表示する。
しかしいざ現物を前にするとだ。
そうこれがただの背中越しであっても異様な現実味にあふれる、そのあくまでどっしりとした不気味なまでの存在感にすっかり腰が退けてしまった。
「ううっ……やっぱり、こわいな! ほんとに大丈夫なのか、コレ??」
そんなひとしきりたじろいでいると、背後からまたもやしてせわしない気配がこちらもしきりと急きたててくる。
「……んっ、おいソウ! 早くしろよっ、どうやら誰かがこっちに来るみたいだぞっ? 気配を感じる、四、五人いるぜ? やばいって、さっさとそん中に隠れちまえよっ! ほらいそげって!!」
「えっ、またそんな! 急かさないでくれよ、だってこれってばかなりの勇気がいる……ん、どわぁっ!?」
〈i144584|14233〉
どんっ!!
……最後は、問答無用だった。
背後のでっかい気配がやけに身近に感じると思ったら、いきなり背筋に強い衝撃を食らってしまう。
目の前が真っ暗になった……!?
結果、真後から無防備の背中を無理矢理どつかれて、身体ごと押し込まれてしまったのだ……!! と理解する前に、不覚にもこの意識が遠のいてしまう、彼なのだった――。
※次回に続く…!