ミッション・1 part1の②
おおぬきたつや・著。
『キグルミ大作戦!!』
〈キグルミ・ミッション・1〉
Part1の②
「あん、だいじょーぶかよ? ソウ、おまえさ、ひょっとしてコイツに引いてたりすんのか? わはは、ダメだぜっ! これからこん中に入ってよ、元気にお子様たちとじゃれ合おうってヤツが今からそんなんじゃさ! ああっ、おれはもうマジ、乗ってきた!」
「いやだってそりゃあさっ、ゴータはそんなぶっちゃらけた性格だからっ! ……もとい、それこそ子供の側が引くんじゃないのかな、こんなやたらめったらリアルなの……?」
普段、周りからは良くできた模範生と見られる少年は、顔つきがすっかり引きつり加減だった。
当然だ。
それが持つ、凶暴な性分をありのままに宿したその鋭い目つきといい、触れればもう今からでも動き出しそうな肌の色つや、質感といい、もはや生々しすぎる。
そもそもがここまで作り込むのに、いったいどれほどの費用を投じたものなのか……?
それを頭の隅で考えただけでも、もはや不用意に近付くことすらがためらわれた。おっかなびっくりに前後にあるモノを見比べて、当惑した面持ちを友達へと向ける。
しかしながらこれを当の無神経な級友は、きょとんとした目つきで見返してくるのだ。
「なにが? カッコいいじゃん! こんなに良くできてんだぜ! おれはもっとちゃちな動物モノかと思ってたのにさ? リスとかクマとか、ウサギとか、ゾウアザラシとか!」
「ま、まあ、確かにね? ゾウアザラシはないと思うけど……人間が着て歩くって性格上、とりあえず二足歩行が似合うキャラ設定じゃなけりゃ、いやでも、これはさすがに……!」
「ちゃんとながーいシッポまでついてるんだぜ! これだけありゃ、ケツ振ってコイツをぶんぶん振り回したら、悪いザコキャラなんてまとめて一発でぶっ飛ばせるんじゃねーか?」
「健気なお子様たち相手にはまるで必要がないワザだよっ! こんなの返って邪魔にしかならないだろう。今だってこうして現実に、迷惑こうむってる人間がいるんだからさ?」
「慣れだろっ、慣れ! きっと便利な使い道ってものがあんだよっ、バシンッて!!」
「いやだから、バシンッて……でもこれってのはホントに、ははっ……」
じぶんが見事に蹴躓いた異物――。
これが実は、その着ぐるみ本体の大きくぶりんと突き出たでん部から垂れ流される、それは大蛇のように太くて長大な一本の〝尾〟だとわかって、やり過ぎだろうと呆れ加減の目つきとなる。
正直、舌打ちが出かけた。
だがそんな文句も、怪獣さながらに剛胆な性格の同級生の前にあってはあっさりと笑い飛ばされてしまう。
じぶんに都合が悪いことなどまるで意にも介さないのがこの彼の根っからの性分であり、ある種の特技でもあった。
事実、今だって、べたべたと両手でなで回している着ぐるみ(?)をいざ実)際に身につけるぐらいのことはやりかねないそぶりである。
見ていて不安だった。
片や、そんな危うげな視線を間近から浴びているのを知ってか知らずか。
着ぐるみの怪獣のいかめしい顔面を両手でがっちり掴んで、それを右へ左へしげしげとねめ回しながらの相棒は、また言った。
「なあ、ソウ? じゃ、これってのはさ、つまるトコで、どっちなんだ?」
「は……どっち?」
はじめ何やら抽象的にしたその言葉の真意を測りかねて、問われた少年は首を傾げる。その後の、もっと具体的な名称を伴った問い掛けにも、また頭を傾げてしまうのだった。
〈i143742|14233〉
(※色塗りでやや失敗しちゃってますかね…!)
「だから、ほら! つまりは〝ゴ×ラ〟と〝ガ×ラ〟の、どっちなんだってことだよ?」
「えっ……さあ? ま、見ようによっては、どちらとでも受け取れる気がするけれど?」
いささか困惑しながらのおざなりな返答に、だがそれでは納得がいかないでっかいともだちはむっと太い眉をひそめてみずからの声を荒げる。
おかげ、キグルミの頭を掴む両手にぶんぶんっと余計な力もかかる。
どっちが怪獣なんだか見ていて怪しくなってきていた。
「それじゃあ、なんて呼べばいいのかわからねえじゃんっ、じぶんが行きたい方向性ってものをはっきりさせろよっ! 大事なコトだぜっ、コイツの中身になる立場からしたらばっ!!」
「え、でも別にそんな、無理に決めつけてかかることもないと思うけどもね? ふーむ、そうだな、こうして良く見てみるに、背中に大きな甲羅を背負ってるわけでもないし、お尻に特徴的な長いシッポがあるあたりはたぶん、前者よりと言えるんじゃないのかな? んーっ、ああでも、それにしたらゴツゴツした背びれがないんだよね! 身体の表面もきれいでスベスベしてるし、これだったらむしろぼくら人間よりにならないかな?」
冷静な見立てのもとの判断に、さらに現実的かつ合理的な見解を付け加えるしっかり者の優等生だ。
「いいや、もとよりたかが地方の企業体が経営する大型ショッピングモールのマスコットが、そんなメジャーなキャラクターの商標やら著作権やらをおいそれと濫用できるはずがさ……やっぱり、どっちでもないんだよ。さしずめ、オリジナルなんじゃないの?」
「ふーん、そっか! ま、それならそれでかまいやしねーんだけどよっ! ふーん……!」
「ふーんって……あのさ、ゴータ?」
それきり着ぐるみと見つめ合ったままに黙りこくる友人に、微妙な違和感を覚える。これがいつだって後先考えなしにした幼なじみのしでかす、あぶなかっしい無茶ぶり、無謀な冒険行為への胸騒ぎだと意識しかけたとき、折しもその問題児が言った。
半ば、予期していたことを。
これがまたとてもあっけらかんとした笑顔でだ。
「じゃ、着てみようぜ! このドラゴンちゃん! せっかくだから、試着ってヤツをさ」
「えっ……どっ、ドラゴンちゃんって、そんなっ、勝手にまずいだろっ! おいっ!!」
〝ドラゴン〟――そうである。
世間一般で最もメジャーな二大怪 獣としての呼称があまりおもわしくないという都合、その呼び方にはしごく合点がいった。
太古の昔にこの大地を支配したとされる、肉食の大型は虫類にも似た威容を見せつけるそれは、他にこれといった呼びようが浮かばないほどだ。
単純に、怪物全般を表わす〝モンスター〟よりは聞こえもいい。
やはり見かけちゃちなオバケと言うより、超リアルな〝怪獣〟なのだ。
その言葉の響きとして、ドンとか、ゴンのほうが、よっぽどさまにはなるだろう。が、しかしだからと言ってである。
これをこんな行き当たりばったりのドサクサ紛れにみずから占有してしまおう、とまでは考えがいたらぬそこは至ってまじめな常識人の眼鏡くんは、慌てて声をうわずらせる。
相手は一切、意には介してくれなかったが……。
「いやっ、だからまずいってば! ろくな断りもなしにこんな奥までズカズカと入り込んで、勝手に照明点けて、店の備品に手あかをつけて、おまけにその中身まで汚しちゃいましただなんて!? ここで捕まったら最悪、親か担任が呼び出し食らっちゃうよ!」
「かまわねーだろ? つーか、バレやしねーって、コイツをヘタにぶっこわしたりしなけりゃさっ、そよれか都合も良いいコトふたりぶんあるんだし、誰かにツバつけられちまう前に、ちゃんとじぶんのモノにしとかなくっちゃな! ああ、それにおれは、明かりだなんてつけちゃあいないぜ?」
「えっ? ……あ、だからそんな乱暴に! はあっ……もう、知らないからな? あと、背中のバッグは置いて、せめてその汚いスニーカーは脱いでからにしなよっ!」
入学からいまだ三ヶ月足らずで、さすがは学校でも名の知れたお騒がせの問題児童だ。ほとほと好き勝手な言いようである。
親ならずとも他人が聞いたらなんと言うやら。
これに心のどこかでかすかな引っかかりを覚えながら、嘆かわしげなため息をついて、いやいやとちからなくかぶりを振るこちらは学年屈指の優等株だった。
もはや処置なし……!
※次回に続く…!
※追記
挿し絵がやや失敗気味なので、以下に色をぬってないさらのバージョンをアップします。
もとはこんなんです…!
〈i143743|14233〉
※左の主人公はメガネの中にある左右の目をホワイトをべたぬりしてどちらも消してあります…! 以前はメガネだけを描いていたのですが、ちゃんと目を描かないとうまくバランスが取れなかったりするんですよね?
※ちなみに以下が、はじめに描きかけでギブアップした、ラフです♡
〈i143744|14233〉
※はじめの構図と完成形(?)にズレがあるのは、いざこれを描いてみたら左右の主人公たちのサイズに大人とこどもどころじゃないくらいの差が開いてしまったからです。結果、この違和感をなくすために左の主人公は顔だけのアップとなりました。無念! やっぱり構図とかデッサンをおろそかにするとろくな仕上がりになりませんね♡
※最後に、今回の挿し絵をもとにもう一度描き直した、リテイクバージョンです♡
〈i143745|14233〉
※キグルミのデザインが段々と変わっているので、この最新バージョンの挿し絵ですね! 構図自体に変化はありません♡ あいにくまだ下絵の状態ですが、余裕があったら色を塗って挿し絵を差し替えたいところです。つっても本家のサイトでですかね?
次回はこのキグルミのカタチの変遷をおまけにくっつけたいです♡
以上です! 最後までお読みいただきありがとうございました!!