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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 02:yellow moon
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第四二話 優しさ

 時刻は午前一時過ぎ。港町であるデルパエは喧しく繰り返す潮騒に包まれながらも、静かに眠りにつこうとしていた。灯りが点る家屋も少なく、遠景に眺める分にはもう町は暗い。今、起きている人達はなにをしてるんだろうか。そんなことに思いを馳せながら、ボクは町を眺めていた。隣にはユーフがいる。スカイも一緒にいるけれど、今はユーフの腕の中で眠っている。

 ボクたちは町から少し外れた高台にいた。すぐ近くには海辺があって、寄る白波の音が絶えず響いている。そこは、初めてユーフとボクとが出会った場所からそう遠くない場所だった。わずかではあるけれど、ここは空に少し近いから、月が大きく見える場所だった。

「綺麗……」

 ユーフが感想をもらした

 ここにきてから彼女はずっと月を見つめたまま黙ってしまっていたので、ボクもボク自身と話し合うために、内側へとダイブした。

 ボクの思考はいつも、面白くないものばかりだった。

 ボクはあるちぇの放った言葉に対して、反論を始めた。

 理論的にどこが間違っているのか。

 道義的になにが間違っているのか。

 そういったくだらないことを、延々と頭の裡で考えた。

 無意味な時間だと思う。

 本当に。

 たとえ熟考した結果、ボクが正しいのだと云い切れたとしても、相手に非があると断定できたとしても、結局、意味はない。仮にその証明をあるちぇに突きつけたところで改心するとは思えないし、そもそもでこの証明自体が間違っている可能性だってある。ボクはユーフとあるちぇの関係性を知らないし、ここにくるまでの経緯だって判っていない。そんなボクがいくら表面的な正しさを口にしたところで、伝わるわけがない。もとい、あいつとは。あるちぇとはもう、会いたくなかった。顔も合わせたくないし、口も利きたくない。あいつとは、もう……。

 いつも不思議だった。

 どうして、暴力的で利己的な人間に羨望を向ける人間が多くいるのか。ゲームや漫画の世界では温和で、献身的な――社会通念上、正義とされるような行動を断固として選択することができる人間が主人公とされているのに、好かれているのに、どうしてこうも現実世界ではその通りにいかないんだろう。

 よくわからない。

 感動したとかいってた癖に、数時間後にはすぐに人を貶せるような人間の思考回路が本当に、わからなかった。

 なにに感動したんだろう?

 謎だと思った。

 本当に、くだらない思考だと思った。

 そんな思考を、延々と繰り返した。

 どうして。

 どうして世界はこんなにも生きにくいんだろう。

 自分の罪を誰かになすりつけたり。

 だれかが傷つくような嘘を平気でついたり。

 裏切ったり。

 騙したり。

 殺したり。

 貶めたり。

 ねえ、ユーフ。

 ボクは君と一緒にいたい。

 ずっと、ずっと一緒にいたい。

 同じ価値観をもつ君と、永遠にいたい。

 過ごしていたい。

 君がいれば、なんとか生きてけそうだから。

 こんな世界でも生きる意味を見いだせそうだから。

 だから。

 ボクを。

 ボクを見て欲しかった。

 月だけじゃなくて。

 ボクも……。

 ボクもその視界に、入れて欲しい。

 怖いんだ。

 今。

 世界が。

 人が。

 総てが。

 なにもかも。

 みんな。

 みんなみんな。

 だから。

 お願い。

 ボクを。

 ボクを……。

「大丈夫」

 ユーフが、云った。

「大丈夫だよ。わたしはずっと、そばにいるから」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。だからそんな顔しないで」

 そういって、ユーフはボクの手を握った。

 どうしてかわからないけれど、温かい気持ちになってボクは、咳き込んだ。辛くて、どうしようもないものが、お腹からでていく感じだった。

 ボクもう、なにも考えられなかった。

 考えたくなかった。

 まどろむように。

 たゆたうように。

 目を閉じる。

 ただユーフが温かい。

 それだけで、心が満たされていく。

「ねえ」ユーフが呟く。「あの約束、覚えてる?」

「約束……?」

「忘れちゃった?」

「ごめん」

「ほら、おばあさんにお魚を配ろうって」

「ああ、そのこと」

「わたし、おばあさんだけじゃなくて他のNPCにも同じことをしてあげたいの」

「他のNPCにも?」

「……うん」

「べつに、いいけど」

「ほんとに?」

「ほんとだよ」

 だって、ボクも同じ気持ちだったから。

 だれだっていい。

 なんだっていい。

 いまはただ、とにかくこの感情をぶつけたかったから。

 優しさを、誰かにぶつけたかったから。

 ボクは、首肯した。

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