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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 02:yellow moon
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第三九話 VSあるちぇ

「あるちぇはね、あいつが大っ嫌いなの! だからこんなこともするし、あんなことだってやるつもり。私怨! 憂さ晴らし! 仕返し! だからもっと苦痛を味あわせてやりたいし、辛酸をなめさせたい。懊悩させたい。泣かせたいし後悔させたい! それで全部! この行為に、嫌がらせ以外の感情を含みたくないし含むつもりもないの! だって嫌がらせだから!」

 あいつに!

 あの屑に!

 そう宣言して、あるちぇは西風靴<ウィンドアップ>を唱えた。

 風の加護による移動速度上昇。

 ボクを無視して、ユーフを追うつもりだろう。

 それだけは阻止しなければならないと思った。

「どうして」ボクは問う。「どうしてユーフをそこまで嫌うの?」

「ユーフ?」あるちゃはすこし考えて、「ああ、あの屑のこと? ほええ、あいつ、そんな名前を名乗ってるんだ。<最高にぴったり>じゃん」

「理由は、全部話してくれなくてもいいから、どうしてこんなことをするのか教えてよ」

「嫌」

「どうして?」

「さっきも云った! 部外者に話すことはないの。それにキミ、時間稼ぎが露骨だし、余計に話してる時間はないっしょ。マヂ」

「ユーフは! ……ユーフは、ボクの、友達なんだ。だからやめてよ、こういうの」

 ボクも。

 ボクも嫌いだから。

 こういった、ぎすぎすした雰囲気が。

 とげとげした空気が。

 嫌だから。

 本当に。

 やめてよ。

 もう。

「嫌だ!」

 なんで。

 なんで、そんなことをいうの?

「あるちぇだって、同じ気持ちだから!」

 同じ?

 ボクと同じなら。

 止めてよ。

 好戦的に、ならないでよ。

「気が済まないの! 眠れないの! 業腹なの! 意趣返しなの!」

 だからって、そんなこと。

 こんなこと、していいわけない。

 いきなり矢を撃って。

 苦しむ姿を眺めて。

 そんなの。

 いいわけない。

 やめてよ。

「やるの! 絶対に!」

 なんでだよ。

 ほんとに。

 やめてよ。

 お願いだから。

「嫌がらせ、やめないから!」

 ああ、そう。

 わかった。

 ふうん。

 こいつも、話が通じないやつだ。

 へえ。

 むかつく。

 すごくむかつく。

 ああ、そう。

 わかった。

「やろう」

 こいつも。

 赤く染めてやる。

 この手で。

 この剣で。

 ボクの手で。

 鋭利な剣で。

 ずたずたにしてやる。

 この世界から、ドロップさせてやる。

「前言撤回! 誰がやるか、ばか!」

 と、あるちぇは屋根から大跳躍した。尖塔部から地面までの距離はおよそ一〇メートル。いくら魔法によって風の加護を受けていても、あの高さから落ちたのでは落下ダメージは避けて通れないだろう。一応で落下ダメージは空中から落下して地面に接触するまでの時間で決定されるらしいから、昔はスキルを利用して故意に落下速度を速め、地面への到着時間を短くしてダメージを減らすなんていう物理無視技が使用されていたこともあったけれど、それはもう修正されていて、スキル使用時や空中での被ダメージ時の際には一定の数値を初速度に加算されるようになったらしいから、あの高さから飛び下りた時点であるちぇが助かる方法はないように思えた。けれどもそれだとあるちぇは自ら落下ダメージを負うために跳躍したことになるので、状況的に判断すればなにかしら落下ダメージを軽減する手段があると見ていいだろう。

 ボクのその予想は当然のことながら当たって、あるちぇは空中で武器を変更した。

 換装法だ。

 それで、弓から鞭へと武器を変えた。

「んいっ!」

 あるちぇは精一杯に腕をしならせ鞭を振った。目標は鉄製の街灯、デザインとして装飾された突出部位。そこに鞭を巧みに絡ませて、ブランコのように運動した。具合のいいところで鞭から手を離すと、あるちぇの躰は緩やかな曲線を描き、華麗な身のこなしで地面に着地した。

 数秒のできごとだった。

 たぶん、あの鞭は使い捨てで、<移動用としてストック>しているのだろう。それがボクにとって、驚きだった。

 恐らくは上級プレイヤー。

 そうでないとしても、エンジョイ組ではありえないと断言できるほどの動きだった。技術だった。度胸だった。

 だけど、ミスだ。

 換装法には気を付けなければならないことがあって、武器をショートカットで変更した場合には三〇〇秒の間、武器の変更ができなくなる。そういったペナルティがあるからいま、換装法で手に下鞭を手放したあるちぇは丸腰だった。しかも、弓使いの丸腰。戦闘職ならば多少なり素手でもスキルが使用できるのだけど、アーチャーだけは別。素手で使用できるアタックスキルはせいぜいノックバック技のスマッシュだけ。魔法だって自己支援系が主だから、攻撃する手段がない。見当たらない。それなら。それならボクでも勝てるかもしれない。そういった自信があった。確信があった。

 まあ――追いつければ、の話だけど。

 あるちぇは着地後、ボクを無視して路地へと入っていった。ボクは不意打ちに警戒しながら曲がり角を進んで追いかけると、既にあるちぇの背中は遠くに見えた。ウィンドアップの所為だ。この時点でもう、絶対に追いつけないとボクは思った。魔法で状態異常にして相手の動きを封じようにも、発動時間までにスキル範囲外へと逃げられるのは明確だった。

 焦った。

 だからこそ歩いた。

 歩きながら、考える。

 まず、スカイとユーフのルート。

 そこからあるちぇのルート。

 おおよそでその二つを考えて、そのルートがぶつかりそうな場所も考えて、イメージが湧き始めると同時にボクはまた走り出した。

 直接的な足では追いつけないかもしれないけれど、いまのボクには土地勘がある。

 ここずっと、ボクはクエストを消化するために町を彷徨ったし、ユーフ一緒に観光で練り歩いた。そういった経験が、ボクに自信をつけた。

 走りながらボクは、イメージを形に変えていく。

 抽象的な物から具体的な物へ。

 数多くのポイントを絞り込んで、数を少なくして。

 確率の高い場所へと。

 場所へと……。

「――な!」

 とは、あるちぇの声。

 目の前の路地から突然、ボクが現れたからだろう。

 タイミングまで計ったつもりはなかったけれど、丁度いい感じにボクはあるちぇの眼前に出る事に成功したので、そのまま奇襲をしかけることにした。

 剣を、あるちぇの進行方向から水平に薙ぎ払った。

 狙った部位はお腹。

 あるちぇは避けることも防御することもできずに、刃を腹に受けた。

 あるちぇは地面を転がり、地面に伏して呻いている。

 一応で、痛みを感じるほどにはダメージを与えられたようだった。

 ボクはそのまま魔法を発動する。

 レベルアップに伴い、新しく覚えた魔法。

 黒律の匣<ロウオブブラック>。

「逃走を禁止にする!」

 ボクはそう宣言した。

「……この」

 と、あるちぇは素手で構えた。

 だからボクは、魔法をぶつけた。

 雷はあるちぇに当たった。魔法耐性装備にしているのか、あまり効果的には見えなかった。ボクは距離をとりながら別の雷魔法をぶつけた。

 あるちぇが声を上げた。

 悲鳴だ。

 その隙に煙幕を巻いて、死角からあるちぇに向けて剣を振った。

 あるちぇはボクの攻撃を避けようと後退して、そこで<不可視の壁>にぶつかった。ボクは追撃を行って、あるちぇの肩口に剣を刺した。

 同時、スキルスマッシュが発動されて、ボクの躰は後方に大きく吹き飛んだ。

 しかし、吹き飛んだ位置――この中距離が一番、ボクの職業とって戦いやすい場所でもあるから、それは好都合だった。

 また雷を落とした。

 状態異常にした。

 そこに雷をまた当てて。

 状態異常にして。

 MPの許す限り、ボクは魔法攻撃を続けた。

 あるちぇは逃げ回った。

 それをボクは、執拗に追い回した。

 急ぐ必要があった。

 あるちぇが武器を持ちかえてから、既に時間が経過している。

 恐らくはあと一〇秒ほどで、換装ディレイがとけるだろう。

 その間にボクは、こいつをやっつけなければならなかった。

 この手で。

 こいつを。

 ユーフから守るために。

 ずたずたにしなければならなかった。

 だけど突然、攻撃が全然当たらなくなった。

 ボクが焦って、照準が狂いはじめたからかもしれないけど、あるちぇの動きが格段と良くなった。

 そんな気がした。

 あるちぇは落ち着いている。

 奇襲されて、一方的な攻撃を受けているという動揺が、まったく見当たらなかった。

 さっきまで、必至だったのに。

 目に見えて、焦っていたのに。

 たぶん。

 きっと。

 読み切ったのかもしれない。

 ボクが与えるダメージと、残り換装ディレイ時間と。

 それらを計算して、あるいは経験上で理解して。

 死ぬことはない。

 倒されることはない。

 勝機。

 勝ち筋。

 そういったものを、あるちぇのなかで確信したのかもしれない。

 だから、落ち着いたのかもしれない。

「……やった」

 と、あるちぇが小声を漏らした。

 口角を上げた。

 ボクは煙を張って、また視覚から剣を振りおろした。

 勿論、剣は当たった。

 しかもクリティカルだった。

 だけど、煙の隙間から見えたあるちぇの表情にはまだ、笑みが零れていた。

 スマッシュをまた放たれた。

 ボクの躰はまた吹き飛んだ。

 だけど得意距離。

 ミドルレンジ。

 ここなら魔法とスキルの選択幅が最大になる。

 ボクにとって。

 インフェクターにとって。

 絶対的に有利な場所だった。

 けれども、それももう終わりだろう。

 晴れゆく煙に、彼女の姿が見えた。

 その手には小弓。

 矢が、構えられていた。

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