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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 02:yellow moon
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第三八話 必中する矢

「……スキルフルクラウン?」

 ワールド・リストラクションじゃないのか?

 それじゃあこの不意打ちの意図は?

 どうしてユーフを狙うの?

 これから。

 これからどうするつもりなんだろう?

 そういったボクの疑問が、きっと表情に出ていたのかもしれない。

「部外者はでていってよ」あるちぇは表面的には穏やかに、けれども冷たく云い放ち、弓を構えた。「用がない人間を射るつもりはないからさぁ!」

「……ユーフの隣にいたボクが、部外者に見えるの?」

「いや、部外者っしょー」

「ちがう。ボクは部外者なんかじゃない」

「だから?」

「は?」

「違うとして、なんなの?」

 その言葉と共に、鏃に炎が付与された。

 あるちぇの瞳に、炎が揺らめく。

「キミがそこの屑と知人であろうと友人であろうと、それがあるちぇになんの意味があるの? あるちぇの行動に、なんの抑止になると思うの?」

「……そうだね」

 その通りだ。

「それじゃあどいてよ」

「どかない」

「なんでよ」

「だって、君の理由もボクの抑止にはならないから」

「……ふうん。じゃあやるか!」

「それを断る選択肢は?」

「ないよ!」あるちぇは叫ぶ。「だって、道理を先に折ったのは屑の方だからね!」

 と。

 矢が放たれた。

 以前、ボクがイグニス皇帝から受けた、火傷効果付きの矢だ。けれどもそれだけ。追加効果があるというだけで、スキル自体の攻撃力もなく、火傷による熱傷ダメージも大したことはない。イグニス皇帝の場合は、ボクに対する嫌がらせという目的があったからまだわかるけれど、この状況化で数ある弓術スキルからファイアアローを選んだ理由が、ボクにはよくわからなかった。

 放物線を描き飛来する矢はやはりボクではなく、ユーフへと向かっている。

 すごいエイム力だ。

 目測だけどたぶん、この矢もユーフに当たる。

 普通、あの距離から目標に当てるとなると上手い人でも三割いけばいい方だというのに、連続して三回――いや四回とも総て、吸い込まれていくみたいにユーフへと引き寄せられていく。しかも最初の一撃目は高低入り組んだ町中を全速力で走っている目標へとめがけての偏差射撃だ。そうとう良い腕だと考えても、ちょっと異常だ。たしかに、弓術スキルの中には当てれば以後十秒間攻撃が必中になるスキルというものがあったはずだけど、それはノーダメージ判定のはずだったし、ユーフが受けたものはどれもこれもアタックスキルだから、補助スキルによる効果というのは考えから除外してもいいだろう。

 ともかく。

 ボクは襲い掛かってくる矢に対し、射線上に、真正面に立ちふさがった。

 もう一度払い落とすためじゃない。

 あれはかなりギャンブル的な行為だから。

 遊びでならともかく、今は払い落とせなかったらユーフに当たるから。

 ボクを矢を左腕で受けた。

 炎が激しく燃え上がる。

 火傷確率はデフォルト七割。

 相手の装備はよくわからないけれど、ボクよりも上だろうからレベル差補正も最大値で考慮すれば約八割といったところか。

 しかし、火傷の効果は発動しなかった。

「……あれ」

 なんだか、軽い。

 いや痛いけど。

 あるちぇの攻撃が軽すぎる。

 ダメージだって、かなり軽微だ。

 原因と理由を突き詰めたかったけれど、まだ風切り音がしていることに気づいて、ボクは前を見た。

 矢はどこにもない。

 だけど、音はどんどん大きくなっている!

 どこだ。

 どこだろう?

 頭上。

 頭上に、一本の矢があった。

 高く放物線を描いた矢は、すでに上方への運動を終えて、落下してきている。

 だけど、当たるわけがない。

 そんなむちゃくちゃな軌道を描いた矢が。

 人に。

 当てられるわけがない。

 ゴルフのロブショットで直接カップインすることよりも、難しい芸当だ。

 それを二射目で。

 囮に使ったファイアアローの後の、速射に近い間隔で。

 浜風だってあるのに。

 それらを全部計算しきるなんてことが人間にできるか?

 できるはずが……。

「……いや」

 この矢もたぶん……。

 ちがう、きっと。

 絶対に。

「―――当たる」

 だって。

 矢が、<動いている>。

 鉛直に落下するはずの矢が、やはりユーフに吸い込まれるように動いているから。

 だから、当たる。

 ボクはユーフに覆いかぶさった。

 背中に矢が刺さる。

 今度はさっきよりも鋭い痛みだった。

 だけど我慢てきないほどじゃないし、ダメージ的にも大したことはない。

 けれども、当たった。

 やっぱり、当たった。

 あの命中率は異常だった。脅威だった。

 なんとか接近戦に持ち込みたいところではあるけれど、ユーフから離れれば間違いなくあいつはユーフを射るだろう。

 しかしなにかしら対処しなければ、ボクはこの場に釘づけにされる。

 じわじわとやられる。

 あいつに仲間はいるのか?

 そういえば所属ギルド名は以前、どこかで見たことがあるような気するけれど。

 もし、仲間が近くにいるならこの状況はかなりやばい。

「ユーフ、起きられる?」

「…………」

「だめか」

 気絶してる。

「ギャブ―!」

 スカイが鳴いた。

 そういえば、スカイはこんな小さな躰だけど、レベル100くらいもあるイグニスの腕を噛みちぎるほどの力を持っている。加えてユーフは小柄な方で、しかも装備はかなり軽装だ。だから、スカイがユーフを連れていくこともそこまで難しいことじゃないのかもしれない。

「スカイ! ユーフを家まで連れてけ!」

 石畳を引き摺ることになるけど。

 ちょっと、痛いかもしれないけど。

 それでも、この状況よりはマシだろう。

 ボクは煙幕を張った。

 この身を隠すためではなく。

 煙幕による遠距離攻撃無効化を狙うでもなく。

 スカイがユーフをここから連れ出すまで、あるちぇから視界を奪うために。

「……あれ? 目標がきえちゃった!」消えたユーフを見て、あるちぇは半ば大仰に、演技っぽい声を出した。「キミの他にも仲間がいたのかな?」

「ちがうけど」

「じゃあどうやったの?」

「手品だよ」

「えー!? 手品できるの? すごーい!」

 これもまた、作った声だった。

 完全に、ユーフを見失ったタネが分かっている感じだった。まあ、そもそもで手品云々はボクの数少ない冗句だったから、特に気にはならないけれど、あるちぇのその発言が演技であるのならば、それはつまりでわざとユーフを見逃したということになる。

 突然攻撃しておいて。

 不意打ちをしかけてきておいて。

 それでいて見逃すだなんて。

 自分勝手だ。

 行動に一貫性がない。

 意図がまるで読めない。

 理屈がみえない。

 理由が見当たらない。

 そういうのがひどくむしゃくしゃした。

 一体、なんのつもりだろう。

 なんのつもりで、ユーフを射ったんだろう。

「嫌がらせだよ!」

 そう、あるちぇが云った。

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