第二四話 デザイアーリ海岸
デザイアーリ海岸の敵は当然だけど、その多くが魚介系モンスターだ。それはつまり、水属性モンスターが割合の殆どを占めているとうことであり、雷属性の攻撃スキルをいくつか持っているボクにとってはかなり優位な場所といえた。とはいえ、ここの敵のレベルは三五前後とまだまだボクよりも弱いので、その優位性を生かせる機会はほとんどないのだけれど。
ボクはうろうろと海辺を彷徨い、背後に多くの敵を集めはじめた。この行為はトレインといって、こうしてマップ内の敵をかき集めてから範囲攻撃をぶちあてると、少ないMP消費で効率よく経験値を得ることができる。しかし、このトレイン行為は他のプレイヤーにとっては迷惑しか生じないことから、ゲームやサーバーによっては禁止している所もあった。だけど今は周りにプレイヤーもいないみたいだし、とボクはトレインを行い、集めた敵に雷を落として大量殺戮を何度も行った。もともと、レベル上げとかそういった単純作業はわりと好きな方だったから、しばらくの間、ボクは狩りに夢中になった。
トレイン狩りをしながら進んでいると、大きな洞窟が見えてきた。ということは、クエストの達成場所はこの洞窟の最奥、ということなのだろうか? マップを確認してみると、デザイアーリ海岸/洞窟という名称だったので、たぶん、そうらしい。レベルによる入場制限がされていて、レベル三〇以下のプレイヤーは入洞できないようになっている。レベル六〇になったボクは、スカイ連れて洞窟内部に足を踏み入れる。
洞窟の中には輝く結晶が点在していて、それが光源となっているようだった。結晶の多くは青く輝いているけれど、時々紫や黄色の結晶もあった。洞窟内部は少し湿っていて、ぬるぬるしているかと思いきや案外、そうでもない。それはゲーム世界だからなんだろうか? イメージ的に、もっと滑りやすいと思っていたのだけれど。
洞内を歩き進めていくうちに、ボクは鍾乳洞みたいだと、そういった感想を抱いた。きっと、ここらの土地は石灰岩みたいなものでできていて、水かなにかに侵食されて形成されたのだろう。実際の鍾乳洞との大きな違いは、温度とかだろうか。ボクが昔、行ったことのある鍾乳洞は夏でもぎんぎんと冷えていたけれど、ここはあまりそうでもない。少し涼しい、というくらいの温度だった。
「それにしても、声がよく響くね……」
ボクはボクの声があまり好きじゃないから、この反響の仕方がいやに慣れなかった。昔、親戚の結婚式の時にカラオケ店に連れて行かれた時のことを思いだす。あの時ボクは終始俯いたまま黙っていて、親戚のおじさんからなんであいつ歌わねえんだと云われたことが、今でも少し、トラウマになっている。
歩いていると、途端に足音がどこかに抜けていく感じがあった。たぶん、奥にかなり広いスペースがあるのかもしれない。ボクは音をなるべく出さないよう摺り足気味に、ゆっくりと歩く。
ずりりり。
変な音が聞こえた。
なんだか、不快な音だ。
その音の正体はわからないけれど、ボクは歩を進め、大きな空洞へと出た。
パッと見で、体育館ほどの大きさはあるだろうか。石柱が多く、死角が多いけれど、輝く大きな結晶がそこらに点在していて場所によってはかなり明るく照らし出されている。岩石から溶けだしてできたつらら石や石筍がいくつも林立している光景は神秘的だけど、やたらとげとげしくもあった。
ずりりり。
今度は少し、大きくなった。
なんの音だろう?
だんだん、近づいてくる。
「ギャフ!」
スカイが鳴いた。
近くに敵がいる、という鳴き方だった。
ボクは身構え、剣を握る。
――音が止まった。
ボクはもう一度視界を三六〇度回転させる。
敵の姿はない。
そう思ったけれど、大きな石柱の影から、三叉の槍を携えた魚類モンスターが現れた。
サハギンだ。
そう認識した途端に、ボクは攻撃を受けた。
簡単に避けられる。
そう思ったけれど、三叉のうちの一つがボクの肩を貫いた。
痺れるような痛みを感じて、ボクの表情がわずかに曇る。
剣を払う。
しかし、その攻撃は躱された。
正鵠を射るなら、サハギンが後退したタイミングでボクが剣を払った。
ボクは呪文を唱えて、雷をサハギンに落とした。
ボクの雷は純正魔法職のそれとは違い、状態異常がメインとなっているから攻撃力は若干低く設定されていたけれど、それでも弱点補正でかなりのダメージを与える事に成功した。というより、ボクの職業であるインフェクターは育成方法によって完全ソロ狩り型と、状態異常特化型とに分類されるのだけど、ボクはその中間、俗に魔剣士型と呼ばれる複合型に属していたから、これでも魔法攻撃力はそこそこに上げてある。だからこそ、弱点補正値とダメージ値とをかけた時になかなかに良い数値を弾きだすことができた。
ボクはもう一度雷を落とす。
二発目で、サハギンは倒れた。
オーバーキルだった。
サハギンは散って、消えた。
ずりりり。
ずりりり。
また、音が聞こえた。
前を見据えると、新たなサハギンがいた。
サハギンは大きな三叉槍をだらんと片手に携えて、ゆらり、のらり、と歩いていた。
不快な音の正体は、その大きな三叉槍を地面に引きずる音らしい。
洞窟内部でその音は反響して、正確な出所をよくわからなくしている。
ボクはできるだけ広いエリアの中心に一度って、ぐるりと見渡した。
一匹、二匹、三匹……。
「……七匹か」
七匹のサハギンが、ボクの前に現れた。




