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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 02:yellow moon
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第二二話 遭遇

「気のせいだろう」

 ボクは踵を返して、砂浜へと向けて走り出した。スカイはもう、遠くにいて、とても追いつけそうになかったけれど、ボクは無心でその後姿を追い続ける。

 だんだんと、息が苦しくなってきた。

 ボクは長距離走を行う時のように、呼吸を規則正しく整える。

 一定のリズムで息を吸って、

 一定のリズムで息を吐いて、

 そうしているうちに、ボクは砂浜へと到着した。

 すこし興を削がれた感じになっていたけど、海辺に着いたらそんな感情は引波と共に大海へ消えた。

 黄色い砂浜と、青い海。

 まさに、絵にかいたようなビーチだった。

 オブジェとして灰色の岩や倒木があって、ついでに星型のヒトデも打ち上げられていた。ヒトデに関してはすこし可哀そうだと思ったけれど、仮想世界的なビーチ感が演出されていて、とてもいいと思った。

 海の向こうには大きな雲が聳えている。

 入道雲を見るとボクはとても大きなロマンを思い浮かべる。

 壮大な物語を夢想しては、無為に時間を消費する。

 そうやって過ごす毎日に、ボクは憧れを抱いている。

 結局、ボクは競走でスカイに負けた。

 スカイはきゃらきゃらと笑っていて、それがすこしだけ憎たらしかった。ボクはご褒美用のタルアのペット用ケーキを取り出してそれをスカイに上げる。

 スカイは一度大きな声で鳴いて、それからガブガブとケーキに食らいついた。なかなかにいい食べっぷりだったから、憎たらしいという感情はどこかに消えた。ボクはむしゃむしゃするスカイを頬杖をつきながら眺める。ケーキを食べ終わったら頭をごしごしと強く撫でて、それから一緒に海へと向かった。

 靴を脱いで、裾を捲って、膝下まで海に浸かった。これ以上進むと衣類が濡れてしまうから、ボクはここらを境界線として、その範囲内で遊ぼうと考える。だけど、スカイはその境界線を超えたでもない癖に、すでに全身の半分ぐらいを海中へと沈めていたから、思わず笑った。

 砂浜へと逃げようとするスカイをボクはなんとか引き留めようと頑張ったけど、結局スカイは海から上がった。それから砂浜にうずくまって、ぴくりとも動かなくなった。きっと、日光浴でもしたい気分なのだろう。スカイの肌が焼けて、綺麗な青色じゃなくなったらどうしようとか考えたけど、過保護すぎると自分に言い聞かせ、ボクは一人遊びすることにした。

 海水はほどよく冷たくて、気持ち良い。

 全身海に浸かりたかったけど、ここは秘境的な場所でもなく、人の往来があるような場所だったから我慢した。それでも全然楽しかったし、自分で丹精込めてつくった砂のお城を蹴っ飛ばしたら何かがスッキリした。ボクは崩れたお城の砂を再度集めて、円錐形にお墓をつくる。それからまたスカイと遊んで、カニを追いかけたりとかして、そんなことをしてたら日が暮れてきたので、ボクとスカイは砂浜を後にした。

 海岸沿いの夕日はとても綺麗だった。

 ボクとスカイは一言も喋らずに歩く。

 遊び疲れもあったろうけど、心地よい気だるさがあった。

 今日はなんだか布団でぐっすりと眠りたい気分だ。

 窓から星空と海を眺めて、うつらうつらとしたい。

 そんなことを考えていると、町が見えた。

 港町デルパエ。

 本来、白い建物が並ぶその町はいま、赤く染まっている。

 白い建物は、太陽の顔色によって色を変えるからとても面白い。

 夏の空に照らし出されるこの町本来の姿を想像するとすこし、胸が苦しくなった。

「……宿屋は、どこにあったかな」

 早いけど、今日はもう寝て、明日の早朝にでもゆっくりと町を回ろう。

 そうプランをたてながら道を歩くも、なかなか宿屋がみつからない。

 B&Bの看板をいくつか見たけれど、家主がPCかNPCなのかわからなかったから、無視した。たしか、メインストリートには大きなホテルがあったと思うけど、この際料金は気にせず、そこに泊まろうかな。そうは思いながらも、ボクはメインストリートからどんどんと離れていく。

 夕陽は海へと沈み、やがて夜になった。

 その頃になると面倒くさがりなボクは半ば躍起になって、適当に目に入った飲食店へと入る。店内は至って簡素な造りで、木板のメニューがいくつも壁にかけられていた。海産物がたべたい気分だったので、ペスカトーレを注文したらペットの同伴はちょっと、と露骨な態度でいわれた。ボクがどうして? と尋ねると、店主は何も答えず、ただへらっと笑って、店内を見渡して他の客に視線を配した。その対応の仕方にボクはしらばくのあいだ疑問符を頭の上に浮かべていたけれど、経営者がプレイヤーであると判ると、頭を下げて退店した。

 NPCのお店なら機械的な対応をしてくれるのに、どうしてこうも人間はまわりくどい態度をとるのだろう。

 言外の意味とか、行間の読みとりとか。

 この世界は、ボクにとても冷たい。

 複雑化することによって、単純なボクを排除しているように思えた。

 かなり億劫な気分になる。

 だけど、近くにNPCの経営していると確信できるお店があったので、そこにボクとスカイは立ち寄った。夕ご飯時なのに、プレイヤーの姿は一人としていない。広い飲食スペースがないからだろうか。一応、イートインは設置されているみたいだけど、永遠とお酒を飲むNPCやら、永遠とよっぱらっているNPCがいたから、それが嫌厭の理由となっているのかもしれない。

 ボクはハンバーガーを二つとイチゴのカクテル一つを注文して、それらをテイクアウトした。

 ボクとスカイは高台へと続く階段に腰を下ろすと、夜風を感じながらハンバーガーを仲良く食べた。仲良く食べた、といってもスカイはハンバーガーを受けつけなかったから、デビアルの腕を食べるスカイと一緒に、ボクはハンバーガーを食べた。痩せ細った腕をばきぼき食べるスカイの横で食べるハンバーガーはとても微妙な味がしたけれど、イチゴのカクテルはとても良かった。初めてカクテルを飲んだけど、ジュースみたいで美味しかった。

「寝床……どうしようか」

「ギャフー……」

「いっそ、ここらで野宿しようか?」

「ギャフ」

「……いや、空き家を探そう」

「ギャフ!」

 というわけボクたちは空き家を探すことにした。幸い、今は夜なので、明かりが点っていない家は無人の証明になる。適当に歩いていれば、すぐに見つかるだろう。そう思ったけれど、どの家も明るい。港町は人気スポットだからなのか、ここらに居住するプレイヤーは多くいるのかもしれない。困ったな、と思ったけれど、矢先に明かりの点っていない家を発見する。ボクは安堵の息を漏らし、その家に入ろうとした。瞬間、声が聴こえたからボクは停止する。中に、誰かいるみたいだ。ボクは嘆息して、反転。そこから離れるために歩き始めた――ところで、その家屋の扉が急に開いた。

 思わず、ぎょっとした。

 出てきた三人のプレイヤー。

 その所属ギルドは、ワールド・リストラクチャリングだった。

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