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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 01:blue sky
20/82

第一八話 ごめんね

 狩人Fとボクの間に大したレベル差はない。職業的な相性でも、あまり優劣があるとはいえない。だけど、状況的に分があるのは間違いなくボクの方だった。なぜなら、ボクの職業であるインフェクターはソロ狩りを設計思想として作られているから。

 インフェクターの長所は癖のある攻撃スキルと状態異常のふたつで、それらを効果的に発揮できるのは多人数ではなく、対個人。だから、同レベル帯でのサシ勝負という条件ならインフェクターという職業は比較的上位種に分類される。その点、ブラックスタッバーは対する相手が個でも多でも、そこまでの強さを誇っているとは云い難い。それはブラックスタッバーという職業が使えないからとかって理由ではなくて、単純に、想定される相手が個ではなく場にあるからだ。

 ブラックスタッバーは攻撃スキルだけでいえばアンブッシュからの背刃を筆頭に、斬月、馘首淵冥、暗器招来など、対個人戦に於いて優秀なスキルを持っているけれど、それらは条件が整わないと発動すらままならないものが多い。それはつまり、スキルを駆使できない状況ではかなり扱いにくい職業であることの証明にもなった。ブラックスタッバーの設計思想は隠密活動。本来それは、攻城戦に於いて諜報だったり陽動だったりとのサポート的な要素が強い。だから現状の、真正面での一対一という状況ではまず、この優位は揺るがない。そう断言できた。

 キィン、と音が鳴り響いた。

 剣がくるくると回って、がらんと地面で音をたてた。

 ボクの剣だ。

 ボクの剣が、狩人Fの攻撃によって弾かれた。

 狩人Fがボクとの距離を詰める。

 ボクは煙幕を張った。

 狩人Fが煙幕に突進したと同時に、死角からパンチを繰り出す。

 狩人Fはその攻撃を巧みに躱して、ボクの腹部を短刀で切り裂いた。そのまま連撃に移行する。

 ボクはよたよたと後退しながら、その連撃を受ける。

 避けれなかった。

 副作用の効果と相まって、ライフがかなり削られた。

 ボクは左中指をツータップして、回復ポーションを使用。

 その刹那、ボクの左手の指が空に舞った。

 小指と中指、それと人差し指。

 それが斬り飛んだ。

 ――この優位は揺るがない

 たしかにそう思っていたけれど、ボクと彼との間には致命的に大きな差があった。

 対人戦闘の技術において、ボクは狩人Fの足元に及ばなかった。

 圧倒的なステータス差がなければ、ボクは同レベル帯相手でも苦戦するらしい。

 ボクは右足を蹴りだす。

 彼はその右足を掴んで、持ち上げた。

 ボクの体勢が崩れる。

 上体が反って、視界が中空にスライドした。

 視界から狩人Fが消えて、ボクは頭から地面に落ちそうになる。

 残った左足で地面を蹴り上げた。

 バク宙。

 咄嗟にバク宙をした。

 その際、踏み切った左足が狩人Fの顎を蹴りあげた。

 ボクは頭から地面に落ちて、ぐでんと後転。

 視界がぐにゃぐにゃした。

 だけどすぐに、走り出した。

 落ちた剣を拾うために。

 ボクは手を伸ばして、剣を拾おうとした。

 それを、狩人Fが妨げた。

 だから、

 だからボクは剣を拾う事をあきらめた。


 あきらめて、斬りつけた。


 落とした剣は撒き餌。

 ボクは右手小指をツータップして、武器を取り出し斬りつけた。

 換装法と呼ばれる、魔剣士が常套する手段。

 ディレイ削減用の武器。

 テトラムーン。

 それで、狩人Fを斬った。

 狩人Fが地面に転がった。

 ボクは魔法を詠唱して、狩人Fに雷を落とした。

 距離をとって叫んだ。

「仲間を蘇生しなくていいの?」

 そう、ボクは尋ねた。

 だけど狩人Fは突進してきた。

 だからもう一度、雷を落とした。

 狩人Fは、動かなくなった。

 ボクは樹上を仰いだ。

 そろそろ、ここにアイテム雨が降る。

 誰か、救おうか?

 まだパープルハーブはあるのだから、だれかを。

 そこの狩人Fはたぶん、もう、蘇生できないとして。

 オール・ピースのだれかを救ってみようか?

 だれかを。

 だれかを……?

「……めんどうだな」

 本当に。

 助けても。

 助けなくても。

 めんどうだと、ボクは思った。

 やがてアイテムの雨が降ってきた。

 これで、ボクも外道。

 姫君と同じ。

 外道になった。

 痛い。

 痛い、痛い!

 フェリティシール薬の副作用がボクの躰に悪戯する。

 まるで皮膚という皮膚総てをひっぺがされたみたいにズキズキ痛んだ。

 落ち着いてきたら、痛みがより強く感じられるようになった。

 ボクは、ボクを俯瞰する。

 手の平が赤く染まっていた。

 血で汚れていた。

 というか、目が充血している。

 その所為で世界が汚れている。

 赤い。

 全部が赤くみえる。

 だけどこれが、ボクの選んだ世界なのだから。

 赤い世界が、これからのボクの居場所なのだから。

 我慢しよう。

 我慢、しよう。

 ボクは歩く。

 一人、森の中を彷徨う。

「ついてくるな!」 

 ボクは後ろにいるスカイに声を荒げた。

 捨てたはずのスカイ。

 青いスカイが、ボクの背後についてくる。

 その度にボクは追い払うけれど、それでもスカイはついてきた。

「クー……! クー……!」

 甘えた声。

 寂しそうな声。

 そこに力強さはない。

 生まれたばかりの頃のような、悲しみに満ちた声。

 それが何度も、森に響いた。

 ボクはボクの手の平を眺める。

 そうだよ。この手は、最初から汚れていた。

 汚れていたんだ。

 それをボクは、忘れていた。

 足が止まった。

 ぽつりと、ボクは言葉を零した。

「ごめん、ごめんねレリカ……」

 ボクが受けるべき罰はなんだろう。

 代償はなんなんだろう。

 代償なんて、あるわけなのに。

 君の代わりなんて、いるわけないのに。

 ボクは、ボクの主義を貫くために、君を見殺しにした。

 青いスカイを。

 ボクの理想を守るために、ボクは君を犠牲にした。

 狡いボク。

 それを思うと、壊れたい衝動に駆られた。

 だけど、ボクは壊れたくない。

 ボクは、スカイの為だけに生きると決めてたから。

 だから、この手はいくら汚れていても。

 汚れていても、関係ない。

 関係ない。

「ごめん、ごめんね……」

 ボクはスカイを抱きしめる。

 抱きしめたスカイの躰は、確かに温かかった。 

 レリカと違って。

 君と違って。

 違って。

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