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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 01:blue sky
19/82

第一七話 殺してやる

「出てこい!」

 と、ボクは樹上に声を上げた。反応はない。仲間が一人倒されたというのに。ウィスパーモードで作戦を練っているのだろうか。とにかく、時間がもったいない。ボクは余剰分のエリクシールを使ってひしゃげた男の子を蘇生させた。男の子は魔術師専用ローブを羽織っており、そのローブの色がINT属の黒系統であるため、その職業が魔法使い<マジシャン>であることに間違いはないだろう。蘇生された男の子は怯えていた。ボクは云う。

「サイドライトを使って」

 反応がなかった。

 ボクは語気を強めて云う。

「サイドライトを使え!」

 数秒後、マジシャンは索敵魔法<サイドライト>を発動させた。展開時のエフェクトとして、マジシャンから同心円状に光が広がっていき、その第一波。光の網にかかった者はいない。索敵結果が正しいなら、ボクたちの近くに敵はいない。そう判断していいはずだった。

 だけど突然、ボクたちの背後から敵が現れた。

 ボクの注意が樹上に向けられていたから、正攻法に切り替えてきたんだろう。アンブッシュ移動による接近。背後からの強襲。ブラックスタッバーの定石。

 ボクは相手の攻撃を喰らった。相手はレベル一〇〇超えの強敵だったから、ボクはその一撃で間違いなく死ぬ。オーバーキルだ。だって、ボクは弱いから。ブラックスタッバーの強襲スキルを耐えきる要素はなんてない。マッシー君たちと同じように、即死。終わり。その予定だったんだろう。ボクの装備を見れば、だれだってそう考える。基本ステータスの差異とレベル差補正攻撃力、それと職業。それらを考慮すれば、ボクのHPが一〇〇〇くらい増えたって、余裕で殺せる。

 だけど、ボクは死なない。

 薬を飲んだから。

 状態異常維持薬、フェリティシール。

 ミラー・ボディが、持続されているから。

 この躰にはまだ、赤き姫君が循環しているから。

 だから、ボクは死なない。

「…………」

 視界が赤かった。

 気分がとても悪かった。

 ボクの周りに、動かない人間が三つあった。

 その三つの総てが、ブラックスタッバーだった。

 彼らの役割は視線誘導。きっと、レリカがお化けだといっていたのはこの人たちのことだろう。本命はべつだ。樹上にはまだ、ブラックスタッバーが残っている。アンブッシュで隠れているけれど、その人たちこそが本命。

 アタッカー。

 マッシー君たちを殺した役割を担っていた人たち。

 死角からの刺客。

 温床。

 枢軸。

「退け!」森から声がした。「仲間を蘇生させたい。だから、退け!」

「どうして?」

「どうしてって」

「ねえ、どうして?」

「もしかして知らないのか?」

「なにを?」

「この世界で死んだ後、蘇生させないとどうなるのか。知らないのか?」

「しってるよ」そんなこと、しってる。「アイテムになるんだろう?」

 瞬間、森の葉叢から人間が八人、姿を現した。

 そいつら全員、魔法を詠唱し始めている。

 ボクはただ、待ち受ける。

 黒い刃。

 鬱閉とした森が保護色となった黒い刃が八つ、中空に現れた。

 暗器招来。

 それらが総て、ボクに襲いかかった。

 だけど躱した。

 総て躱して、殺した。

 全員。

 一人残らず、この剣で仕留めた。

「はあ、はあ」

 呼吸を荒げ、ボクは踵を返す。助けた魔法使いがおろおろとしていたけど、無視してこの場から離れようとした。だけどボクは立ちどまって、マジシャンのマントを掴み、引っ張った。風切り音がして、魔法使いのすぐ近くに、暗器が飛来した。

 声がする。

 武器を投擲された方角を見遣ると、一人のブラックスタッバーがこっちを睨んでいる。

「お前!」その手にはナイフが握られている。「オレたちが何者なのか、知っているのか?」

「知ってるよ。太平維持委員会<オール・ピース>だろ」

 姫君が、そういっていた。

 主目的は平和の祈願。

 念力主義団体。

 臨床実験グループ。

 殺戮嗜好サークル。

 狂った欠片たち。

 ボクはブラックスタッバーに近づく。

「近寄るな!」

 無視して、近寄る。

「来るな!」

 ボクは尋ねる。

「君、蘇生薬は持ってるの?」

「…………」

「答えろ」

「……も、持っている」

「それじゃあ」

 と、ボクはそいつを斬り殺した。

 それから、最後のエリクシールを使って蘇生させる。

 困惑しているブラックスタッバーに、ボクはもう一度尋ねる。

「さっき死んだのは初めて?」

「…………」

「正直に答えて。そうじゃないと、本当に死んじゃうから」

「初めてだ」

「そう」

 もう一度、ボクはそいつを斬り殺した。

 パープルハーブを使って、蘇生させる。

「お前……! ふざけるな!」

「ふざけてない」

「離せ! 外道!」

「君たちがしていることと同じだよ」

「何が同じものか!」

「じゃあどう違うの?」

「離せ!」

「わかった」

 ボクはブラックスタッバーを突き放した。名前は狩人Fらしい。狩人Fはボクを睨んでいる。ナイフの柄を強く握りしめて、ボクを睨んでいる。

「…………!」

 唐突に、全身に痛みが走った。

 高い痛み。

 鋭い痛み。

 多分、副作用。

 それを堪えて、ボクは云う。

「戦うの? 良い判断だと思う。いま薬がきれたから、今は君と同じくらいの強さだよ」

「殺してやる」

「わかった」

「殺してやる」

「じゃあ、やろう」

「殺してやる」

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