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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 01:blue sky
15/82

第一四話 主義

 よく状況が飲み込めなかった。何が問題になっているのか、その根本が判らない。レリカはまだ蘇生可能時間にあって、ボクが投げつけたのは間違いなくパープルハーブだ。そうだろう? 違うわけない。ボクが手にしていたのは絶対に、パープルハーブだ。だってこれは、この森で自生していたモノとかじゃなくて、店で買ったアイテムだから。ボクが同定を誤ったわけじゃない。じゃあ店の主人が間違えたのか? 贋物を掴まされたのか? それこそ、もっとあり得ない。ここは、この世界はデータ世界だろう? 所詮は0と1の配列で構成された世界なんだろう? 一次産業があって、流通があって、それで店に品が並ぶわけじゃない。店主が売っているものはただのデータであって、そこに仕入もなにもあるわけがない。総ては式。ボクがパープルハーブを購入したら、代金という名の変数が減ってパープルハーブが持ち物リストに登録されるだけ。電卓を叩けば1+1の答えが必ず2になるように、その式が狂うことなんてありえない。

 ボクが投げたのは本物。

 贋物なんかじゃない。

 贋物なんかじゃない!

 レリカが蘇生可能時間にいる、それも事実だ。だって、目の前であの二人がアイテムをぶちまけたところをボクは目撃しただろう? 蘇生時間を過ぎてから、あの二人が死んだところを、ボクはこの目で確認しただろう? レリカはまだぶちまけていない。まだ生きている。そうだよ。生きてる。生きてるんだ。

 じゃあ、何が。

 何が。


 何が間違ってるのだろう?


「ギャフー!」

 スカイの声で、ボクは気がつく。

 ボクはどれくらいの時間、思案していたんだろう?

 視線を転じた先。

 そこには石化した赤き姫君がいる。

 その状態異常は未来永劫約束されたものじゃない。

 恐らく、もってあと三〇秒。

 その瞬間、世界最凶の化物を縛る楔は、音もなく瓦解する。

 解き放たれるのだ。

 一撃でボクたちを屠ることができる、悪鬼、羅刹が。

 スカイがボクの衣服を必要に口で引っ張った。

 逃げよう、という意味だと思う。

 たしかに現状、トワイライトロードに一矢を報いるなんて機会は能力的にも、時間的にも消失している。

 ボクは半分になったレリカを抱きかかえる。

 ひとまず森へ。

 森の中に隠れて、それから……。

「あ」

 藪をかき分けている途中で、一つの可能性が脳裏をよぎった。

 もしかすると、蘇生アイテムは一回しか使えないんじゃないか?

 つまり、レリカがどうして蘇生しないかというと、一度、彼女に蘇生アイテムを使ってしまったから。

 じゃあ、レリカはもう生きかえらない?

 いや、だけど、レリカのアイテムは散乱していない。

 どうしてだろう。

 その理由。

 理由……。

 たぶん。

 たぶんだけど、そう。

 この世界は以前のゲームシステムからは色々と変更された点があったけれど、これもきっと、そのうちの一つ。


 一度使用された蘇生アイテムは、二度と受けつけない。


 IF文で弾かれる。

 きっと、そういう仕様。

 この世界には蘇生アイテムはたしか四種類ほどあったから、最大で四回蘇生できる。

 そのうちの一つを、レリカは消費した。

 ムーン・イクリプス内で、最も多く使用される蘇生アイテム。

 パープルハーブを、レリカは消費した。

 ボクのリュックの中には、パープルハーブしか入っていない。

 蘇生アイテムはその一種のみ。

 その一種のみを、レリカは受けつけない。

 だけど、まだ手段は残っている。

 ボクはレリカを両手で抱きしめて、ささやいた。

 やっぱり、返事はなかった。

 彼女の躰はまだすこし、温かい、気がした。

 そっと、彼女の躰を地面に横たわらせて、ボクは駆けだした。

 つま先の向いた先は、赤き姫君。

 <そこに横たわる二つの肉塊>。

 ボクはこの目で見た。

 二つの肉塊がぶちまけたアイテム群のなかに、<別の蘇生アイテムがあったこと>を。

 間に合え。

 ボクは祈る。

 間に合え。

 ボクは走る。

 自己の主義を貫くために。

 ボクはレリカを、救いだしたい。

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