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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 01:blue sky
13/82

第一二話 邪魔なのは

「……泣いてる」

 赤き姫君が、泣いている。赤い飛沫に隠れて、透明な雫が頬を伝って、零れ落ちる。彼女の周りは惨憺たる状況だけど、その情景は悲しみと優しさに溢れているようだった。これがあのトワイライト・ロード? 噂によれば暴虐で悪辣、そんな言葉しか訊いたことがなかったけれど、そうじゃないのだろうか。それはいま、この段階では判断できないけれど、しゃくり、しゃくりと、彼女が声を上げて泣いている様子から、ボクは目を離すことができない。

 どうしたんだろう。

 なにを悲しいんでいるんだろう。

 二人が死んだこと?

 自分がそういった行為をしでかしたこと?

 悔いているの?

 それとも、嬉しかったの?

 どんな感情で突き動かされているのか、ボクに推し量ることはできない。想像する事も同じく。ボクと赤き姫君は、別種の存在。違う回路を持った存在。そういった認識を、ボクはボクに刻み込む。頭か、心か、それは、どこに刻んだのかはボクにもよくわからない。

 ただ呆気にとられていた。

 レリカがボクの服の裾を引っ張って、ようやく意識が戻った。

 ボクは彼女から視線を切ってしまうことがとても名残惜しく感じていて、だから意識半分そこに置いたままに、レリカを見遣った。

「もう、時間がないよ」

 一瞬、なんのことかわからなかったけれど、蘇生可能時間のことを話しているんだとすぐに気づいた。

 行くのか?

 この光景を、破壊してまで。

 あの二人を助ける意味はあるのか?

 これは多分、儀式。

 彼女はいま、儀式の最中なんだ。

 神聖なる手続き。

 その途中。

 赤い飛沫に塗れながら、彼女は祈りを捧げている途中なんだ。

 いま、彼女の精神は高い位へと昇華されている。

 それは、とても綺麗で、素敵なこと。

 それを、ボクは知っている。

 ボクもよく、空を見上げるから。

 邪魔するなんて、赦されない。

 邪魔されるなんて、考えられない。

 だれにも。

 たとえ神であっても。

 どんな理由であっても。

 いかなる事情があったとしても……。

 パシ、と頬を叩かれた。

「人が死ぬかもしれないんだよ」

 レリカはつづける。

「そんな状況で、君はなにをしているの?」

「……」

「君、まだ子供だよね。たぶん、そうだ。うん。だって、発言が子どもっぽいし、どこか、達観した風に物事を考える節があるもん。それって絶対に子どもの証拠だよ。だって、この世界に達観できる物事なんてないんだから。だけどね、やっていいことと、やっちゃだめなことってのがあるの。過剰に人権を保護するつもりもない。罪がある人間は、相応に裁かれればいいよ。たしかにね、このゲームの世界には法治はないかもしれないけれど、私がいっていることは論理的じゃないかもしれないけれど、目の前に救える命があるのに動かないのはダメなんだよ、人としてやっちゃいけないことなんだよ。綺麗だとか汚いじゃないんだよ!」

 レリカが立ちあがる。

「ごめん、もう待てない」

 そういって、藪をかき分けて、レリカは赤き姫君の後方へと近づいていった。

 ボクはレリカの後姿を見つめている。

 頬が痛い。

 スカイが鳴く。

 ギャフー、と情けなく。

 レリカは赤き姫君の背に向けて、云う。

「どんな理由があるのか知らないですけど、その二人、蘇生させますよ」

 と、ポーチからパープルハーブを取り出そうとした。

 空気が変わる。

 捩れた。

 ぐにぐにぐにぐにぐに。

 歪んでいく。

 そんな気配。

 だめだ。

 だめだよ、レリカ。

 ボクは動き出す。

 レリカに向かって、飛びつこうとした。


 眼光――。


 赤く、鋭い、深い、目が。

 二つ、レリカに向かって、動いた。

 音もなく。

 何もなく。

 赤き姫君の大剣は空を切り裂いた。

 空だけじゃない。

 大樹も。

 枝葉も。

 なにもかも。

 その一閃は、すべてを破壊した。

 レリカは無事だった。

 ボクが助けた。

 ギリギリ。

 本当にギリギリで。

 そうじゃなければ、死んでいた。

 肩から上部が、吹き飛んでいた。

 助かった、と安堵した。

 その背に、悪寒。

 冷たい空気。

 赤い大気。

 重く、重く、重く……。

 時間が止まった。

「誰だよ、邪魔した人は」

 幼い声。

 本当に子どものようだった。

 ただ無邪気に、怒っている。

 そんな感じ。

 だけど、相手は子どもじゃない。

 暴走する可能性を孕んだ化け物。

 トワイライト・ロード。

 赤き姫君。

「私はレリカ」

 相対するはレリカ。

 初心者の、レリカ。

「邪魔なのは、君だよ」

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