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メロディアス・スカイ  作者: 玖里阿殻
chapter 00:prologue
1/82

孵化

 風がそよぎ、梢が揺れる。

 葉がひらり、ひらりと舞って、スカイが鳴いた。

 その声は弱くて、儚い。

 まるで泡沫のような、そんな脆さと、美しさをボクに想起させる。

 そんなスカイの声に、わずかな変化が訪れた。

 消え入りそうな声の中に、小さな力強さが混じり始めていた。

 咽喉の発達に伴い、スカイは子供らしさを失くしていく。

 ボクも。

 ボクのこの躰も、もうすぐ大人になる。

 その時、ボクに訪れる変化とはなんだろう?

 ボクが、失くすものとはなんだろう?

 わからない。

 ただ、寂しいという気持ちはあった。

 子どもは大人にはなれても、大人は子供にはなれないから。

 その答えが判る時にはきっと、ボクは大人になっている。

 大人になんて、なりたくないのに。

 それなのに、ボクは大人になるしかなかった。

 答えを知るために、大人になるしかなかったんだ。

 そういった、矛盾が。

 そういった、理不尽さが。

 子どものボクには……とても、悲しく思えた。 

 スカイは、ブルークラウドというドラゴン系モンスターの子どもで、ブルークラウドは一ヶ月前の大型アップデートで追加された天空英雄墓地マップに棲息している。ボクが初めてそのマップに足を踏み入れたのは、実装後、十日ほど経ってからのことだった。

 十日も経つと、新規ドロップを集めにきた廃プレイヤーや、新規クエストを消化にしにきた一般プレイヤーもきれいさっぱり消えていた。きっと、経験値効率が悪いから、みんなはどこかに消えた。

 一体一体の経験値はたしかに高いけれど、モンスターを倒すには中位攻撃スキルでも3セットかかったし、なにより湧きが甘い。ボクがだらだらと計測した結果、人気の狩場と比較した際に一時間で8000EXPほど差が開いた。このゲームは他のMMOと比べてレベルアップに必要な経験値が多いため、その差はレベル上げを目的とするプレイヤー達の瞳にかなり大きく映ったのかもしれない。

 だけど、ボクは効率なんてものから程遠いところにいたから。

 だからずっと、このエリアで狩りをしていた。

 もともと、誰かとプレイしていたわけじゃない。

 誰かに憧れて、追いつくためにプレイしているわけでもない。

 欲しいアイテムがあるわけでも、倒したい敵がいるわけでもない。

 澄み切った青空を、ボクは眺めていたかった。

 その為に、ボクはブルークラウドを殺し続けた。

 ボクにとってブルークラウドはスキル3セットできっちりに死ぬモンスターであって、これ以上にもこれ以下にもなることはない。

 たぶんずっと、ボクはここでブルークラウドを殺し続けるんだろう。

 そう思ってた。

 ボクにとってそれは意味のない行為だったけれど、意味のない行為だったからこそ、永遠に続くものだと思ってた。

 だけど、やめた。

 殺したブルークラウドが、卵を落としたから。

 レアドロップだ。

 希少性だけのレアドロップ。

 ブルークラウドはペットモンスターとしての補助スキルが終わっている。

 だから、こいつをペットに選ぶやつなんてまずいなかった。

 いても、サブアカウント用。

 装飾品。

 愛玩動物。

 それくらいの価値。

 ボクは持っている素材を合成させて、孵化させる環境を整えた。

 それから卵をドラックして、環境アイテムにドロップ。

 ブルークラウドをペットにしますか?

 はい、とボクは答えた。

 その瞬間、目の間に小さな青い龍が現れた。

 目がくりくりしていて、可愛いやつだった。

 小さな青い龍は消え入りそうな声を上げて、ボクの胸に頭を擦りつけている。

 ボクに甘えている。

 親を殺したボクに。

 笑おうとした。

 だけど、この躰は汚れているから、うまく笑えなかった。

 ボクはこいつに名前をつける。

 スカイ。

 この綺麗な空から産まれたから。

 この綺麗な空のように育ってほしいから。

 スカイと、ボクは名づけた。

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