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ハジマリの場、オワリの所  作者: 雨天紅雨
■2041年
97/790

10/17/06:25――ベル・夜明けを迎えながら

 ゆっくりと夜が明ける。紅色の世界を陽光の色で塗りつぶすように。

 黒色の世界だったからこそ目立っていた紅色は、明るさによって途端に色彩を欠き、ないもののように扱われてしまう。現実に魔力波動の強さは弱り、次の夜まで密かに機会を伺いながら沈殿するのだ。

 だから、ようやく次の夜までの休息を得たのだろう。そして、だからこそ人はその休息の時間であらゆる手を打とうと動く。

『――よお』

 かかってきた電話からそんな言葉が届く。

 この時間にならなければ受け取るつもりがなかった連絡は、しかしこの時間にならなければ連絡がこなかった。それはつまり、連絡ができる人間の悉くがベルの動きを察しており、連絡しても通じないのだとわかっていたからだ。

 その中でも彼は。

 ブルーと呼ばれる蒼凰(そうおう)蓮華(れんか)は、その見極めが実に正確だった。

『そろそろ、良いンじゃねェかよ』

 そこは野雨市に隣接する風狭(かざま)市内部、野雨を眺めることが可能な双子山の片方の山頂だった。

『こちとら徒歩帰宅だよ。時間ッてのは厄介で取り返しがつかねェのよな、これが』

 蓮華は言う。

『状況を見極めるにゃ俯瞰するのが一番だとは言うけどよ、それにしたッて山頂たァ王道過ぎやしねェかよ』

「――お前のように、中に居て見渡せるならいいんだが」

『おいおい俺だって全てを見渡せるわけじゃあねェよ』

 そうだろうか。

 いつだとて見透かしたことを言う男だとベルは思っているが。

『で、どうだよそっちは』

「感想か? 上手くできていると、再確認した。言い方は悪いが、たかが鷺ノ宮が崩壊した程度で、――こうなるか」

『タイミングッてのもあるよ』

「鷺ノ宮の手腕は高く評価している。まあ、残念だな」

『次がねェッてのは、どうしてもな』

「野雨は被害が少なくて済むからいいな。それでブルー、仕事か?」

『まあ、仕事よな。そっちは何かあるか?』

「全体を俯瞰はできているが細かい情報がない。流れを読み取るには至らないぞ?」

『お前ッて……関わりてェのか、そうじゃねェのかわからねェのよな。俺以外の相手なら、不確定情報を散らして確定情報を引き抜くンだろうによ』

「ブルーを相手にどうしろと。それで?」

『ま、ゆっくり下山すりゃいい――と言いたいところだが、とりあえず夜になる頃合で咲真に接触してくれ』

(おぼろ)(づき)(さく)()か……顔合わせは済んでいる。いや、そういえばブルーが手配したんだったか」

『まァな』

 この時のためにか、それともただの結果論か。

 いずれにせよ、結果が出ているのならばその評価は蓮華が受け取るべきなのだろう。

『〝原初の書〟』

「あらゆる原点が記された、アカシックレコードそのものと呼ばれる書物――と、巷間では謳われているらしいな。久我山が探っているとの情報は得てる」

『その久我山は、久我山桔梗はたぶん、もう終わる』

「細かい情報がねえって言ったろ。何がしたい」

『久我山の血筋は残るし、つーか俺の手に余るのよな。だからせめて北風の末裔だけでも助けてェよ。……ま、あるいは死んだことになるかもしれねェけどよ』

「へえ。俺にどうしろと?」

『舞台を整えるのに一役買ってもらうだけよ。それと――確定情報じゃァねェンだけど』

「なんだ」

『別件で、面白い人材がいる――かもしれねェのよな、これが。愛知県内にアルの存在があるのよ。こっちも確定じゃねェけど』

「アルフレッド・アルレール・アルギス」

『鷺ノ宮との繋がりがあった上、箕鶴来狼牙が野雨にきてる。そこから可能性を当たってみた結果、ちょいと何かあるかもしれねェ』

「場所は?」

『野雨の、――蒼の草原だ』

「……報酬の先払いとは気前が良い」

『馬鹿、報酬になるかよこんなの。その人材ッてのを見て目に適えば俺は両手を上げて降参するよ。あくまでも別件だしな』

「この状況なら物語の誘発因子がそこらじゅうに散らばってる。主点は鷺ノ宮の崩壊なのにも関わらず、因子が連鎖して別の物語が多く発生して――つまり、混乱と呼べる事態が誘発する。狙いはそこだったんだろうな」

『さすが、細かい部分はともかく全体を俯瞰すりゃァそう見えちまうよな』

「なんだ間違ってるか?」

『まさか。そう見えていておかしくはねェよ。ただ詳細を知ると頭を抱えたくもなるッてンだよ。そっちのプレイヤーが動けば話は違うンだけどな』

「マーデか」

『おう。つッても動かねェンならそれなりの理由があるンだろうよ。ともかく、咲真にゃ護衛を一人つけると言っておく。それと――橘(れい)と繋がりがあったよな?』

「ああ。あの風来坊か」

『今日を含めて三日は野雨に足止めしたい。何か情報はねェか』

「あいつが暗殺を止めた以上、留める理由はない。そうだな……ソプラノの繋がりは使えないのか?」

『鈴ノ宮に囲われちゃァ意味がねェのよ』

「代替はないと捉えて構わないな?」

『零番目じゃなきゃ、ちと困るのよな、これが』

「招致は?」

『それも困ってンのよ。近くにゃいるらしいけど』

「だったら――」

 いや、違うか。

 ベルならば、だ。

「――俺なら橘七を追い詰める」

『身内かよ……そりゃ俺にとっちゃァ禁じ手よな』

「橘の邸宅は炎上したが?」

『ああ、鈴ノ宮の手配でアブがやったよ』

「……だとすれば、ソプラノは名を明かせと言うはずだ。恨みがアブへ向かないように。だがアブは名乗りもしねえはずだぞ」

『は? 依頼なのにか?』

「依頼は邸宅の破壊だろ。俺もそうだが、格下を相手に多くの情報を与えようとは到底思わない。まあコンシスやマーデなら知らないが」

『あー……七番目にその辺りの情報が流れねェと、それはそれで面倒だな』

「わかった。俺が打診しておいてやる――が、どうせ他の連中も鈴ノ宮に顔見せする手筈が整ってるだろ?」

『ご明察だ。こっちは確定情報よな』

「とはいえ、零番目を留めるなら相応の理由がいるな」

『へえ、どんな理由がありゃ足止めできるよ?』

「好みの男を宛がえ」

『――』

「いや本気で」

『――ッ、くッ、かははは! そりゃァいいよ! けどまァどこにいるかが問題よなァ!』

「笑いごとの内はいいけどな。こっちはいつ依頼を投げられるか冷や冷やしてるぞ」

『本当に参る話よなァ。クックック……』

「ブルー、間違えても零番目に対抗馬をつけるな」

『――はッ、そりゃァつまり零番目を殺せッてかよ?』

「殺し合いを続けさせれば、逃げることを知らん零番目なら留めるくらいはできる」

『それじゃァ本末転倒よなァ。何しろ、対抗できる人間が限られる上に、そういう連中は配役済みよ』

「……なるほどな。刻限は?」

『今夜からすぐにだよ』

「相変わらず忙しないなお前は」

『そいつァ状況に言ってくれよ。俺にゃ事態を収拾するッて目的があるしな。おゥ、今回の仕切りは俺だ。何もかも一切合財の成果と評価を俺が引き受けるよ』

「悪評でもか?」

『なお更よな』

「愚問だったか。引退には早すぎるぞ」

『抑止力になるンなら喜んで引退もするのよな、これが』

 山を降りる風がごうごうと音を立てている。奈落の底を連想させられる絶壁の傍、暗き穴は日の出と共に更に闇を濃くし、どこか異界への繋がりを感じた。

「依頼は夕刻に」

『そんくれェで充分よ。手は打つが零番目に関しちゃ、有効的な手段があったら言って――いや、やってくれ。逆効果なら俺が止めるからよ』

「それだけか?」

 問う。

「俺の役目はそれだけでいいのか?」

『何を言ってやがる』

 小さく、蓮華は笑った。向こう側では肩を竦めているに違いない。

『最低限の頼みさえ渡しときゃァ、状況に応じて勝手に動くからこその〝狂壊の仔〟だろうがよ。ま、名付けのセンスだけは疑うぜ』

「それは俺じゃなくスノウに言え。あいつの命名だ」

『あいつのセンスは昔ッから疑ってッけどよ。ならついでだ。下山したら(かがみ)(はな)()を確保して護衛、雨天家へ送り届けてくれ。まあこっちも急ぎじゃねェのよ』

「居場所は?」

『そいつァイヅナにでも聞いてくれよ。――頼んだぜベル』

「頼まれた」

 依頼は果たす。

 そう思いながら通話を切ったベルは思い出したように露出していた左の紅色の義眼を針金質の前髪で隠す。

 外れた場所から渦中へ――いや火中へ飛び込む。

 その行為に対して何ら危機感を抱かず、さて行くかと後頭部に両手を回してゆっくりと下山を開始した。

 悠悠と。

 ただし頭の回転速度だけは上げて。



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