11/11/23:20――名無しの少女・姓の交換
グラスの中にある氷が音を立てて溶ける。室内の照明にかざせば琥珀色の液体が輝くように揺れた。
丈の短いスカートが足の動きと共に揺れ、それは上半身へと伝わるよう振動し笑いを表現する。彼女の口元も横に軽く広がっており、楽しそうだと受け取れる程の笑みが浮かべられていた。
「嬉しそうだね」
「そう見えるかい一夜」
「良いことでもあったのかな」
「そうだなあ……うん、良いことはこれからあるのさ。嵐の前の静けさ、なんて言葉があるけれど、期日を前にして忙しいのは事前に行う準備の見立てが悪かった結果だろうと僕は思うね」
「現に、期日を前にして準備が滞りなく終えたのなら、貴女のように落ち着いているんだろう」
「その期日が来れば否応なく動かなくてはならないんだけれどね」
「けれど貴女が行っているのはそれだけじゃない、そうだろう?」
「紅音にせよ一夜にせよ、察しが良すぎて参る話だね。僕はただ可能性を見越して、そのための布石を行っているに過ぎないよ。それを企みと云わないで欲しいね。刻詠は僕の領分じゃない」
「俺に言わせれば、刻詠よりも貴女の方が余程恐ろしいよ」
「笑いながら言われても対応に困るね。現状では一夜と敵対するような真似はしていないはずだぜ? 恐ろしいと表現されてもね」
「私と敵対できるのは、そこの――紅音だけだよ」
柔らかく、余裕を持って物騒なことを言う。それをわかっていたのか、苦笑しつつ彼女は隣にいる少年に一瞥を投げ、紅音のグラスに新しいバーボンを注ぐ。
「一夜は大人だね」
「そうでもないよ。ただ俺には雪芽や狼牙みたいな娘と息子がいるからね、その影響もあるんだろう……褒めても次のボトルは出せないな」
「なんだ、まあ二本空けてるから仕方ないね。けれど良いことがあるのは確かだよ」
親指と薬指を合わせ、ぱちんと指を鳴らす。まるでそれが合図だったかのよう喫茶店の扉が開き、黒のコートを脱ぎながら箕鶴来狼牙が月光を背負って入ってきた。
「ただいま戻りました」コートは椅子の背にかけ、彼女の隣に腰を降ろす。「おや、どうかなさいましたか?」
「狼牙……二週間も家に戻らず、第一声がそれか? 感心しないな」
「学業を疎かにはしていませんよ父さん。それにただいま戻ったと言いましたし、十分でしょう? けれど、父さんの珈琲が恋しかったのは確かです。ブレンドをいただけますか」
「まったく、捻くれたものだな」
「ははっ、そこで素直に珈琲を作り出す一夜も随分と甘いものだ。狼牙、首尾はどうだい?」
「滞りなく済ませましたよフェイク。それを理解しているのは貴女のはずだけれど」
「まさか、僕はそこまで視野が広くはないよ。紅音と一夜の言葉を受けてようやく把握できる程度のものさ」
「理解していない証明にはなりませんよ。それでも、どうにか間に合ったと受け止めて良かったですか?」
「それは期日に関してかな」
「ええ――鷺ノ宮は十日と期日を切ったようですが、発生点は二十四時間という誤差を抱いてしまっている」
「朝かもしれない、昼かもしれない、夜かもしれない――ま、その辺りを逆手に取るよう考えはしているさ」
「ブレンドだ」
「ありがとう父さん。――そういえば姉さんの姿が見えませんね」
「雪芽は自宅にいるよ。呼ぼうかとは言ったんだが、彼女に止められてね」
「ああその方が良いんですよ。もう少し頭を使ってくれるようならば別ですが――公人のように、考えすぎてもいけませんから」
それにしてもと、珈琲を軽く飲んだ狼牙は受け皿に戻して隣を見る。
「アルコールの摂取はほどほどに、ですよフェイク。まだ酒に溺れるには早いのですから」
「溺れても呑まれてもいないさ」
「そう願いたいものです」
狼牙の指先がアルコールの入ったグラスを弾くと、澄んだ音が小さく響く――今度の合図は、その音だった。
パーカーのフードを跳ね除けるよう店に足を踏み入れた椿青葉は挨拶をするのでもなく近づきながら、「アッサムのミルクティ、砂糖はいらないわ」と注文をしてから狼牙の隣に腰を降ろした。
四人がカウンターに腰掛けていると、残りの座席は二つ。ただ彼女は行儀が悪く二つの椅子を占領しているし、紅音が少し離れているのでカウンター席はもう一杯だった。
「ああ疲れた……ヴォイドから労いの言葉を貰いたいわね」
「何に疲れたのかは知らないけど、まあご苦労様。青葉も滞りなく終わらせたようだね」
「馬鹿言わないで、滞ったに決まってるでしょう? 私は狼牙と違って強引に事を運ぶ手段もなければ、ヴォイドのように手回しを済ませて遂行する真似もできないのよ。ああ疲れたわ本当に」
「そこで残念なお知らせだ。あと二日くらいは休む暇がないと思ってくれて構わないぜ。僕としては離脱してもらっても構わないけれど、青葉の矜持が中途半端なんてものを受け入れられるのならね」
「……嫌な子」
「青葉さんも動いていたんだね。お待たせ、アッサムのミルクティだ」
「ありがとう、助かるわ」
「さて、一応口頭で報告してもらおうかな。僕が奪ったのは二件――心ノ宮の前崎、そして魂ノ宮の小波だ」
「付け加えると鷺ノ宮、陽ノ宮、花ノ宮との交渉ですね。私は鈴ノ宮の雨音、朱ノ宮の刹那、闇ノ宮の鷹丘です」
「私は樹ノ宮の鷺城、森ノ宮の夜笠、凪ノ宮の祠堂よ」
「よし――じゃあそれらの姓は一旦僕が預かろう。けれど、そうだね……狼牙には鷹丘、青葉には祠堂の姓を持って行ってくれ。そして誰かに与えるように――ま、急がなくてもいいさ。持っていれば自ずと、そういう場面と引き合うものだ」
「縁が合う、ですね」
「そうね、このまま失くすには惜しい姓だもの。数年後に意味消失しそうな頃合にでも、誰かに渡しましょう」
「紅音には小波だ。いいね?」
諒解だとばかりに紅音は肩を竦めてバーボンに口をつける。それ以上の興味は持たないようだった。
「はあ……あら、公人はいないのね。ヴォイド、狩人法の進捗具合はどうかしら」
「おや、狩人法とはつまりハンターズシステムのことですか青葉。フェイクが何をしているのでしょう」
「狼牙は聞いていないのね、安心したわ――私も聞いていないもの。二村議員と何かを企んでいるとは知っていたのだけれど……ああ、双海との話で随分と愚痴を言われたわ」
「そうでしたか――フェイク、にやにや笑っていないで説明して下さい。その後に錠戒へと背後から干渉していることについて訊きたいところです」
「錠戒? あの教皇庁が管理する組織かしら。初耳ね」
「あはは、いやいや、なるほどね。君たちの立ち位置の関係かな、青葉は表で狼牙は裏だ、まあ情報の入り方の違いと受け取っておこう。まあそうだね、うん、どれも結果的には同じ指向性を持つものであり、そして今回の件と密接とは言わずとも、これも結果的に関係を持つと言った方が良いかもしれないね」
「よくそうして、多くの物事を並列できるものね」
「いやいや違うよ青葉、並列しているわけじゃないのさ。僕にとってはパズルを組み立てているだけの事で、それは日本というパズルなんだよ。だから同じ作業さ」
「それはそれで驚嘆に値しますよ」
「僕に言わせれば狼牙のそれも、十分に驚嘆したものだけれどね。――そうだ、これは君たちに聞いておこう。鷺ノ宮の説明では、世界の逆鱗に触れたからこそ、報いとして制裁措置を敢行する。故に惨劇が起きると、こうなるわけだが――そもそも何故、惨劇になるんだと考えているのかな?」
「ああ、そうね。一般的には、個人が逆鱗に触れたのならば個人に対して制裁を行うのが通例で、連帯責任はあれど人類全体に対して行うのは度が過ぎていると考えるわ。そこで誰が逆鱗に触れたのか、貴女はそこを度外視しているわね?」
「そうだね。誰が行ったのであれ結果には変わりないと言えば満足してくれるかい?」
「それは肯定しかねますよ。額面通りの言葉を受け取ったのならば頷いても構いませんが、そもそも〝世界の意志〟に触れられる者は限りなく少ない。そして少ないからこそ、逆に把握できるものだと私は考えています」
「その上で特定しない、ないし特定していても口にしない理由が何かあるのでしょう?」
「ここで、それを特定できない者を相手に口にする意味もないと――まあ似たようなことを昨日に公人と雪芽に言ったのだけれど、それで十全かな?」
「ああ、そう、つまり特定することに熱意を注ぐ暇もなしね」
「なるほど、それは納得できます。――しかし惨劇が起きる、ですか。鷺ノ宮さんは止められないものだと思っていたようですが、それにしても惨劇イコール崩壊とは安直過ぎるとは思い考えてはいました」
「そうね……連鎖的に崩壊してしまう、つまり惨劇に対する抵抗力がヒトにはないのだと私は考えたけれど」
「ヒトの抵抗力ではなく、そもそも世界が現状で十二分に安定している――と、そう仮定する要素が不確定なのでは? あるいは逆で安定しているからこそ、一点の崩壊によって安定性を失い崩壊するとも考えられます」
「そうね……器としての世界が壊れるようなことがあっては、そもそも世界ではないものね。だから中身――法則かしら。けれど強固もまた崩壊を知ってからこそ成しえるものよ」
「つまり青葉は、今回の件があればこそ結果的に世界は強固なものになるとお考えなのですか?」
「あら、そういう流れを作るために奔走したのだと思っていたけれど、狼牙は違うのかしら」
「逆――いえ、前後しますね。何故ならば結果と云う崩壊は鷺ノ宮が口にしただけで、実際に起きてはいません。ですからそのための一手なのではと考えていましたが……」
「そうねえ、どちらもと捉えたら欲張りかしら」
正解はないのだから、と続けようとしたが止めた。そんなものは大前提で、わざわざ口にするべきものではないからだ。
結果に対する過程を模索するのならば、正解はあるかもしれない。だが結果もない過程には無数の可能性がある。
「けれど狩人法、狼牙の言う錠戒に関しても後のものになるわね」
「関連性があるとは考えていましたが、どうなのでしょうね。そもそも世界それ自体が崩壊せずとも、惨劇は限定区域で行われる――そうでしょう?」
「ええ、私もそう考えているわ。だからこそ、今までの常識が覆るのではと察している」
「同感です。けれど狩人法にせよ錠戒にせよ、道なりにあるものです。……いえ、現状で既に他国では施行されているわけですから、待っていてもいつかは施行される――」
「けれど錠戒は違うわよね。教皇庁は、魔術を宗教としているため、宗教の自由が認められた日本には根付きにくい。そもそも一般であっても、宗教を意識する人の方が珍しいわ」
「恣意的な判断での施行ですか。そうなると公人は動きにくくなりますね」
「ええ――だから、でしょう?」
「そうですね、私もそう考えます。作られていないものは、いつか作られる可能性がありますが、一度作られたものが壊されれば、二度目は躊躇するものですから。それ故に一度目を、意図して作らせれば裏に手を回すこともできると、そう考えます」
「そうね。狩人法に関しても同一の見解を出すことができるわ。けれど一つ、そう、必要なものがあるわね」
「いずれにせよ、施行せざるを得ない状況にさせる――つまり、発生因子としての意味を持たせる行為ですね」
「民衆の意思だけでなく、国家間の問題にも発展するもの。反対されていて強行しては不審がられてしまうわ。だから――」
「ええ、おそらく今回の被害箇所は」
日本の首都、東京かと疑問符をつけて二人は言った。
疑問系を取りながらも確認の意味で大半を占めたその言葉を受け取った彼女は、途中から置き去りにされたことも含めてやれやれと肩の力を抜きながらボトルを空けた。
今のは会話の最中に思考していたのではない。既に考えていたことを示し合わせるように言葉を投げかけながら、同一の答えを出したかどうか確かめ合い、それを彼女に聞かせることでの反応から情報を引き抜きたい、そう思っての会話だ。あたかも今気付いたかのような振る舞いもあったが、彼女が話を持ちかけてすぐにその答えには至ったはずなのである。
そうでなければ仕事など引き受けない、少なくとも彼女はそう思った。
「日本十一箇所と東京都の図形を確認した上で、そんなふうに疑問符をつけられても僕としては困るぜ。だってもう、そこにしか答えはないじゃないか」
「どうでしょう」
「どうかしら」
「……君たちは本当、詰まらなくなったなあ。エミリオンや雪芽より酷いぜ」
「フェイクの性格が悪いお陰ですよ」
「まったくだわ。それでどちらかしら」
「何がだい?」
「被害に遭うのが東京なのか、あるいは被害に遭わせるのを東京にするのかよ。私は後者だと思うけれど」
「私も後者だと考えます。東京を差し出して宥めるような感覚でしょうか。それを考えれば二村議員に接触しているフェイクの思惑も見えてきますからね」
「参ったな。聞いてたかい一夜、これだぜ。この二人は僕を丸裸にしたいらしい」
「貴女は隠しすぎだと俺は思うよ」
「やれやれ……ま、君たちが察した通り、現状では魔法師があまりにも少なすぎるんだよ。そこが一つ目の問題だ」
「やはりそうですか」
「さすが狼牙はよくわかっているわね。私はあまり実感がないのだけれど」
「魔法師は世界の内側にある法則の一旦を担う者だからね。たとえば青葉のように――」
「あら、私は消失しか見つけていないわよ?」
「だからだよ。意味は三つ揃ってこそ、ようやく〝意味〟を持つ。これは皮肉だぜ? だから現状で世界のあらゆる意味は、そこに在るだけで支える者がいないのさ。魔術師から発展したのではなく、純粋たる魔法師は――本当に少ないんだ。どうにか破壊と創造だけはいるし、狼牙のように縁を担っている魔法師がいるため大雑把には保たれているけどさ」
「つまり、魔法師が少ないために〝世界の意志〟に干渉することができてしまい、今回のような状況に陥ってしまったと、この理解で構いませんか?」
「だからこの件を引き金に魔法師が発生すると、そう捉えて良いのね?」
「やれやれだよ、まったく。その通りだとしか言いようがない。君たちの疑問系はどれも確認のためだから、僕も言葉数を少なくするしかないね」
けれど嬉しさにか、口元が緩むのを抑え切れない。
「他の国との違いはね、外敵が存在しないことなんだよ。この辺りは武術家の領分だから多くは語らないけれどね、まあ難しいわけさ」
「他の国には外敵が存在する――いえ、今回の件に呼応して外敵が発生すると?」
「今すぐ、ではないさ。ただ発生因子は種のように各地へ広がるだろう」
「たとえば、何かしら」
「そうだね――たとえば幻想種の代名詞とされる金色の王を知っているかい?」
「はい」
「幻想種……ああ、語り継がれた昔話の中でも実話に該当し、今なお行き続ける種族だったかしら」
「そうさ。人に恋をした吸血鬼は、妻が亡くなっても人を喰うことをしなくなった。けれど数千年の刻を一人で生きて居て、そこで初めて彼は寂しいなんて感情に気付くんだ。そこで彼は右手の指を切り落とし、人の形を作ろうとした――成功したのは三人。中指のケンネス、薬指のアルレール、親指のフォト。ただしケンネスだけは金色ではなく漆黒だった――まあそんな話さ」
「アルレールとフォトの金色は、吸血によって再生能力を極限まで持ちながらも、しかし金色の王のような身体能力は得られなかった。けれどケンネスは再生能力を持たないのにも関わらず、その身体能力を受け継いだのだと、おっしゃっていましたね」
「――あら、出逢ったことがあるのね?」
「ええ、私とフェイクはアルレールにお会いしたことがありますよ。幻想種を相手に恐れ多いとは思いましたが、まあ私は付き添いのようなものです」
「ま、そういうことさ。それが外敵になるためには敵意を持たなければならない――だから吸血鬼、屍喰鬼、不死者なんかはそれとなく発生するだろうね」
「防げないのかしら。それとも防ぐ必要などないのかしら」
「どうだろうね。いいかい? そもそも今回の措置に関して、どう考えているんだい?」
「どう……ですか。それはつまり、その場凌ぎでしかないと?」
「今この時だけに限った儀式だとは思っているけれど」
「そうさ。今ではなくいつか、必ず崩壊は訪れると僕は見ている。ただいつかは、わからない――遠くはないと思うけれどね。僕がやろうとしているのは、その前準備なんだよ。崩壊の指向性を変えるのではなく、崩壊に際して耐えられる人類を、まあそれとなく導いてみよう、なんて思ってるのさ」
「それが、ヴォイドが得た〝権利譲渡〟の究極系だと考えているのね?」
「まあ――どこまで渡せるか、わからないのが悩みなんだけれどね。ただできることをやるだけさ」
「まだ後発のために何かをする年齢ではないと思うけれど」
「歩みは己のために、ですね。その辺りは公人に――と、そういえば私が旅に行っていた間に襲撃があったそうですね。フェイク、錠戒は逆に公人のための事でもありますね?」
「エミリオンのような状況は、これから誰かが陥るからね。そのための一手だと考えておくといい」
「あら、公人を協会にでも所属させるつもりかしら?」
「本人の意思がどう転ぶかはわからないさ」
「どう転ばせるのかわからないと私は訂正したい気分ですね」
「どちらにせよ転ぶけれどいつかはわからないと私は受け取ったけれど?」
「おっと日付が変わるかな? さあ明日もあることだ僕は帰って休むとしよう」
笑みを浮かべたまま席を立つ彼女を止めようともしない二人は、視線すら背後に向けず追加の注文を一夜に向けて言う。
「本当に詰まらなくなったなあ君たちは」
「慣れですよ」
「真面目に付き合うと疲れるもの」
「――覚えてろ」
二人は揃って片手を挙げ、それを別れの挨拶として見てからわざとらしくため息をその場に置き、彼女は去って行った。代金を置いて行かないことに不安を覚える人間はここにいない。そもそも借りる事を知らない彼女のことだ、代価は支払っているのだろう。
「明日は月曜ね……一夜、月曜は定休日だったかしら」
「そういう聞き方は青葉さんらしいね。定休日だよ」
「あら、狼牙ならどう訊く?」
「私なら、明日は月曜なので定休日ですねと言うだけですよ」
「ん、わかりきったことを問うから意地が悪く見えるかしら。どうなの一夜」
「俺に訊かれても返答に困るな……」
「父さん、そこはね、そういう問いがそもそも意地が悪いと教えていいと思いますよ」
「今のは自覚してやったのだから、そう言われるのは心外ね」
「青葉、自覚していれば良いわけではありませんよ」
「それもわかっていてやっているのよ」
「ははは、仲が良いね――と、紅音もどこかへ行ったみたいだ。二人が話している間にかな。そろそろ俺もあがるが、いいかな?」
「構わないわよ。どうせ雪芽がくるのでしょう?」
「姉さんではなく公人がきますよ」
「どちらも同じことよ」
「違いますよ。同時に――とは限りませんが、順序を追ってきますね」
「あら、同じじゃない」
「……そういえばそうですね」
参ったなと一夜は笑う。どうやら自分でもこの二人を相手にするのは苦労しそうだ、早早に家へ戻ってしまおう。




