第四章 いつか花開くまで 3
リシュナが消えてから一日。ルキウスに同行する形でヘリオスはリシュナの捜索を始めた。
バリスの村で馬を借り、ルキウスの星魔術を頼りにリシュナの痕跡を探し求める。リシュナが連れ去られたと思われる馬車の行方ははっきりとはわからない。頼みのルキウスの星魔術も、新月の前後は精細さを欠くらしく、決定的な居場所を突き止めることまでは出来なかった。
「しかしわからないのは連れ去った人物の目的です。プリマヴェーラを誘拐する危険を冒してまで、何を求めているのか」
馬を並べながら歩いていると、ルキウスは不意にそんな言葉を漏らした。確かに国の宝とも呼ぶべきプリマヴェーラを攫ったとなれば、見つかれば極刑に処されることは疑いようもない。そこまでして、得たい何かがあったということなのか。
「目的、ねえ……」
ヘリオスは苦い顔で呟くと、何の力も持たない少女の身を案じた。
プリマヴェーラともてはやされていても、彼女は普通の少女だった。彼女の本心を知った自分が、それを思い知らされた心地だった。明るく振る舞っていた彼女だが、今頃どれほど不安な思いをしているのだろうか。彼女を守るべき立場である自分が、よりによって傷つけて、あまつさえ危険な目に遭わせてしまっているのだと深く後悔の念を抱く。
「そんなに、人々はプリマヴェーラを必要としているのか……」
望まれるだけで、自らは何も望まない少女を思うと、いまさらのように胸が痛んだ。
エルナトの要求に対してリシュナが出した答は、「もう少し考えさせて欲しい」だった。
与えられた自室に籠もり、リシュナはめまぐるしく頭を働かせた。自分が国王の前で偽物だと名乗ることでエルナトの企みを潰えさせることは出来る。けれど、そうすればダーナの村のみんなや自分を信じてくれたルキウスやヘリオスにまで迷惑を掛けることになる。かといって、彼の言いなりになれば、ダーナのみんなとルキウスは守られても、ヘリオスの名誉を傷つけることになる。ヘリオスの前に開かれている輝かしい未来をリシュナ自身が壊すことなど、絶対にしたくなかった。
けれど、誰一人犠牲にせずに現状を打破する方法が思いつかないのも事実だった。
本物のプリマヴェーラなら、どうにか出来たのだろうか。だが、自分はどうあがいても本物になることは出来ない。それなら、今のリシュナに出来ることをするまでだ。プリマヴェーラでないリシュナにも出来ることはあるに違いない。むしろ自分にしか出来ないことだってあるはずだ。──絶対に誰も不幸にしたくはない。
その想いを胸に、リシュナは強い意志を瞳に秘め、力強く立ち上がった。
「わたしは力が弱いプリマヴェーラではないわ。弱いどころか、何の力も持っていない」
エルナトの目を真っ直ぐに見つめ、リシュナはそう告げた。
想像通り、エルナトはリシュナが言った言葉を瞬時に理解できないようだった。それでも我に返った彼は至極当然の疑問を口にした。
「では、そのペンダントは? これだけは偽れないと自分で言っていただろう」
「ええ。これこそがわたしがプリマヴェーラである嘘偽りのない証。それを逆手にとっていたの。……本当のことを話すべきか正直迷ったわ。でも、わたしはヘリオスの名前に傷がつくのはどうしても我慢できなかった。だから秘密をあなたにお話しします」
そうしてリシュナは、声が震えそうになるのを必死で堪えながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「わたしとヘリオスが手紙を交わしていたのはあなたも知っているとおり。わたしは幼い頃からプリマヴェーラになりたいと願い、ヘリオスも太陽の騎士になりたいと夢を語っていた。わたしはヘリオスに会うためにも、どうしてもプリマヴェーラになりたかった。だから……花の精霊に頼らずともプリマヴェーラになる方法を探した。早い話が、プリマヴェーラの花は作り出せるということ。わたしのペンダントのプリマヴェーラの花は、花の精霊が咲かせたものじゃないのよ」
「そんなことが……」
「出来るのよ。現にこのペンダントを見て。誰も偽物だなんて信じない。けれど、わたしにはプリマヴェーラとしての力がない。あなたの妹さんが花を燃やした時期の後だったのは、偶然としか言いようがないわ。でも……彼女がプリマヴェーラとして脚光を浴びていたら、わたしはこんなことしないで済んだのかもしれない……」
少しうつむいて、ペンダントを握りしめる。花の精霊の真意はわからない。けれど今は自分に出来ることをするまでだ。
「わたしはヘリオスの名誉を傷つけたくないの。だから彼がわたしを脅したなんて王様の前で言いたくない」
「しかしそれでは……」
「あなたを太陽の騎士にすると約束するわ。わたしはプリマヴェーラの花を作り出せるのよ。その花を、たとえば妹さんに渡せばプリマヴェーラを誕生させることができる……メリッサさんならきっと本物のプリマヴェーラとしての力を持っているもの。あなたの望みは叶うでしょう?」
とんでもない嘘をついてしまった──。
リシュナは肺にたまった重い空気を吐き出すと、今度は深く吸い込んだ。
それでも、そうしなければ何も変わらない。あらゆる可能性に懸けて、リシュナは嘘をつく決意をした。どうせ自分の存在自体が偽りのようなものなのだ。今更何を恐れることがあるのだろう。そんな風に強がりながら、リシュナは屋敷の外で野草を摘んでいた。
プリマヴェーラの花を作り出すためには材料が必要で、それを集めるために外に出たいとリシュナはエルナトに持ちかけた。もちろんプリマヴェーラの花を作り出すことなど不可能だ。けれど、そう言った以上はそれらしく振る舞わなければならない。それに、屋敷の外に出れば何か事態が好転するかもしれない。ただの時間稼ぎにしかならないかもしれないが、今の自分にはひとつひとつの可能性に当たるしかないのだ。
見張りの者はついていたが、とりあえず自由にはさせてくれた。材料なら用意すると言ったエルナトにリシュナはやんわりと断りを入れた。同じ植物にしろ、目で見てそれが材料に相応しいかどうかを判断する。それは自分にしかできないことだと。すっかりエルナトが自分の言葉を信じてくれたことにひとまず安堵する。まだ道は閉ざされてなどいない。
乾燥させると痺れ薬になる植物に、睡眠を誘う効果のある花の蜜──。とにかく役に立ちそうなものは何だってこの機会に採集しておかなくてはいけない。いざという時、何かの役に立つかもしれない。
「これは……アスフォデル?」
茂みの中に珍しい花を見つけ、リシュナは思わず呟いていた。見た目は白く可憐な花で良い香りもする。しかし根の部分は猛毒で、うっかり口にすると二度と目覚めないと言われている。リシュナはじっとその花を見つめた。最悪の場合は、これを使うことになるのかもしれない。恐る恐るそれを根の部分から掘り起こすと、丁寧に鞄にしまいこんだ。自分が途方もないことを考えていることに気づくと、震えが止まらなかった。
この屋敷に連れてこられて三日目の午後、リシュナはプリマヴェーラの花を咲かせるための採集が上手く進んでいるかとエルナトに確認された。
「まあまあ順調よ。独特の青色を出すために染料となるたくさんの花も必要だし、似たような花冠を見つけるのにも苦労するの。日持ちはしないから、あなたも妹さんの居場所を早く見つけておかないとね」
「わかっている」
エルナトは仏頂面でそう答えると、疲れたように眉間を指でもみほぐしていた。彼は彼で、少ない手勢を妹の捜索に当て、忙しくしているようだった。駆け落ちした二人をバークレー家もすぐに探し出そうとしたが、どこに隠れているのか、主要な街に二人の痕跡すら見つけられない有様だったようだ。
(花の精霊は恋する乙女の味方なのよ。少なくとも、わたしはそうだと信じている)
このまま二人が見つからないことを願いながら、リシュナはそっとそんなことを思った。本物のリシュナにしろ、メリッサにしろ、大切な人を想う気持ちは花の精霊の祝福を呼ぶものだったのだ。ただ、それがわかりやすい形での幸福とならなかっただけで。
(それでも……好きな人を好きだと認めることができないよりかは、ずっといいのかもしれない)
自分を見つめる冷たい瞳を思い出すたび、リシュナの胸は絞られるように痛んだ。自分の想いが報われることはなくても、彼のために何かをしたい。彼女たちと自分の心はきっと何も変わらない。
「元気のでるお茶でもいれましょうか?」
「遠慮しておこう。変なものを混ぜられては困るからな」
ぎくりとしたリシュナだが、何もないように取り繕う。エルナトもそうそうリシュナを侮ってくれないようだった。
「逃げ出す気があるなら、もっと努力してるわ」
「まあ、それもそうか……」
エルナトが納得したように呟いた時だった。屋敷の入り口がにわかに騒がしくなった。
何か言い争うような声に続き、物が倒れるような音、そして複数の足音が近づいてくる。
「何事だ」
訝しんだエルナトの声と同時に部屋の扉が開いた。
お互いの姿を確認すると、全員が驚きに息を呑んだ。
「エルナト……まさか、お前だったとは……」
「ヘリオス……」
太陽の騎士の正装をしたヘリオスを、エルナトは心底憎々しげに睨みつけている。ヘリオスに続いて室内に入ってきた黒ずくめの魔術師を見つけると、リシュナは思わず叫んでいた。
「ルキウス!」
「リシュナ様、遅くなって申し訳ありません」
ひょっとしたら助けに来てくれるかもしれないという淡い期待はもちろんあったが、こんなに早く来てくれるとは思わなかった。こちらに向けられるのは相変わらず感情の読めない涼しげな眼差しだが、そこに安堵の色を見たようで、リシュナは胸が熱くなった。
そうして、来てくれるはずがないと思っていたヘリオスに視線を向ける。彼はエルナトから視線を外さずリシュナの方を見ようともしなかった。
「どういうつもりだ? 騎士団を辞めたお前がプリマヴェーラを連れ去るだなんて……」
「お前にそんなことを言われる筋合いはない! お前こそプリマヴェーラを利用していたんだからな!」
エルナトはありありとした憎しみを瞳に湛えたまま、ヘリオスを睨みつけては叫んだ。
「どういう意味だ……?」
ヘリオスがその言葉に疑問を抱いている隙に、エルナトはリシュナを後ろから羽交い締めにした。隠し持っていた短剣を首筋に近づける。
「ヘリオス、武器を捨てろ。そこの魔術師も妙な真似をしたら、この娘の命を保証しない」
「こんなことをしてどうなるかわかっているのか?」
ヘリオスの忠告にも、エルナトは耳を貸す気配はない。リシュナは恐ろしさのあまり声も出せずにいた。
「あなたの目的が何かは知りませんが、プリマヴェーラを失って困るのはあなたも同じなのではないですか」
ルキウスは動じる気配を見せず、一歩前へ進み出た。それを見たエルナトは凄惨な笑みを浮かべると、躊躇いなくリシュナの首筋に鋭利な刃を当てた。
「やめろ!!」
すんでのところで止まった刃は、しかしリシュナの柔らかな皮膚を切り裂いた。青ざめたリシュナの恐怖に満ちた顔と、うっすらと滲んだ血を見てヘリオスは叫んだ。
「言うとおりにするから彼女を傷つけるな! ルキウス、下がるんだ」
ルキウスは不満げにヘリオスを見返したが、恐怖に震えるリシュナを見て、ようやくその言葉に従った。
「……勘違いしては困るな。お前らが邪魔だてすると言うなら、この娘は死んでも構わない。最悪、ペンダントさえ手に入ればいいのだから」
このままヘリオスたちに邪魔をされるぐらいなら、ペンダントをメリッサに渡してプリマヴェーラに仕立て上げようとエルナトは考えているのだ。
「そこの魔術師は信用できない。ヘリオス、奴の星魔石をこちらに寄越せ」
リシュナにもはっきりとわかるほど、ルキウスの表情が固まった。エルナトは知っているのだ。ルキウスが新月の夜に倒れたことを。
躊躇う様子を見せたヘリオスだが、エルナトがもう一度リシュナの首筋に刃物を近づけたのを見ると、自分の剣を床に放り、おとなしく言われたとおりにした。
星魔石を手放した瞬間、ルキウスは片膝をついて苦しがった。息が荒くなり、額に汗がにじんでいる。
「やめて! ルキウスが死んじゃう!!」
リシュナの必死の制止にもエルナトは涼しい顔をしている。
「死んでくれるなら好都合だ。こうなった今、やはりヘリオスはプリマヴェーラを脅迫した罪で断罪されねばならない」
「どういう……」
「偽物のプリマヴェーラを使って太陽の騎士の栄誉をまんまと手に入れた姑息な騎士だということだ」
エルナトの言葉にヘリオスは表情を凍りつかせた。リシュナが偽物のプリマヴェーラだと、エルナトが知ってしまったことに気づいたのだ。
「……言うとおりにすれば、彼女の秘密は黙っててくれるのか」
「ヘリオス……?」
リシュナの呼びかけに、ヘリオスは応えない。ただ、じっとエルナトの答を待っている。
「本当に言うとおりにするのならな。お前は罪を問われ、俺は新しい太陽の騎士になる。俺だって自分の仕えるプリマヴェーラが偽物だなどと自分から言うはずがない。……しかし、こんな小娘のためにそこまでするなんて、お前本当に……」
「だめよ、ヘリオス!!」
リシュナは叫んでいた。ヘリオスが犠牲になる必要なんてどこにもないのに。全てはリシュナが背負うべきものなのに。
「俺はいいんだ。それに、君だって困るだろ。君だけじゃない。リシュナの弟や村の人を守りたいんだろう?」
「それは……」
もちろんそうだ。でも、ヘリオスが犠牲になることでそれが叶うというのなら──それは違う。
リシュナは考えた。今、一番の障害は──。
「お互いを思う麗しい志だが、結局は黙って見ているしかできないんだよ、プリマヴェーラ」
エルナトの言葉に、リシュナは決意を込めて顔を上げた。
「黙って見ているしかできないわけじゃないわ。わたしはあなたのいいなりになんてならない」
リシュナは隠し持っていた小さな袋から目的のものを探り当てると、高らかに宣言した。
「ヘリオス、わたしがいなければ、この人に負けたりなんてしないわよね? だったら、その重荷をなくしてみせる。わたしはプリマヴェーラよ。花や植物のことなら何でも知っているの。アスフォデルの根に猛毒が含まれているってこともね」
何をしようとしているのか、ルキウスだけは察したようだった。浅い呼吸を繰り返し、その場から立ち上がることもできない彼だが、いつもの冷静さなどかなぐり捨てて声の限り叫んだ。
「リシュナ様、お止めください!!」
呼びかけに、リシュナは一度だけ儚げに微笑んだ。しかし次の瞬間、リシュナは手にしたアスフォデルの根を口に含んだ。
エルナトは状況が掴みきれず、ただ呆然とその様子を眺めていたが、自分の腕の中でやがて苦しみだし、意識を失ったリシュナを見て、血相を変えた。
人質としての意味をなくした少女をその場に放り出し、行動を起こそうとするが、ヘリオスの動きの方が早かった。
落ちている剣を拾い上げ、鞘ごと首筋に叩きつけると、エルナトは呆気なく昏倒した。屋敷の使用人たちも、主が倒れてはこれ以上抵抗することもないだろう。
ルキウスは倒れたリシュナのもとへと向かおうとしたが、一歩も動けないようだった。見かねたヘリオスはエルナトが奪った星魔石をルキウスに向かって放り投げた。受け取り、深く息を吐き出すと、ルキウスはようやくその場に立ち上がった。
ヘリオスはそばに落ちている植物の根を拾い上げた。
「アスフォデルの根は即効性の猛毒……」
急いでリシュナの脈をとるが、心臓の鼓動と共にそれは完全に止まっていた。ヘリオスはすぐさま心肺蘇生を行うべく、リシュナを仰向けに寝かせ、冷たくなったリシュナの唇に自らのそれを重ねると息を吹き込んだ。胸骨の圧迫と共にそれを繰り返すが、リシュナの意識が戻ることはなかった。
自分の無力さを痛感したヘリオスは、やがて力無く首を振った。
「……どうして君が死ななくちゃいけないんだ」
青白い顔に紫色の唇が、無情な死を告げていた。医師である父の元で何度も見た光景だというのに、ヘリオスにはこの事実が現実のものとして受け入れられなかった。
「……アフェタ……」
ルキウスはリシュナの顔を見つめたまま、小さくそれだけ呟いた。
柔らかな午後の陽射しが窓辺から差し込んでいる。開け放した窓から微かな風が入り込み、薄茶色の前髪を撫でるように吹き抜けていった。
マリオンは少し乱れた前髪をなおそうと手を差し出したが、動きを止めた。目の前の少女は永遠に時が止まってしまったのだという事実が今更ながら胸に迫り、熱いものがまた込み上げてきた。
「……戻ってきてくれても、話が出来ないんじゃ、わからないわよ。リシュナ、あなたが何を考えていたのかなんて……」
寝台の上で安らかに眠るように横たわっている少女へ声をかけても、もう彼女に届かないのだとわかっていてもやめられない。それは、傍らを離れることなくずっと彼女を見つめている彼も同じ気持ちなのだろう。
「ヘリオスさんも、少し休んだらどうです? 全然寝てないんでしょう?」
エルナトの屋敷からリシュナを連れて帰ってきたのが昨日の夜遅く。それから彼はリシュナのそばを片時も離れてはいない。
「……いいんだ。放っておいてくれないか」
マリオンは何か言いたげに口を開きかけたが、結局何も言わずに部屋を出て行った。
ヘリオスは昨日からずっと後悔し続けていた。今、リシュナを目の前にしてわかる。彼女が親友を喪った時の痛みがどれほどのものだったのか。それなのに、自分は彼女を責めることしかしなかった。彼女がどれほどの覚悟のもと、プリマヴェーラになったのか。大切な人が守りたかったものを彼女は守ろうとしただけなのに。
彼女の怒りはもっともなはずだったのに。結局謝罪することが出来なかった。謝ったとしても、それは済むことではないのだろうが。
結局、二人のリシュナを殺したのは自分なのだ。彼女の騎士だと言うばかりで守ることも出来なかった。
「守られていたのは、俺の方だ……」
彼女こそ、大切なものを守るためなら人生も命も投げ出せるほど勇敢な少女だったというのに。
風がまた吹き抜けたのか、髪と睫を揺らした。それをぼんやり見ていたヘリオスは異変に気付いた。睫が大きく動き、ゆっくりと瞼が開いた。やがてそこから明るい茶色の瞳が覗く。
「う、ん……」
小さく声を上げると、何度か瞬きを繰り返す。徐々に頬には赤みが差し、唇にも血の気が戻っていく。
「リシュナ……?」
思わずそう声をかけたヘリオスは、彼女の手を握り、素早く脈を取った。確かに、鼓動が脈打っている。
リシュナはようやく焦点の合った目でヘリオスを見ると、唇に笑みをのせた。
「良かった……きちんと謝りたかったの」
安心したのか、それだけ言うとまた深い眠りに落ちていった。
ヘリオスは小さな手を何度も温もりを確かめるように両手で握りしめた。
「生きて……」
ちょうどその時、ヘリオスのための食事を持ってきたマリオンが現れた。ヘリオスは振り向くと、力強く言い放った。
「マリオン、ルキウスを呼んできてくれ。リシュナが目を覚ましたって」




