セレスとアリア
「この国が亜人を受け入れていると言う国なのですね」
決して大きくはない。
だがその国がどんな国なのかは国民の顔を見れば分かる。
他国からみれば長らく謎の国とされていたナーガディアンはその長い鎖国解いたばかり、また、機微に精通する商人達はどこからともなくナーガディアンの連合国加盟についてをいち早く察しているのだろう。そうした商人達がこぞってナーガディアン国へと入国し、界隈を賑わせていた。
石作りで舗装された道には人が行き交い、笑い声が音楽のように所々で奏でられている。
露天では物売り足りが屋台を出し、かしましい。
セレスの従者として着いて来たアルルもその賑やかな様子が気になるのだろう、キョロキョロと辺りを見渡している。
「後で色々と屋台を見てみましょうか」
「はい!」
アルルの喜びに綻んだ顔を見てセレスも笑顔を浮かべる。
――これなら期待ができるかもしれませんね。
これからいざナーガディアンの女王に会いに行くのだが、これならばと、僅かに緊張もあるが期待の方が大きくもてる。
「それでは私は王宮へ行ってきます。アルルは宿を取っておいてください」
「はい、分かりました、お姉さま」
アルルを残し、一人王宮へと赴いた。
王門への衛兵へと面会を申し出ると、丁寧に対応してもらえ、ますます期待を高めるとそのまま連れられて、謁見の間へと進む。
傅き、女王が入室するのを待っていると、
「面を上げてください」
言葉のままに面を上げ女王アリアを見た。
――綺麗な方ですね。
そして何より優しげな顔をしている。
「あなた方人魚族が我が国へと帰属されたいと言う願い。嬉しく思っています」
微笑を浮かべたその顔から紡がれる声はとても澄んで綺麗な声音であった。
「ありがとうございます。私が族長のセレスティアと申します。亜人を受け入ておられる国が見つかるなんて夢にも思わず。噂を聞きつけこうして参った次第です」
「どうでしたかこの国は?」
「はい、ここに来るまでに沢山の人の笑い声と笑顔を見てきました。とても良い国だと」
「嬉しいお言葉ですね」
威厳は無いが、物腰は柔らかい印象だ。
「それで私達人魚族お帰属の件ですが」
「はい、勿論受け入れさせて頂きますよ」
笑顔を絶やさず、考えるまでもない、そんな表情で告げられた。
「ありがとうございます。里で待っているものも喜びます」
「はい、皆さんがこの国で幸せになれれば私も嬉しいですから」
「はい、ただこの国はミクトランテ帝国に狙われていると聞いているのですがそちらは……」
聞きにくい事ではある。だが里の代表としては存亡が掛かっているのだ、だからこそ聞いておく必要があった。
「そうですね、我が国は亜人を受け入れ重用もします。現に亜人を隊長とする隊もありますし、客将として迎え入れた方も亜人です」
「客将ですか?」
「はい、とても強いお方です。先の戦争でも一人奮迅の活躍を成されました、あの方が居る限りこの国が滅びる事はないです」
物腰の柔らかい女王が断定の意をもって答える、よほどの自信なのか、それだけ信頼しているのか。
「いつかお目通りをしたいものです」
「今は所用で他国へと出ておりますが、セレスティア様が帰属された後に会う事もあるかと思います」
「楽しみにしておきます」
「はい」
終始にこやかに会話をする二人、この二人の間に策謀、と言った雰囲気が微塵も無い事は明らかであった。
「それではまた里の者を連れてきましたらご挨拶に伺わせて頂きます」
最後ににこりと、女王アリアが笑顔を向け退室していった。
◇◆◇
「あ、お姫さんどうでしたか? 人魚族の代表との会見」
部屋に戻ったアリアをキファが出迎えた。
用意して合ったのだろう、ティーセットまで準備されている。アリアが椅子へと座りキファに返した。
「ええ、喜んで貰えていたようでした」
屈託の無い笑みでアリアがそう答えるとキファも顔を綻ばせる。
「それに思わずため息がでてしまう位綺麗な方でしたよ」
先ほどまで話していた美女の顔を思い浮かべる。大人になればあんな女性になりたい、そう思わせられるような女性だった。
「お姫さんがそう思うってよっぽど美人なんっすね~」 どういう意味だろう?と首を傾け考えるが答えはでなかった。
「それよりリュート様から伝令があったっすよ。無事ベルガント国との会見が済んで、連合諸国の参加も上手く行きそうっす」
窓辺に絶つキファは肩に伝書鳩と乗せている。手に餌でも持っているのだろう、鳩が手の平を啄む姿が微笑ましい。
「上手く行っているのですよね」
「そうっすね、ミクトランテ帝国に対抗するには戦力も増やさないといけないっすし、味方も増やして置かないとっすから、リュート様一人じゃ対応できないっすし」
ナーガディアン国の課題は今まさにそこであった。先の戦争、反乱で元々少ない将官はさらに少なくなり任務を任せられる者がいないのだ、リュートが外交に出たのが良い例であろう。
ミクトランテ帝国が攻め込んで来る今、国を守っているだけではじり貧になるのは目に見えている。こちらから攻める、それがいつか必要にはなるが攻め取った後、その地を任せられる人材すら足り無いとなれば本末転倒である。
亜人の受け入れ、連合諸国への参加、他にも人材の登用を行う為に広く公募を募っている。たった一つの戦争。それがこの国を変えて行くのだ。
アリアとしては戦争などしたくもないし、自らの納める事になったこの国の人々が笑えればいい、そうは思うも状況に対処する為には変わるしかないのもまた事実である。
「それで人魚族の代表へは私がついていくっすね、リュート様からも言われてるっすけど亜人の受け入れを喧伝している今、ミクトランテ帝国が率先して亜人の集落を潰しにかかる可能性もあるっすから」
「分かりました、亜人の方達が襲われるのを見過ごす分けにはいきませんものね。キファさん、お願いします」「了解っす~」
◇◆◇
「どうでしたかお姉様?」
期待の眼差しでアルルが尋ねてきた。アルルの取った宿へと戻り二人で食事をしながら先の件を話したいた。「ええ、無事受け入れて貰える事になりました」
とんとん拍子に話しが進み、セレスとしても嬉しい限り、その顔はほころび、ご満悦な様子である。
「よかった~これでもう怯えて過す日々もなくなるんですね」
「そうですね」
過去を思い返しているのかセレスの顔には若干の憂いが現れる。
その様子にアルルが慌てて口を開いた。
「あ、そういえばこの国には凄い人がいるらしいですよお姉さま」
アルルがセレスを慮って話題を変えた事に気づき、感謝しながら尋ねた。
「凄い人ですか?」
「はい、この国の客将らしいんですけどね、すっごく強いらしいです、なんでも一人で軍を蹴散らしたり、強い魔物を討伐したりとか、最近活躍するようになって良く噂になってるみたいなんです、その人がいればこの国は安泰だって話してる人が何人もいましたよ」
――グレイ様みたいな人が他にもいたのですね。
一人で軍を相手にするような男はそうは居ない、と言うよりまずいないだろう。
「一度会ってみたいですね」
そんな行動を取るような人だ、グレイに似たところがあるのかもしれない。会った所で彼が帰ってくる訳ではないのだが、彼に近しいものを感じたい、そう思ってるのかもしれない。
「ふふ、忘れる気なんてないんですね私は……」
「お姉さま?」
折角アルルが元気づけようと話題を変えてくれたのにまた悲しい方向へ考えしまった。いけない、と改めて気合いを入れ直して食事に手をつけた。
「アルル、この国の料理を堪能しましょう。私達人魚族の口に合う料理があるか調べておくのも大事な事ですよ」
セレスが大げさな真顔でそう告げるとアルルの顔がぱぁっと華が開くように喜びを露わにする。
「はい! お姉様、私はこのレチェ・フランと言う料理が怪しいと思います。これに挑戦してみましょう!」
メニューにあるデザート欄を指さし、熱意の籠もった眼を向けてくる。
「ええ、今日行ける所まで行きますよ! 大丈夫です、また里へと戻る旅があるのでここで甘いものを補給しておきましょう」
気を取り直したセレスとアルルにテーブルに、二つ並べなければ乗りきらない程のデザートが来るのは、すぐ後の事であった。




