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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
過去との交錯
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光りの中で


 そこに地は無い。

 そこに天は無い。

 広がるは真っ白な視界。

 

 平衡感覚すら無く、常人であれば一日を待たずして発狂してしまうであろうかその場所を何事もないような中、一人の老人がまるで階段を降りるかの如く歩んでいた。

 だがそこに階段があるわけではない、ただ足音すらさせず、しかし淡々とその老人は降りて行く。

 

 だがやがて視界には白、それ以外の物が見えてくる。

 

 巨大な何か。

 そして一人の女性。

 

 その巨大な何かに付き添うように、女性が佇んでいる。

 老人に気づいたのか、女性が老人を見る。

 長い銀髪に背には6枚の薄く透ける翼。

 

 老人とその女性は知己の筈なのだが、冷然と老人を見上げている。その瞳には意志の光りがない。

 

 その瞳を受け、老人の胸中には寂しさが宿る。その女性の感情豊かな面を知っていたからだろうか。

 

 見上げる女性はその氷の眼差しのままその小さな口を開く。

 

 「英雄 レイス=ロズウェル。こちらへ何用でしょうか?」

 

 その声には抑揚がない、事務的。そして無感情。

 眉一つ動かさずその言葉は告げられた。

 

 言葉を受け、老人は片膝をつき顔を伏せたまま用件を答えた。

 

 「はい、復活までの時間をお伺いさせて頂きたく」

 

 「残り94日です」

 

 レイスが顔を伏せたまま目を瞑り、その残り時間を噛みしめる。

 

 母神ミューゼ、その復活とかつて少年へと告げたレイスはしかし、


 ――後それだけしか残っておらんのか。

 

 待ちわびた様子も無くその残り時間の少なさを嘆いていた。

 

 ちらりと面をあげ、その巨大なものを見る。

 その巨大なそれの修復はほぼ終わっている。

 

 全身から金属の光沢。関節かと思われる部分には巨大なワイヤーのような物が束となりさながら筋肉のようにも見える。

 そしては生きているのか時折蠢いていた。

 

 母神ミューゼ。

 かつてレイスが敬称を用いそう呼んだそれを、僅かな感情の揺らぎを宿した目で見詰めていた。

 

 「英雄、レイス=ロズウェル」

 

 「は!」

 

 呼ばれ、内に籠もってい意識が再び表へ、声を発したその女性――レティシアを見た。

 

 「16日前、下界にて強力な力を探知しました」

 

 「はい。魔王による破壊工作が原因と思われます」

 

 「否定。魔王と想定される力を上回っています」

 

 「私共も日々研鑽しております、それ故かと」

 

 実の所レイスには別の心辺りがある。だがその事実はその感情を消した顔に隠された。

 

 冷然と立つレティシアは暫く思索する。その様子を見てレイスは胸中に眉一つ動かさず、しかし背中にはひんやりとしたものを感じていた。


 「想定誤差を大きく逸脱します。現時点をもって修正。16日前の探知した力を魔王と定義、認識します」

 

 言葉の意味はレイスの嘘がばれなかった事を示唆し、レイスの胸中に安堵が広がる。

 

 「はい、万事計画通り動いています。ですのでレティシア様はミューゼ様の傍に」

 

 「了承」

 

 言葉と同時、興味を無くしたかの様にレティシアがレイスから視線を外す、レイスは立ち上がるとその場を立ち去ろうと、しかし思惑した後一つの言葉を告げた。

 

 「レティシア様、グレイと言う名に心辺りはございますか?」

 

 その言葉がなんなのか、今のレティシアは知らない。だがその言葉がスイッチになったかのようにレティシアがレイスを見る。そして意志を持たない筈のその瞳に一瞬、ほんの一瞬ではあるが感情が見えた気がする。

 

 すぐさまそれは形を潜めてしまったが、

 

 「否定。重要人物では無いと思われます。その名の意味を問います」


 「いえ、何でもございません」

 

 レイスが告げると同時、振り向きその場をゆっくりと立ち去った。

 

 ――もう少しじゃ。

 

 目を閉じたレイスの脳裏には二人の男が佇んでいる。

 その二人を想い。

 

 レイスは再び目を開けそしてその場を立ち去っていくのであった。

 レティシアは意志を宿さぬ人形のような瞳でその背中を見ていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 小国ナーガディアン、この国の年若き女王は今激務に追われていた。

 反乱を鎮圧させた後の事後処理、そしてこれから行うべき政策。それらの処理を丞相の力を借りながらもなんとかこなす日々が続いていた。

 

 そしてその中でも最も大きな政策、それはこの国事態の今までのあり方を変えてしまう事であった。


 「お姫さん、書状が届いたっすよ」

 

 いつのまにそこにいたのか、キファが入って来ていた。そして手に用件にも出した書状をもっている。

 

 「ありがとうございます」

 

 手渡された書状をアリアが読む。

 ゆっくりと、噛みしめるように、そして満足したのか笑顔になりキファを見た。

 

 「それって?」

 

 「人魚族の長が受け入れを希望して来ています。それに伴いこちらまで一度代表が挨拶にくると」

 

 「結果は上々ってことっすか?」

 

 「そうですね、リュート様のご期待に添えるかはまだ分りませんが」

 

 アリアの机には似たような書状が数枚ある。

 

 この国はミクトランテ教を排除してきた国である。だがそれは直接ミクトランテ帝国に異を唱えるようなもの、その為小国であるこの国は鎖国を行ってきた、それは通商にも及びその結果が今までこの国を保つ事ができた理由。無論密貿易などもあり、ミクトランテ教の影響を受けていないか、と言えば嘘になるが。

 

 しかし戦争により状況は変わった。

 ミクトランテ帝国がこの国を矛先に向けた為、既にその意味は失われ、鎖国を行ってきたもっとも大きな理由が無くなった。その為リュートがアリアに鎖国を解くように告げたのだ。

 

 それにより他国との通商の締結等様々な仕事がアリアの元に舞い込む。

 その中でも亜人達の受け入れ要望はもっとも大事な事であった。

 

 鎖国ゆえ知り得なかった情報が開示され、亜人を受け入れる事を聞きつけた者達がこの国へと集まりだしてた。

 

 「キファさん、近隣諸国での反応はどうでしょうか?」

 「以外に好意的な反応が多いみたいっすよ、ミクトランテ帝国に真っ向から喧嘩を売ったようなものですからそれに前の戦争でミクトランテ帝国軍を寡兵で打ち破ったって影響もあると思うっす、とは言ってもまだ中立が大半すね」

 

 「そうですか、上手く味方が増えてくれればいいのですけど」

 

 アリアの目にはほんの少し憂いを帯びる、先の事を考えると不安ではある。

 

 「味方になるかどうかはまだ何ともかもしれないっすけど敵対は多分ないんじゃないですかね、アレの相手をしたくなんて無いと思うっす」


 うん、うんとキファが告げながら頷く。

 

 「私もまさか三日でサーフロイズを攻め落してくるとは思いませんでした」


 思い起こしても今尚驚きだった。

 

 サーフロイズとは隣国東側に位置する国。

 この国はミクトランテ帝国に恭順の意志を示し、属国と言う扱いとなっていたのだが、ミクトランテ帝国に宣戦布告とも取れる亜人の受け入れを大々的に発表するや否やリュートは1000千の隊を引き連れてサーフロイズを攻めた。主に亜人達で構成され、ダガーやリリスと言った強者を抱えたリュートの隊は野戦で5000千の擁するサーフロイズ軍を打ち破るとそのまま城門を力技でこじ開け僅か一日で攻め落した。残り二日は行軍に費やしただけである。


 「リュート様は見せしめと言ってたっすけどあれだけ圧倒的なら争う気も起こさないかもしれないっすね」

 

 共に戦陣を駆けたキファが複雑な笑顔で答える。

 

 敵軍は重力の枷で体が重くなり、逆に味方は体が軽くなる。敵軍の魔法はリリスが結界で防ぎこちらの魔法は打ち放題。5倍の戦力差にも関わらず戦と言って言えるかどうかすら怪しい程の戦だった。

 

 「そうですね。リュート様に勝てる者などいませんから」

 

 心底そう思ってるのがありありと声と表情に表れている。例えそれが真実であろうとなかろうとアリアに取ってはそれは断言できる事例であった。

 

 「そ……そうっすね。それで今の所のとこリュート様は南のベルガント国に向かってると報告です」

 

 アリアの惚気を聞き流しつついよいよとキファが告げた言わねばなるまい言葉を告いだ。

 

 「そうですか……まだこちらには戻られないのですね」

 思い出したとばかりに、声が小さくなり先ほどまでと打って変わって沈んだ声。肩も落とし全身で落胆を表現している。

 

 何しろこの女王様はリュート達が出兵しようとする時ついて行こうとまでしたお姫様だ。傍にいられないのがいやいやと首を振ってはリュートを困らせたらしい。見てはいないが大変だったのだろう。いざ出発する際のリュートの顔は若干疲れた顔をしていた。

 

 リュートが戻らず直接ベルガントに赴いたのもまた出発する際の一騒動を恐れての事なのであろう。

 

 「褒めてもらいたかったのに……」

 

 ぼそっと本音が漏れ出たようだ。

 

 「す……すぐ戻って来るっすよ、その時にお姫様がちゃんと仕事こなしてればリュート様も喜ぶっすよ」

 

 「はい! 頑張ります! 約束しましたから!」

 

 がばっと面を上げやる気を取り戻したかのようにアリアが答えた。


 ――は……はやく戻って来てほしいっす……

 

 戻らぬ主の顔を思い出し、目の前にいる不安定な女王を扱いながらキファは人知れずそう思っていた。







少々苦手そうな所を書いていたらなかなか執筆が進まず遅くなってしいました。

出来てる分だけ先に上げる事にしました(汗)

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