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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
王都動乱
70/75

動き初めた時

 「王宮に何用だ?」


 目の前にいる機嫌の悪そうな兵士がそう告げてくる。実に不愉快そうに、傲慢な物言いで。

 その告げる口調は以前リュートが初めて王宮内を案内してくれて兵士とは大違いである。

 初対面でそんなに不機嫌そうに話して何か特になる事でもあるのか?等と思いながらもここへ来た理由を考えると兵士が不機嫌くらいは愛嬌だろう。何せ手荒な事をしにきたのだから。

 

 「ちょっくら魔王を倒しに」

 

 答えを返しながらフードを取り、その口調は散歩をするかの如く気安く口元には笑みを浮かべている。

 

 「お前――」

 

 言い切る前にその顔を掴み持ち上げる。咄嗟の事で兵士が理解しきれていないまま、リュートは走り王宮内へと進入すると兵士を壁へ投げつけた。

 

 なんとか魔力での防御が間に合ったのかようだがしかし痛烈なまでに壁にぶん投げられた兵士は呻き声を上げる。それでも衛兵の役目はきちんとこなしてくれたようだ。

 

 兵士が震える手で火急を天に向かって放つ。敵襲の合図なのだろう、それは空高く上がり轟音を立てて爆発した。

 間もなく兵達が集まってくるだろう。


 「逆賊リュート、これで貴様も終わりだ」

 

 苦しげにしかし顔に喜色を浮かべ兵士がそう言い放つ。

 しかし。


 「お役目ご苦労さん。じゃあ役目も終わった事だし、悪いが動けなくさせて貰うぞ」

 

 既に痛みで動けなくなっているのですが?と、どこからか声が聞こえそうだがお構いなしにリュートは倒れ込む兵士まで近寄るとしゃがみ再び頭を掴む。


 殺される。

 そう思ったのか兵士はがくがくと震える。

 

 だがそれでリュートと手を止める筈もない。

 リュートが右拳に電磁波――ではなく雷を発現させる。 ほんの数秒。雷が弾ける音を放ち兵士が呻き声を上げ体が痙攣すると兵士が意識を手放した。

 

 通電の余韻かびくびくと時折体を痙攣させる兵士を尻目に兵士が来るのを待つリュート。


 背後、左右から人の走る音。

 

 ――ようやく来たか。

 

 「さて……」

 

 振り返り周囲を見渡し現状を確認する。

 

 兵士が周囲を取り囲んでいる。


 絶体絶命。

 

 この男が相手でなければ……だが。

 

 「飛んで火に居る夏の虫とはお前の事だな、逆賊リュート!」


 兵士達が槍を、観念しろ!とばかりに突きつける。

 

 ――別に逆賊でもなんでもないのだが……と言うより逆賊はお前らの方では?まぁでも兵士はそう指示されてるだけかもしれないししな。さっきの傲慢な兵士もあれが性格かもしれない。

 

 なんて考えながらも口を開く。

 

 「蛾の火に赴くが如し……はお前らだと思うがな?」 

 そういって口元をつり上げるとリュートが駆け懐に入り込む。剣すら抜かず、ただ素手で。そして雷の纏った拳で殴りつける。

 

 不幸にも最もリュートの近くに立ち言葉を告げた兵士は反応すら出来ず雷を纏った拳に殴りつけられ吹き飛ぶと、先の兵士の様にびくびくと体を痙攣させるも立ち上がる様子はない。


 「ふむ。鍛錬が足りてないんじゃないか? ダガーなら避けたぞ?」

 

 敵のまっただ中にあって緊張感のかけらもなく言葉が告げられる。

 

 「貴様!」

 

 そうそう怒って貰わないと困る。と、さらに挑発してみる。

 

 「いや~。ちょっと弱すぎるなお前ら。やっぱりあれか? お前らの主人がへっぽこだから兵士もへっぽこになるのか?」

 

 うむ、我ながらユーモアに欠けるな。

 

 なんて事は思うが兵士達には十分な威力があったようだ。ちょっと単純すぎるんじゃないか?と思う位顔を真っ赤にして怒っている。

 

 「己貴様!ジーク様を侮辱するか!」

 

 兵士が槍を握り締め突きを放ってくる。

 と、リュートはそのまま跳躍し宙で身を翻すと、兵士達の頭上を越え包囲網を脱出する。

 

 「ほら、弱い。槍突き一つまともにできないのか?」 

 人を食ったかのように笑う。イメージはダガーの人の悪い笑顔だ。そして告げると同時走りだした。

 

 最早我慢ならん!とばかりに兵士達が追ってくるの何度か振り返りながら逃げるリュート。

 

 ――今の所は上手くいっているな。

 

 追ってくる兵士の形相は怒り一色だ。実の所キファに教えられた通りに主であるジークを馬鹿にしただけなのであるが兵士達は騎士を夢みた阿呆(キファ談)が多く上の者を馬鹿にされるのは屈辱であるらしい。

 

 ようはナターシャみたいなのが沢山いるのであろう。 

 殺すつもりは無い。少なくともこの一件が終われば解体され別の隊へと配属されるであろうが一兵士であってもこの国では貴重な戦力だ。来る将来を考えれば殺す事は考えられなかった。

 

 そのまま兵士達を引き連れ王宮内へと入るとすぐ目の前には兵士の集団が待ち構える。王宮内で待機して居たのだろう。

 

 「お前ら! 防御しろよ!」

 

 前方に固まる敵である兵士達にそう告げるとブーツ、コートに魔力を通すと自らを加速させ突進する。


 魔剣技:瞬雷


 極力威力を弱め、しかし蹴散らすには十分な速度を出し手甲で顔を覆いながら突進する。

 

 つまりただの体当たりである。

 

 だがリュートの扱う魔力がローブの下に着るコートを究極の鎧へと変える。

 そしてその体当たりはさながら人間砲弾。

 

 ただまっすぐ進んだだけにも関わらず、過ぎ去った後に立っている者はいない。

 

 じっと見るがどうやら死んではいないようだ。防御しろと声を張った甲斐があった。

 

 そのまま回廊を通らず中にはへと向かう。

 回廊からも一望でき、最も目立つその場は囮として陣取るのに良い場所であろうと目星を付けていたのだ。


 丁度中庭の中心、そこで立ち止まるリュート。

 

 ――さて、大立ち回りと行くか。


 だがその目論見は外れる事となる。

 

 多少引き離されはしたが、見失わず集まってきた兵士達が中庭へと足を踏み入れ出すと皆足から崩れ落ちる。

 

 ――なんだ?

 

 「お~やっぱりモルガンの作った魔道具は凄いな~」 

 不意に背後から声。

 

 咄嗟にリュートが振り向くと男だと思われる者が立っている。

 真っ黒なローブに深く被ったフード。そして顔には不気味な笑顔の仮面。背格好や声から男だと判断はするが男にしてはやや高い。

 

 ――気配はなかったが。

 

 警戒はしていたが気づく事はなかった。

 それはそのまま実力へと反映されるかもしれない。  

 バサっとローブを脱ぐと肩に背負った大剣を握り引き抜く。

 

 「本当にそんな馬鹿でかい剣で戦うんだ? 聞いてた通りだな~」

 

 声は陽気に、楽しそうにそう告げる。だがリュートは今殺気を滲ませている。ナターシャであれば気絶してしまう程のその殺気を受けさも平然としている。

 

 「お前はなんだ?」

 「あ、俺? 今代の魔王。宜しく」

 全身をローブで覆い顔に仮面まで付けて姿を隠しているにも関わらずあっさりとそう告げてくる。

 

 「これ凄いだろ。モルガンが作った睡眠香の魔法具なんだけどな、匂いを嗅いだら即おねんねだ」


 尋ねもしないのに右手に付けたブレスレットを見せ自慢気に話してくる魔王と名乗る者。

 

 「魔王はジークじゃなかったのか?」

 「あ! あれ? 確かに魔王にしようとしたけど。あれは駄目な。発現した力も弱いし意志も弱くてもう狂ってる。あんたならあっさりやっちゃうだろうね」


 不気味な仮面。漆黒のローブ。そんな格好にもかかわらず口調は気安く、さも楽しそうに告げる。それはさらに不気味さを醸し出していた。

 

 「俺の事を知ってる口ぶりだったな」


 何故かは分からないが知ってる事を話してくれるのだ。できるだけ聞いておいた方が良い。

 

 「そうだね~聞いてるよ。レイスから。竜人の末裔だろ?」

 

 繋がっているのか……

 咄嗟に知る者の名前を告げられるもさして動揺はない。考えの内にはあった。

 

 「正直さ~早く会ってみたかったんだよね。でも君全然活躍しないじゃん? 5年も何やってんの? もう待ちくたびれちゃったよ。やっと表にでてきたと思ったけど前の戦争でも無名のままでしょ? もっと名前を売って貰わないと困るんだよね」

 

 「俺が活躍すればお前と会えたのか?」

 「もっと早く会えただろうな~、そうすればミクトランテの奴がさっさと殺しに行けって指示だしただろうし」

 「お前なら殺せると」

 「いや~無理じゃないかな? 今の所はね」

 「今じゃ無ければできると?」

 「さぁどうだろうね~できるかもしれないね~」

 

 「レイスとお前の関係は?」

 「さぁ……どうだと思う?」

 仮面の下は笑っているのだろうか。想像でしかないが嫌な笑顔を貼付けているような気がする。

 

 「聞きたかったら俺を倒してみなよ」

 

 言葉と共に突如魔王から殺気が膨れあがる。

 だがその程度で怯むリュートではない。

 

 なら口を割らせるまでだ。と体が霞む程の速度で踏み込み大剣を逆袈裟に振り上げる。

 

 真っ二つになる魔王。

 

 だが魔王の着るローブがその場でバサリと落ちるとそこには誰もいない。

 

 「ヒャハっ、やっぱり飛んでも無い奴だな。今やり合うのは分が悪い。準備が出来た時にゆっくり相手をしてあげるよ。そうそう。俺の名前はホクト。また会ったら宜しくな~」 

 

 姿なき魔王――ホクトがどこからか声が聞こえると気配が無くなるのを感じる。

 

 ――逃げられたか……しかしあの魔王がミクトランテと通じてるとすると、どうしてレイスから話しを聞く状況が生まれる?レイスはミューゼ側ではなかったのか……? 

 様々な思考をするが頭を振って考えを消す。意味の無いことだ。まだ答えを出せるだけの情報が揃っていないのだから。

 

 「だが近づいているんだろう? レイス……レティ……」

 

 王宮の中庭、天を仰ぎ見ながら呟くと思考を即座にり替える。今はジークだと、そのまま魔王に眠らされた兵士達を見る。完全に熟睡しているらしく起きる気配はない。

 

 ――囮役はこれで果たせただろうな。なら。

 

 残るはジークを倒すだけだ。

 

 歩き出すリュートが目指すのは謁見の間。魔力反応に一際大きな反応。それがジークであろうと眠る兵士達を置き去りに歩みゆく。

 

 ゆっくりとした足取りで謁見の間にと歩を進め閉ざされた扉を開く。

 周囲を見渡すせばそこには何もない。しんと静まり帰ったその広間に佇んでいるのはただ一人だけ。


 玉座に座り俯きそこに佇むジークがいた。側近もおらずカーテンがかかり薄暗くなった部屋に一人。その長い銀髪はぐしゃぐしゃに乱れ、病的なものを感じずにはいられない。


 「お前は……?」


 顔を上げジークがこちらを見てくる。目は虚ろで焦点の合っていないその美丈夫はリュートを憎んでいた筈。にも関わらず目があっても何ら感情を映し出す様子がない。

 

 「お前を倒しにきたんだよジーク、アリア一人の為に反乱を起したのはある意味羨ましいがな」

 

 たった一人の女の為に反乱を起こしたと聞いている。ジークの女性遍歴を知っている訳では無かったが一人の異性の為に大それた行動を起こす。リュートにはできないであろうその行動がほんの少し羨ましかった。

 

 「アリア……?」

 

 想い人の名を口にされ反応を示すジーク。

 

 「アリア……アリア……アリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリア」

 

 立ち上がり。狂った様に、壊れたようにただひとりの少女の名前を叫び続けるとリュートを視る。

 

 「オマエか……? オマエが邪魔するのか? オマエがいなければ」

 

 ぶつぶつと何かをしゃべりながらエストックを抜きリュートを見るジーク。その目に宿るのは狂気。最早理性はそこにないであろうその目に映っているのはなんであろうか。

 

 普通の者であれば恐怖で足がすくむであろうその視線。その場の暗い雰囲気も相まり不気味さを醸し出している。

 

 「恐らくはお前も犠牲者なんだろうがな。だがどうやって助けてやればいいのか分からん。それに敵対してきた者に慈悲をくれてやるほど俺は優しくない」

 

 その視線を受け、大剣を抜くと共に下段に構えると淡々とそう告げる。

 「オ……オマエガ……オマエガーーーーー」

 

 ジークの左手から重力の魔法が解放される。

 およそ三倍となった重力がリュートへ襲いかかる。

 

 すべてをひれ伏してきた重力。自らの力でねじ伏せ、蹂躙せしめるそれは自信家であったジークには何よりも似合っていた力であったのかもしれない。

 

 しかし増加した重力の中、ひれ伏しもせず何事もないようにリュートが左手を前に差し出し魔力を解放する。

 

 ただそれだけで増加した重力が全て四散した。同じ重力を操り、より精通したリュートに取ってはその魔法は意味を成さない。

 

 「すまんが、その程度じゃ通用しない」


 首を横に振り、ただ淡々と魔王の犠牲者になり、人生を狂わせた男へと告げた。

 

 その光景に驚きもせずただ「アリア」と何度も呟いている男をみながら、リュートは大剣に重力の魔法を込める。超圧縮された重力の歪みが大剣の周囲に発生する。

 

 「キファが言うにはお前は自分の容姿が好きらしい。だから無様な姿を周囲に晒さないようにだけはしてやる」

 

 言葉と共に踏み込み。次の瞬間にはジークの目の前に踊り出る。


 「じゃあな」

 

 言葉と共に大上段から兜割。


 反応すらせず。視界にリュートを捉えているかどうかも分からなかったジークがその場から血の一滴も晒さずその場から掻き消えた。

 

 

 

 ◇◆◇




 とある大広間の一室。薄暗いその部屋には巨大なステンドグラスから差し込む光が唯一の光り。

 そのステンドグラスは巨大な何かが描かれ。それを見た者は皆敬愛の念、或いわ畏怖の念を捧げる。

 

 そしてその場に佇むは三人。

 三人は用意された中央の円卓へと座り。無言でもう一人の到着を待っている。

 

 そしてそこ現れる残り一人、不気味な仮面を付けた男がその部屋へ突然現れ、椅子――では無くそこにあるテーブルの上へと座る。

 

 「お~皆さんお揃いで」

 「遅いですよ、『魔王』」

 「まぁ硬いこというなよ『大司教』」

 「まぁいいじゃないですか、役目さえこなして貰えれば問題はないと思いますから」

 「さすが『勇者』様はお優しい」

 

 魔王がからかうような口調でそう告げる。だが言葉とは裏腹にそこに漂うのは敵意。

 

 そこのいる者はかつては敵、味方と別れていた筈の者達、なんの因果かこうして共に任務をこなして居るが多少の確執はあった。

 

 「馬鹿にしていますか?」


 答える『勇者』の声には多少の怒りの色が混じる。『勇者』と『魔王』の視線が互いを射貫く。

 

 「やめよ。この場で争いなど不毛なだけじゃ」

 

 その場で一人無言でいた男が口を告ぐ。椅子へ腰掛け腕を組みながらただ一喝。


 「分かりました」

 「ちっ、わぁったよ。『英雄』のじいさんを相手にする気はないしな」

 

 周りの者に一目置かれているのか。その『英雄』の言葉に従う『魔王』と『勇者』

 

 「それで、目的の者は手に入れたのですか?」

 「あぁ、時間は掛かったがこの通り」

 

 ほれ、っと懐から差し出したのは瓶。

 その場の者はその差し出された瓶を見る。中に入っているのは。


 「それが竜の肉と血ですか」


 『勇者』が驚きと共に声を上げる。今はもう手に入れられない筈のそれを持ち帰った『魔王』は満足そうな顔をしている。

 

 「それでミクトランテの野郎が何をするつもりかは知らないけどな、結構苦労したぞ。骨を探し見つけるのも蘇らせるのも」

 

 「ミクトランテ『様』でしょ」

 

 『大司教』が口を挟む。

 

 「へいへい、あ、おい。そうだ『英雄』様よ、竜人に会ったぞ」

 

 そう告げられるが『英雄』は眉一つ動かさず淡々と返す。

 

 「そうか、それがどうかしたのかの?」

 「いーや、何でも、それよりさ俺は噂の天使様を見たいんだけど? 連れてきてくんない? ものすごい美人らしいじゃん?」


 反応を示さない『英雄』を見て話題を変える『魔王』。

 

 「無理じゃの、ミューゼ様が復活するまでは傍を離れられん」

 「ふ~ん、そんな必要ないんじゃないの?」

 

 言葉を受け『英雄』がギロリと『魔王』を見る。


 「わ~ったよ」

 

 ――このじいさん、何か怪しんだよな。


 この中でもっとも古株。そして力のある『英雄』に手出しはできない。だが『魔王』には彼が不審に思えるような行動をとるように思える。だがこの中で最も貢献している人物でもある。

 

 「ではこの竜の血肉をお渡ししておきますね」

 

 大司教の細手が瓶を取り。懐へとしまい込む。

 

 「『魔王』、竜人と会ったと言いましたが彼はどうだったんですか?」

 

 「ありゃ強いね。まぁ俺ほどじゃないと思うけど?」 

 『魔王』がそう告げ大げさな手振りで余裕を露わにする。

 

 「ふん。手傷を負わされておいて良く言うわい」

 「あ?」

 

 と『魔王』が立ち上がろうとしたその時、ピシっと音を立てて仮面に亀裂が入ると二つに割れる。

 そしてその額からはうっすらと切り傷が浮かび上がり血が流れてくる。

 

 「あら、余裕そうな割には怪我をされているじゃないですか」

 

 『大司教』が好奇の目で『魔王』を見る。

 

 「欲しいわ……竜人の男……さぞや逞しいのでしょうね」

 「はっ! やめとけ。俺の方が良い男だぞ」

 

 ――完全に避けたと思ったんだけどな。面白い。

 

 そういって素顔を露わにした『魔王』が口元をつり上げ。先の未来を楽しみに待っていた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 反乱から1週間程が経過し、慌ただしかった事態の収拾も落ち着いて来た頃、リュートは謁見の間で傅いていた。

 事の発端は魔物討伐の任務。そして反乱の鎮圧。その功績を受け取る為であった。

 

 「リュート様。先の魔物討伐、及び反乱の鎮圧。誠にありがとうございました。客将であるその力を国の為に振るって頂き、私の危機までも救って頂いた功績をここに称えさせていただきます」

 

 アリアが淀みなく言葉を紡ぐ。だがいつもの女王の仮面は少し割れているようだ。それはリュートの地位が固まってきた為か、それともその首に隠して身につけてたハート型のネックレスのせいか。

 

 「一つはリュート様の地位を表すネックレスを作ってみました。これを受け取ってください」

 

 ネックレスのお返しのつもりなのか傍仕えが運び持ってきたのネックレスはあの竜の牙で作ったネックレス。リュートの地位を表す為か、ブラックオニキスや白金で装飾され加工そのものも巧みにデザインされたそれは元が竜の牙と言うのもあるのか一際存在感を放っている。


 「リュート様が持ち帰った牙はとても硬く強靱であり、今まで知る魔物のそれを遙かに上回っていたそうです。それをこの国一番の細工屋と鍛冶屋に加工して貰いました。そのネックレスがリュート様の客将の地位であると喧伝もさせていただいております」


 目立つ事も厭わない。その部分さえ無くなればある程度地位が知れ渡っている方が邪魔が少ない。そう思ったのかリュートを早速押しだそうとしているのであろう。アリアの顔からは笑顔が隠し切れていない。

 

 「それともう一つ、リュート様に与えられていた白双牙の他にもう一つ隊を編成しました」

 

 背後から足音がする。恐らくその隊の隊長なのだろう。隣まで歩いて来ると同じく傅いたのだろう。


 「我が国に建国の際かつて南方を守護していた隊にちなんで赤爪魔と名付けさせて貰いました。先の白双牙も増員し共に5百ずつ。1千の指揮を御願い致します。隊長のダガー殿。リリス殿と共にこれからもこの国に力をお貸しください」


 ――ちょっとまて。今リリスと言ったか?妹の名を呼んだか?

 

 右隣に傅いたであろう。隊長をみる。

 

 赤を基調に黒の紋様で装飾された軍服にもドレスにも見える服、胸には赤い翼を広げた鷲のような紋章を付けている。そして腰元まで伸ばした綺麗な白髪に小柄な体。明らかにまだ幼いその年齢で、きちんとこの場の礼儀を把握しているのか傅き下を向いている。


 まごうこと無き妹がそこに居た。

 

 「リリス殿の直訴により、また先の反乱の際の功績により隊長として迎える事になりました」

 

 傅く妹はリュートへとちょろっと顔を向けると悪戯が成功したかのように笑顔を向けて。


 「宜しくね。お兄ちゃん」


 ぼそっとそう兄であり、上司になった男にだけ聞こえる声で告げたのであった。

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