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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
王都動乱
67/75

反乱

 リュート達が山脈へと赴いている頃王宮では前代未聞の出来事が襲い掛かっていた。


 反乱。

 

 治安の良いこの国において反乱は前例がない。どんな善政であっても不満とはあるもの。

 だがその反乱はそれら政策の不満により民主が起こした者ではなかった。


 たった一人の我欲。


 それが事の発端である。

 

 ジーク=ウルトリアスと言う男が居た。


 栄華の極みにあった男は未だ23歳と言う若い年齢であるにも関わらずその剣と魔法の腕は国内有数。そしてその甘いマスクは数多くの女を引き寄せ、本能のままに抱いて来た。そしてその我欲はその国の可憐な王女に向けられた。必ず手に入れると心に決めたのであった。


 しかし、数多の女を引き寄せてきたその顔や言葉は王女には通じなかった。どれだけ甘い言葉を囁こうとも、どれだけ口説き落とす為に散財し贈呈しようとも、その国の王女――アリア=ナーガディアンは良い顔をしなかった。それが逆に男を燃え上がらせる結果となる。簡単になびいてきた女とは違う。だからこそ口説き落とす価値があると。それは何人もの女を心無いまま抱いて来たジークの初めての恋であったのかもしれない。

 

 だがその初恋は屈辱で彩られる事となる。


 今は亡き先王が迎え入れた彼女の護衛。自信家である彼は最初こそ自らの方が上であると判断し放っておいたのであるが王宮内のメイドや彼が日頃欲望をぶつける為の女性達がその護衛の事を話すのだ。


 曰く強面ではあるが男前。

 曰く見た目と違い優しく手を貸して貰った。

 曰く恐ろしい程強いらしい。


 勿論女性の好みとて千差万別。全ての者が護衛の男に好意的ではなかったが男は面白くない。それまで自分こそが最も女性から黄色い声を上げられて居ると自負していたのだから男の自尊心を刺激された。

 

 そして止めとばかりに聴こえてきた。

 

 王女と護衛の噂。下世話な話である。事実がそこになくとも平民出身の強い護衛とウブな王女、この二つがあれば自然と禁断の恋を連想させた。それは娯楽の少ないメイド達ゆえか妄想を加速させるには十分な要素であった。


 だがそれを聴いてジークが黙っていられる筈もなかった。


 あの女は俺の者だ。


 激怒したジークは訓練中と聞いた護衛へと会いに行く。そしてそこで見たのは自分へと向けぬ王女の笑顔。その顔は護衛の男を尊敬しているようにも見えた。

 

 加虐心が沸々と胸を満たすのを感じるもジークは王女へと声をかける。自分こそが王女の護衛に相応しい。なにしろ国内一の騎士なのだからと。

 

 女性を口説く事に駆けて絶対の自信を持つジークは淀みなく彼女に言葉を告げる。だがもう一息で王女が落ちるであろうとジークが思っていたその時護衛の男に邪魔をされる。


 護衛を実力で決めようと。


 ジークにとって願ってもない申し出。自分よりも強い者なのどいないのだから、と。


 言わずもがな結果はジークの惨敗に終わり彼の自尊心は粉々に打ち砕かれた。

 

 だが男は力を手に入れた。

 全てを呑み込む重力の力。

 

 そして男の耳に届く声「ナーガディアンを滅ぼせ」


 その言葉と王女への妄執が男に行動を促した。


 女王擁護派を脅す。

 簡単な話だった。重力の力で全てをねじ伏せれば誰しも簡単に従った。

 雷、光、重力。この三つを扱える人種は珍しいとされている。

 それは人々が知るよしもないが4種の超人種の内3種、勇者は雷を操り、英雄は光を操り、そして魔王は重力を操る為だ。


 本来人種には扱えぬ筈の魔法を持つ者達。

 そして種族としてでなく、恐れられる魔王として名が広まる者は必ず重力を操る。


 必然、重力は魔王の代名詞としても認知されていた。

 その重力の力を前にして脅しに屈しない者はいなかった。 

 そしてねじ伏せる自信はあるが女王を穢す姿をその目に突きつけてやろうと客将となった護衛の男を遠征へ向かうよう画策しジークは行動に出たのだった。


 ◇◆◇

 

 城内が騒がしい。リリスとアリアを執務室で警護するダガーがそう気がついた。


 「兄貴!」

 

 キファが慌てた様子で息も絶え絶えに駆け込んでくると告げた。

 

 「大変だよ、兄貴!」


 要領を得ない。ダガーは落ち着かせるようにキファを宥める。


 「落ち着け、何があったか言ってみろ」


 「反乱だよ! 女王否定派の連中が王宮内で暴動を起こしたんだ!」

 

 「今擁護派の兵達が抑えてるけど数が多い。すぐにここまで来ると思う」


 あいつの居ない間になんて事が起こりやがる。

 

 ダガーは舌打ちするも、嘆いても状況は変らないとキファ、リリス、アリアを順に見渡す。


 リリスは何が起こっているか分からずキョトンとしている。アリアはその白い顔を青く染め上げている。

 

 「キファ、白双牙を集めて南門へと向かう。姫さんとリリスは俺が道を切り開くから着いてくるんだ」


 リリスやアリアに何かあれば主に顔向けできない。命に代えても護って見せると堅く決意し指示をだす。

 

 キファが指示を受け走り、リリスもダガーの真剣な表情を受け切り替えたようだ。杖を手にきりっとした表情へと代えた。アリアも未だ顔は青いままだが頷きを返す。

 ダガーは二本のショートソードを手にドアを蹴り外へ出ると左右を見る。既に反乱の兵士が迫っているのだろう。ところどころで金属のかち合う音が鳴っている。

 

 振り向きアリア達が着いてきているのを確認するとダガーが走りだした。

 

 そのまま走り角を曲がると殺気。

 

 唸りを上げ剣がダガーへと迫る。


 咄嗟にショートソードを巧みに操り片方で防ぎつつ薙ぐ。呻き声を上げて血を吹き出し倒れる兵士。

 

 眼前を見れば兵がひしめき合っている。

 

 選ぶ道を間違えたか。

 そうダガーが内心悪態をつく。


 女王の執務室は王宮内一階。ヴァルミリアへと向かう為、南門へ向かうには左右どちらかの回廊を渡すか中庭をつっきる必要があった。

 だが中庭は目立つ。女王がここに居ると宣言するような者だと回廊を選んだ訳だが既に兵士が押し寄せていたようだ。


 「ダガーお兄ちゃんどいて」

 

 踏み込もうとするダガーの耳にリリスの声が聞こえる。

 「バーンストライク」

 

 振り向いた瞬間ダガーは仰天する、リリスの声と共に杖から青い火球が今にも発射されようとしていたからだ。

 「うぉっ」

 

 少々情けない声を上げダガーが廊下の壁に体を貼付けると同時、高速で発射された火球が兵士達を呑込んだ。

 前面に押し出された兵士に火球が当たると瞬間、爆発。轟音を立てて廊下を炎の海と化した。


 青い炎が地面へ広がり兵士を焼く姿はさながら地獄の業火か。

 

 あの兄にしてこの妹ありか……


 そう考えるも貴重な戦力を得たとダガーが告げる。

 

 「助かった、こうなれば仕方がない。回廊は塞がれている。危険だが中庭を通ろう。嬢ちゃんは援護を頼んだぞ?」


 「うん!」


 リリスが笑みを浮かべて告げる。役に立てて嬉しいのだろう。

 

 と、来た道を引き返し中庭へと向かう三人。兵士達が固まり中庭には100程の兵士がひしめき合っている。だがここを突っ切れれば後は南門まではすぐだ。


 「おぉおおおおおお!」


 ダガーが咆吼を上げ単身突撃する。

 踏み込みショートソードを一線。首を薙ぎ兵士達を先制する。


 中庭の広さ故か槍を手にダガーへと突いてくるも、辛くも首や体を捻り、掠めさせながらも兵士達を切り伏せていく。


 突然背後から爆音。


 威力を弱めたリリスのバーンストライクが兵士を吹き飛ばし、ダガーの死角を守る。

 

 ダガーとて虎人、その身体能力は人を超える。リュート程とは行かないが魔法を不得意とするに代わり接近戦で彼に敵う者はそうは居ない。


 背後をリリスに任せられるとダガーが飛込み四方八方の兵士達へと一閃、なで切りにする。

 

 鮮血。

 

 ダガーの白い軍服が兵士の赤い血で染め上げられる。

 アリアやリリスに血を見せたくは無いが手加減が許される程甘い事態ではなかった。

 

 「ここに今したか、女王陛下」


 突如その場に声が響き渡った。

 

 何事かとダガーが兵士達から距離をとりアリアの傍へと近づく。

 

 「ジーク殿……貴方の仕業なのですか?」

 

 城の二階、巨大な穴が空いたそこにいるジークをアリアが見てそう尋ねた。

 

 「ええ、そうですよ」

 

 悪びれもせずそうジーク返すとジークが二階から飛び降りる。明らかに降りられる高さではない。にも関わらず自然落下よりも明らかに緩く、ゆったりとした速度で地面へと降り立つ。 


 「何の為に?」

 

 あんなことが出来るのだろうか。そう考えながらもアリアはそう尋ねた。

 

 「無論、貴方を手にいれる為ですよ」

 

 その顔は満面と言った笑み。

 

 馬鹿げてます。

 

 「私一人の為にそんな事を?」

 

 「ええ私ににとっては何よりも大事な事なんですよ」 

 心底と言った表情を浮かべアリアへ返してくる。

 

 「おい、姫さん拙いぞ」

 

 ダガーがそう告げる。中庭の全ての出口を兵士が塞ぎ三人を取り囲み始めている。

 

 リュート様……

 

 アリアはその状況を見て一人想い人の顔を思い浮かべ覚悟を持って告げた。

 

 「私が貴方の元へ行けば二人を逃がしてくださいますか?」

 

 「ええ、私にとっては者の数ではありません、お約束しますよ」

 

 「分かりました……それでは――」

 

 「おい!」

 

 アリアの言葉を遮り、ダガーが全力でジークへと踏み込む。

 

 だが。

 

 ジークが左手を振りかざす。

 

 たったそれだけの事。

 

 ダガーは急激な重さを感じ地へと這いつくばる。

 

 「大人しくしていたまえ、命は惜しいだろう?」

 

 「ふざけるな。俺は守ると約束したんだよ」

 

 地に伏しながらもジークを睨み付けるダガー。

 

 「では死ぬかい?」

 

 そういってジークが再び左手を挙げようとしたその時。


 「お兄ちゃん悪い人?」

 

 リリスがジークへ向けて声を発した。

 

 そんなリリスにアリアが近づき。抱きしめる。

 

 「リリスちゃん。逃げてください。私はここに残りますから」

 

 「あの人がいなくなれば……みんな笑えるかな?」

 

 はっきりとそうアリアに告げる。

 

 「リリスちゃん?」

 

 「また……あんな事があるのかな……」

 

 その場の者を置き去りにリリスが独白するかのように声をだす。

 

 「そんなの嫌」

 

 リリスの胸中には過去の映像が思い起こされていた。

 そのせいで髪が白くなった

 兄と一つ違いにも関わらず何年も時間に取り残され兄に世話を書けていた。

 またあんな事があるのか。

 リリスはそれを恐れる。

 だから失うのが怖くてずっとリュートにくっついていた。

 今では兄であるリュート以外。ダガーやキファ、アリアもリリスは失う事が怖い。

 

 この時一つリリスはこの場の者が知らない事を一つだけ知っていた。いや。突然頭にわき出てきたと言うのが正しい。

 

 奇しくもそれはリュートが初めて竜化した時だとは知るよしも無いが、それは兄が何かしたのであろうとは思っている。

 リリスにあるのは兄だけなのだから。

 

 これで皆を守れ。そう兄に言われてるかのようにリリスは思い込んでいた。

 

 私やるね。お兄ちゃん。

 

 リリスは体に魔力を通しながらその言葉を紡ぐ。

 

 「狐の業火」


 瞬間、リリスの体が結界に包まれる。

 突如それが起こりアリアは驚きリリスから離れる。

 

 白く薄い9面体の結界がリリスを覆い尽くし。


 それが割れる。

 

 中から出てきたのは……

 

 白い狐のような耳に二本の尾を持ち顔から胸に繋がっているのだろう、赤い紋様が浮かんでいる。

 

 周りの者は絶句している。

 見たことが無かったのだ。亜人といえど人の種類に違いない。半獣とでも言えるような姿を取るものなどいない筈。

 

 その不思議な生き物――リリスの姿が周りの者に隙を生んだ。


 「行くよー」

 

 そう言ってリリスが杖を掲げる。

 獣人と化して以前とは比較にならない魔力がわき出てくるのを感じる。

 

 杖へと魔力を通しダガーとアリアへ向ける。


 「ディメンション」

 

 パンっと小気味のよい音と共に二人の体を多面体が覆うと瞬間ダガーの重さが元に戻る。


 「嬢ちゃん、これは?」

 

 驚くダガー。場合が場合だというのに聞かずにはいられなかった。


 「お話はあとー」

 

 リリスとて何度も冒険者として依頼をこなしてきた。時と場合は分かる。

 

 と今度は敵――ジーク達目がけて杖を掲げる。効率は悪いが大量の魔力を一気に流し込み魔力を瞬時に放つ。


 「イグニション」

 

 リリスが魔法名を告げると杖を向けたジーク、兵士達の間から爆発がおきる。小規模、かつ連続で兵士達の顔面近くで爆発し。兵士達を吹き飛ばしていく。

 

 「ぐっ!」

 

 ジークが声を上げ飛び退る。

 

 「このガキ! よくも」

 

 そう告げるジークの顔に裂傷。目を見開きその顔は憤怒の形相を表している。

 

 ジーク、リリス。共に魔力を装填し放つ。

 

 重力がリリスへと襲いかかるもリリスが自らの周囲に結界を張る。

 

 魔力の影響を遮断する結界。それがジークの重力魔法を防ぎ四散させた。

 

 重力の魔法に絶対の自信を持っていたジークが呻く。

 

 「貴様!」


 「お兄ちゃんの真似したって駄目だもん!」

 

 リリスはリュートの使う魔法を一通り見ている。そして訓練も付けて貰っていた。特に重力は体を重くするのに良く使って貰っていた為馴染み深い上対処法も授かっている。


 リリスとリュートの関係など何も知らないが、ジークはあの客将の顔を思い浮かべた。今では何かあればすべてあいつのせいだ、そう思ってもいる。今回は正解だろうが、その上あいつの真似など言われてははらわたが煮えくり返る。

 

 「兄貴!」

 

 と、そこへキファが白双牙を連れて中庭へと押し寄せる。

 

 「みんな! かかれ!」


 そう告げ、白双牙達が南のへの出口を切り開く為兵士達へと飛びかかる。


 「チャンスだ。姫さん、嬢ちゃん! 突っ込むぞ! 嬢ちゃんは姫さんの援護を」

 

 「はい!」 「うん!」


 とダガーが飛込み白双牙と共に南への出口に待ち構える兵士達を一掃していく。

 

 虎人の熟達された連携と素早いコンビネーションに成す術もなく兵士達が切り捨てられていく。

 

 それを見たジークが左手を掲げ魔法を放とうとする。


 「動いちゃだめー!」

 

 ジークに狙いを絞りリリスがディメンションを放つ。 

 瞬間ジークの周りに結界が生まれ。魔法が不発となる。

 「今だ! 道が開けた。行くぞ!」


 そうして白双牙が壁となりアリアが、そしてリリスが中庭の外へと出るのを確認した後、ダガー達がその場から引いていく。

 

 「あのガキ」

 

 まんまとアリアに逃げられ、顔に裂傷をおったジークはただ悪態をつくしかできなかった。

 


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