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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
王都動乱
66/75

洞窟での戦い

 その後二日程、山脈の探索を続ける二人。広大な山脈を歩きやがて森で覆われていた山頂付近の荒野へと景色が移り変わっている。

 

 恐らくは荒野となりはてた山頂のどこかに魔物はいるだろうと。そして先に探索へと向かった者達もそこに『ある』だろうとリュートは考え魔力探知を使い捜索しているのだがいっこうに魔物は見つかっていなかった。

 

 「本当に魔物はいるのでしょうか? リュート殿の魔力探知でも見つけられないのは」


 連日の野宿と警戒でやや疲れた顔をしたナターシャがそう告げる。


 特に山頂に入った辺りからはその硬い地面が睡眠を阻害し十分な回復ができずにいるのだ疲れが溜まって来ても仕方がないのだろう。

 

 「分からない、だが居ないのなら居ないなりに戻って来ていない者を探さないとだろう。魔物に襲われたのでないとすればまだ生きてる可能性も出てくるだろうが……」


 ――まぁないだろうがな。


 自らの言葉を頭の中で否定している。

 山頂の荒野。食料は手に入らず睡眠は取りづらい、そんな中で何十日も帰ってこないのはおかしい。生きているのなら一度食料確保の為にも戻る必要があるのだから。


 そうして二人ぽつぽつと会話をしながらも歩いて行くとやがて幾つ目かの山頂へと到着し周囲を見下ろす。


 「あれは?」


 山間の間には真っ平らとなった荒野。そして壁となった岩肌に巨大な穴が空いている。


 天然、ではこうはならないであろうその岩を削ったうな洞窟を見たナターシャが声を上げたのだ。


 「魔力の反応はない」


 それは生きてる者がいない事を示している。魔物もいないので有ろうと。

 

 だが明らかに天然でこうはならないであろうそれはそこにあって異質。


 「念の為に調べていこう」


 リュート達は洞窟の前まで歩き荷物を脇に置くと内部を探索する事にした。


 巨大。その大きさは5メートル程はあろうか。大剣を振るには問題はなさそうではある。


 リュートは魔力を使いプラズマを周囲に発生させると辺りを明るく照らし出す。


 が、奥は見えない。思いの他深い洞窟のようであった。

 「外で待っているか?」


 闇は人を不安にさせる。息を呑むナターシャが自然と不安をリュートへと伝えた。


 「だ……大丈夫です」

 

 不安そうな顔ではあるが決意は堅い様子ではある。

 

 「なら俺から離れるなよ?」


 そういうとナターシャはリュートが着るコートの裾をちんまりと掴みだす。


 それが安心するのか少しだけ満足そうな顔をしている。


 好きにさせてやろうとリュートは何も言わず歩き始める。


 薄暗い洞窟の中、プラズマ球の明かりを頼りに二人は進んでいく、こつこつと洞窟の中は足音が反響し。紫の光りに照らし出された洞窟内は不気味さを醸し出していた。


 「リュート殿……何か匂いませんか?」


 びくびくしながらナターシャがそう告げてくる。


 二人の鼻腔に漂ってくるのはすえた匂い。


 死臭


 それを連想させた。


 「ともかく、慎重に進もう」


 そうして歩く二人が歩いていると視界が広がる。

 

 洞窟の奥。そこは広場のように広がっていた。

 天井は高く、ナーガディアンの謁見の間よりも広いであろうか。


 「リュート殿……あれを!」


 そうしてナターシャが指指した先。広場の角


 そこにあったのは。


 骨の山。


 近づいてリュートは最も気になったものを手に取ってみる。

 

 人の頭蓋であろうその骨を


 見れば様々な骨がある。恐らく種を問わず様々な骨が高く積み上がっているのだろう。


 ――魔力反応は無かったが……


 生き物がいる気配はなかった。


 が。

 

 突然背後から気配がする。

 地の底から響くような唸り声。そしてそれはすぐ背後。


 瞬間。


 咄嗟に振り向きざま大剣を引き抜き、そのまま大上段から兜割りを振り下ろす。


 だがリュートの手に感触は伝わってこない。


 「リュート殿!」

 「離れてろ」

 

 強い語調でナターシャへと命令する。


 リュートがナターシャを庇うように前にでて敵を睨む。


 プラズマ球の明かりに照らされたその全貌をリュートは視る。

 

 

 爬虫類のような鱗に二枚の翼に一本の尾、その顔はトカゲのよう。

 だがしかし、その肉体は腐肉なのか鱗の無い部位は肉が見え、溶けだしている。そしてその目は闇夜のように眼球が無い。だがその姿は……


 ――竜?

 

 無論リュートは竜を見たことは無い。無いが想像上でそう言われているその姿と酷似している。そして辺りに漂う腐臭。

 

 ――魔力反応がなかった訳だ。


 魔力探索の魔法を使うも、そこに生物の反応は無く何も映し出さない。そしてリュートが振り向く寸前までそれはすぐ後ろにいた筈だ。淀みない動きで振り向き様剣をたたき込んだ筈が、その場は既にいない。目視でおよそ全長は4mはあろうかと言う巨体、にもかかわらずその俊敏さは想像を超えていた。


 強い。

 

 それがナターシャを下げた理由だ。

 

 後ろに控えるナターシャから気を逸らす為にもリュートは踏み込み大剣を薙ぐ、狙うは足。


 が、巨体に似合わぬ速度でその竜は体を回転させ大剣を避けるとそのまま尾を振り回す。

 

 ぞくっと、悪寒を感じたリュートは飛び上がると尾が地平すれすれに唸りを上げて通過する。

 

 たん、と音を立てて着地すると同時、その反動を利用してリュートが一気加速、懐へと入り込むと左手を添え電磁波――ライオットを放つが魔法は形を成さず。発動しない。

 

 ――なっ!


 リュートの思考を一時衝撃が襲う。


 刹那、だが戦いにおいてのそれは紛れもない隙。

 

 それに気づいたのか竜の顎が襲い来る。

 咄嗟に大剣を盾に竜の顎を防ぐリュート。


 己のミスに内心舌打ちをしながらの竜との力比べ。


 かつてない程の膂力がリュートを襲い歯を食いしばる。その力は拮抗していた。

 

 が、竜の武器は顎だけではない、瞬間竜の押さえ込む力が弱まったと思えば、竜の爪が横一閃、襲い掛かる。

 

 魔力をコートへと流し防御力を上げるも、


 「がっ!」


 その膂力に体が吹き飛ばされる。


 「リュート殿!」


 吹き飛ばされるも危なげなく空中で体勢を整え着地し安心させる為に声を出す。

 

 「大丈夫だ、それよりお前は近づくな。強い」


 強くナターシャへ言い含める。


 ――まさか。


 先の事実を思い出しリュートは確認する。

 

 にらみ合いながらも左手に魔力を込め。そして充填された魔力を放つ

 

 ライトニング。

 

 が。

 

 竜に命中したかに見えた雷光だが竜にダメージはない。

 ――雷だけか……?

 

 と次の魔力装填を開始するも竜がその顎を開くとその口内から光りが漏れる。


 伝説。


 曰く竜のブレスは全てを焼く業火。

 

 咄嗟に防御では無く回避を選ぶリュート。しかしてその勘は正しかった、そう言わんばかりに回避したリュートの居た場所へと地獄の火焔が迸る。

 

 リュートにしてぞっとするしか無かった。先ほどまで居たその場、石の地面が溶けている。たとえリュートであろうと、生身では命を失うだけの威力があるだろう。

 

 そしてその遠距離を攻撃できる利便性。

 

 「ナターシャ! 俺が注意を引きつける、その間にすぐ洞窟から出ろ」

 

 竜を睨んだままナターシャへと叫んだ。


 「しかし!」


 「足手纏いだ!」


 それはナターシャを傷つける言葉かもしれない。だがその遠距離からのブレス。それは距離をつぶしナターシャに襲いかかるかもしれない。立ち位置によっては竜とリュートを結ぶ延長上にナターシャがいる可能性があるのだ。その時に巻き来れる可能性もある。そう判断したリュートがナターシャを突き放した。


 「分かりました」


 悔しそうな声。役に立てずに悔しいのだろう。だが慰める時間は今はない。


 「いけ!」


 リュートが叫ぶと同時突進し、ナターシャが駆ける。 待ちかねた様に突進に合わせ、竜が爪を振るう。

 それを地面すれすれに身を低くし避けるとそのまま大剣を突き上げる。


 肉を抉る感触が手に伝わり竜の腹へと突き刺さった。


 が。


 抜けない。強靱な威力を秘めた筋肉ゆえか大剣を締め付け抜けるのを拒む。


 その隙を突こうとリュートへと顎が迫った。


 魔剣技:打重


 とっさに左手に集めた魔力で手甲を強化し大剣を横殴りする。

 

 乗った力の反動がそのまま大剣に伝わり竜の腹を切り裂いた。


 痛みゆえか、呻きを上げ竜の動き一瞬止まるとリュートは後ろへ飛び下がる。


 見ればナターシャは広間の入り口へと到達していた。

 ナターシャの安全は確保された。敵には手傷を負わせこのまま押し切る。そうリュートは思う。


 だが次の瞬間には早計だったと気づかされた。

 

 切り裂いた傷口から黒い靄が出てきたと思えばその傷が塞がっていく。と同時リュートの体から力が抜け、魔力が出て行く事を感じた。つまりこの竜は周囲から魔力や精気を奪っているのだろう。そしてそれが山脈を荒廃させた原因。

 

 ――どうする……

 

 どうやって倒せばいいか。傷が瞬時に治る相手。魔法は通じない。重力の魔法は試して居ないが同様の結果だろうとは思っている。

そして長期戦になれば魔力や体力が減りじり貧になっていくだろう。


 模索している内竜が咆吼する。

 

 ――なんだ?

 

 それは声ではない。ただの鳴き声。

 言葉でもない。

 だが胸中に、その頭に直接それは響いてくるようだった。

 

 殺して欲しい。

 

 そう告げているようにリュートには感じる。

 馬鹿馬鹿しい。そうは思えなかった。

 

 かつて竜人は竜を使役したと。

 ならば竜の感情が理解できたとしても不思議はない。 

 その腐った肉。深淵を覗かせるような何もない瞳、恐らくは生きたものではないそれはその場にあるだけで周りのもの全てを食らいつくして存在している。

 

 それが竜自身に分かっているのだろうかその咆吼からは悲しみが漂う。

 

 そしてリュートを何も映していないであろうその常夜の瞳で見つめている。攻撃してくる気配はない。


 「分かった」

 

 それは独白だったのか竜へと告げた言葉だったのか。 

 そしてリュートが大剣を地に突き刺すと言葉を紡ぐ。 

 それは一度も使ったことの無い言葉。

 成人となったある時頭の中に突然沸いた言葉。

 何が起こるかは分からない。だが一つだけ確信はあった。それは力なのだろうと。

 そしてそれを使う可能性は考えていた。それがナターシャを逃がしたもう一つの理由。

 

 全身に魔力を通すとその言葉を漏らした。


 「竜の逆鱗」

 

 ドクンっと、心の臓が一際大きく体を打った。


 やがてドクドクと心臓が早鐘を打つ。

 体中の血液がその心臓から力強く流され、息は荒くなり視界が赤く染まる。

 

 リュートの両手から白と黒の霧が吹き上がり体を球状に包み込んで行く。

 

 過度の心臓の圧迫か、叫ばずにはいられなかった。


 「あぁあああああああああああああああ!」


 そして黒と白の球が爆発、四散した。

 

 赤く染まった視界が徐々に戻る。

 荒くなった呼吸を整えながら腕を見た。

 自分のものでは無いかのようなその両腕から手先までは、白銀の鱗に覆われている。恐らく肩まで達しているであろう。


 背中には違和感。肩胛骨の付け根辺りだろうか。今まで感じられなかった感覚がある。背中を見てみると黒い翼の様なものが生えていた。不慣れで新しいその感覚器を意識してみれば翼がはためく。それはコートを破き突き出ていた。

 そして頭には銀色輝く角。リュートには確認できなかったが顔から胸に駆けて黒い紋様が浮かんでいた。

 

 かつて砦で少女達と老人、今は亡き兵士達が目撃したそれ、

 成体となったそれがその場にあった。

 

 戸惑うリュートをを竜は攻撃もせずじっと見ていた、リュートが咆吼から感じた感情が、正しかったと言わんばかりに。

 

 まるでその時を待っていたように再び竜が咆吼を上げた。


 それは喜びの感情。


 リュートが知るよしも無いが生前その竜が共にあった主。それと同種の力を感じ、そして自分が望む死を悟り咆吼したのだった。


 リュートは地へと突き刺さった大剣を引き抜く。

 いつも以上にそれは軽く感じられた。


 大剣を手に竜を見る。攻撃する気配もなく只じっとこちらを見る生ける屍を。


 もしあれが生きていれば。

 周りを死滅させるような存在で無ければ、戦わず話してみたかった。慣れれば会話ができたかもしれない、自身の事がもっと分かったかもしれない。


 だがそうはならずかつては味方に類する筈のそれを討つ。それ自身の願いの為に。


 「行くぞ」

 

 告げるとぐっと腰を落とし翼を畳み腰を捻り力を溜める。

 大剣を一直線に竜へと向ける。突きの型。

 溢れる力全てを使い、踏み込み、竜へと突き放った。


 地上に存在する全てを超える力。

 その踏み込む力で地が割れ、リュートがその場から消える。


 が。


 勢いが余り竜へ突くとそのまま体当たりする羽目となる。

 勢いは落ちず竜と共に壁に叩きつけられた。


 急激な力の変化。

 それが目測と加減を誤らせる。

 

 精度の高い技はまだ使えない。

 そう判断したリュートは大剣を引き抜かずそのまま力任せに薙ぐ。それは先ほどと違い容易く行われた。


 竜の腐肉が抉られ鱗を切り裂く。

 

 「手加減できん」


 それは竜に対しての謝罪だったのか。


 その言葉を告げリュートが大剣を振る。


 何度も。


 だがそれは一瞬の間に起こった。


 正しく瞬く間。


 その刹那に音の壁を突き破り乾いた爆発音が辺りに響き渡った。

 

 一間の静寂


 じっと竜とリュートは目を合わせている。


 そして静寂を破るように命を歪められた竜の体がずれ。

 跡形も無く崩れ去った。

 

 

 ◇◆◇

 

 リュートは元の姿へと戻ると竜の馴れの果てであったそれを見ている。

 

 全てを細切れにされたそれが再生するかどうかを見ていたのだ。

 

 およそ10分。リュートの体から精気や魔力が抜ける様子はない。

 

 事切れたのであろうと判断したリュートは警戒を解くと共に考える。

 

 恐らくは竜。

 

 絶滅したと聞いた存在しなかった筈の生き物、その馴れの果て。


 恐らくは『生きて』いた訳ではなかったのだろう。であれば何らかの魔法か。だとするなら人為的なものなのであろうか。


 何であろうが竜が関わるなら我が身に関係することであろう。


 ――何かが起ころうとしている。

 

 そうリュートは強く想い。

 

 今度こそは護ってみせる。

 

 ぐっと拳を強く握り脳裏にかつての仲間。そして今の仲間達を思い浮かべ。そう決意した。

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