その頃アリア達
リュート様がいません。
リュートが王宮を出て幾数日、アリアは何度となくため息をついていてる。
彼を欲してから、または彼に想いを告げた日からか。15歳の乙女の心は歯止めが掛かる事を知らず自分でも持て余してしまう程彼の事を考えてしまっている。
それでも周囲の者にはそんな想い等ばれないようにしているつもりなのだろうが文官達が話しかけても気がつかず「はぁっ」とため息をついて遠くを見たりなどすれば彼がいなくなった時期と考えれば誰にでも予想がついた。
だが15歳の淡い想い、しかも初恋であろうその気持ちの手綱を握る事は難しく気をつぬけばすぐに考えてしまいまたため息が出てしまっていた。
「お姉ちゃん大丈夫?」
そんなアリアを見かねてか、想い人の妹が心配そうに声をかけて来る。
「はい。大丈夫です、心配してくれてありがとうございます。リリスちゃん。リュート様がいないのが辛いだけです」
だが誰がどう聴いてもその声は大丈夫なんてものではなく、内容も爆弾発言そのものだ。幸いアリアの部屋には二人以外はいないので良かったが。
「お兄ちゃんならすぐに戻ってくるよ」
そうですね。
そう想わなければアリアの心はおかしくなってしまいそうだ。たった数日目にしていないだけなのにまるで恋人に死に別れたばかりの女の様に陰鬱になっている。
それもこれもあの貴族騎士のせいなのだが。人のよいアリアは自分のせいでそう思っていた。だが自分のせいだとは想っても今傍にいられないのはまた違う。
さらに今日はアリアの気分を害する事もあったからこそ余計にあの優しげな笑顔を見たくて仕方が無くなっていたのだ。
何があったかと言えば――
「ご機嫌麗しゅう存じます女王陛下」
決してご機嫌でもなんでもないのだが目の前にいる男ジークは陳腐な台詞と共に恭しく壇上の玉座へと座るアリアへと頭を下げてくる。
この国においては報告や陳情は書状だけではない、こうしてなるべく謁見の間にて直接の声を聞くことも大切だ。とは亡き王アルバトロスの言。それゆえアリアは謁見の間で朝の挨拶から全てでは無いが有権者の陳述を聞く。
今日もそんな朝礼とでも言える場でその男ジークは恭しくも挨拶をしてくる。
先の戦争において多くの騎士達も亡くなったそこで台頭して来たのがこの男ジークだ。新たなアリア治める新生ナーガディアン国においての次期貴族騎士筆頭と言えるだろう。
しかしどうにもアリアはこの男を好きになれない。と言うより苦手としていた。
自分を見る時のどうにもいやらしい視線。それも最近よく発育して来た胸に視線が集中するのだ。どこかの巨大な剣を持った彼を見習ってほしい者だ、「あ、だけど彼になら寧ろ見て貰いたいかもしれません……」等と考えながらもアリアは無視するわけにも行かず渋々返すしかない。
「はい。皆様。本日も宜しくお願いいたします。皆様にご指導頂けなければ何もできない私ですが今日も精一杯頑張ります」
壇上にいながらもぺこりと頭を下げるアリア。リュートに導いて貰うのは最早わかりきった事だが自らが未熟な事は自覚していた。色々な者に手を貸して貰わなければ何もできないと分かっている。
「力の限り女王陛下を支えさせて頂きますよ。あの男なんていなくても女王陛下には我らがいますから」
そうジークは笑う、だがその笑みはアリアが望む彼の優しい笑顔とは縁遠い。慢心なのかその笑顔は酷く見てるだけで気分が悪くなってくる。そもそもアリアにとって笑顔とはあの彼のように穏やかに遠くから見守るように向けてくるあの笑顔なのだ。
しかも当てつけるように彼の事を話すジーク。アリアのがんばって作っている女王の仮面が今にも剥がれそうだ。左右を見れば護衛として控えるダガーとキファの顔も僅かに眉がつり上がっている。二人はリュートの側近。しかも見た目とは裏腹に二人は心底リュートを敬愛してる事をアリアは知っている。内心業腹なのだろう。無論、それはアリアもだが。
「期待させて頂きます。それでは皆様今日も頑張りましょう」
棒読みである。最早アリアは一刻も早くこの場を終わらせたかった。
言うやいなや立ち上がり退室した。
――とそんな事があったアリアの胸中は優れない。早く会いたい、顔が見たい。そう想わずに居られないのは仕方がないのだろう。
そこへアリアの部屋へノックの音。
「誰ですか?」
「ダガーとキファですお目通りを」
「入ってください」
言うと同時ダガーとキファが入って来るやダガーが心配そうに告げてきた。
「大丈夫か姫さん?」
「はい。なんとか……でもリュート様に早く会いたくなってしまいました。怪我なんてされてなければ良いのですけど」
おいおい隠す気ゼロか。
信頼してくれているのだろうがさすがにここまで全面的にリュートの想いを吐露されるとは想っていなかったのかダガーは苦笑を浮かべずには居られない。
「大丈夫っすよ。リュート様が怪我するなんて考えられないっすから」
「確かにあれが怪我するなんて想像できないな」
最早自分の主をあれ呼ばわりである。こと戦闘においてあれはもう人外であろうとダガーは思っている。が、対人となれば話しは別であった。リュートは人の機微に疎い所がある。そうダガーは思っているからこそそういう部分で役に立ちたいと考えていた。
「それでキファに色々としらべさせたんですがね、やっぱり裏で糸を引いてるのはジークの野郎みたいですぜ」
ダガーが真剣な面持ちで答える。自らの主を害しようとする者達なのだ。ダガーやキファはリュートが遠征へと出てるこの時に排除しようと心に決めていたのである。見た目はどこからどう見ても野党でしかないのだがその心根は他の騎士達に見習わせたい程である。
「やはりそうなのですか」
謁見の間での事を考えればその場の者理解できる話しだ。どれだけリュートを敵視しているか分かる。
「そうっすね。現行女王擁護派までもがリュート様を排斥しようと動いてるみたいっすからね。以前までは概ね好意的でしたから。何よりお姫様の意向を無視してまで排除しようとするのは不自然っすよ」
そう、リュートを心良く思っていなかったとしても女王擁護派であれば先にアリアを諫めるような忠言が会ってもおかしくない。だがそんなものはなく、あの宴の場において突然起こったのだから。
「それであのジークって野郎は女王擁護派から否定派に移ったんじゃないかって話しはありましたね、て言っても兵士の噂ですけどね」
「リュート様の為に頑張ってくださっているんですね」
アリアは先ほどまでの不快感が嘘のように洗われていくのを感じていた。ここに同じくリュートの事を想う者達が集まっているからかもしれない。
「お兄ちゃんは人気者だね!」
そういってリリスが笑顔を浮かべ。皆一様に今この場にいないリュートの事を想っていた。




