できてる?
謁見の間
アリアの目の前にはリュートが傅いている。
これからリュートの赴く任務が告げられるのだ。
目の前にいるリュートは粛々と表情を作らず片膝を突き俯いている。
だがその身に纏うコート故か。その立ち振る舞いは平民所かどこの貴族よりも遙かに威風堂々たる姿だった。
こんな場でなければ彼を好いているアリアの事、ずっとリュートを見詰め続けて居ただろうが残念ながらここは謁見の場でありアリア自身神経を張り巡らさなければならない場であった。
「私がしっかりしないと行けません」そう肝に命じアリアは鉄の仮面を被ったかのような無表情を突き通す。
何より今はこの広い謁見の間には大勢の貴族達集まっているのだ、これ以上リュートの立場を悪くしたくはなかった。
貴族達はリュートがどんな任務に赴くのか皆耳を近くに囁きあい、人によっては薄ら寒い歪んだ笑みを浮かべている。
「面を上げてください、リュート殿」
アリアがその場で第一声を放つ。普段の彼女からは考えられない凜と澄み威厳の籠もった声。内心では恥ずかしいのであろうが早くも謁見の間において卒なく顔を使い分けたその顔は女王のそれであった。
「客将、リュート殿にその武勇を我が国ナーガディアンに貢献して頂く為、任務をお願い致します」
「御意に」
淀みなくリュートは顔を上げ、アリアに返答する。その顔は遊びの無い凛々しい顔付きであった。
毅然としたその傅く姿勢を崩さずアリアへと返すリュート。
本来であれば逆なのですけど……
アリアにとって今この場のリュートとアリアの関係はあべこべだと思っている。女王の仮面を付けたアリアはそう思いながらも続ける。
「では丞相、リュート殿に願う任務を読み上げてください」
未だアリアはその内容を知らない。
アルバトロスであれば把握していたかもしれないが、若干15歳でしかないアリアには未だ政事は難しく、現在は丞相が主な采配を担当している。
「はい、それでは」
「客将リュート殿に願う任務をここに読み上げる」
そう言って筒のように丸めてあった書状を紐解き、丞相が読み上げていく。
「北方ヴァルミリアの先にあるヴァルド山脈にて凶悪な魔物が住み着いたとの報告があり。依頼斡旋所にて依頼を出すもが悉く失敗。客将リュートはその魔物の調査、討伐を行い行方不明者の捜索をせよ」
凶悪な魔物。
正体が不明な分その危険は予測不可能。また平地ではなく山脈を捜索する事となるので過酷の一言に尽きるであろう。
どれだけリュートが強かろうと危険がそこにあることには変わりない。
アリアは丞相から書状を受け取るとリュートへと歩み寄る。
リュートは立ち上がりアリアからそれを受け取る。
客将であるリュートならではの対応だろう。
一国の女王であっても願い出る立場。その為書状自体をアリア自身が渡す。
「客将リュート殿、我が国の脅威を取り除く為、どうかお願いいたします」
「拝命賜ります」
またもや心配になったアリアの胸中が見透かされてしまったのだろうか。リュートは柔らかい笑みを向けてくれた。その顔は「安心して待っていろ」そう言ってくれているかのようだった。
そうしてリュートが踵を返し赤い絨毯を歩き謁見の間を立ち去っていく。
アリアは彼が見えなくなるまでずっとその背中を目で追っていた。
―――☆―――☆―――☆―――
「で? お前さん今度は魔物退治に行くわけだ?」
片目のどこからどうみても野党にしか見えない男、ダガーがそう訪ねる。フォークを手に肉汁がたっぷりの肉を租借しながらだが。
「ああ、ヴァルド山脈までぶらっとな」
ナーガディアン国のにある宿屋「テンダー」この店の主人ステラが作る料理は絶品である。
旅立つ前に皆と食事をしようとダガーが集め、リリス、キファ、ナターシャと言ったいつものメンツが集まっていた。
「しかし、噂になっているヴァルド山脈の魔物、どれ程の強さなのでしょうか」
ナターシャは手にもったスプーンを置き真剣な面持ちで訪ねた。
「全く分からん。退治しにいって戻ってきた者はいないらしいからな」
何の情報も無いまま任を受けるそれはリュートに取って初めての経験。
「まぁお前さんに無理なら他の者には無理だろうからな、あれだけの事ができるんだ。魔物に後れは取らんだろうな」
「まぁ何とも言えないな。俺だって出会ったことの無い魔物なんて沢山いるしなんとも言えないだろう」
「お兄ちゃんいつ帰ってくる?」
リリスも食事の手を止めて聞いてくる。
「まだ分からないよ。だけどなるべく早く帰ってくるようにするよ」
「うん!」
最近のリリスはアリアと仲良くなったせいかリュートから一人立ちを始めた様だ。その内「お兄ちゃんなんて嫌い」などと言い出すのだろうか。
それは少し嫌だな。
などと言う胸中はあるが妹がすくすくと成長するのは好ましい、等と思いながらリュートは食事を続けて居ると。
「でも女王陛下に手を出すなんて豪気っすね~」
手が止まった。
ギロリとキファを睨む。ダガーは「言うなよ!」とばかりにキファを見るも何食わぬ顔でリュートに笑みを向ける、その目は魚を狙う猫の如し。
リリスはまだ興味の無い年頃なのか食事を続け、ナターシャは何故か食事をがっつき出した。目には汁が一筋。
「ぶっちゃけどっちからなんすか?」
どこ吹く風とばかりにキファは素知らぬ顔で続ける。
まったくもって誤解である(リュート談)。しかもダガーもダガーだ、その態度は「秘密にしておいてやろうぜ!」と明らかに「女王とできてるだろうと」の部分は決定してるかのようだ。
「手なんて出して無いが」
若干リュートの声が低くなる。だがそれが拙かったのか二人は明らかに「食いついた!」と言った笑みを浮かべ反撃にでた。
「「手を繋いでたのにか?(っすか?)」」
何故知っている!
とは口に出さない。出さないがその目が驚愕すれば丸わかりだ。
ニタリ。
リュートの目の前にいる虎兄妹が人の悪い笑みを浮かべ告げた。
「いや~見てたんすよね。あの日人手が少なくて警備に回されてたんっすけどね。まさかあんな所で二人のラブシーンを見るなんて」
からんっと軽快な音がなった。
ナターシャがスプーンを落としたのだ。その意味は食べ過ぎかはたまた別の要因か。
が、そんな事で虎兄妹は止まらない。リュートも負けじと見る。
視線が絡みあいリリスを置き去りにそれは始まる。
今ここに、竜虎の戦いが幕を開け。
たりはしなかった。
「女王になって責任で押しつぶされそうなんだろう。身近にいる俺を頼りにしても不思議はない、それは色恋とは別だと思うがな」
嘆息しそう告げるリュート。勘違いしているだけだろう。そうリュートは言ってるのだ。だがそれを正確に察したのかダガーが続ける。
「おい、主様よ。それは姫さんが可哀想だと思うぞ」
先ほどまでとは打って変わりダガーの顔と声に真剣味が混じる。
「そうっすね、兄貴の言うとおりっすよ。乙女心がまるで分かっちゃないっす」
「だが――」
「例え発端が依存から来ているのだとしても慕う気持ちには代わりない。何より主様の為になにかできないかいつも考えてるみたいだぞ? それよりも純粋にその気持ちを大事にしてやった方がいいんじゃないか? 傍から見てれば主様を好いてるのは一目瞭然だろう」
「あの子はまだ15歳だぞ?」
成人したリュートと比べアリアは若い。女として見るよりも庇護すべき対象なのでは。そうリュートは思っていた。
「分かってないっすよリュート様、年齢なんて関係ないっす。ちゃんと一人の女として見てあげないと駄目っすよ。それに王族なんて特にそれくらいの年齢から結婚することだって多いんすから」
なぜだろう二人の非難がましく見る目を見てると段々とリュートも悪い事をしている気分になってきた。
とリュートはナターシャを見る。ナターシャも未だ18歳リュートからすれば子供の部類だと思っている。参考までに聞いて見るのが良いだろうと。
「ナターシャはどう思うんだ?」
急に話しを振られナターシャがビクっと体を反応させた。
「えっ! えっとですね。やっぱり女として見て貰いたいと思います。例えリュート殿よりも年下でも私やアリア女王陛下も女です。だから子供としてでは無く一人の女と見て貰いたいです」
「お前もか?」
「はい! 私もです!」
机にバンっと両手を突き前のめりにリュートの目を真剣に見ている。
その声はかつて無い程大きく、「私も」をかなり強調してリュートへと返答した。
三人に睨まれ、リュートは腕を組むと目を瞑り考え込んだ後口を開いた。
「そうだな。済まなかった俺が悪い」
かつてリュートを慕ってくれたあの少女達も当時はアリアやナターシャと同じ歳の頃だった、今のリュートと比べると歳下だ。だがそれは真剣に、そして深い愛情の元傍にいてくれたのだから。
「あぁ、まぁお前さんの場合そんな力を持ってるんだ、普通の生き方をしてこなかったとしても不思議はないけどな、だが今は俺らがいる」
もっと別の事にも目を向けろ。
ダガーはそういうかのように片目をリュートへと向ける、その目には優しさが満ちている。
「兄貴程女ったらしにはなってほしくはないっすけどね」
多少重くなった空気をキファが切り捨てた。
「おい、俺は別に女ったらしじゃな――?」
「この間も兄貴は別の女とデートしてただろ?」
うぐっとダガーが絶句し声を止める。どうやらキファは一方面においてかなりの情報通らしい。
「なるほどダガーは見た目とは裏腹にもてるようだな」」
「それ、お前さんには絶対言われたくねぇ」
二人は目を合わせると笑いあう。
「で今回はどうする? 一人で行くとは言わんよな?」
先に退路を塞ぐつもりかリュートの考えを先読みしてダガーがそう告げた。
ついて行くぞ?
ダガーはそう言っているのだ。
「私も行きますよ? 絶対に」
ナターシャが置いてけぼりになるのは嫌だとばかりにリュートが話す前に慌てて口を告いだ。
「あ~そうだな」
「ダガーとキファ、白双牙は姫さんの護衛を頼む」
ぴくっとダガーの眉がつり上がった。
「作為的なものを感じる。気のせいなら良いが宴での扇動が不自然だったように思える」
実力を示せ、それはいずれ起こりうることだったとしてもあの場は不自然に思えていた。
皆が口々と、まるで取り憑かれたかのようにリュートを非難したのだ。
「だから念の為姫さんの護衛をお前達に頼みたい」
「分かった、それなら仕方がねぇな」
渋々と言った表情だったが白双牙は元々王女の親衛隊。女王となった今でもそれは変わらない。
「では私はついて行くと言うことで」
「あぁ、だが――」
「ついて行きます!」
「しかし――」
「ついて行きます!」
ナターシャの口調は強い。二の句を告げさせたくないのかリュートが口走る度に被せて来る。
「分かった」
降参とばかりリュートのため息交じりの言葉、その言葉を受けナターシャの顔に喜色が広がる。なにやら「負けません」等と呟いているが魔物に挑む気だろうか。
魔物の情報は何もない。そんな所に連れて行くのは危険では無いだろうかとリュートは思う。
「まぁ誰かしら連れて言った方がいい何があるか分からないからこそな、お前さんいつも一人でやろうとするみたいだが周りの者をもっと使った方がいい」
ダガーもナターシャを応援する。ダガーは虎人の長だ。人の上に立つ事はリュートよりも一日の長がある。
「分かった。ナターシャは連れて行く。リリスと姫さんを頼んだぞダガー?」
「ああ、任せておけ主様の大事な女二人だからな」
戯けた仕草でダガーが答える。最早否定する気にもなれずリュートは酒を呷るのだった。
異世界召喚物の短編を書いてみました。
ほのぼのを強めてみたつもりです。
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