思惑
「ごめんなさいリュート様……」
アリアがリュートへと申し訳なさそう声を漏らした。
リュートの身を護る為とはいえ危険な目に合わせるような事は嫌だった。
どんな依頼になるか等分からない。そして例えどれだけ強くても危険がゼロになるわけではない。
場合によっては無理難題を突きつけられるかもしれない。
「構わないさ。これも必要な事なんだろう」
しれっとした表情でリュートはそう返してくる。
実力を示す。
客将になったリュートはそれに相応しいだけの力を示す事を求められた、それが例え策略だったとしても。
「ですけど……リュート様が危険な目に合うのは嫌です」
胸が苦しい。
どうしてこんな事になってしまったんでしょうか……
元はと言えば私がリューと様にエスコートを頼んだりしたから……
後悔が押し寄せて来た。
顔に出ていたのだろう。リュートがアリアの頭を撫でて告げてくる。
「まぁそうだな。戻ったら旨い酒でも呑ませて貰おうか、それでチャラにしよう」
「はい! 分かりました!任せてください。凄いのを用意しておきますから!」
現金である。撫でられて慰めの言葉を言われただけでぱぁっと心が晴れるのだから。
「だがあいつら、少し妙だったな」
「そうなのですか?」
「いくらなんでも俺が気に食わないというだけであそこまで扇動されるか?」
王女に異を唱えたようなものなのだから。
「わかりません……」
「何か脅迫されているか……はたまた別の何かか……いくら何でも客将一人を排除するには大げさだ。一致団結し過ぎていないか?」
そう言われれば。
皆何か熱狂的な何かに捕らわれていたようにも見える。我を忘れたようにリュートを排除しようと皆口々に告げていたのだ。その光景は異様にも映った。
「一先ず俺がいない間念の為白双牙から護衛を付けていた方がいいな」
「分かりました。リュート様がそういうのでしたら」
そうアリアは頷きリューとの指示通りにしようと誓った。
―――☆―――☆―――☆―――
「旨く行きましたね」
「当然だ私の策なのだからな」
薄暗い部屋の中相対するソファーに座りながら男達が密談している。そう、密談。それが相応しいだろう。誰も二人がこの場で話しているとは知らない。なぜなら本来二人は敵対する派閥の者であり話しの内容を他の者に知られるのは宜しくなかったからだ。
男の一人、長い銀髪を棚引かせる美男子といった風貌の男――ジークが答えた。
「しかしそれにしても中立派のみならず、女王擁護派までも取り込むとはどうやったんです?」
「ふん、秘密だ。おいそれと教える訳にはいかんな」
この国とて一丸となっているわけではない。若すぎる女王をよく思わない者もいる。
といってもその内実ミクトランテ教へと傾倒したものが大半で有ったが。
「ジーク様がミクトランテ教に入ってからは目を見張る程の成果がありますな」
おべっかが。
大方俺の事をまだ信用していないのだろうがな。
対する男がジークを見る目は笑っていない。
ジークがミクトランテ教へと入り、女王擁護派から鞍替えしてまだそう日も経っていない。
特にジークは女王となったアリアに心酔していたような男だ、内実否定派に潜り込んだ密偵だと思われたとしても無理はなく。
さらに言えばミクトランテ教を主とする否定は猜疑心の塊だ。
ともすれば排斥の対象となる彼らは常に目を光らし、その証拠を全て握りつぶして来ているような連中。
だからこそ簡単に信用は得られない。
しかしそのような事はジークの生きる貴族の世界では日常茶飯事だ、大なり小なりお互いの利権や利益をかすめ取ろうと躍起になっているのだから。
そうして二人の男はお互いの思惑を隠し合いながら、冷たい目を向け合うも笑っているのだった。
「当たり前だろう、俺にとっては簡単な事だ」
心底、と言った声でジークは告げる。ポーズではない。
「後はあの男を死地に追いやり、その隙にですな」
対する男が顔を歪ませる。
「そうだ、後は若輩の王女等どうとでもなるだろう」
お前らにはやらんがな。
あれだけの美女だ。殺す等もったいない。
頭の中の少女が無残にも泣き叫び、それが従順になっていく。その課程をジークは何度も反芻している。
もうすぐ俺のものになる。
ジークもまた、歪んだ笑みを男に向ける、その内容は別のものであったが。
「ではこれからの未来に乾杯を」
そういってジークへとワインを注ぎ出し、そして受け取った。
「あぁ、俺達の未来に」
グラスを掲げ一気に飲み干した。
「ではお互いの為にも頑張りましょう」
その歪んだ笑みを正直な笑みへと変え男が告げた。
「ああ」
そう言って男が立ち上がり部屋を出て行く。
ジークはソファーにもたれ掛かるとグラスを見た。
僅かな光りが銀製のグラスを照らし、ジークの顔を映す。
その顔にあるのは自信。
砕け散った筈の自信を取り戻した。
そして手にあるのは全能感。
(ナーガディアンを滅ぼせ)
また声が聞こえる。あの日以来何度も響く声。
あぁ……滅ぼしてやるさ。
ジークに取ってナーガディアン国等どうでもいい。
憎きあの巨大な剣を持つ男を倒し、女王を手に入れられれば国を滅ぼす等些細な事でしかない。
またグラスを見つめる。
グラスを持つ右手に魔力を装填した。
瞬間。
グラスが手から消失する。
この力があれば……
今に見てろよあの平民野郎。
そしてその薄暗い部屋に薄気味悪い笑い声が響き渡った。




