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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
王都動乱
60/75

幸せと後悔と策謀と

 アリアはリュートと二人で宴の間へと歩いている。


 …………手を繋いで。


 想いを告げたせいかやけに積極的になってしまった。


 恥ずかしい筈なのにアリアは「手を繋ぐ位は構いませんか?」等と告げていた。

 断られこそすれ待つ事は拒否されていないのだ。気がつけば勇気を出したご褒美をとばかりにお願いしてしまったのだ。


 し……幸せです……


 臆病だった自分が信じられない位積極的になっている。


 だが言って良かった。なぜなら今こうして手が繋げているのだから。手を繋いで一緒に歩く目つきの鋭い男は見た目とは裏腹に優しいと知っている。だからお願いすれば……そう思い口を告いだ訳だが見事アリアはリュートの手を繋ぐ事に成功したのだ。


 だがその幸せはすぐに終わる事になった。


 会場に戻ってきたからだ。さすがに会場の中でまで手を繋ぐ事は強要はできない。そう思い自然と自分から手を外した。勿論できる事ならずっと繋いでいたいわけであるが。


 そして次にはその行動に後悔してしまうこととなる。


 会場のドアを開くやいなや貴族達がアリアとリュートに注目する。その手は既に外されてはいた。


 だが人とは邪推するもの。二人で外に出ただけでも逢い引きと思われてしまってもおかしくはなかった。


 「あ~すまん。考えが足りなかったかな」


 アリアの考えを読んだかのように向かぬまま申し訳なさそうにそう告げた。その目は貴族達から外れていない。



 貴族達からすれば新参者。しかも女王が命令すらできない立場。亡き先王アルバトロスがその地位を与えたとはいえ貴族達に邪推させるには十分な要素だった。


 それが重なり結果、二人は怪しい。そう見られる事となる。少なくともアリア自身の気持ちを考えると間違ってはいないし、仮に何も問題がないならそれこそ周りに知って貰っても良いくらいだ。そうすれば気兼ねなくリュートに甘える事ができるのだから。


 だがそんな事ができる筈も無くアリアは気をつけなければならなかったのだ。勿論考えが足りなかったリュートもだろう。アリアは内にこもっていたがゆえ、リュートは人との関わりの不足。まさに二人の欠点は人の機微、それも悪意に対しての経験不足であろう。


 終わった事は仕方がない。そう思ったのかリュートはアリアをエスコートし、主賓の席へ進むと座らせる。


 アリアの隣で佇む。その姿は威風堂々と注目していた貴族達を見ている。邪な心があれば逆に慌てふためくのだろうが、その姿は誰がどうみても何も無かった、そう伝えてるかのようだ。


 そんな態度が功を奏したのか貴族達が目を背け出す。リュートの目つきが怖いのでは?と言う意見もあるがそこは仕方がないだろう好きでリュートも目つきが悪い訳ではない。


 だが未だリュートを視て小声で何やら話しているものがちらほら。その視線は明らかに訝しげ、と言うより敵意に近いであろうその視線はリュートから外れる事はない。


 ――あの人達は。


 アリアの脳裏に父親であり、先王でも有る男の声がよぎった。


 (ミクトランテ教が重鎮の者達にまで入り込んでおる)


 排斥すべき対象、だがしかし国の中でも有数の権力を持つもの達を例え王であっても排除できない。

 アルバトロスが悔しそうな声で告げたその言葉をアリアは今でも覚えている。


 その言葉を思い出しアリアはリュートを見る彼の目はその者達の視線をまっすぐに受け止めている。


 「女王陛下に取り入る等平民とは随分恐れを知らぬ者なのだな」


 宴の間に芝居がかった声が響いた。


 アリアはその者を見る。

 ジーク=ウルトリアス。国内有数の貴族騎士であり、護衛となったリュートを嘲笑し、自らが護衛となろうとするも決闘の末リュートに敗れた男。


 そんな中、丞相が声を荒げ静寂を破った。


 「ジーク殿! ここは宴の席ですぞ!」


 だが。


 「それでは皆は平民が女王陛下を誘惑するのを黙って見ている訳ですか? 先王アルバトロス陛下に取り入り、寄生虫のように今度はアリア女王陛下に取り入る。この国の未来を思えばこそアリア女王陛下に諫言を申し上げずにはいられませぬ」


 さも己が正しいと、その男――ジークはその場のものに告げる。その口は止まらない。


 「アリア女王陛下。その男は陛下を誑かし、陛下に取り入ろうとしています。この場の皆も同様の考えです、宝剣の下賜の際読み上げられた功績、捏造の元宝剣をだまし取り、今度は陛下を陥れようとしております」


 「ご存じの通りそこの者は功績らしい功績も持たず一平民がこの場に立っているのです。それが許される事でしょうか?」


  リュートは客将。そして先の戦争で活躍はしたがその参戦は一個人として参加している。そこで戦ったのは客将リュートではなく。巨大な剣を背負った何者かでしかない。そして大勢の兵士が見ていたからといって、そこに証拠はない。兵士の発言等貴族達には簡単に握りつぶせてしまうのだから。つまりは詭弁、そしてそれを知りながら正論として押し通しているのだ。


 そしてそれは女王であるアリアとて防げない。それだけの権力を貴族達は持ち合わせているのだ。結果、そこに「功績」という物は存在しなくなる。


 まるで扇動するように、ジークは大きな手振りでそう皆に告げる。


 「そうだ!」


 だれかが声を上げた。そしてその声が広がっていく。一人が声を上げ、その声がぼつぼつとやがて口々に皆が口走しる。その場は静寂から一転喧噪が辺りに轟いていた。


 扇動、まさしくそれであった。恐らく同意の声を上げたものは手はず通りなのだろう。皆の胸中にあった嫉妬やリュートがここに至るまでの不自然さ、それがジークの持つカリスマ性に刺激され首を擡げたのだ。


 そうしてリュートを排斥しようとする意志が会場に充満していく。


 その声を受けアリアは不安になりながらリュートへと目を向ける、すると目が合う。

 だがその顔は心配そうにこちらを見ている。

 自分が標的にされていると言うのにその目はアリアを心配を告げている。


 見た後、俯く。


 どうしてこんな事に……


 アリアはリュートを頼りたかった、しかしこの場にリュートに発言権はない。リュートが自分を擁護するような発現をすればそれこそさらに悪化するだけであろう。それが分かっているのかリュートは黙ったまま何も答えない。


 さらには当のリュートは自らでなくアリアを心配している。

 護られる、それは嬉しいが今この場で護るべきはリュートだ。


 私がしっかりしなくちゃいけないんです……

 

 そうアリアは勇気を振り絞り顔を上げる。


 「静粛に!」


 声を上げた。

 凜と澄み、そして力強い声だ。


 会場が静まり返り、それを待ったアリアが口を開く。


 「リュート殿の力は誰よりも私が知っております」


 そういってアリアはジークを睨む。


 「ジーク=ウルトリアス殿、あなたはリュート殿に功績がないと仰いましたね」


 「いかにも親愛なる女王陛下」


 アリアはリュートを見た。リュートは静かに佇み、アリアを見ると優しく微笑み首を縦に振ってくる。


 その顔は好きにしろ。そう言ってくれているかのようだ。


 「ならばリュート殿に相応しい功績を立てて貰いましょう。この場にいる者が納得するだけの!」


 その語尾は強い。憤りを感じる。

 アリアは告げた後人知れず奥歯を噛みしめた。どうしてリュート様を危険な目に遭わせなければいけないのでしょう……そう思いながら。


 「ではリュート殿に客将の力に相応しい任務をお願いします。明日謁見の間にて内容を伝えますので丞相――」


 「は……はい!」


 「――明日までに相応しい任務を用意しておきなさい」


 「か……畏まりました」


 「リュート殿はそれで宜しいでしょうか?」


 「異存ありません」


 そういってリュートが恭しく頭を垂れた。


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