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歩みゆくは魔王か英雄か  作者: mebius
リュートと言う男
53/75

護衛の実力

 剣がかち合い火花が散る。

 二本のショートソードと一本の大剣が交錯しギリギリと音を立てる。


 アリアは今目の前で刃を交えている二人の男を見ていた。


 自分の親衛隊の隊長となったダガーがリュートへと訓練を申し出たのだ。

 

 護衛があるから。


 そう言って訓練を渋るリュートへとアリアが「私もご一緒すれば宜しいですよね?」そう告げナターシャ、キファ、リリスまでもが訓練を見たいと言いだしリュートが渋々と言った表情で受けたのだった。


 ぞろぞろと女性陣と白双牙の虎人達も集まり、訓練が開始された。


 そうしてリュートとダガーは対峙し剣を打ち合わせている。

 

 リュートは片手で大剣カタルシスを持ち押し込む、対するダガーは両手に持つショートソードを交錯させながらそれに堪えている。


 ギリギリと音を立てるののも柄の間、押し切られる寸前ダガーが後ろへと飛び距離を取った。



 ダガーが呼吸を乱し息を整えている、対するリュートは泰然と肩に大剣を乗せダガーを待っている。


 「お兄ちゃん頑張れ~!」


 リリスの間延びした声が響いた。


 「お頭! 頑張ってくだせぇ!」


 虎人達はダガーを応援している。


 「もう終わりか?」


 そうリュートは落ち着いた声でダガーへと告げる。

 何度もナターシャとの訓練で殺気をコントロールする羽目になったリュートは今では殺気無く対峙できるようになっていた。そのせいか逆に剣筋がわかりにくくなっている事にリュートは気づいていない。

 そして女性陣の方では一人模擬戦を見ながらナターシャは身震いをしていたが誰も気がついていなかった。


 「そんな馬鹿でかい剣を持ちながら俺より速いのは反則だろう!」


 ダガーは素早さに優れる、そのスピードを重量のある大剣を持って上回るのが信じられない様子だ。

 そう叫びながらダガーはもてる力全てで地を蹴り懐に入り込むと同時に二本のショートソードを巧みに使いリュート目がけて剣を薙ぐ。


 が。


 危なげの無い動きでその一薙ぎ目を躱すとリュートは二撃目を左手の手甲で弾く。


 盛大にショートソードを弾かれたダガーはその勢いで大勢が崩れる。


 その隙にと力を加減した前蹴りを放つリュート。痛めつける気はない。傷つけない程度の力で、だが前蹴りでダガーは懐からはじき出される。


 大剣の間合い。


 そのまま大剣を薙ぐと辛うじて二本のショートソードで防ぐ……が。


 「うぉ!」


 そのまま大剣の勢いに呑まれダガーの体が吹き飛ぶと宙で回転して地面へと叩きつけられた。


 「うん良い剣だ」


 そういってリュートは剣を回転させると肩へとトンと置くとダガーを見ている。


 「まだやるか?」


 「いや……降参だ」


 こんなのとどうやって戦えと?とでも言いたげな顔でダガーは告げている。

 地へと伏した白い服は砂だらけだ。


 「魔法を使えばよかっただろう?」


 「お前さんも魔法は使って無かったろ? それに虎人はあまり魔法は得意じゃないしな」


 虎人は主に風魔法に特化する、亜人は大方一種の魔法と種族固有魔法の二種を用いる。が虎人は種族固有の魔法はないようでその分身体能力に特化する。因みに亜人ではない人種は平均的にどの魔法でも種族固有魔法以外は扱えるようになる。リュートの雷や重力は扱えないらしいが。


 と訓練を終えたリュートが近づいて来た。

 

 「お強いとは聞いていたのですが凄いのですね」


 本当にすごいです!


 心からそう思っていた。アリアも兵士の訓練する姿は何度か見ている。だけどあんなに早い動きは見たことがない。


 あまりの動きにアリアはリュートの訓練の一部始終驚き、目をぱちくりさせる羽目になっていた。


 あんなに簡単に人って飛ぶんですね!


 そんな事を思いながら。

 

 「自分護衛の実力も確認できたか? 自分で言うのは何だがある程度は実力は信頼してくれていい」


 もしかして私の為に訓練を受けてくれたのでしょか?等と嬉しくなりながら返した。


 「はい、ありがとうございます、お父様からもとても強い方だと聞いていたので安心して眠る事ができます」


 ぱっと花が開くように満面の笑みを浮かべアリアは喜色を声に出した。その笑顔は魂が抜けてしまうかと思う程の魅力がある。


 「寝る時傍にいるのは俺じゃ無いけどな」 


 が目の前の男には通じないらしく欠伸などしながら返している。


 気取らない人なのですね。

 

 そうアリアは思っていた。護衛についてから暫く立ち、見た目とは裏腹に優しい人だと気づいた。リリスへ話し掛ける時は特にそうだがアリアに対するその声音も口調とは裏腹に優しい。

 そう感じ取ったアリアは徐々に緊張を解いていた。

 今では男性に話しかけると言う若干の照れはあるがこうして話しをする事もできる。


 そんな事を考えている内に隣のリリスが何やらリュートの後ろを見た。


 「お兄ちゃん変な人が来るよ?」


 そう告げ兄であるリュートに声をかけていた。


 あ………あの人は……


 アリアがその声に反応しリュートの後ろを見てみると確かに男が歩いてくる。

 その姿を見ると気持ちが少々沈んでしまった。


 苦手な人です…… 

 

 いつもしつこく話し掛けてくる人だ。とそう気づいたからだ。


 眉目秀麗、そういって問題ないだろうその男はしかしどうにもいつもアリアを見かけると話し掛けてくるのだ。


 そして一度話し始めると長い……いつもアリアは見つからないようにしているつもりだったのだが今日は駄目だったらしい。


 「お前が件の平民か、どけ、アリア王女殿下にお話があるのだ」


 そう口にする男には明らかな侮蔑が混じっている。


 なんて言いぐさなんでしょうか……

 やっぱりこの人は苦手です……


 そんな事を考えているアリアの顔はまさしく、は……話したくないんですぅと言わんばかりの顔をしているが男は気づく事もない。しかもリュートを無視し話し始めた。


 「アリア王女殿下に申し上げたい事がございます」


 胸中とは反対にアリアは表情は硬くなりながらもコクコクと頷いていた。


 「ここに居る平民を護衛として雇ったそうですがそんな事はなさらずともアリア王女殿下の身は私が――」


 そこからは止めど無く自慢の話しが永遠と10分程続くのでリュートを筆頭としたその場の者は声を遮断したように無視している。

 さすがにアリアは聴かない訳にはいかないので頑張って男の顔を見て頷きながら聴いているがどんどん気持ちが沈んでいく。


 その周りに控える女性陣もあまり好印象ではないのだろう。

 ナターシャは目を閉じぴくぴくと眉を動かしている。リリスに至ってはつまんないよう、と髪をくるくると指でいじって早く終わらないかなぁっと小声で呟いていた。因みにキファは隊の方へさっさと逃げた。


 そんな状態がいつまでも続くかと思われたその時。助け船がでた。


 「それで要約すればあんたは姫さんが俺を雇うのは気にくわないと、それで俺を俺をさっさと首にして姫さんの護衛にはあんたが成りたいって事だな?」

 続ける男の会話をぶった切りにリュートが口を紡いだ。このままだと何時間も聞かされる羽目になると思い話しに入って来たのだろう。


 た……助かりました……


 早く終わってくださいませ……


 既にアリアは憔悴仕切っている。


 「無礼者が!不敬だぞ貴様!」


 だが男は止まらない。


 じーっとリュートの方を見ると。「めんどくさいぞお前」そう思いっきり顔に出ている。


 アリアの意見を否定する事はできないが代わりに遠回しにリュートを貶めて自分の株を上げようと躍起になっている訳である。


 「そんじゃ実力を見ればいいだろう、姫さんの前で試合をして勝った方が護衛をするって事でいいんじゃないか? どうだい姫さん?」


 え?


 考えてみる。


 リュートをじーっと見るとリュートは笑顔。

 男をちらっとだけ見る。明らかに怒っている。


 先ほどのリュートの訓練を思い出してみた。


 そして思い至った。


 リュート様の圧勝です!


 アリアはぱぁっと顔を明るくしてリュートへと答えた。


 「いいのですか? でもお手間じゃないでしょうか?」


 だがその顔にはお願いします!とはっきり書かれていた。


 その顔でどう思ってるのかばれているのだろう、リュートは苦笑を浮かべながら答えてきた。


 「あぁ構わない。もっと剣の具合を確かめたい所だしな」


 「はっ! そんな馬鹿でかい剣で戦おうと? 馬鹿なのかい君は。剣とは速度がものを言うのだと教えて差し上げよう」


 そう男は言うとこちらに来いと言わんばかりにリュートへと目配りした後離れた場所で帯剣していたエストックを抜く。


 その顔には嫌な笑いが張り付いている。大方自分が勝利した後アリアの護衛となった自分の姿でも妄想しているのか酷く笑いが下卑たものとなっている。


 大方絶世の美少女と言えるアリアとの逢瀬を頭の中で楽しんであるだろうその笑みにアリアはぞくっと悪寒がして身震いをした。


 大丈夫……リュート様がきっと勝ってくれます!


 両手を組んで祈る。


 「さぁ!準備はいいかね!」


 十分頭の中で逢瀬を楽しんだのだろうその男は表情をキリっとしたものへと変えると体の正面にエストックを片手で構え、そう言い放った。


 どこから自信が来るのだろうか、その男はさも剣術の手ほどきをしてやろう!と言った様子だ。


 「ああ、いつでもいいぞ」


 そうリュートが言うと一応右手で大剣を抜くと肩に構える。

 その重厚な輝きを放つ大剣カタルシスを軽々と扱う姿を見ても男はなんら気にする様子はない。というより既に勝ち誇った顔をしている。


 「では、参る!」


 そう言い放つと男がリュートへと掛けた。


 男はぐんぐんリュートへと近づいて行く。


 リュートはただそこに待つのみ。


 そして瞬く間に距離を詰め男がエストックを突こうとする瞬間。




 殴った。




 突きを放つ前にリュートが踏み込み男の顔を左拳で殴ったのだ。


 ボギリ


 そんな鈍い音がした。


 ぶへっと少々眉目秀麗なその顔には似合わなさそうな声を上げ宙で一回転しながら顔から着地。


 実はリュートには一つ懸念があったのだ。

 それは男の扱う武器がエストックだと言う事だった。

 突きに特化し、細身のその刀身は当然横からの圧力に弱い。

 そしてどれだけ手加減しようとも大剣カタルシスは重い。

 つまりエストックの速さに合わせ大剣を振れば手加減のしようもなくエストック等折れてしまう。



 手加減はした。だが目の前に現れた事すら気がついてなかったのか男は防御姿勢すら取らず自身の駆ける力全てでもって拳にぶち当たってきたのだ。


 必然。


 リュートの手加減した威力と自らの速力による力が上乗せされ鼻の骨が折れる結果となってしまった。



 アリアはぽかんとその光景を見ていた。

 先ほどまで手に汗を握る位緊張していた。負けないでください……と祈りまで捧げていたのだ。


 男はこの国の騎士の中でも強いと有名な者である。だからこそ自分が護衛に相応しいと名乗りを上げていたのだろうが。


 兎も角。


 そうしてアリアはリュートを見るとその顔は「やっばいやりすぎちゃったかな?」とでも言うように少し慌てつつも、そーっと男を見ている


 男は動かない、いや正確にはぴくぴくと体を痙攣させている。死んでは居ないようだが男の顔と中心にドクドクと血の湖を広げ続けて居る。


 生きてますね。


 アリアはそう思うと同時リュートもそう思ったのだろうか、「じゃ、そういう事で」と手をシュタっと上げるとこちらへと歩いて来た。


 別にリュートは万人に優しい男ではない。リリスを筆頭に無駄な自慢をだらだらと垂れ流し続けた男に優しくする謂われはない。

 

 その姿を見て。


 は!リュート様が勝ったんですね!

 

 そうようやく理解したアリアの胸中に喜びが満ちた。


 そんな時いつの間にか戻ってきていたキファが一人血の湖を目下制作中の男へと一言。


 「ご愁傷様~」


 と憐憫の目を向け呟いていた。




―――☆―――☆―――☆―――



 「と、こんな事があったんだが?」


 目の前にいるアルバトロスへとリュートは先日合った鼻血湖男の事を話していた。

 アルバトロスが一緒にお茶を飲もうとリュートを誘ってきたのだ。

 一国の王が何やってんだ?ともリュートは思っていたが口には出さない。寧ろそうした気さくな態度は好感を持てる所であった。


 「うむ、我が国も一枚岩ではない、大剣の下賜の儀にも何人か居たであろう? リュート殿を敵視していたものが?」


 「ああ、何人かいたな」


 大剣を下賜された時を思い出しながらそう返した。


 「あれはミクトランテ教に毒されておるのだ」


 その言葉を聞いてリュートは眉を潜める。


 「排除しているのではなかったか?」


 「そうだ、だが時代の潮流と共に徐々にこの国は侵されている、ミクトランテ帝国が戦争を仕掛けようとしてるのはこの間話したな?」


 「ああ、間もなく戦争が起こるかもしれないと言っていたな」


 「そうだ、あの国に勝てるだけの国力などない」


 国王が表立って負ける等と言えないだろう、リュートは今アルバトロスの心の内を聞いているのかもしれない。


 「寝返っていると?」


 「ああ、命は誰だって惜しいものだ」


 なげかわしい。そう顔に出しアルバトロスは告げるとカップを手にぐぃっとお茶をあおった。


 「アリアを攫おうとしたのも奴らの手引きだ、突きつけられるだけの証拠は残っていないがね、そして彼らの権力が余でも簡単には手を出させん。確実な証拠でも無ければ排除する事ができんのだ」


 悔しいのだろう、渋面を浮かべながらアルバトロスは続けた。娘を攫おうとした相手を野放しにするしかないのだから。


 「そうだ、リュート殿、アリアとは別にもう一人面識を持っておいて貰いたい者がいるのだ」


 そうだった、そう思い出したようにアルバトロスは告げた。


 「名をアルバインと言う、今は無き弟の忘れ形見なのだがな。アリアに次いで王位継承権を持っている。良くできた子でな面識を持っておいて貰いたい」


 「そうか、一度話してみるさ」


 「うむ、私も弟も子供はあれらだけだからな。余にとってはどちらも自分の子供のようだ」


 打って変わって思い出しているのだろう、口元に笑みが浮かんでいる。


 

 国王と言えば血を残す為にも妾を持つ、というのが通例であるにもかかわらずこのアルバトロスと言う男は妾をもたず生涯一人の妻を愛した男。その後病弱だった故か、若くして亡くした妻に操を立て生涯一人を貫くと宣言している。

ナーガディアン国の民なら知っている話しである。国王としては問題だろうが、美談として捉えられ文句を言う者は少なかったそうだ。


 そのアルバトロスは嬉しそうにリュートへと告げる。そこに大剣の下賜で見た国王の顔はない。一人の父親の顔だった。


 「つくづく変な国だな」


 つられ、リュートの口元にも笑みが浮かぶ。


 「ああ、儂もそう思う。しかしな、小国であるからこそ皆が笑顔でいられる国だと余は思って居る、弱気を助け、救える者は救う。建国以来、余の父も祖父もその思想を受け継いできたのだ」

 

 そうか、そうリュートは呟やきその思想を受け継ぎ体現してきたアルバトロスを見る。

 国王として、父として。この男は手に収まる者を守ろうとしている。


 その姿はリュートに尊敬の念を抱かせるのに十分だった。

 僅かな人数でもリュートはいくつも手から零してきた。

 この男はより大きな範囲でその手に収めている。そこにリュートの知らぬ失敗が幾つもあったとしても。


 リュートは立ち上がりアルバトロスの部屋を出る。

 立ち止まると振り返らぬままアルバトロスへと告げた。


 「ああ、俺もこの国は好きだよ、亜人も人も笑っていられる」



 そしてそのまま歩きだし部屋を出て行った。

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